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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
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51食目 異形の存在

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


 おいぃ、ダナン君、さっさと出てきてどうぞ? 容赦なく額に肉と書いてしんぜよう。


 現在、俺たちは行方知れずのダナンを求めて館の下へ下へと移動中だ。

 桃先輩の探知能力とライオットの野生の勘が、ダナンが地下にいるという認識を示したのである。

 ライオットの勘はともかく、桃先輩の結果は信用できるであろう。


 時折、館が激しく揺れる時がある。誰かが戦闘をおこなっているか、あるいはゾンビたちがハッスルしながらダンスしている可能性も否定できない。


『そんなわけなかろう』


『ですよね~』


 桃先輩の的確なツッコミを頂戴した俺は気を引き締めて相変わらず薄暗い道を進む。

 といっても、俺には種族特性の【暗視能力ナイトビジョン】があるので関係ないんだけどな。


「近いな。たぶん、ダナンの気配だ。それにもう一つは……」


 ライオットはダナンの気配を感じ取ったらしい。続けて桃先輩の指示が飛ぶ。


「ああ、俺も察知した。よし、戦闘準備だ。そこのドアを開ければ鉢合せるぞ」


 朽ちかけたドアの向こうで異様な気配を感じる。そのことを一番敏感に感じ取ったライオットはドアノブに手を掛けることなく、ドアを蹴り破った。


 蹴り破った先はどうやら中庭のようだ。花壇に咲く花は人の手入れがなされていないようで、野生の逞しさが強調されている。それでも花は花なので綺麗であった。


 いやいや、今は花どころじゃなかった。集中力が切れてきているな。


「ダナン! それに、アルのおっさん先生!?」


 そこには今にも倒れそうなダナンと、彼を支えながら走るアルのおっさん先生の姿があったではないか。

 ダナンはともかく、何故アルのおっさん先生がここにいるのだろうか?


 いや、今はそんな事はどうでもいいか。とにもかくにも、ダナンの額に【肉】と書かねばっ!


『バカ者、そんな事は後にしろ。治癒魔法の用意』

『冗談じゃないか、ぷんすこ。もう準備は終わっているんだぜ』


 ダナンの方は軽傷だが、アルのおっさん先生の方は結構やられている。見た感じ右腕の骨折と打撲多数。出血は微量のようだ。

 いずれも致命傷ではないようだが、重傷レベルといっていい。早急に治療開始だ。


「アルのおっさん先生! こっちだ!」

「治療は後回しだ! ここから脱出することを優先しろ!」


 アルのおっさん先生は珍しく焦っているように思える。彼をここまで追い詰める何かが存在している、という事であろうか。


「来る」


 ライオットが構えを取った。彼からはこれまでにない緊張感が感じられる。それはガルンドラゴンと対峙していた時に似ていた。


 やがてそれは姿を現した。遠目には黒いトレンチコートを身に纏う大男であるが、顔が残念過ぎた。

 剥き出しの歯茎に眼球の片方が潰れている。そしておびただしい手術痕。おおよそ、まともな人間とは思えない。


 ヤツを簡潔に言い表すならば、【きもハゲ】であろうか。きもいにハゲを組み合わせた高度な造語である。これは流行るっ!


「ふきゅん! きもハゲが現れなすったぞぉ!」

「ヴォォォォォォォォォォォッ!」

「あぁっ! きもハゲさんが怒った!? ダナン、謝って!」

「なんで俺が謝らないといけないんだよ!?」

「いいから、アルフォンス殿の治療をおこなえ」


 あぁ、もう、滅茶苦茶だよ。どうしてくれるのこれ?


 きもハゲは俺に向かって突撃してきた。的確にヒーラーである俺を狙うとか……おまえ、ヒーラーを殺すだけの化け物かよぉ!


 内心はびくびくしながらもアルのおっさん先生の治療に入る。既に白目痙攣状態であるが気にするなっ!


「させねぇよっ!」


 ライオットが間に割って入り、きもハゲ黒服の進行を阻止した。この事により、一瞬だが黒服の動きが止まる。

 そこを狙いすましたようにリンダが形容しがたい巨大な何かを振り上げ黒服に一撃を喰らわせた。


 吹っ飛ぶ黒服。リンダの倍以上はあろうかという巨体が吹っ飛んだのである。


「しゃぁ、おらっ!」


 どうやら、リンダは鈍器系の武器を持つと性格がヒャッハーになるらしい。怖いなぁ。


「チャンス! せいっ!」


 ライオットは倒れ伏した黒服に容赦なく追撃の踏み付けをおこなう。

 これに対し黒服は防御せず。ライオットはお構いなしに連続で蹴りを入れる。狙いは頭部だ。


 常人であれば脳が揺らされて視界はぐちゃぐちゃ、そうでなくともライオットの蹴りは強烈だ。そんなものを何発も受ければ視界が歪む前に意識が飛ぶ。あるいは死だ。


 だが、黒服はなんということもない、といわんばかりに平然と立ち上がったではないか。


「なっ!?」

「ヴォォォォォォォォッ!」


 そして咆哮、突撃。狙うはあくまで俺。


 バカ野郎、こっちにくんじゃねぇ! まだアルのおっさん先生の治療中だっつってんだるるぉ!? 爆破処理すんぞ、おめぇ!


「このっ! ぶっ壊れろ!」


 間に割って入るのはリンダだ。手にした何かの塊を黒服に向かってフルスイングする。

 しかし、今度の黒服は冷静であった。迫り来る何かの塊を片腕でガードし、ふっ飛ばされないように踏ん張ったのである。


「こいつっ! きゃあっ!?」


 一瞬の油断を突かれたリンダは、黒服の薙ぎ払いを受けて吹き飛び地面に叩き付けられた。


 拙い、俺と黒服の間に阻むものが何もない。もう少しで治療が終わるというのに。


「おい、化け物! こっちを見ろ!」


 声の方を見れば、ダナンが銅像の上に立ち黒服を挑発しているではないか。

 その声に黒服は反応し視線を俺から逸らした。この一瞬のチャンスを無駄にするわけにはいかない。

 よって、全力でアルのおっさん先生を癒して差し上げるのだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ! こっちに来るなっ!」

「囮ご苦労! ゆっくりしていってね!」

「助けろっ!」


 もう少しがんばれ、ダナン。もう少しで……うし、治療完了!


「上出来だ、エルティナ! 〈アイスチェイン〉!」


 既に魔法を構築していたであろう凍れる鎖は、ダナンの頭を潰そうと振り上げた黒服の腕を絡め取った。


「リンダ、合わせろっ!」

「ぺっ、やってくれちゃって……ぶっ壊してやる!」


 その隙を突いてライオットとリンダが同時に仕掛けた。流石に、この同時攻撃には耐えられなかった黒服は吹っ飛び、手入れがなされていない花壇に激突し花を撒き散らす。


「妙だな、何故、後輩ばかりを狙うのか」

「それなんだぜ。俺、あいつに恨まれるようなことをしましたかねぇ?」


 俺の呟きに応えたのは肩で息をするダナンだ。


「きもハゲ」

「それか」


 その程度で怒るとは度量の狭いヤツだ。絶対にアイツ女にもてないヤツだぞ。


「ヴォォォォォォォッ!」


 黒服が三度立ち上がった。黒いトレンチコートの所々が破れている。一張羅を傷物にされて怒ったのであろうか。

 そのように考察していると黒服に変化が起こる。なんと服の破れた場所からは紫色のうねうねした肉の蔓が伸びてきたではないか。きめぇ。


「ヤヴェ! ヤツが【きもハゲ触手マスター】にランクアップしたぞぉ!」

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

「めっちゃ怒ってる! 何がいけなかったのか、これが分からない!」

「それはマジでいってるのか、おまえ!?」


 ダナンのツッコミはスルーだ。そんな事よりもあの紫触手をなんとかしないと。

 天下無敵の触手様を出されては、こちらも〈ファイアーボール〉を使わざるを得ない!


『間違っても使うなよ。味方が粉々になる』

『あぁ、もどかしいんだぜ』


 攻撃を封じられた俺は「ふきゅん」と鳴くより他になかった。

 

 そんな俺に対しても黒服は容赦をしない。腕に生えた触手を振り上げ、俺に突撃してきたではないか。

 そんなぶっとい触手に【いや~ん】なことをされるわけにはいかない。


「魔法障壁で防げるかな?」

「お勧めはしない」


 桃先輩の通告で俺の諦めは加速する。だが、俺には守護者が付いていたのだ。


 チョキンッ!


「ヴォッ!?」


 黒服は触手を切られ情けない声を上げて怯んだ。その触手を意図も容易く切断したのは巨大なヤドカリのヤドカリ君だ。

 その自慢のハサミで容赦なく黒服の触手を切断してゆく。その度に黒服は小さく呻いた。


 そして、股間を抑えるアルのおっさん先生とダナン、そしてライオット。

 気持ちは分かるが、そう言うのは戦闘後にしてどうぞ。


「えへへ、その【うねうね】さえなければこっちのものよ。くっらえ~!」


 リンダは触手を切られて情けない姿になった黒服に向かって歪な塊を振り下ろした。

 抵抗するつもりがなかったのか、それともできなかったかは知らないが、黒服は呆気なく巨大で歪な塊に押し潰されたのである。


「やったか!?」

「おいばかやめろ、フラグを立てんじゃねぇ」


 ライオットの発言はあんまりであった。そしてお約束は果たされる。


 黒服の肉体が歪に膨張してゆき、遂には黒いトレンチコートを引き裂く。異様に発達した筋肉が姿を現し、彼、あるいは彼女は人の姿を捨て去った。


 最早、元の面影など微塵もない。それは異形の黒い犬とでも言えばいいのであろうか。犬と違う点は、体のいたるところに鋭い角だか刃だかが生えていることであろう。

 あんな物に貫かれたり、切り裂かれようものなら待つのは死あるのみだ。


 ヤツは四つある濁った瞳で獲物を探した。そして、標的を俺に定める。


「ふきゅん! 相も変わらず馬鹿の一つ覚えかよ!」

「わんわん!」

「鳴き方、可愛いな、おい!」


 だが、その戦闘能力は凶悪の一言だ。至る場所に生えた角は攻撃を防ぐ盾にも、相手を貫く槍にもなるのだ。特に拳で戦うライオットは相性が悪い。


 また、動きも俊敏で重量のある鈍器を得物にするリンダはこういった相手は苦手としている。

 尚、ダナンは戦力外なのでどうでもいい。


 現在、主力を張れるのはアルのおっさん先生とヤドカリ君だけだ。

 アルのおっさん先生の攻撃魔法で黒犬の動きを止めてからのヤドカリ君の攻撃が効果的であり、というか、それ以外ではダメージを与えられていない。


 どうにかして黒犬の動きを止めればライオットはともかく、リンダも攻撃に加われるのに。


 俺は無い頭をフル回転させ、自分にできることを模索した。

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