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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
535/800

535食目 外道

 その孤軍奮闘しているザインに加勢しようと振り向く。その直後のことだ。


「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 そこには、ビルガンテを真っ二つに両断したザインの姿があったではないか。

 ビルガンテは、最後の足掻き、と高熱を発しザインを巻き添えにして大爆発を起こそうと目論んでいる。

 だが、それもザインの家宝である刀より放たれし轟雷によって、ビルガンテは爆発するよりも先に炭へと変えられてしまった。


 ザイン君、ちょっと強過ぎやしませんかねぇ? 俺の活躍が薄くなって、ひっそりと、この世を去りそうなんですわ。


「こ、これであと一人だ!」


 少しばかり噛んでしまったが気にしてはいけない。

 劣勢に追い込まれたイオナツはじりじりと後ろに下がり、遂には背中が決闘場の壁に付いてしまった。万事休す、チェックメイト、というヤツである。


 そんな彼女に、ザインは手にした刀に雷を纏わせつつ、ゆっくりと迫っていった。


「……女子を切るのは武士の恥じ、しかしながら鬼はその限りにあらず。覚悟めされい」


「ひぃ……」


 イオナツは恐怖のあまりか失禁してしまったではないか。床を己の尿でびしょびしょにする。哀れに思うが、これは生存を掛けた戦いだ。情けは無用である。


 それにしても、まだお漏らししているのか? えらい量だな……我慢していたのだろうか。


「せめて、痛みを感じぬよう、一撃で終わらせるでござる。覚悟!」


 ザインが刀を振り上げ……そのまま固まった。いったいどうした……ん、だ?


 ザインの異変に気付くと同時に、自身もが異変に晒されていることに気付く。敵からの攻撃を受けた記憶はないし、油断もしていなかったのに、どうしてこのようなことに。


「こ、これは……身体が痺れて……!?」


「ふひっ! ふひひひひひひひ!」


 イオナツは狂ったように笑いながら更に放尿し続けた。ヤツが失禁するまでは体の自由は失っていなかった。だとすれば、原因はヤツのふぁっきゅん汁に違いない!


「はぁはぁ……あ~出した出した、すっきりですよぉ。いかがですかぁ、イナオツちゃんのおしっこは? 痺れちゃうでしょう? すぐに耐性ができちゃってぇ、一回しか使えないんですけどぉ……十分ですよねぇ~?」


 ザインはともかく、俺たちはイナオツの尿には一切触れていない。だとするなら、においに痺れる効果、あるいは気化した尿を吸い込んでしまったために身体が痺れてしまっているのだろう。

 であるなら、これだけの尿をぶちまけた理由も分かる。


「ホントにもう、驚かせてくれちゃって。げきおこですよぉ」


 イオナツは体が痺れて動けないザインを思いっきり蹴り上げた。当然、防御などできやしない。彼からボキボキと骨が折れる音がここにまで聞こえる。


「ぐはっ!」


 ザインは堪らず血反吐をぶちまけた。危険だ、下手をすれば内臓がやられている。蹴られた場所はみぞおち部分、胃がやられている可能性が大だ。


「まったく、使えない連中ですよぉ。何がアラン四天王ですか~? 笑っちゃいますよねぇ。貴女もそう思うでしょう?」


 どうやら優位に立ったことによって本性を露わにしたようだ。イナオツは自分の仲間を侮辱することも厭わない外道であったようだ。そんな彼女は嫌らしい笑みを俺に向けている。

 俺はその笑顔を見て、ぞくりと背筋が凍る。どうやら、イオナツは標的を俺に定めたようだ。


「頑丈そうな鎧ですがぁ、私はぁ、ちょっとした隙間さえあればぁ、どうとでもなるんですよ、これがねぇ?」


 にたにたと笑いながらヤツは俺に近付いてきた。そして、もぞもぞと自分の股間をまさぐった後、ラスト・リベンジャーの首の隙間に何かを流し込んできたではないか。


「っ!? て、てめぇ! 何を流し込んだ!?」


「うふふ~、皆大好き【エロエロ液】ですぅ。ほらほら、早く取り除かないと【妊娠】しちゃいますよぉ? あ、それとも私の子を産んでくれますか、そうですかぁ」


 そう言うとイオナツは狂ったように笑いだした。というか妊娠という単語に嫌な予感しかしない。

 俺の予想が正しければ、体の上をもぞもぞ動いているのは【アレ】ということになる。


「うぬぬぬっ! ざっけんな!」


「あははぁ! 良い表情ですよぉ? ほらほら、もうお胸まで来ちゃった」


 どうやらヤツの言うところの【エロエロ液】は自在に操れるらしい。気持ちが悪過ぎてリバースしそうだ。こんなに不快な気持ちにさせられたのは久しぶりである。


「このクソッタレが! おまえ女じゃないのかよぉ!?」


「残念、イナオツちゃんは両方あるんですぅ~! あ、それとも直接ツッコんでほしかったんですかぁ? それは後でねぇ?」


 思いっきりぶん殴りたい笑顔を浮かべたイナオツは後ろを振り向く。そこには、なんと立ち上がって刀を構えるザインの姿。


「御屋形様を恥ずかしめるような真似は断じて許せぬ!」


「なぁにが、許せぬっ、ですかぁ? 笑っちゃいますよぉ。そんな無様な有様で」


 勝ち誇ったイナオツはザインを痛めつけだしたではないか。彼は、なんとか立ち上がっただけで身体は痺れたままのようだ。このままでは嬲り殺しにされてしまう!


『桃先輩! なんとかならないか!? ぬあぁぁぁぁぁ! ヘソまで来やがった!』


『ええい! ダメだ! 桃力でもどうにもならん! ヤツは、ただの【子種】を操作しているだけだ!』


『やっぱり【エロエロ液】の正体はそれか! 嫌がらせ以外の何ものでもねぇ!』


 そんな事よりもザインだ。早くなんとかしないとっ!


「はぁはぁ、いい面構えになりましたねぇ? 私、興奮してきちゃいましたぁ」


 そこには顔を腫らして息絶え絶えなザインと、それを見て興奮する変態がいたのである。このままでは本当にザインが殺されてしまう。なんとしてでも阻止して現状を打開しなくては。


「やめろっ! やめてくれっ!」


 もう、こうやって時間を稼ぐしかない。その間に解決策を考えるのだ。桃先輩ならなんとかいてくれるだろう。たぶん、きっと。


「ん~いいですよぉ?」


「マジかっ!」


 チョロ甘、そう考えていた時期がありました。


「えぇ、貴女が私にお尻を出して『突っ込んでください』って言えばねぇ」


「……おめぇ、ロリコンかよぉ! 犯罪行為はただちに監獄送りだぞ!」


「うふふぅ! イナオツちゃんの愛に年齢も性別も関係ないのでぇす! 気に入った娘は孕ませるし、気に入った男は種を頂戴して孕みますぅ! どっちもできるのがイナオツちゃんで~す! あ~ん! わたしってば、マジ天使っ!」


 ダメだこいつ、早くなんとかしないと怖い人がやってきて物語が終わる! しかし、今は時間稼ぎしかできないことも事実。腹立たしいが言うことを聞くしかない。


「さぁさぁ、どうするどうするぅ? 早くしないとぉ、彼……死んじゃうよぉ?」


 なんとイナオツはザインの指を一本、一本折り始めたではないか! ザインの悲鳴が決闘場に木霊する! やめろっ! 言うからやめろっ!


「……ください」


「んん~? 聞こえないよぉ? もっとぉ、大きな声で!」


 調子ぶっこきやがって! ちくしょうめっ!


「突っ込んでください!」


「あっははぁ! 何を?」


 このっ! そこまで言わせんのか!? このままではマジで怖い人が来て物語が終わる! だがザインと物語を護ってしまうのが御屋形様たる俺の務めっ! 聞き晒せ!


「その、ぶっといフランクフルトを突っ込んでください!」


「グレイトぉ! ねぇ、聞いた聞いた? 貴方のご主人様、イナオツちゃんのこれが欲しいんだってぇ! いやらしい娘ねぇ!? あっはははははははは!」


 絶対にぶっ潰す! ここまで俺を怒らせたのは、おまえが初めてだ!


「き、貴様ぁ! 絶対に許さぬ!」


「じゃ、きみはもう用済みだから死んでねぇ!」


 ぞぶっ。


「えっ?」


 イナオツの手がザインの身体に突き刺さり、そして何かが引きずり出された。それは……彼の心臓だったのだ。

 彼女は手の中で脈打つ、血に塗れた肉の塊を恍惚の表情で見とれていた。


「やめろっ! 約束が違う!」


「約束はぁ、破るものですぅ! ん~名言、名言!」


 ぐしゃり。


 イナオツはケタケタと笑いながらザインの心臓を握り潰した。糸の切れた人形のように崩れ落ちるザイン。俺は目の前で起こっている出来事が信じられなかった。


「ザ、ザイン……返事をしろっ! 嘘だろ、嘘だと言ってくれ!」


 だが、倒れ伏したザインからの返事はなかった。ピクリとも動かない。どんどん血が溢れ出て床を血の海へと変えてゆく。


「ザ……ザイン?」


 あまりにも唐突で呆気ないザインの最期に頭が真っ白になる。


「あっれ~? まだ死んだってことがわからないんですかぁ? じゃあ、分かり易いようにグチャグチャにしてあげますねぇ?」


 イナオツはそう言うとザインだというものを肉片に変えてしまった。もう、何が起こっているのか理解できない。


 ザ、ザインはどこだ……俺の忠臣は、どこへ行ったんだ!?


「良い表情ですねぇ。【エロエロ液】はもう必要ないですね」


「て、てめぇ! いい加減にしやがれ! イカレ女!」


 リックがイナオツに向かって暴言を吐いた。それを聞いたイナオツはリックを思いっきり殴り飛ばす。一回、二回と転がってようやく彼は止まった。ピクピクと痙攣しているが、なんとか生きているようだ。


「腹が立ちますねぇ、無価値な下等生物は黙っていてほしいんですよぉ。リザードマンなんてキモくて見たくもないですぅ」


 ゆっくりとイナオツが俺に近付いてきた。そして俺の頬を撫でるように触ってきたではないか。


「いいですねぇ、絹のような触り心地。こんな子を堪能しないで殺すだなんて、とんでもないですぅ」


 ヤツはそう言うと、俺の頬を舐めてきた。あまりの気持ち悪さに思わず悲鳴を上げてしまう。やめろ、やめてくれ。


「グ~ッド! 味も申し分ない! あぁ、もう辛抱できませんよぉ!」


 時間稼ぎも、もう無意味に近い。どうしてこうなったんだ。


「じゃ、貴女のご要望の品がこちらで~す!」


 ぱお~ん!


 気力が萎えかけていたが、その非常識な物体が俺を正気に戻す。もう、目が点になった。


「ばかやろう! そんなもんを突っ込まれたら死ぬわっ!」


「え~?」


 え~? じゃねぇ! どこに、そんなもんをしまっていやがったんだ!? 大人の腕ほどもあるフランクフルトなんざ、聞いたこともねぇぞ!


「まぁ、慣れますよぉ?」


「や~め~ろ~! 絶対に割ける!」


「誰でも最初は痛いもんですぅ。イナオツちゃんもそうだったしぃ」


 そんな情報はいらん。ぬあぁぁぁぁぁっ! ラスト・リベンジャーの装甲を引っぺがそうとしてやがる! なんとかしないと! なんとかしないと!


 俺は痺れて動かない身体を動かそうと必死にもがいた。

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