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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
531/800

531食目 反撃の時

 ◆◆◆ ウォルガング ◆◆◆


『城内に鬼侵入! 数、十八!』


『動ける者は鬼を向かい討て! 決して難民たちに近付けるな!』


〈テレパス〉による情報が乱れ飛ぶ。フィリミシア城に鬼が侵入してきたためだ。


「わしの剣と鎧を持てい!」


 鬼との戦いは激化を極め、遂にフィリミシアへの侵攻を許してしまう。しかし、我が民に諦める者、今だ現れず。不撓不屈の心を胸に秘め、未来を切り開く武器を手に、明日を奪わんとする闇に立ち向かう。


「ホウディック防衛大臣! この期に及んで、わしの出陣を止めはせんだろうな!?」


「最早、陛下をお止めしませぬ」


「その代り、我らもお供しますゆえ」


 わしは王家の鎧を身に着け、闇を切り裂く魔導光剣【ラングステン】を手にする。付き従うは完全武装した、ホウディック防衛大臣とモンティスト財務大臣だ。


「む、近いな」


 攻撃魔法の炸裂音と振動が王の間にまで届いている。敵はもう近くにまで迫っているようだ。


「この日のために、鍛えに鍛えたこの肉体!」


「ふっふっふ、鬼どもに目に物を見せてやりましょう」


 ホウディック防衛大臣はともかく、モンティスト財務大臣はやり過ぎに注意しなくてはならない。実のところ、彼がわしらの中で一番好戦的であるのだ。それゆえに、防衛大臣にはホウディックに就いてもらうことになった。


 モンティスト財務大臣は得物である二本のショートメイスを打ち鳴らし、普段は見せない獰猛な表情を見せた。彼の凶暴な戦闘本能を抑えつけるのはもう無理であろう。ならば発散させるのみ。


「出陣じゃ!」


「ウォルガング国王陛下、ご出陣! ご出陣!!」


 わしを護る五名の親衛隊の士気が上がってゆく。最早、王座にてふんぞり返る王など、この国には無用なのだ。ここに、わしも一人の戦士に還る時が来た。


「魔導装甲兵、五! 来ます!」


 最新の魔導技術を用いて作られた鎧を纏う鬼が姿を現した。なるほど、間近で見れば驚異的な存在であることが理解できる。

 だが、こちらとて最新の技術で作られた武器、そして熟練の技術がある。決して後れを取ることなどない。


「一番槍はいただきますよっ!」


「ええい、モンティスト! 抜け駆けするでないわっ!」


 我先にと飛び出したのはモンティスト財務大臣……いや、モンティストだ。戦士に戻った彼を大臣と呼ぶのはいかがなものかと思う。

 彼に追従するのは同じく一人の戦士に還ったホウディックだ。愛用の大型のアイアンクロ―で魔導装甲兵を切り刻む。


 流石はモモセンセイの大樹にて祝福された特別な武器だ。鬼の特殊な能力を無効化している。これならば、対等以上に戦えるであろう。

 だが、あの二人もいい歳だ。序盤から全力で戦えば息切れすることは明白、ここは注意しておくべきだろう。


「ええい、張り切り過ぎじゃ! いい歳なんじゃから配分を考えよ!」


「「陛下に言われとうないです」」


「ぐぬっ」


 二人にそう言われてしまっては言い返せない。遅かれ早かれ、わしも配分など気にしないで暴れるからだ。


 あぁ、なんということだ。長い時を共に過ごしていたせいで、考え方が同じになってしまっているではないか。


「まったく……まぁいい。先を急ぐぞ」


 ものの数分で魔導装甲兵を殲滅したわしらは、次なる獲物を探し進撃する。






『フィリミシア南門から鬼、二十侵入! 迎撃せよ!』


『城内にスケルトン侵入! な、なんだこいつらは!?』


『救援乞う! 救援乞う! 化け物だ! え……?』


〈テレパス〉での情報が飛び交う中、気になる言葉が何度も言われ続けている。それは【スケルトン】、骨の亡者。アンデッドに属する有名な魔物だ。

 それが城内に侵入しているというのである。恐らくは鬼どもが精神的な動揺を狙って送り込んできているものとみられた。

 しかしながら、今更スケルトンを送り込んできても臆する者などいなかろうに。


「陛下! 大広間に出ます!」


「うぬっ! かなりの数が城内に入り込んでおるの!」


 大広間には魔導装甲兵を含む、およそ三十もの鬼が我が兵と熾烈な戦いを繰り広げていた。当然、劣勢になりつつある我が兵に加勢する。


「陛下!」


「陛下だ!」


「皆のもの! 一気に畳みかけるのじゃ!」


 わしの掛け声に兵士たちは息を吹き返し、怒涛の勢いで鬼たちを撃ち果たす。しかし、新たな鬼たちの部隊が大広間に大挙してやってきた。その数、およそ三十。後続にも鬼たちがいるようだ。それを考慮すれば八十近くはいるだろう。

 それに対してわしらは十八名。圧倒的、戦力差ではないか。


「是非もなし、これくらいの理不尽さなど、エルティナは【ぬるい】と言い切るであろう」


 そうだ、民を導くわしがこれしきで絶望などしていられぬ。わしは魔導光剣【ラングステン】を構え鬼どもに立ち向かった。


『フィリミシア南部にカオス教団出現! 司祭クラスを数名確認!』


『フィリミシア北部に魔族軍接近! 数……一万三千!』


『東部より未確認の部隊多数接近! その数、二万! し、指示を乞う!』


『スケルトンの一団が……状況が把握できない! 誰か! 誰かっ!』


『誰だ!〈テレポーター〉を再稼働させたヤツは!?』


『て、転移してくるぞっ!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


 この状況で畳みかけるように嫌な情報が入ってくる。これらを処理してくれているのは難民たちを護りながら指揮をしてくれている大賢者デュリンクだ。


 彼は〈テレパス〉による通信を器用に同時処理しつつ的確に指示を与えている。とは言っても一人でできる事はたかが知れていた。だからこそ、白エルフの賢者たちは集結したのだ。


『はっはっは、ようやく来たか』


『ほっほっほ、仕込んだ種はようやく芽吹いたの』


『かなりギリギリだったじぇねぇか。もう少し遅れてたら、俺は打って出るところだったぞ?』


『……ふ、ラガルはせっかち過ぎますね』


 その情報を聞き、彼らは笑ったではないか。いったいどういうことだろうか?


『さぁ、全ては整いました。反撃といきましょうか』


 彼は何を言っているのだ!? この状況で鬼に反撃じゃと!? 気でも触れたのか!


「陛下っ!」


 ぬかった! 


 モンティストの叫び声、気付いた時には鬼の鋭い爪がわしの眼前に迫っていた。回避などできるものではない。情報に気を取られたばかりに……万事休すか!?


 ガキンっ!


 しかし、その爪がワシに届くことはなかった。鬼の爪は一本の見事な剣によって受け止められていたのである。


「な……!?」


 鬼の爪を受け止めた者は我が兵ではなく、言葉無き者【スケルトン】であったのだ。彼はボロボロの赤い軍服を身に纏う変わった骸骨戦士であった。

 普通のスケルトンはもっとみすぼらしい姿をしているものだが、彼はボロボロながらも身嗜みを整えているように見受けられる。


「……」


 爪を弾き飛ばした赤い軍服のスケルトンは、バランスを崩した鬼の異形種を一瞬にしてきり刻み滅ばしてしまったではないか。

 なんという見事な拳の腕前だ、それにこの剣の動き、どこかで……!?


「そ、その剣は!? そなた、まさかっ!?」


 当然、彼は答えることはない。その代りに、王家の紋章が刻印された剣を振るい、猛然と鬼たちに切り掛かったではないか。

 そして、わしらが入ってきた入り口より、スケルトンの一団がなだれ込んできた。彼らもまた、鬼たちに熾烈な攻撃を加え始めたのである。


 わしの脳裏に蘇る我が子の姿。親よりも先に死んでしまった親不孝者。その後ろ姿が赤い軍服を着た彼に重なる。


「……リチャード、おまえは死しても、この国を思うてくれていたのじゃな」


 我が子リチャード・ラ・ラングステン。病で急逝しておらなんだら、今頃はこの国の王となっていたはず。全てに優れた才を見せ、将来を希望されたわしの自慢の息子。


「ス、スケルトンが鬼と戦っている!? それに彼らが身に纏う力はっ!」


 間違いなく桃力だ。きっと、エルティナが起こした奇跡であろう。そう、奇跡は起こる。


『報告! フィリミシア南部に現れたカオス教団が鬼に攻撃を開始! 状況が分からない!』


『フィリミシア北部より接近してきた魔族軍が鬼の部隊と戦闘を開始! あ、あの方は!?』


『フィリミシア東部より、ヒデヤス・トクガワ様率いるイズルヒ連合軍が到着! 救援に駆け付けてくれたとのこと!』


『フィリミシア西部に出現した部隊は、行方不明だったドロバンス帝国のラペッタ皇子と判明! 鬼の部隊に攻撃を開始しました!』


『テレポーターより多数の戦士達が転移!』


『あぁっ!?【斧王】ギリンス!【魔導王】ガングリデンもいるぞ!』


『【殲滅王】ギーヴァラル、【黒い魔光】マリッサまで!? 決して動かないと言われていた魔女までもが動いてくれたのか!?』


〈テレパス〉から入ってくる情報は信じられないものばかりだ。北よりは魔族たちが、東よりイズルヒの侍たちが、西からはドロバンス帝国の生き残りたるラペッタ皇子が駆け付けてきたのだ。

 そして、世界中に散らばる一騎当千の強者たちもがラングステンのために、いや……世界を護ろうと駆け付けてくれたのである。


 全てを喰らう者を討つために、世界中の戦士達が聖女の下に集結する。なんという、ことであろうか。伝説はここに蘇ったのだ。


「エルティナよ……そなたの、そなたの呼び掛けに戦士たちは応えてくれたのじゃ!」


「そのとおりじゃよ、ウォルガング」


 その声にわしは振り返った、そこには久々に見る友の顔があったのだ。


「デルケット! そなた、今までどこへ行っておったのじゃ!?」


 鬼と激戦中の大広間にマイアス教最高司祭デルケット・ウン・ズクセヌが戦士たちを率いてやってきた。彼らはわしでも知っている高名な戦士達だ。

 あまりに有名過ぎて集団では行動しないことで知られている。そんな彼らが一団で行動するという事態に兵たちはキョトンとした表情を見せていた。


「んぽぽらんぽ! ららめっさまりさ!」


 その一団の大きな黒い帽子に黒いコートを纏う少女が異国の言葉を発する。彼女の手に持つ見たこともない奇妙な杖が光り輝き、大広間にいた全ての鬼たちを正確無比に撃ち貫く。


「なんと……! あれほどいた鬼たちが一瞬にして!」


 全滅、そう一瞬にして全滅してしまったのだ。圧倒的な攻撃力、そして魔力量だ。これが年端もゆかぬ少女の力だというのか。


「彼女はトッチリ王国の【黒い魔光】マリッサ・サリキメ。彼女の魔光に抗える者はおらぬ」


 デルケットに褒められたマリッサは上機嫌で語りだした。しかし、異国の言葉ゆえに内容は理解できない。


「んぽぽ! らるるえん! えるてぃな!」


 金髪碧眼の褐色肌の少女が語る異国語の中に、確かにエルティナの名を聞いた。あの子は本当に何を成し遂げているのか予測もできない。


「私も自分のできる事をしようと思ってな。左遷に近い形でフィリミシアを追い出されたが、これを好機と思うことにしたんじゃよ」


「そうか……! お主、世界に散らばる戦士たちを説得して回っておったのか!」


「いかにも、骨が折れる巡礼じゃったよ」


 そう言ってデルケットはトントンと腰を叩きニヤリと笑みを作った。やはり、我が友はただ者ではなかった。簡単そうに言っているが、これがどれほど大変なことであったかは、彼のこけた頬が物語っている。


「これも全てはエルティナ様のため、ひいては世界を救うため。この老体にできることがあるのであれば命とて惜しくはない」


「そう、全ては【真なる約束の子】のために」


 その声は突如として聞こえてきた。大広間に立ち昇る獄炎、その圧倒的な力にわしらは思わず後ずさる。炎が消えたその場所には赤いローブを身に纏う一人の男の姿。


「そなたは……【煮込み】のモーさん!」


「あ……やっぱり、そっちで認識していましたか。改めて自己紹介させていただきますね」


 モーさんは咳払いを一つして、改めて自己紹介をすると宣言した。ド派手な登場の仕方の割りには、やけに腰が低い彼にわしらは困惑したが、彼はお構いなしに自己紹介を始めたのである。


「私はカオス教団八司祭が一人、獄炎のモーベン」


「なんと!? その方はカオス教団の司祭だと申すのか!」


「いかにも、煮込みのモーさんとは、いつの間にか付けられてしまった仮の名」


 ふいっと、獄炎のモーベンは顔を伏せて黄昏てしまった。彼に何かあったのだろうか? やがて気を取り直した彼はわしに告げたのである。


「あ、どさくさに紛れて、この城のお宝をいくつか拝借いたしました」


 まったくもって酷い告白であった。


「そなた、わざわざそれを言いにきたのか?」


「えぇ、探す手間を省いて差し上げようと」


 しれっと盗人は盗品を提示する。それは確かに王家に伝わっていた物であるが、決して価値があるとは言えない品々であった。このようなものを盗まれても、誰も気が付きはしないであろう。


「そんなガラクタを盗むために、わざわざカオス教団を動かしたのか?」


「あぁ、いえ、これは【ついで】です。カオス教団を動かしたのは我らの主ですから」


「それは何故じゃ?」


 獄炎のモーベンはわしの問い掛けに目を閉じ答えた。


「……主様と血の繋がったエルティナ様を助けるのに理由などいらないでしょう。それではこれにて」


 そう言い残し、獄炎のモーベンは炎と共に去っていった。まったくもって人騒がせな男であるが、不思議と憎むことができない。理由は彼が纏う雰囲気であろうことは想像するに容易い。

 だが、彼は去り際に気になることを言い残して去っていった。


「まてっ! 血の繋がった妹とはなんじゃ!? あの方とはいったい!?」


 だが、既に獄炎のモーベンはいない。大広間に、わしの声が虚しく木霊した。


「いったいどういうことなんじゃ? エルティナに兄弟がいると?」


「ウォルガング、考えるのは後じゃ。今は反撃のチャンス、これを逃せばお終いじゃ」


 確かにデルケットのいうとおりだ。今はこの勢いを失うわけにはいかない。大賢者デュリンクの言うとおり、ここは打って出るべきだ。


「分かっておる、者共、わしに続け!」


「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」






 わしは戦士たちを率いて城から打って出た。目指すは移動要塞。そんなわしらに合流するは東からの勇猛なる戦士、イズルヒの侍たちだ。


「馬上にて失礼いたす! 拙者はイズルヒのミカワ国より参った、ヒデヤス・トクガワ! 大殿の命により志を共にするイズルヒ中の武士を引き連れ馳せ参じた! どうか軍の末端に加えていただきたい!」


「ありがたい! ラングステン王国は、そなたらのおこないに必ずや報いることを約束しよう!」


 勇猛なる侍大将がわしの言葉に大きくうなずき、大声でときの声を上げた。


「者共! 必ずや鬼を討伐し、イズルヒの武士の力を示すのじゃ!」


 怒号のような雄叫びに否応無しに士気が上がる。まったくもって大した【少女】だ。オワリ国のサクラン姫といい、イズルヒには勇猛な女性が多くいるようだ。


 心強い援軍を得たわしらは最後の突撃を敢行した。たとえこの身が砕け散ろうとも、最後の時まで諦めはせぬ。


 わしは魔導光剣【ラングステン】を大きく振りかぶり、迫り来る鬼を切り捨てた。


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