505食目 合流を目指して
無数に散乱する新型魔導装甲の残骸、そして物言わぬ兵士たち。壮絶な戦いの名残たちが俺の心を掻き立てる。急がなくては、という心だけが先走り周りが見えなくなる。
これで、いつも桃先輩に怒られているというのに、まったく成長しないのは俺が絶滅危惧種だからだろう。すなわち、珍獣は学ばない。
『分かっているならやれ』
「さーせん」
その時、遠くから爆発音が聞こえてきた。きっと、そこにタカアキたちがいるに違いない。俺の意思に応えるかのようにブースターが唸りをあげ、ローラーダッシュの速度が加速する。そして俺は潰れ饅頭と化した。
ブースターさん、許して! 珍獣、壊れちゃ~う!
「ちゅん! ちゅん!」
そんな中で、うずめが警戒を促す鳴き声を上げる。目をよく凝らせば前方に鬼の集団、その先頭にいる大柄な男は見覚えがある。否、忘れるはずがない。
「ベルカス!」
俺たちのクラスメイト、クラーク・アクトを殺害した憎き仇である。もし俺が桃使いであったなら、ヤツに抱く憎しみを桃力によって『めっ』と怒られてしまった事であろう。
だが、今の俺はただの戦士だ。よって、ヤツに言うことはただ一つ。
「やろう、ぶっころしてやらぁぁぁぁぁぁ!」
俺はヘビィマシンガンを構え、発射モードを単発から連射へと移行し、問答無用で鬼どもに叩き込んでやった。
今の俺に容赦の二文字はない。色々とぶちまけて輪廻に帰ってね!
「おっと、こっちに活きの良い獲物がいるじゃねぇか。退屈な狩りになるかと思えば、なかなかどうして」
ベルカスは巨大な棍棒を巧みに操り、光の弾丸を防いでしまったではないか。後方に位置する新型魔導装甲兵たちもシールドを用いて弾丸を防いでいる。やはり、ただの図体がデカいだけの鬼ではないらしい。
「ベルカスっ! クラークの仇っ!」
ベルカスを狙う者は俺だけではなかった。クラークの親友であるリザードマンのリックもまた、この機会を窺っていたのだろう。彼の槍が桃力の加護を得て桃色の粒子に包まれる。そして突撃、片方にはクラークの盾を装備している。
しかしながら、その突撃はあまりにも無謀。事実、後ろに控えていた魔導装甲兵が射撃の構えを取り、魔導キャノンを一斉に発射したではないか。
頭に血が上っているのか、リックは無数に飛び交う破壊光線にも恐れを見せず、足を止めることはなかった。仮にあそこで足を止めていれば、ハチの巣どころか原形も留めてはいなかっただろう。
無茶をするものだ、俺の肝が「ふきゅん」と鳴いて縮こまってしまったではないか。
「このっ!」
リックの渾身の一撃がベルカスの喉に向けて放たれた。しかしベルカス、これをこん棒で軽く防ぐ。この男はパワーだけではない、やはり確かな技術を持ち合わせている。
しかし、鬼になるだけでCランク冒険者がここまで強くなるというのか。まったくもって、鬼とは度し難い存在だ。
「あぁ? 誰だ、おまえは? まぁ、いい……随分と活きの良い獲物だな? 気に入った、殺すのは最後にしてやる」
ベルカスのその言葉はリックを激昂させるに十分過ぎた。鍔迫り合いを解き、高速で槍をベルカスに突き入れる。
「〈百槍乱陣〉! うららららららららぁっ!」
リックの編み出した必殺技〈百槍乱陣〉がベルカスに放たれる。この技はとにかく手数が命であり、一撃一撃の威力はそれほどでもない。確かに全ての攻撃が命中すれば、総合的なダメージはかなりのものになるだろう。
ただ、俺はこの技のデメリット部分が気になっていた。この技の特性上、発動中は移動ができない。足を止めての打ち合いと同じなのだ。
俺がこの技を編み出したとしても、使う対象は『お肉』になるだろう。きっとお肉の筋を断つのに役に立ってくれるはずだ。その後は生姜醤油に漬しておき、十分に味が沁みた後に焼き上げるのだ。付け合わせはもちろん千切りのキャベツ、そしてポテトサラダ。ほっかほかのご飯に味噌汁を添えて完成。
あぁ、堪らないんじゃあ。
「はっはっは、面白い芸だな。そらそら、もっと打って来い」
「貴様っ! 俺たちのことを覚えていないのか!」
リックの言葉に首を傾げるベルカスは暫し彼との攻防を続けた後、ボリボリと頭を掻いてこう告げた。
「わりぃ、憶えてねぇわ」
「なっ!? ぐはっ!」
一瞬、呆気に取られて攻撃が中断したリックの隙を、ベルカスは見逃さなかった。
リックのみぞおち目掛けてこん棒が突き入れられ、五メートルは離れていよう俺たちの場所まで吹っ飛ばされたのである。
「俺を憎むヤツなんて星の数だけいらぁな、それに雑魚の顔なんざ憶えたくても憶えられねぇ。それに……憶えても、すぐ殺しちまうしなぁ?」
「ち、ちくしょう」
リックが腹を押さえ吐血した、おびただしい量の吐血だ。これは内臓がやられている可能性がある。それに気付いた、たぬ子がすぐさまリックの治療にあたる。
「やってくれたな、ベルカス!」
「んん? おまえは……あぁ、搾りカスじゃねぇか。よく生きてたなぁ?」
どうやら、俺のことは憶えていたようだ、あまり嬉しくはないが。
「鬼を全て退治するまでは死ぬわけにはいかないんだ! ベルカス! ここでおまえを退治してやる!」
「くっくっく! 面白いジョークだ。おまえに、それができるのか?」
ベルカスが陰の力を解放し始めた。ヤツと初めて交戦した時とは別次元の力に警戒を強くする。だが、ヤツは致命的な勘違いをしている。ゆえに俺は告げた。
「勘違いするな! 俺は戦わん! 戦うのは俺の仲間達だぁぁぁぁぁっ!」
ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!
俺は奇妙なポーズを決めて、堂々とそう告げた。間違ってはいない。
「……えっ?」
俺の言葉に情報の処理が追いつかないのか、ベルカスは鼻水を垂らして間抜けな顔をした。
「じゃ、俺はタカアキと合流する系のクエストがあるから」
そう告げて、俺はさっさとベルカスの脇をすり抜けた。実はこれ、結構な賭けである。
ベルカスは言葉どおり、クラスメイトたちに任せればいいだろう。あの時とは違い、ブルトンを始めとする超強力な武闘派が揃っているのだから。
特に舌なめずりして、もの欲しそうにしているユウユウ閣下の欲求を満たして差し上げてくれ。
「あ~っ!?」
破壊音、そして悲鳴。惨劇は始まったばかりだ。ベルカスの悲鳴を華麗にスルーした俺は、引き続きタカアキたちとの合流を目指す。
「もう、無茶をするよ、食いしん坊は」
「それほどでもない」
「褒めてねぇよ」
「……まぁ、エルならやると思っていたわ」
俺についてきたのはプルルとライオット、そしてヒュリティアだ。ヒュリティアはGDを纏えないので戦力的にはきつくなりつつあった。そんな彼女の苦悩する姿を見て、ブラックスターズのお姉様方はとんでもない物を発明なされたのである。
現在、ヒュリティアはGDと同型のゴツいランドセルを背負っている。これ実はブースターもしっかり装備されているのだ。そしてランドセルの中に詰まっているのは、ほぼ魔力。しかも、ランドセルの両脇には魔力入りのプロペラントタンクが二対。
加えて、このランドセルにはホースのような物が付いており、その先端をGDに接続すると魔力を供給できる仕組みになっている。この事から、彼女は生きた魔力補給装置と化していたのである。
また、このホースを魔導ライフルに接続すると、あら不思議。魔導器具を扱えないヒュリティアが魔導器具を起動できるではありませんか。まさに発想の勝利、魔力を出せないのであれば別から出せばいい、という屁理屈にも似た理論。
ただし、このランドセル、重量が約五十キログラムもある。貧弱一般市民では背負って動き続けるなど不可能に近い。身体能力に優れる黒エルフだからこそ、装備しての戦闘に耐えられるのだ。
この装置があれば、いずれは疑似的なGDが制作されるかもしれない。楽しみである。
「見えた! あそこにタカアキたちがいるに違いない!」
闇夜を照らす真っ赤な炎、何を燃やしているかは知りたくもない。黒煙立ち昇る激戦地へ俺たちは踏み込んだ。
◆ GD-E-03・X・リベンジャー ◆
エルティナの異常な反応速度の成長具合についてこれなくなったGD・リベンジャーを改修した機体。
新システム『ムーンライトシステム』導入し、新たにサブパイロットとなった輝夜の桃力を使用して機体の反応限界を大幅に向上させた。
ムーンライトシステムによって常に桃力に覆われている状態であり、その力を推力や馬力に変換できる。これは標準的な桃使いの能力に匹敵する能力である。
更に空中での姿勢制御を可能とするために追加装甲を取り付け各部にスラスターを増設。これによって機体の重量が増加するも、大型ランドセルに『X』の形をした『Xブースター』を取り付け、強大な加速力をもって自重増加による機動性の低下を相殺した。ただし、加減を間違えて加速するとパイロットの安全は保障できない。
改修の際にヘビィマシンガンとパイルバンカーも手が加えられた。
メインパイロットはエルティナ・ランフォーリ・エティル。
サブパイロットはムセル。トウヤ少佐。輝夜。
全高・百三十センチメートル。
本体重量・百二十六キログラム。
魔導出力・2330MP。
センサー有効範囲三千八百キロメートル~六千キロメートル。
装甲材質・ネオダマスカス合金。ライトフェザー複合材。
武装・頭部・桃バルカン砲。
桃力式・ヘビィマシンガン改。
ハイパー・モモパイルバンカー改。




