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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
527/800

527食目 桃使い プルル・デュランダ

 ◆◆◆ トウミ ◆◆◆


「えっ……MSCももせんぱいようせい!?」


 第一リンクルームに突如としてMSCが発生した。現在ここはエルティナちゃん専用のソウルリンクルームになっているので、他の桃使いは第二リンクルーム以降で受け持ってくれているはずである。

 それなのに、どうして第一リンクルームに新たな桃使い誕生の報せが来るのだろうか?


「ど、どうしましょうか、トウヤ少佐!」


「どうするも、こうするもない! トウミ少尉、きみはなんのために桃先輩になった!?」


 トウヤさんの問い掛けに私は覚悟を決める。私は戦闘能力など皆無だし、桃仙術の素養もほぼない。生まれながらに桃人ももびとであり、桃力の量が多いというだけの存在だった。

 でも、それでも、私は誰かの役に立ちたい、と一念発起し桃先輩という職に就いたのだ。


「MSCの要請座標を確認。惑星カーンテヒル、座標1290、2289……フィリミシア! 要請者……プルル……デュランダっ!」


「なんだとっ!? 彼女は死んだはずではないのか!?」


 あぁ……なんということなんだろう。この局面で、絶体絶命のこの局面で、新たなる桃使いが誕生したのだ。しかも、それは死んだはずのプルルちゃんだ。


「トウミ少尉! 呆けてないで対応しなさい! 時間が無いのよ!」


「は、はいっ! こちら桃先輩のトウミ少尉です! 聞こえますか!?」


 マトシャ大尉に叱られ我に返る。呆けている場合じゃない。私はこのために桃先輩になった。そう、新しい桃使いを導くために、私は桃先輩となったんだ!


『トウミさん……久しぶり、と言えばいいのかな』


「うん……うん……! おかえり、プルルちゃん!」


 嬉し涙でモニターが歪む。いけない、こんなんじゃ彼女の桃先輩として失格だよ。

 

 袖で涙をを拭い気を引き締める。そして一通りの桃使いとしての覚悟、そして最後の決断を迫る。当然、彼女は桃使いとして生きることを決断した。


『おいでませ! 桃先輩!』


 流石にエルティナちゃんを間近で見ていただけあって飲み込みが早い。なんの苦も無く桃先輩の果実を召喚した。


『身・魂・融・合っ!』


 そして【正規】の身魂融合をおこなう。私も初めはエルティナちゃんの身魂融合の仕方を見て腹を抱えて笑ったものだ。本来はこうやって果実を光の粒子に砕き融合するものなのだ。

 通常は桃使いになることを決断した時点で、身魂融合の方法が自動的に理解できるようになっているのだが、エルティナちゃんは頑なに桃先輩の果実を食べ続けていた。


「ソウル・ヒュージョン・リンクシステム起動! シンクロ率……99・9%!?」


 なにそれっ!? 普通、新人の桃使いは高くても50~60%くらいが相場なのに、いきなり約100%だなんて考えられない! 規格外にもほどがある!

 でも、数値は安定しているし、一切システムにはエラー表示はない。これって、まさか……?


「ええい、今は考えている場合じゃない! システムオールグリーン! いけるよ、プルルちゃん!」


『うん、頼むよ、トウミさん!』


 彼女の正面には、気持ち悪い枯れ枝のような老人が憎々し気にこちらを睨み付けていた。彼こそは鬼の四天王、金熊童子。


「油断するな。現身とはいえ、鬼の四天王に変わりはない。ましてやプルルは桃使いとして覚醒したばかりだ。しっかりサポートしてやれ」


「は、はい!」


 私はトウヤさんのアドバイス受けながらプルルちゃんをサポートする。ここに、私の本格的な桃先輩としての活動が始まったのである。



 ◆◆◆ プルル ◆◆◆


 身体が嘘のように軽い、魔力が後から後から溢れてくる。苦しみなどありはしない、身体が魔力を完全に包み込んでくれている。

 それだけじゃない、余剰魔力を肉体の強化へ自動的に変換しているんだ。これが神の肉体……なんて凄い能力なんだろうか。


 そして感じる新たなる力……桃力! これが食いしん坊が感じていた温かさなんだ!


『プルルちゃん、桃使いとして必要な知識をダウンロードするから少しの間辛抱してね』


『うん、了解だよ』


 そしてトウミさんによって、膨大な量の桃使いの知識が僕の脳内に転送されてくる。その中には過去の桃使いたちの記録も、そして食いしん坊の記録もあった。

 あまりにも膨大な情報量に脳が悲鳴をあげる。でも……僕は耐える。このくらいで根を上げることなど許されない。

 先輩桃使いたちは、これ以上の苦痛、悲しみをこらえて、今も尚、鬼たちと戦い続けているのだから。


『ダウンロード完了! さぁ、プルルちゃん、私たちの桃使いとしての初陣ですよ!』


『うん、行こう! トウミさん! 行くよ、イシヅカ!』


『マイ・ウー』


 僕はGDデュランダの生きているブースターを吹かして金熊童子へ突撃した。同時に魔導光剣を引き抜き光の刃を形成する。


「桃力よ! 僕に闇を払う刃をっ!」


 僕の呼び掛けに応えた魔導光剣が形成したのはピンク色の刃。桃力の刃だ。


「見習い桃使いごときに、鬼の四天王が後れを取るかっ! 死ねいっ!」


 金熊童子が再び全身から魔爪を伸ばして攻撃してきた。今度は僕のみに標準を絞ったらしい。


「見える……攻撃が……見えるっ!」


「なんじゃとぉぉぉぉぉぉっ!?」


 確かに、僕は桃使いとしては未熟、との評価になるだろう。でも、それには今まで鬼と戦ってきた戦士としての僕の評価は加味されていない。

 今の僕は、かつての僕と、桃使いの僕が融合した、新しいプルル・デュランダなんだ。


 迫り来る魔爪。なるほど、とんでもない量だよ。それに速い。でも……それだけだ。


「何故じゃ、何故、当たらぬぅぅぅぅぅぅっ!」


 当然だ、僕は一人じゃない。僕の至らないところはトウミさん、そしてイシヅカが補ってくれている。死角から攻撃したって無駄だよ。僕たちには見えている。


「攻撃範囲内! イシヅカ、フルブースト!」


『マイ・ウー!』


 残ったブースターを最大出力で吹かす。暴力的な加速が生まれ、役目を果たしたブースターたちは黒煙を吐き出し静かな眠りに就いた。ありがとう、がんばってくれたね。


 さぁ、これが最初で最後のチャンスだ! ものにして見せる!


『魔導光剣、最大出力! 桃力収束! 行って! プルルちゃん!!』


 手にする魔導光剣が悲鳴をあげる。刀身発生口が熱で溶解し始めていた。

 それでも魔導光剣は輝ける刃を必死に繋ぎ止める。僕らの期待に応えんがために。だから僕も魔導光剣に応える。


 一緒に届けよう、金熊童子に必殺の一撃を!


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 僕は悲鳴に近い雄叫びを上げて魔導光剣を振り上げる。うなりを上げて、魔導光剣の刀身が更に輝きを増した。


「届けっ! 必殺の一撃っ!」


「させるかぁぁぁぁっ! 鬼戦技〈野駄血のだち〉!」


 金熊童子は両手を合わせ、一本の巨大な魔爪を作り上げ僕を迎撃した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「くぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ぶつかり合う陰と陽の刃。互いを拒絶し合う刃は、空を引き裂き大地を焦がす。しかし、永遠とも思える一瞬は、やがて片方の刃が切断され終決を見た。


「はぁっ、はあっ……!」


 僕の全てを籠めた一撃は、魔爪ごと金熊童子を切り裂くことに成功した。力無く大地に転がる二つの金熊童子。


「……天晴、見事っ!」


 両断された彼から放たれたのは恨み言ではなく、なんと称賛の声。


「ひっひっひ、楽しかったぞ。また、会い見えるその時まで、十分に強くなるがいい。新しき桃使いよ」


 そう言い残して金熊童子の身体はボロボロの土塊になり、大地へと還っていった。


「金熊童子……!」


 僕は予感した。近い将来、必ず金熊童子と相対することになると。でも今は、フィリミシアをなんとかしなくては!


 僕は大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐きだした。全身の力が抜けてゆく感覚に襲われる。


『お疲れさまです! 鬼の四天王を退治するとは本当に凄いよ! プルルちゃん!』


『ありがとう、トウミさん。これもトウミさんとイシヅカがサポートしてくれたお陰さ』


『マイ・ウー』


 僕は勝利の喜びを分かち合った。でも、まだ戦いは続いている。


「でも、GDデュランダはもう……」


 GDデュランダはもう戦えないだろう。損傷が激し過ぎる。可愛そうだけど、この子はここでお別れだ。僕はGDを解除し横たわらせた。


「あ……」


 GDデュランダに刻まれた多くの傷跡……今まで僕を護ってくれた証だ。一度も悲鳴を上げず僕を支え続けてくれた僕の相棒……ごめんね、僕がもっと上手くやれたら、こんな目に遭わせずに済んだのに。


「ありがとう、デュランダ。この戦いが終わったら、必ず迎えに来るからね」


 僕はGDデュランダにそう約束して立ちあがった。振り向けば、そこにはリンダとユウユウ、桃師匠とメルシェ委員長の笑顔。


「行こう。ここからは僕らの時間だ」


「えぇ、今まで好き勝手にやってくれたお礼をしないとね?」


「えへへ、大丈夫! 立ち向かってくる敵は、全て私が破壊してあげる!」


 さぁ、反撃の開始だ。もう奪われる時間は過ぎた、ここからは奪い返す時間さ!


 新しく生まれた、桃使いと鬼。僕らは新しい関係を築きし者。手と手を取り合い、大切なもののために僕ら桃使いと鬼たちは駆け出した。

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