540食目 ゴーレムたちの意地
◆◆◆ ムセル ◆◆◆
母がとんでもない作戦を伝えてきた。俺としては、そのような作戦は断じて反対である。
彼女が伝えてきた作戦の内容は、アランに肉薄しラスト・リベンジャーで組み付いた後に、母がGDを着脱しヤツの杖を奪うというものだ。
確かに、このラスト・リベンジャーは母がいなくても俺のみ操作可能である。しかし、それは大幅にラスト・リベンジャーの能力がダウンしてしまうデメリットが生じるのだ。それに、生身となった母は鬼の一撃に耐えることはできまい。
失敗、イコール、死。しかも、成功より遥かに失敗の確率が高い。
『ムセル、おまえに全てを託す。俺を信じろ、俺もおまえを信じる』
あぁ、そのようなことを言われてしまったら、NOとは言えないではないか。
『レディ』
俺はいつもどおりの返事を返すに留まった。本当はもっと言いたいことがある、もっと伝えたいことが沢山ある。だが……俺はどうにも意気地なしのようだ。
『レディ』という言葉の便利さに甘えて他の言葉を喋らない報いとも言えよう。
ラスト・リベンジャーのサブコクピットのモニターに映るのは、アラートの文字だらけの真っ赤な画面だ。
ラスト・リベンジャーも、母に応えようと文字通り身を削っているというのに。俺は……。
『突入する! 皆、頼んだぞっ!』
遂にその時が来た。母が強引にブースターを吹かしてアランに肉薄したのだ。それを支援するのは三匹の獣、ユキ、エンラク、ウズメである。
彼らはブリザードブレスやイフリートジャベリン、そして影分身を用いてアランを攪乱、母にチャンスを与えようと獅子奮迅のごとく鬼に攻撃をおこなった。
『装甲の六割が損壊! M・フィールド発生装置損傷!』
「ぬぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ラスト・リベンジャーの大部分の装甲が熱光線によって融解、蒸発してゆく。それでも母は俺たちを信じて突き進み、ついにアランに組み付いたのである。
「てめぇっ!? 血迷いやがったか! 離れろっ!」
だが、それも一瞬のこと。アランは強引にラスト・リベンジャーの拘束を解き、僅かな距離ができあがってしまったではないか。
この攻撃のチャンスを見逃すほど、ヤツは甘くはないことは俺も理解していた。予想どおり左手に陰の力が集まり、見る見るうちに凝縮され赤黒い手刀を形成したではないか。
それは、まさしく陰の力の短刀、母を殺す刃。
「これで終わりだ! エルティナ!」
「ちぃぃぃぃぃっ!」
アランに比べてこちらは死に体、各部スラスターもほぼ機能を果たさない。残っているのは俺がいる大型ランドセルのブースター。それも無理が祟って僅かに二基のみ。
だが……だが、それで十分。あとは俺が決断するのみ。
『すまん、ラスト・リベンジャー。おまえの命を俺にくれっ!』
俺は初めて意味のある言葉を喋った。それが弟でもあるラスト・リベンジャーの命を要求する言葉であるとは、なんという不甲斐ない【兄】であろうか。
だが、迷っている暇はない。強制脱出システムを起動し、母をGDから排出させる。そして、残った大型ブースター二基を吹かし鬼へと突撃をおこなう。
「ム、ムセル!? ぶべっ!?」
GDから強制的に射出された彼女は顔面から床に着地したものの、これで母は無事に脱出できた。そして、モニター画面に映る鬼の刃。それは止まることなくラスト・リベンジャーに突き刺さり、俺のいるサブコクピットへと到達する。
激しい衝撃と破壊音。各モニターが次々に機能不全に陥り画面を砂嵐へと変えてゆく。
俺は左腕、そして左脚部に甚大なダメージ。もう動くことはあるまい。だが、右手が使えれば十分だ。
残った右腕ではラスト・リベンジャーをコントロールし、もがくアランを抱きしめ拘束する。もちろん手加減などしない。
「こ、こいつ!?」
拘束を解こうともがくアランだが、左手がラスト・リベンジャーに深々と突き刺さったままなので抜け出せないでいる。この隙に桃先輩と輝夜さんを脱出させなければ。
『桃先輩、輝夜さん、脱出装置を起動させます』
『ムセル、きみもすぐに脱出を!』
『俺は……脱出できそうにありません』
俺のいるサブコクピットは既に大破と言っていいだろう。脱出装置も作動しない、俺はここまでのようだ。
だが、まだやれることはある。最後まで、最後の時まで俺は足掻いてやる。
俺は桃先輩と輝夜さんのいるサブコクピットを強制にパージした。ひび割れたモニター画面に、離れてゆく桃先輩と輝夜さんのコクピット部分が映る。
これで憂いはない、とことんやってやる。
「ムセル!」
母の悲し気な声、できれば聞きたくはなかった。
「おまえ、【レディ】以外に喋れたんかい!?」
『……レディ』
流石は我が母。このような時であっても、とぼけたセリフが出てくるとは。自然と笑いが込み上げてくる。俺にもこのような感情があったとは驚きだ。
俺はラスト・リベンジャーの出力を上げる。ミシミシとアランの骨がきしむ音が聞こえてきた。
そして……ラスト・リベンジャーのゴーレムコアの限界も聞こえ始めてくる。どうやら、鬼の刃がラスト・リベンジャーを貫いた際に傷を受けたらしい。
だが、ラスト・リベンジャーはそんな事はお構いなしに出力を上げ、アランを逃がすまいと力を籠める。
「き、機械ごときがっ! 偽りの命を持つ分際でっ! 捨て身などとっ!」
なかなか拘束を解けないアランは、俺たちを罵倒しながら更に暴れる。だが、逃すわけにはいかない。
確かに俺たちは機械だ。そして偽りの命を与えられた自然の摂理に反する存在だろう。
だが、そんな俺たちを母は、大切な家族として迎え入れてくれたのだ。あつまでさえ、俺を息子と呼んでくれた。
機械にだって意地があるのだ。機械を、おもちゃを我が子と言ってくれる者の為に命を懸けて何が悪い。それを否定する権利など、おまえにあるのか?
いや、ないはずだ。あって……あってたまるか!
『ムセル、待っていろ! 今、宝玉を取り戻して助けるからな!』
母が行動に移った。もう暫く持ちこたえてくれ、ラスト・リベンジャー。
「ぐっ! 調子に乗りやがって……出てこい、全てを喰らう者!」
この母の行動に危機感を募らせたアランが、杖の先にある宝玉から赤黒い大蛇を呼び出そうとしているではないか。
まずい、このままでは母が全てを喰らう者にやられてしまう。考えろ、何か俺にできる事は……あった。
俺は席の横に置いてあった愛用のヘビィマシンガンを残っている右手で取り、サブコクピットに留まっていたアランの手に向けて発砲した。
放たれた弾丸は幸運にもヤツの爪の間に命中し爪を剥がすに至る。鮮血が噴き出し、コクピットと俺を赤く染め上げた。
「ぐわっ!?」
鬼であっても流石に爪が剥がれると悲鳴を上げるらしい。半壊したモニター画面には苦悶を浮かべるアランと輝きを失った宝玉が確認できた。
これで、できる事は全てやった。俺の役目は終わった、と言ってもいいだろう。あとは母に委ねる。
「このくそ野郎! そこかっ!?」
アランの大きな手が俺を掴む。ミシミシと音を立て変形してゆく我が体。どうやら、終わりの時が来たようだ。カメラアイにもひびが入り、視界が悪くなってゆく。
そういえば、イシヅカやツツオウに別れの言葉を伝えていなかった。彼らは悲しむだろうか。
そんな事をぼんやりと考えていると、見えにくくなったカメラアイに奇妙な映像が飛び込んできた。それは母の姿。
なんと、アランが手にする宝玉に直接噛みついた挙句に、それを食べ始める、という衝撃的な映像だったのだ。




