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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
528/800

528食目 ロストヒーローズ

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


 ゴーレムギルドにて散々に痛めつけられたGD・X・リベンジャーの修理を受けていた俺は、どっかりとベンチに座り、不貞腐れながらも蜂蜜レモンをがぶ飲みしていた。やけ酒ならぬ、やけ蜂蜜レモンである。


「聞こえる……声が……聞こえる」


 そんな俺に届く声なき声。そうとしか表現できないか細い声に俺は気付いた。別に怒りのあまり、頭がどうにかなったわけではないので安心してほしい。


「いかがなされました? 御屋形様」


 俺を心配したのか刀の手入れを中断し、ザインが心配そうに顔を覗き込んできた。

 むむっ、随分と漢の顔になってきたじゃないか。って、そうじゃない、俺は何を考えているんだ。


「ふきゅん、声が聞こえるんだ。俺を呼ぶ声が」


「声でござりますか?」


 ザインは辺りを見回した。ここはGDを修理する他にも職人たちが集まり、戦士たちの武具の修理をおこなっている。したがって、いくらでも声が溢れているのだ。


「武器の修理、急いでくれ!」


「うほっ! バナナの支給急いで!」


「んなもんねぇよっ!?」


 やはり、俺の聞いた声はここから聞こえてはいない。確かめなくては、という衝動が俺を突き動かす。


「確かめなくちゃ」


「お、御屋形様っ!? 一人では危のうござりまする!」


 俺は立ち上がり駆け出した。それを見て慌てたザインが俺に付いてくる。


「こりゃ! エルティナ! GDも着ないで、どこへ行くんじゃ!?」


 ドクター・モモが叫んでいるが取り敢えず無視した。GDの修理には時間が掛かると言っていたし、暫くの間なら大丈夫だろう。帰って来たら、お説教をいただくだろうけど。






 俺は戦火が広がるフィリミシアを走る。幸いにも鬼に遭遇することはなかった。子供くらいしか通れない裏道を通ったから当然の結果だが。


「はぁはぁ……ここか?」


 声なき声が聞こえてくるのはスラム地区の裏通りだった。ここはなんの変哲もない、ただの道だ。何故、こんなところから声が……?

 幸いにも、ここには火の手は伸びていない。暫く辺りをきょろきょろして気が付いたことがあった。俺は一度、ここに来たことがある。


 そう、あれは俺がラングステンの聖女として魔族戦争のために協力者を探し、夜遅くにヒーラー協会を抜け出した時のこと。

 あの時はまだ、フィリミシアの町の構造がよく分かっていなかった時だ。


「……そう、私たちはその時に出会った」


 月の光を受けて美しく輝く銀色の髪をなびかせ、ヒュリティアが静かに声を掛けてきた。いつの間にここへ来たのだろうか? ザインも彼女の気配に気が付かなかったらしく、若干表情が硬くなっていた。 


「ヒーちゃん……」


 彼女との出会いは偶然だった。ヒーラー協会を抜け出したはいいが俺はスラム地区で迷子になってしまう。その時に出会ったのが黒エルフの少女ヒュリティアだ。


 彼女のファーストコンタクトは俺に対する【恐喝】であった。当時、黒エルフの子共が窃盗を繰り返している、との噂が広まったが……実は犯人は彼女だ。


 それも全ては大ケガをして命の危険に晒されていた彼女の姉、フォリティアさんのためだった。


 当時、既にいっきゅんのヒーラーだった俺は彼女を説得。犯罪行為はいけにぇ、俺がヒーちゃんだったら光のロードをカカッとバックステッポゥ! で駆け付けるだろうな、と諭した。


 まったく理解してもらえた様子はなかったが、俺の迫力に気圧された彼女は自分の事情を説明して自宅まで俺を案内した。

 そこには魔族兵から受けた毒矢によって、むっちりとした右太ももがほぼ腐れているフォリティアさんが横たわっていたのだ。


 無論、俺は問答無用で必殺の〈クリアランス〉と〈ヒール〉を炸裂させる。哀れにもフォリティアさんを蝕んでいた毒は『すいあせんでした』と謝罪し浄化された。


 腐れていた肉も俺のわけのわからない超パワーを誇る〈ヒール〉によって完治。めでたしめでたし、とあいなった。


 後にヒーちゃんの犯罪行為は、俺の権力を濫用しもみ消したのだが、王様に彼女の監督をするように仰せつかっている。


 ヒーちゃんの罪は負傷兵の治療従事で償い終わっているキングぅ! と主張するも、王様はにこにこしながら最後まで彼女の面倒を見ろ、と俺に告げたのだ。


 今にして思えば……友達を作っておけ、ということだったのだろう。当時、俺の周りには大人しかいなかったからな。


「……もう、随分と時間が過ぎてしまったわね」


「あぁ、あの時は俺たちも遥かにガキんちょだった」


 時が過ぎるのは早い。幼かった俺たちはすくすくと成長し、今では立派な戦士として鬼と戦っている。あの時はこんなことになる、だなんて思ってもみなかったが。


「ところで、ヒーちゃんはどうしてここに?」


「……うん、たぶん【ヒュリティア】として会えるのが最後になるから」


「……え?」


 俺には彼女が何を言っているのか分からなかった。ザインは俺とヒュリティアの会話に入るつもりはないらしい。少し離れた位置で黙して控えている。


「……エル。私、踊るわ」


 彼女は答えを求めてはいなかった。返事を返す暇もなくヒュリティアの踊りは始まったのだ。


 月の光に照らされヒュリティアは舞う。それは、とても美しく幻想的で儚かった。

 しかし、時に情熱的に激しく舞う。それは、まるで運命に抗うかのようなないだったのだ。


 やがて、彼女の舞は静かに終わる。そのエメラルドグリーンの瞳には薄っすらと涙。いったいどうしたというんだ?


「……私はエルに会えてよかった」


「ふきゅん、いったいどうしたんだ、ヒーちゃん」


 彼女は微笑んだ。大きな目に沢山の涙を湛えて。そして、ヒュリティアは大いなる言葉を口にした。


「【神魂】融合」


「えっ!?」


 ヒュリティアは確かに【しんこんゆうごう】と言った。その瞬間、激しい光と共に姿を消してしまったではないか!


「ヒーちゃん! ヒーちゃん! どこへ行ったんだ!? 返事をしてくれ!」


 どんなに叫ぼうとも彼女からの返事はなかった。虚しく俺の声が木霊するだけである。

 この事態に沈黙を保っていた忠臣ザインも慌てて周辺を捜索する。だが、彼女は見つかることはなかった。


「そんな……いったいどういうことなんだ!?」


「御屋形様……襲撃でござる! 急いでゴーレムギルドへ!」


 どうやら俺の声を聞き付けて鬼どもがやってきてしまったようだ。残念ながらGDを身に纏っていない俺は、ただのクソザコナメクジなので、ふきゅん、ふきゅん言いながら逃げ惑うしかない。ふぁっきゅん。


「か、数が多いでござる! ここは拙者に任せて御屋形様はお逃げくだされ!」


「バカ野郎! それは死亡フラグだって一番言われてっから!」


 多勢に無勢。雪希と炎楽、うずめは怪我の治療中で行動を共にしていない。ルドルフさんは、俺の抜けた穴を埋めるべく、最前線で奮闘中でここにはいない。

 なんということだ、ここまできて万事休すとは。


 ……大丈夫、貴女は死なない。


「っ!? ヒーちゃん!? ヒーちゃんなのか!? どこにいるんだ!」


 確かに聞こえたヒュリティアの声。辺りを見渡しても、見えるのはむっさい鬼どもの群れ。


 ……伏せて。


「ザイン! 伏せろ!」


 俺はヒュリティアの声に従う。今更、彼女を疑うことなんてない。何故なら、ヒュリティアは俺の親友だからだ。


「しょ、承知!」


 俺はザインに伏せさせ、その後に自身も伏せた。その直後、おびただしい数の【銀の矢】が鬼たちを貫き光の粒子へと変換させる。

 なんと、あれほどいた鬼たちが一瞬にして全滅してしまったのだ。圧倒的過ぎる。


「ヒーちゃん!?」


「御屋形様! アレを!」


 ザインが指差したのは空に浮かぶ月。その月に照らされて彼女はいた。その身に纏うのは神々しい白地に黄金の装飾が施された衣服。彼女の褐色の肌と相まって神秘性が増している。


「ふきゅん!? ヒーちゃんが空に浮かんでいる!」


 なんと、ヒュリティアは宙に浮いているではないか。まさか……かの有名な【ぶくんじつ】を会得していた……!?


 ……ミリタナスの証を掲げて。


 鈴の音のように脳内に直接響く彼女の声に従い、俺はミリタナスの証を掲げた。指輪は月の光に照らされて静かに輝き始める。


 ……【女神アルテミス】が承認します。失われし英雄たちよ、聖女エルティナの名の下に集いなさい。大いなる力の下に、黄泉還れ【ロストヒーローズ】。


「今……なんて言ったんだ!? ヒーちゃん、返事をしてくれ!」


 ……さようなら、エル。


「待て! 行くなっ! ヒーちゃん、ヒーちゃぁぁぁぁぁん!!」


 ヒュリティアは光となり、月に溶け込むように消え去った。儚い笑顔と共に。


 いったいどうなっているんだ。何故、彼女は消えた? 何故、彼女は……!?

 ダメだ、思考がエキサイトして、メルトダウンを推奨しちまっている! このままでは俺の脳がはち切れて死ぬ! くそっ、どうすればいいんだぁ……!


 ドクン!


 それは確かなる脈動、それは確かなる始まり。ミリタナスの証が眩く輝きを放つ。


「こ、これはいったい!?」


 教えてくれ、俺はあと何回驚けばいいんだ? ザインはさっきから白目痙攣をしてて応えてくれない。というか俺も白目痙攣で現実逃避したいです。


 やがて、ミリタナスの証から目を開けられないほどの光が放たれ出した。


「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」


「ぬわぁぁぁぁぁぁっ!? 目がっ、目がぁぁぁぁぁぁっ!?」


 もう俺は鳴くことしかできなかった。そして、ザインは目をやられた。これもうわっかんねぇなぁ? 誰か助けてっ!


 やがて光は収まり夜の暗闇を取り戻す。だが、これで終わりなわけはなかった。


 ぼこっ! ぼここっ!


「ふきゅ~ん!? 骸骨さんが大挙してポップしてきやがったぞ!?」


「今度は妖怪でござるか!?」


 なんと、地面からぽこじゃかとスケルトンが這い出てきたではないか。そのスケルトンたちは随分とくたびれた剣やら斧やらを掲げカタカタと骨を鳴らす。


 もう後から後から地面からつくしのごとく、ぴょこんと出てくる。無限湧きとか卑怯でしょ?

 こんなのに『デュエルしようぜ!』なんて言われたら、俺は一目散に『すたこらさっさだぜ!』を選択するだろうな。


「お、御屋形様っ!」


「……えっ!?」


 彼らは俺を確認した後、うやうやしく跪いたではないか。そう、彼らは俺に忠誠を示したのだ。そして、輝きを失わないミリタナスの証。そこには大いなる力を感じることができる。


 その中には……ヒュリティアの優しさも感じ取ることができたのだ。


「まさか、ヒーちゃんが?」


 気になることはごまんとある。だが、やるべきことは理解していた。確かにヒュリティアのことは気掛かりだ、だが俺は彼女が帰るべき場所を護らなくてはならない。


 そうだ、俺たちの愛する町を護らなくては。


「これがヒーちゃんの言っていた応援というのなら……」


 俺はチゲの右腕を掲げた。すると赤き右腕が輝き、空に巨大な炎の紋章を浮かび上がらせたではないか。チゲ、おまえも力を貸してくれるんだな。


「立ちあがれ! 失われし英雄たちよ! 聖女エルティナに、どうかその力を貸してほしい!」


 ぶっちゃけた話、俺は聖女ではないのだが、ミリタナスの聖女をほんの少し務めた実績があるので無問題とする。許してください、なんとかしますから。


 一斉に失われし英雄たちは立ち上がり、くたびれた武器を掲げた。その中の一体、何も武器を持っていない【ロストヒーロー】が俺の前に立ち手を差し出したではないか。

 俺にほとばしる確かな直感、迷うことなく彼に【ザ・セイヴァー】を手渡す。


「……!」


 彼は剣を引き抜き黄金の剣を掲げる。剣はその輝きを一切失わなかった。寧ろ、輝きは増すばかりだ。やはりこの人は……!


 声なき雄叫び。聞き覚えのある声だ。か細い中にも力強さがある。


 あ……そうか、俺が聞いていた声は彼らの声だったんだ!


「行こう、初代【救世騎士】!【ロストヒーローズ】よ! 再び、全てを喰らう者を討つために!」


 俺は失われし英雄【ロストヒーローズ】を引き連れ決戦に赴く。あ、その前にX・リベンジャーを回収しなくっちゃ。


 ふっきゅんきゅんきゅん、俺は決戦に赴くと言ったな? あれは嘘だ。


 俺はロストヒーローズを引き連れ、そそくさとゴーレムギルドへ向かうのであった。


「締まらぬでござるなぁ」


「さーせん」

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