534食目 秘策
『皆、聞いてくれ』
俺はヘビィマシンガンを連射モードに切り替えアラン四天王に発砲。彼らを牽制しつつ〈テレパス〉で皆に作戦の内容を伝える。作戦はこうだ。
まずは俺がバリレッチオに【腹部ソニックモモスマッシャ―】をぶっ放す。当然、水のイナオツが鬼仙術〈廃水口〉でもって無力化を図った後にカウンター攻撃をしてくるはずだ。
だが、それこそが狙い。ソニックモモスマッシャーは、どえらい反動があるのだ。
この反動に対して、ラスト・リベンジャーは超大型ランドセルの八基あるブースターを吹かして反動を抑えることが可能である。
しかし、口からただ吐きだすだけのイオナツはどうなるか? 答えは、口からソニックモモスマッシャーをぶちまけながら後ろに吹っ飛ぶ、だ。
タンクモード時は装甲が変形して発射口が塞がれるため使用できない唯一の武装だが、コンバットモードではそのような不具合は生じない、今こそソニックモモスマッシャーを使う時が来たのである。
イナオツが無様に吹っ飛んだ後は、俺とリック、ブランナとウルジェの一斉攻撃でバリレッチオを仕留める。火のビルガンテは後回しでも大丈夫のはず。
そして、吹っ飛んだイオナツはザインに一任する。恐らく彼女を仕留めれるのは、彼を置いて他にいないだろう。それは先ほどの彼の攻撃を、彼女が飲み込まなかった事でも証明されている。
もし、あれを飲み込まれて、こちらにぶっ放されていたら、今頃は勝負が決していたはずだ。それは、しなかったのではなく【できなかった】のだろう。
これは相性の問題。水は雷に食われる、という捕食関係には逆らえなかったのだと思われる。
問題はさっきからハッスルしている全てを喰らう者もどきだ。アランの野郎、完全に外をガン無視して、三匹の全てを喰らう者もどきを送り込んで来てやがる。
いくら初代セイヴァー様が倒せるからといって、同時に三匹仕留められるか、といえばそうではない。さっきから、ちょくちょくと撃ち漏らしが『やふ~い』とこちらに乱入してきているのだ。
この不確定要素を考慮しながら戦わなくてはならない。
『いいか、何度もチャンスは巡っては来ない、これが最初で最後だと思ってくれ』
『おう!』
俺の最終確認に皆は二つ返事で応える。さぁ、作戦開始だ!
「ムセル! 勝負を賭ける! 腹部ソニックモモスマッシャー起動!」
『レディ』
俺はわざとらしさを極力抑え必殺の攻撃を宣言する。見とけよ、見とけよ? 俺の迫真の演技をよっ!?
鬼たちは俺の必殺技宣言に身構える。ここまでは順調、あとはさいを振るのみ。さて、問題はイオナツが予定通り動いてくれるかだ。
「喰らいやがれっ!【ぽんぽんタイフーン】!」
「さっきの名前と違うじゃねぇか!?」
ビルガンテのツッコミが入った。別にそれはいい、重要なことじゃないんだ。
「うっわ~、本当に攻撃の種類がバラエティに富んでるね~? でも残念! イオナツちゃんで~す!」
それを待っていたんだ!
イオナツは目論み通りソニックモモスマッシャーを〈廃水口〉で飲み込んだ。そしてカウンター攻撃を仕掛けてきたのである。
「そ~れ……ぼ、ぼぼぼぼぼ! おぼぼぼぼぼっ!?」
口から大量の衝撃波をぶちまけながら、ぐりんぐりんと回転し吹っ飛んでゆくイナオツ。
「ぶべっち!?」
彼女はすぐ後ろにいたビルガンテを巻き込むながら壁に激突する。これは誤算であったが、もともとビルガンテは後回しにする予定だったので誤差の範囲であろう。ざまぁ。
「シャァァァァァァァァァァァァッ!」
まずい、初代セイヴァー様が討ち漏らした全てを喰らう者もどきが、こちらに向かってきた!
「ちゅん! ちゅん! ちゅん!」
「うずめっ!?」
子すずめのうずめが、こちらに迫る赤黒い大蛇に向かって突撃した。なんという無謀な行為をするのだろうか。
こう言ってはなんだが、うずめは完全に支援タイプの能力の持ち主であり、攻撃手段はほぼ持ち合わせていない。
いくらもどきとはいえ、相手は全てを喰らう者。生半可な攻撃など無いに等しい耐性の持ち主だ。
「シャァァァァァァァァァァァァッ!」
「ちゅんちゅんちゅんちゅん! ちちちちちちちち!」
赤黒い大蛇の周りを激しく飛び回る子すずめ。すると、どんどん子すずめの数が増えていっているではないか。
幻覚なんかじゃないし、残像でもない。縦横無尽に飛び回る子すずめは、いつの間にか十羽にまで増えている。これは、いったい!?
『桃仙術を応用した〈影分身〉か!? 普通はチャクラを練った方がいいのだが、見事なものだ』
『ふきゅん!? うずめは忍者タイポだった……!?』
どうやら、全てを喰らう者もどきは完全に頭に血が上っているのか、うずめを喰らおうと躍起になっている。
彼女が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「今だっ! バリレッチオに一斉攻撃を!」
「「「おぉ~!」」」
これを逃せば、もう打つ手はないも同然だ。ここで決める!
「なめるんじゃないよ! 私たちを誰だと思ってんだい!? バリレッチオなんだよ!」
バリレッチオが長い髪で自身を包み込み繭のような状態へと変化する。何かやってくると考えていいだろうが、躊躇している時間はない。
構うもんか! やってやるぜ!!
「ムセル!【フルバースト】!」
流石にフルバーストも何度も使えない。プロペラントタンクの魔力残量がゴリゴリ減っていっている。そろそろ節約しないとアランと戦えなくなってしまうだろう。
『レディ』
まずは俺の【フルバースト】、それは繭となったバリレッチオに命中し大爆発を起こした。そして黒煙晴れ止まぬ内にリックとウルジェが突撃する。
「つぇあぁぁぁぁっ!」
「え~い!」
ドリルランスの唸り声、そして巨大鉄球の衝撃音、それを確認したブランナが血で濡れたような大鎌を構えて黒煙に突っ込む。
そして、何かを切り裂く音がし、直後に悲鳴が聞こえる。手応えありだ!
黒煙が晴れると、そこには血塗れになって負傷しているバリレッチオ、なんと彼女は全身から刃が生えているではないか。見ようによっては金色のウニに見えなくもない。
そして彼女と同じく、負傷して身動きが取れなくなっているウルジェとブランナがいた。
ブランナは相当な深手を負っていた。恐らくはウルジェを庇ったのだろう。即座に負傷箇所の再生を試みているがしばらくかかりそうだ。
ブランナに庇われたであろうウルジェは、気を失っているのかピクリともしない。打ち所が悪かったようだ。
だが、ブランナに比べれば軽傷であることは確かである。
気になる点は、彼女たちと共に突入したリックの姿がどこにも見当たらないということだ。
見当たらないリックは心配だが、彼らのおこないを無駄にしないためにも、俺は行動に出るべきである。
「【ハイパー・M・マキシマム】起動! ムセル!【フルブースト】!」
『レディ!』
『輝夜! 桃力全開!』
『っ!』
俺は桃色のオーラに包まれ大型ブースターの超殺人的速度に備える。やがて八つの大型ブースターは解き放たれた暴獣のごとき咆哮を上げ、俺を獲物の下へと誘う。
そして俺はふわりと宙に浮かぶ。ドクター・モモが言っていた短時間であるなら空だって飛べる、とはこの殺人的加速によるものだったのだ。
やがて、俺は桃力の膜につつまれ、彗星のごとくバリレッチオに突撃した。
「こ、こいつら! 恐怖心が無いのか!? 全身刃の私に突っ込んでくるだなんて!」
「バリレッチオぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「な……!? ひぃっ!」
桃色の彗星と化した俺のぶちかまし。以前と比べても重量は四倍以上になっている。当たればただでは済まない。俺は恐怖で顔を強張らせたバリレッチオに猛スピードで迫る。
激しい衝撃、バキバキと何かが折れる音、悲鳴、口の中に広がる鉄の味。手応えあり!
「ひぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
だが……浅い! 仕留めるには浅過ぎる!
身体の半分を吹き飛ばされたバリレッチオは、悲鳴と血を撒き散らしながらも再生を試みている。このままでは、作戦は失敗に終わってしまう!
俺は口の中に溜まった血を吐き捨て、バリレッチオに止めを刺すべくヘビィマシンガンを構える。
「ひぃ、ひぃ……ひひひ! 運は私たちに味方したねぇ!?」
なんという再生速度だ!? もう半分以上再生を果たしているじゃないか!
恐るべきはバリレッチオの再生速度。半壊した肉体は既に七割方再生を終えていたのだ。
だが、勝ち誇る彼女の頭上に何かが猛スピードで落ちてきた。そして声も。
「いや、味方なんかじゃないぜ? どっちかといえば……死神だろ」
ドシュっ!
「え……べ?」
バリレッチオの脳天にドリルランスが降ってきて突き刺さり、少し遅れてリック本人も落ちてきた。見えないと思ったら宙高くに飛ばされていたか、あるいは跳んでいたようだ。
そして、バリレッチオに突き刺さったドリルランスの柄を掴みリックは咆えた。
「唸れ、ドリルランス! 全てを貫けっ!」
ドリュリュリュリュリュリュリュ!
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
バリレッチオはドリルランスによって脳漿をぶちまけられ、全身を激しく痙攣させた後に遂に滅んだ。
だが、バリバリーナに憑依していたスカレッチオが分離して逃げようとしている。
ヤツの本体たる体はなんと、小さな脳ミソという衝撃的な姿だった。どうりでダメージを与えられないわけだ。
「おのれっ! よくもバリバリーナを! こうなったら、そこにいる眼鏡デブの身体をのっとって……」
まずい! 意識のないウルジェの身体を乗っ取るつもりか!? 俺はスカレッチオから距離が離れ過ぎた!
ヘビィマシンガンで狙えるか……ダメだ! 射線上にウルジェがいる! 外しでもしたら、とんでもなくグロイ画像が飛び込んできちまう!
プルルだったら、容赦なく撃ってスカレッチオだけを仕留めるんだろうが、俺にそんな腕前はございません! お許しください、ウルジェ様!
俺は間に合わない、と分かりつつもブースターを吹かしてハイパーモモ魔導光剣を引き抜く。
「ひっひっひ! もう遅いわ! この娘の身体はいただいた!」
「そうはさせるか!」
猛スピードで脳ミソスカレッチオに突っ込んできたのはフェアリーのケイオックだ。彼は魔法を唱えるでもなく剣を抜いてスカレッチオに挑んできたのである。
まさかと思うが、もう魔力が底を尽いているのか? 間違いない、自力で空を飛んでいやがる! 止せ、無茶だ!
「ひっひっひ、このスカレッチオ。このような姿とて、羽虫に後れを取るとでも思うたか!?」
脳ミソスカレッチオはあろうことか、ケイオックに向けていやらしい触手を伸ばして攻撃してきたではないか!
もう、ぬめぬめで、ぬちょぬちょのヤツだ! 触れられただけで『らめぇ』と言っちゃうヤツ!
ケイオックが女顔だからって、それはあんまりでしょう!? スカレッチオ、汚い。流石、スカレッチオ、汚い。
「ウルジェは俺が護る! 魔力が無くなったって、この剣があるんだ!」
ケイオックは手にした剣で触手を切り裂いた。途端にスカレッチオが悲鳴を上げる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ! 痛いぃぃぃぃぃ! 痛いぃぃぃぃぃぃぃっ!」
まさか斬られるとは思ってもいなかったのだろう。非力なはずのフェアリーにぶっとい触手を切り落とされてしまったのだ。それは脳から伸ばしている紛う事無き肉体。斬られれば痛いに決まっている。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ケイオックが剣に力を籠めて飛ぶ。真っ直ぐスカレッチオを目指して。
「く、くるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
完全にパニックに陥ったスカレッチオは再び触手をケイオックに目掛けて差し向ける。
「俺だって戦士なんだよっ! 女の一人も護れないで、なんだっていうんだ!」
ケイオックの絞り出すような言葉に呼応して、彼の背に生えている妖精の翅が七色に輝き出した。それはやがて彼を包み込む。その姿は、まさしく流星。
「なんだ、あれは? 輝く……道?」
なんと、ケイオックを導くかのように輝ける道が伸びていたのだ。その道に入ったケイオックは、ことごとくスカレッチオの触手を弾き飛ばした。
「やめろっ! くるなっ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
最後まで抵抗を試みるスカレッチオだが、ケイオックの捨て身とも言える渾身の一撃が本体である脳に突き刺さった。
その衝撃に耐えられなかったのか、ケイオックの愛用する小さな剣が根元からポキリと折れてしまう。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
スカレッチオは体液を撒き散らしながら床へ真っ逆さまに墜ち、べしゃっという情けない音を立てて潰れてしまったではないか。本当に呆気ないスカレッチオの最期であった。
「はぁっはぁっ……その剣は、おまえにやるよ。おまえを倒した戦士の剣だ、光栄に思え」
ケイオックは根元から折れた剣の柄を、スカレッチオの成れの果てに放り投げる。それがスカレッチオに当たると同時に、脳ミソは桃色の粒子に解れ天へと昇っていった。
「これで二人っ! 残りはビルガンテとイオナツだけだ!」
俺はザインの加勢に入ろうと体勢を整える。アラン四天王との戦いは佳境を迎えるのであった。




