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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
538/800

538食目 俺とおまえは似ている

 俺は暗い通路をわざわざゆっくりと歩く。それは精神を極限まで集中させるためだ。

 ラスト・リベンジャーの歩を進めさせる度に、彼の足は床と口付けをして甲高い金属音が鳴り響かせる。


 やがて、最奥に重厚な赤黒い門が確認できた。まるで、その色はこれから流すであろう鮮血の色に思えてくる。

 だが、俺は俺たちは怯みはしない、恐れはしない、ただ……征くのみ。鬼を征しこの戦いを終わらせる。


 門は俺が近付く度に、ゆっくりと修羅へと通ずる扉を開いていった。まるで、哀れな獲物を誘いこまんと。


「これが、アランとの最後の戦いになる。皆、俺に力を貸してくれ」


『当然だ。俺はそのために、おまえと共にあるのだから』


『レディ』


「ひゃんひゃん!」「うきぃ!」「ちゅん!」


 皆の愛情が俺に留まることを知らない闘志を与える。漲る闘志が黒よりも濃厚な闇の中へと踏み入る勇気を与える。この勇気は弛まぬ努力があるからこそ光り輝く。


 俺は愛と勇気と努力を携えて修羅と対峙する。


 俺が修羅の世界へと踏み込むと暗かった世界に光りが満ちた。そこは、まさに戦うためだけに作られた部屋。決闘場とは違い広くはない。だが、十分に動き回れるほどの広さは確保されていた。だいたい五十メートル四方の広さといえるだろうか。


「来たか……エルティナ・ランフォーリ・エティル!」


「アラン・ズラクティ!」


 そこにアランはいた。既に悪魔化は終えており、その身を異形へと変貌させていたのである。

 ヤツの表情は修羅そのもの。そんなアランとの和解などあり得ない。勝負の二文字を以って決着を付ける。

 俺もヤツも、そのつもりで対峙しているはずだ。


 そして、俺の背後の扉が音を立ててゆっくりと閉じてゆく。最早、後戻りなどはできない。するつもりもないが。


 ラスト・リベンジャーの大型ランドセルに乗っていた雪希と炎楽、うずめが飛び降りる。それぞれに戦闘態勢に移行し油断なくアランを睨み付けた。


 その眼光に恐れることもなく、濃厚な陰の力を放ち続けるアランの手には、先端に輝く球体が取り付けられた杖を持っている。そして、それは直感的に俺の奪われた力の結晶であることが理解できた。


「もう俺は以前の俺とは違う、エルティナ」


 アランが一歩先んじた。僅かに遅れて俺も一歩を踏み出す。互いに見据えるのは闘志漲る相手の目。決して逸らすわけにはいかない。

 憎悪、執念、妄執、決意、覚悟、さまざまなものが入り混じるヤツの瞳には、これまでにない強い輝きが見て取れる。


「それは俺も同様だ、アラン」


 互いにゆっくりと歩を進める。向かう先は当然、お互いの敵。


「俺は背負うべきものを見つけた」


 アランから強烈な陰の力が放たれ始める。それは可視化し赤黒いオーラとなって彼を包み込む。


「俺は背負うべきものの大切さを改めて理解した」


 ラスト・リベンジャーからも桃色の輝きが放たれ始めた。輝夜が戦闘態勢に入ったのだ。


 俺とアランは似ている、今になってそう思う。愛、勇気、努力。そして、決して諦めない心。


 俺たちは知った、友と力を合わせる大切さを。それは陰の者であっても、陽の者であっても変わりはしない。人はそれを【友情】という。

 

【友情】のありがたさ、大切さを理解した時、それは確かに【黄金の精神】と呼べるものに昇華される。


「俺はおまえを倒して、仲間と共に先へ行く」


「俺はおまえを倒して、掛け替えのない友の下へと帰る」


 ゼロ距離、俺とアランの歩みは、互いの息遣いが分かるほどの位置へと到達していた。やがて、互いの闘志が限界まで膨れ上がり爆ぜる。


 それが、戦いの合図。


「エルティナァァァァァァァァァァァァァッ!」


「アラァァァァァァァァァァァァァァァン!」


 アランと俺の最初の攻撃は互いに頭突き。これを予知していた桃先輩はラスト・リベンジャーの額部分に濃厚な桃力の防御膜を形成していた。


 反発し合う陰と陽の力は激しく火花を散らし、やがて耐えられなくなって弾き飛ぶ。その力は凄まじく、俺とアランは互いに大きく弾き飛ばされ距離を置く形となった。

 だが、この距離は俺の有利となる距離。やってやる。


「ムセル! 二十連装バックパックミサイル発射! 照準は任せる!」


 額に熱。流れ出るのは熱い血潮か。だが、構ってなどいられない、それに気を取られて一秒でも気を逸らせばアランにやられてしまう。ヤツはそれが可能な相手なのだ。


『レディ』


 大型ランドセルから乱れ飛ぶ、桃力入りの小型ミサイル。ムセルの照準によって放たれたミサイルは、アランの逃げ道を防ぐように着弾する極めてえげつないものであった。


 彼の作ってくれたチャンスを無駄にすることはできない。続けざまにメガモモキャノン、そしてシールド内蔵式魔導カノンを発射する。


「当たれっ!」


 骨がきしむ音、いくらGDで反動を抑えているとはいえ、度重なる戦闘によって負荷が蓄積し、遂に肉体は悲鳴を上げ始めた。

 しかし、これを根性という非科学的な力でねじ伏せる。ここに至るまでの幾多の戦いが、俺に堪える力を与えた。


 動かなくなるのは死んでからでもできる。だから……生きている内は動け、俺の肉体よっ!


 必殺の破壊光線が猛スピードでアランに迫る。いくら超スピードを誇るアランとて、逃げ道を塞がれてはどうにもなるまい。まずは確実に攻撃を当てて動きを鈍らせなくては。


「いくら早くてもなぁ!?」


 アランの正面に巨大な大渦が発生しメガモモキャノンとシールド内蔵式魔導カノンの光線が飲み込まれてしまった。

 だが、驚くべきところはそこではない。ヤツがイナオツの〈廃水口〉を使ったという点だ。


 俺はカウンターで解き放たれた光線を、ラスト・リベンジャーの各所に設置されたスラスターを使用して強引に横に移動し回避、難を逃れる。

 だが直後にあばらの違和感。強引過ぎたために何本か骨折いったようだ。


『エルティナッ!? おまえ……』


『大丈夫だ! 桃先輩っ!』 


 まだだ、まだいける。まだ、動ける! ヤツに悟られるな!


「それはイナオツの能力か!?」


「そうだ、俺の仲間の能力。おまえが殺した俺の仲間の意志の力だ」


『こ、これは……!? エルティナっ!』


「あぁ、俺にも見えてるよ……ヤツの背後にスカレッチオ、ビルガンテ、イオナツ、バリバリーナの姿もある。それだけじゃない、数え切れないほどの意思の力を背負ってやがる」


 アランの後ろに見える、数多くの鬼たちの姿。それは決して幻覚ではない事が理解できた。幽霊でも怨念でもない、彼らのアランを想う気持ち【意思の力】が彼に憑いていたのだ。


「俺は一人だ。だが……独りじゃない!」


 アランの陰の力が意思の力によって爆発的に高まる。その力でもって、ヤツは指先から熱光線を放ってきた。これはビルガンテの〈火遁暴〉だ。


「ちぃっ!」


 反応が遅れた、左肩に被弾し爆発、アンカークローが使用不可。おまけに左肩のスラスターも破損し状況は不利になる。


 守っていてはダメだ、攻めろ、攻め続けろ!


「ひやん、ひゃん!」


 二発目の〈火遁暴〉が放たれようとした時、雪希の凍れる白い息吹がそれを阻止した。その隙に俺は体勢を立て直す。


「おまえがそうであるように、俺だって独りじゃないんだ! ムセル、【フルバースト】!」


『レディ』


 ラスト・リベンジャーの全兵装が唸りを上げてアランに襲い掛かる。それに対してアランは〈廃水口〉で迎え撃つ構えだ。

 だが、〈廃水口〉攻略法は先ほどの戦闘でヤツに知られてしまっているので使えない。そこで俺は新たなる方法でこれを打ち破る。


 ラスト・リベンジャーは伊達じゃない。それを証明してやる!


「桃先輩!」


『了解した。遠隔操作型砲門【バギーキャノン】全機出撃』


 大型ランドセルから、十二台のバギー型のラジオコントロールカーが、身動きが取れないアランを目指して発進した。

 その小さな車体の上には圧縮型魔導キャノンが装備されている。これが俺たちの切り札だ。


 俺はアランに覚られぬよう砲撃を続ける。その間にバギーキャノンたちは、〈廃水口〉で砲弾を飲み続ける彼に忍び寄ったのである。


「無駄だ! この〈廃水口〉は全てを飲み込む大口! そして、それは全ておまえに還る定めにある!」


「そんな事は分かってんだよ! 桃先輩、今だっ!」


『全機、攻撃開始!』


 アランが展開する〈廃水口〉の内側に侵入したバギーキャノンが一斉に魔導キャノンを発射した。小さな砲塔から放たれる小さな光線はアランに命中し秘められた凶暴性を解き放つ。

 圧縮された破壊光弾がアランの魔力に接触、それを引き金として大爆発を起こしたのだ。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 突然、自分が攻撃されていることに驚いたアランが〈廃水口〉を解いてしまう。当然、ラスト・リベンジャーの砲撃は容赦なくアランを蹂躙した。


「くそがっ、小賢しいマネを! 貪り食え、全てを喰らう者!」


 アランの手にする杖が輝き、赤黒い大蛇が出現。迫り来る光線や砲弾を貪り尽してしまう。そう、ヤツにはまだ、全てを喰らう者もどきが二匹も残っているのだ。


「そんなもので、俺が臆するかよっ!」


 俺はヘビィマシンガンを乱れ撃ちながら、ハイパーローラーダッシュでアランに接近を試みた。それをアランは十本の指から〈火遁暴〉を放つことによって迎撃する。


「見える、俺にも敵の動きが見える!」


 極限まで高められた集中力がそれを可能にする。高速で接近する熱光線がスローモーションのように見えているのだ。だが、いちいち考えて避けているかといえば、そうではない。

 己の直感に全てを委ねる。それは正しく、自分を信じる、ということだ。


 しかし、全てを回避できるほどヤツの攻撃は甘くはない。溶断される装甲、貫かれるシールド、既にこの攻撃には防御という選択肢はなく、絶対に回避することを俺は強いられた。


 俺は二個あるシールド内蔵式魔導カノンの使い物にならなくなった方をアランに投げ付け視界を塞ぐ。この隙に俺はブースターを吹かして跳躍、直後に投げ付けたシールドは熱光線の薙ぎ払いによって両断されてしまった。


 だが、これで僅かな隙が作れた。勝負だ、アラン!!


「ハイパーモモ魔導光剣だっ!」


 着地と同時に腰に収納されているハイパーモモ魔導光剣を引き抜き、俺は巨大な輝ける刀身を発生させた。極太の光の刀身が瞬時に形成される。それを輝夜の桃力を使用して更に強化するのだ。


 間髪入れずに超大型ランドセルの八つあるブースターが咆え、ラスト・リベンジャーに殺人的な加速を与える。

 俺はハイパーモモ魔導光剣を構え、隙ができているアランに突撃した。


「させるかよ! 鬼仙術〈忌まわしき暴風〉!」


 突如、俺とアランの間に強烈な風の壁ができあがる。これはバリバリーナの能力か。

 ラスト・リベンジャーのハイパーローラーダッシュも使用して強引に突破を試みるも先には進まない。風の壁に圧し戻されてしまうのだ。

 タイヤと床との摩擦熱がタイヤを溶かし異臭を放つ。嫌な臭いが俺の鼻を突いた。


「ならっ!」


 俺は頭部モモバルカン砲をアランの顔面にお見舞いしてやる。高速で放たれる桃力の光弾は暴風の影響を受けずにアランの顔面に炸裂した。


「光であるなら風の影響は受けまい!」


「ぐわわっ!?」


 それ自体は大したダメージにはならなかったが、ヤツの意識を別に逸らすことが目的だったので、俺の思惑は成功したと言っていいだろう。

 しかも幸運なことに〈忌まわしき暴風〉も攻撃によって緩んだ。チャンスだ。


「ムセル、フルブースト!」


『レディ』


 大型ランドセルの八基あるブースターが咆えた。うち数基が黒煙を吐きだし力尽きる。どうやら無茶をさせ過ぎたツケが出てしまったようだ。だが加速するには十分。

 俺はハイパーモモ魔導光剣を突き出しアラン目掛けて突撃する。


「アラン!」


「ちぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 そして、俺の執念の一撃は遂にアランに突き刺さった。

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