529食目 夢~闇夜を切り裂いて~
ゴーレムギルドへ到着した俺とロストヒーローズの面々。やはりというか、当然というかクルーたちにビビられた。
「ぬわぁぁぁぁぁぁっ!? 骨が大挙してやってきた!」
「もうだめだぁ、おしまいだぁ」
説明に少しばかり苦労したが、エルティナだから仕方がない、というわけのわからない納得をされて、俺は少しばかり頭が超エキサイティングしている。どういうこと?
「ばっかもぉぉぉぉぉぉん!」
そして、追撃のお説教で俺のHPはゼロになる。もう止めて、ドクター・モモ! 珍獣のHPは、もうゼロよっ!
「まったく、無事だったからよかったものを。それになんじゃ、その骨の集団は?」
「ふきゅん、ロストヒーローズだ」
「名前を聞いているわけじゃないわい。もうええ、ほれ、リベンジャーじゃ」
流石はドクター・モモとドゥカンさんのコンビだ。あれほどの損傷を短時間で修復するとは。でも、所々が変わっているぞ? というか……全面改修じゃないですかやだー!
「これが最後じゃ、物資も底を尽いたでの」
「名付けてGD・L・リベンジャー」
そこには数々の強化パーツを取りつけられてゴツくなっていたリベンジャーの姿があった。その姿はまさにフルアーマー・リベンジャーだ。
「これが……ラスト・リベンジャー」
「そうじゃ、わしらの持ちうる技術を自重せずに全て詰め込んだ最後のGD」
「全高、百九十センチメートル。全長、二百七十センチメートル。本体重量、四百九十キログラム。魔導出力、23630MP。センサー有効範囲、四千四百キロメートルから八千キロメートル。装甲材質はネオダマスカス合金にニューライトフェザー複合材、それにヒヒイロカネ。そして、プロペラントタンク三基」
「武装は頭部・桃バルカン砲。桃力式・ヘビィマシンガン改、ハイパー・モモパイルバンカー改、メガモモキャノン二門、腹部ソニックモモスマッシャー、二十連装バックパックミサイル、ハイパーモモ魔導光剣四本、シールド内蔵式魔導カノン二丁、遠隔操作型砲門十二機……その他いろいろ。まさに動く武器庫じゃよ」
この二人は俺に何をさせたいんだぁ? まるで一人で敵を殲滅して来い、と言っているようなもんじゃないですかやだー。まさにレッツ・パーリ―!
「まさに決戦兵器だな」
俺は赤く輝く超武装したリベンジャーを身に纏う。とんでもない力を感じ、思わず身震いをしてしまった。なんという力だ、こんなものが存在していていいのか?
うおぉ、恐ろしいほどのデータにギミックだ。全部、憶えられるかしらん。
「そうじゃ、エルティナよ。こいつは短時間ではあるが空だって飛べるぞい」
「改良型の大型ランドセルのお陰じゃな」
マジか、二人の変態科学者は遂に行きつくところまで行ってしまったようだ。
「だが、それでも移動要塞にまでは飛んでゆけん。そこでじゃ……アレを使う」
「あれって……ウルジェの飛空艇じゃないか」
彼らが指差したのはウルジェの夢である白い小型の飛空艇だ。それはいまだに未完成であり、確かロケットのように飛ぶことしかできないはずである。
「はい~そのとおりです~」
間延びした声、それは小型飛空艇の生みの親ウルジェのものであった。彼女は小型の飛空艇から降りてきて俺に微笑んだ。
「この子は~、ロケットのようにしか飛べません~。でも~、上手くやれば~、移動要塞の居城に辿り着けますよ~?」
それはまさに片道切符の意味を示していた。それを実行すれば彼女の小型飛空艇は夢半ばで潰えてしまう。
「いいんですよ~また……造ればいいんです~」
「いいのかよ? 夢……なんだろ?」
「はい~、良い夢でした~」
そこからはもう、何も言えなくなった。彼女は微笑み小型飛空艇を、自分の子を誇らしげに見上げたのだ。
「エルティナ、時間が無い。移動要塞はもう間近に迫っておる。それに小型飛空艇に乗り込める人員は多くはない。そうじゃのう……おおよそ、おまえさんを含めて五人と言ったところか」
「L・リベンジャーが重過ぎるのが原因じゃ」
小声で言っても俺の高性能のお耳は拾っているぞ? まったく。
「でも、今から人を集めるったって……」
そこにタイミング良くやってきたのはリザードマンのリックと吸血鬼ブランナ、そしてフェアリーのケイオックであった。
「ドクター・モモ! 俺の新しい槍は!?」
「ふぇっふぇっふぇ、タイミングが良いのう。ほれっ」
ドクター・モモがリックに手渡したのは、なんと先がドリルになっている槍であった。
「うおっ!? なんじゃこりゃ!?」
「ドリルランスじゃ、それで全てを貫けい」
吸血鬼のブランナは重たい全身鎧を脱ぎ軽装になっていた。今は吸血鬼が最も力を発揮できる時間帯。決戦に臨むメンバーに不足はない。
「ブランナ、これから移動要塞に最後の突撃をする。付いてきてくれるか?」
「もちろんです、私はその言葉が聞きたかったのですから! このブランナ・クイン・ハーツ、どこまでもエル様に付き従う所存でございますわ!」
「ありがとう、ブランナ。リック、それにケイオックも頼めるか? もう時間が無い」
俺の要請に二人は二つ返事で応えた。
「でもいいのか? 俺より強いヤツは沢山いるじゃないか」
「ここで俺とリックが出会った事には何か意味があるんだ。俺はそう思う」
「そっか……そうだな。よろしく、リーダー!」
リックは新しく手にした得物ドリルランスを確かめ静かに目を閉じた。それは騎士の忠誠を誓う儀式。そして対象は俺。
「覚悟は決まった。後は行くのみ」
目を開けたリックは漢の顔になっていた。そんな彼の肩にケイオックはちょこんと座る。
「まぁ、戦力になるかどうかはわからねぇけど。俺もいないよりはマシかな?」
「そんな事はないさ。頼りにしてるよ、ケイオック」
「へへっ、俺も最後までお人好しだな。生きて帰ろうぜ」
「あぁ」
彼も随分と戦っていたのだろう、既にボロボロだった。でもその表情には諦めという文字はない。
その体格差ゆえに彼は常に劣等感を抱いてきた。しかし、諦めない心が耐える力を育ててきた。彼は決して諦めない、挫けない、俺たちの中で最も心が強いのは間違いなく彼だ。
「御屋形様、拙者も最後まで御供する所存でござる」
「ザイン……頼む」
「ははっ! このザイン・ヴォルガー、たとえ肉削がれ骨になろうとも、御屋形様に付き従いまする!」
忠臣ザイン・ヴォルガーはどんな時だって俺に付き従い苦難を共にした。最早、彼無しではままならないだろう。
突然、彼が俺の家臣になる、だなんて言いだした時には面食らったが、今ではザインを家臣にしたことを最良の決断だったと胸を張って言える。
「さ~行きますよ~? エンジンは~もう~温まっているんですから~」
最後のメンバーはもちろんウルジェだ。巨大な鉄球を携えて己の夢に乗り込む。
「さぁ、行ってこい、エルティナ!」
「ラスト・リベンジャーの能力を見せ付けてくるんじゃ!」
「おう! 任せておいてくれ!」
ドクター・モモとドゥカンさん、そしてゴーレムギルドのクルーたちに見送られ、俺は小型飛空艇に乗り込んだ。
操縦席にはウルジェが座っている。彼女は名残惜しそうにコンソールを撫でると、操縦桿を握りしめ前を向いた。
ゴーレムギルドの整備工場の天井が開き、小型飛空艇がリフトで上がってゆくではないか。そして同時にせり上がってくる滑走路! こんなものを作っているから物資が無くなったんじゃないですかねぇ?
俺の名推理が炸裂している間にも、小型飛空艇の発進は迫っていた。
『チャンスは一度限りじゃ! なんとしてでも移動要塞の背にある城まで辿り着けい!』
スピーカーからドクター・モモの声が聞こえてくる。そう、これが最後のチャンスだ。
正面には巨大な移動要塞の姿が肉眼で確認できる。あと一時間もすればフィリミシアに辿り着いてしまうことだろう。
「小型飛空艇【ルレイズ】号。発進~!」
強烈なGを感じた後、ウルジェの夢は空を飛ぶ。たった一度きりのフライトを。
向かうはアランが座する移動要塞の居城。なんとしても辿り着いてみせる。
俺たちは夜の闇を切り裂いて最後の決戦に臨んだ。




