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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
504/800

504食目 黒い風

 制御スラスターが起動し空中での姿勢制御も完璧だ。空を飛んでいる間に各スラスターを起動させて、どのような効果があるかを把握、後はぶっつけでおこなう。俺の足りない部分は桃先輩、ムセル、輝夜が補ってくれる。俺は独りではないのだ。


 空中にて、ヘビィマシンガンを構え、新型魔導装甲兵に向けて発砲する。放たれたのは鉛玉ではなく、桃色に輝く閃光だ。どうやらドクター・モモはヘビィマシンガンにも改良を加えたらしい。


 ごっ……ドゥンっ!


 凄まじい速度で放たれた桃色の閃光は吸い込まれるように魔導装甲兵に命中、桃色の爆発が起こる。後に残るは主を失った魔導装甲のみであった。


『なんという威力だ、鬼のみが一瞬にして退治されるとは』


 このあまりの威力に桃先輩が驚嘆の声を上げる。鬼が纏う新型の魔導装甲兵は、間違いなく性能が向上しているのだろう。しかし、肝心の桃力に対しては、それほどの防御力の向上は見受けられない。


「いや……違うか、GD・X・リベンジャーの桃力が大幅に高まっているんだ」


 そう、リベンジャーは輝夜の力を得て、他のGDを圧倒する桃力を手に入れている。その威力は先ほどの攻撃で確認済み、そのための武器強化だったのだろう。


 姿勢制御スラスターを吹かして華麗に着地を決める。恐ろしいほど思うように動けることに感動が津波のごとく押し寄せるも、今は『わっしょい、わっしょい』とはしゃぐわけにはいかない。今尚、鬼どもが恐怖を振り撒く大地の中心に、俺は単独で降り立ったのだから。


「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 異形種が大きく口を開き、俺を噛み砕かんと飛びかかってきた。飛び掛かってきた異形種は俺の真後ろ、俺の後ろには目がないので気付くはずもない。

 だが……俺は気付いた。それは直感でもなんでもない、そのイメージが頭の中に映し出されているのだ。

 きっと輝夜がいろいろと『ごにょごにょ』してくれているのだろう。ありがたや、ありがたや。


『エルティナ、後ろだ!』


「わかってる!」


 俺は『サイドステッポゥ!』をおこない異形種の飛びつきを回避、ヤツの着地後の硬直を狙い左腕部のパイルバンカーを異形種のがら空きの脇腹に叩き込む。


 どかっ! バグンッ!


 どデカい破裂音の後に短縮化されたパイルが異形種に打ち出された。パイルの長さはおよそ七十センチメートル程度であろうか、これなら振り回してもシーマの後頭部を強打することもないだろう。

 パイルバンカーの一撃を受けた異形種は悲鳴を上げることなく光の粒へ身を解し、冷たい輝きを放つ月へと昇ってゆく。


「……いける! 新型魔導装甲や異形種が、なんぼのもんじゃい!」


『調子に乗るな、相手は数で圧してくる。個々が弱くとも集団になれば脅威に変じるぞ』


「ふきゅん、分かってるんだぜ。ここを突破してタカアキたちと合流する」


『レディ』


 脚部のローラーダッシュを起動する。大型化したランドセルのブースターも相まって恐ろしいほどの加速力だ。


 おごごごご……! つ、潰れる! マジに潰れるっ!


『前方、鬼、十八! 一人では限度があるぞ!』


「それでも前に進まないと、いつまでたっても合流なんかできやしないんだぜ!」


 立ちはだかるは鬼の群れ、彼らは自らを壁として俺の前進を阻む。確かにヘビィマシンガンは格別の威力を誇るが、物量作戦の前ではその性能も活かしきれない。

 徐々に圧され始めた時、一筋の閃光が鬼の壁を薙ぎ払った。その閃光が飛来したのは遥か上空、月が浮かぶ暗闇の空からだ。


「食いしん坊、突出し過ぎだよ!」


「プルル!」


 ブースターを吹かしながら、ゆっくりと地上に降り立つ彼女の手には大型の銃の姿。見た目はスナイパーライフルのように見えるが、俺の直感がこれはスナイパーライフルではないと告げていた。


「これはドクター・モモが開発したバスター・モモ・ライフルさ。威力はさっき見せたとおり。さぁ、これで道を切り開くよ!」


 とてつもなくゴツイ大砲とも呼べる銃は、彼女のGDデュランダのランドセルとパイプで繋がっていた。つまり、GDの魔力と桃力を直接供給しているということだ。撃てる数には限度があると見ていいだろう。


 プルルは腰を落としバスター・モモ・ライフルを両手で構える。低い唸り声を上げる銃の口に桃色の粒子が蓄えられ、やがて解き放たれた。その反動を抑えるべくGDデュランダがブースターを吹かす。

 その大出力もあってか、まるで天使の翼のような炎が噴き出ていた。後ろに立っていたら間違いなく上手に焼かれてしまう。気を付けよう。


「派手にやるじゃねぇか!」


「これから毎日、鬼を焼こうぜ!」


 可哀想だからやめたげて! と思わずツッコミを入れそうになるが堪える。このような物騒なことを言ったのはGDバウニーを身に纏うウサギっ娘のマフティと、相変わらずうねうねと蠢くGDワッパを身に纏うゴードンだ。

 巨大なGDル・ブルを身に纏うブルトンは、着地の際に大人しく数匹の鬼を押し潰していた。何が大人しいかは俺も分からない、不思議な感覚に陥ったことは確かだ。よし、考えるのを止めよう!


 次々と皆がカタパルトを使用して飛び出してくる。だが、やはり生身で飛び出してくる連中はシュールであった。特にアルアなどはその極致と言えよう。


「あはは! たのしえいあ! もういっかかいすれる! あははは!」


「てけり・り~!」


 とてててて……。


「マジで戻っていった!」


 数分後、再び楽しそうに宙に向かって射出される彼女の姿があった。それ、そういうアトラクションじゃないから!


 アルアの突拍子もない行動、というアクシデントがあったが、戦闘は無事に再開された。律儀に待っていてくれた鬼たちではあるが、戦いが再開してしまえば不倶戴天の敵である。容赦などは一切しない。


 先ほどは奇行を見せてくれたアルアではあったが、いざ戦闘になると驚異的な戦闘能力を見せてくれる。実際に戦うのはもちろん彼女の僕たるショゴスであるのだが。


「て~け~り~・り~!」


 触手の先にある大鎌を煌めかせて鬼の首を刎ねまくる総勢十体ものショゴスは軽く絶望を覚える。彼らが敵に回ったらと考えると確実に『ジョバッ』とやらかしかねない。それはどうしても彼らに勝てるイメージが湧かないからだ。おぉ、こわいこわい。


「あはは! いけっけ! いけいいえいえ! はぁすたー! あははは!」


 しかし、今日のアルアはいつにも増して興奮気味だ。先ほどのカタパルトからの射出がそんなに楽しかったのだろうか?

 確かに戦闘へ赴くのでなければ爽快な気分になれるかもしれない。


 俺がそのように考察していると、ショゴスを応援していたアルアから突如として黒い暴風が巻き起こる。それを見た瞬間、俺の本能が警鐘を『ふっきゅん、ふっきゅん』と鳴らしまくった。


 黒い風は鬼たちを蝕み、たちまちの内に腐らせてゆく。渦巻く黒き風はまるで生きているかのごとく鬼を貪り弄んだ後に腐った肉塊へと変じさせたのだ。その様子を見ていたアルアは赤い目を輝かせて小さな手を叩き、大いに喜んだではないか。

 その濁った瞳の輝きは、決して人が持ってはいけないことは言うまでもないだろう。


「や、ヤヴェ! あれは絶対に関わっちゃいけないヤツだ!」


『分かっている、アレは外宇宙の風の神、ハスターの化身の一つに相違ない。絶対に攻撃範囲に入るな、精神を持ってゆかれるぞ!』


 その前に死にます、はい。そうツッコミを入れる暇などありはしない、俺は急いでたぬ子を抱えて退避した。あんなのに構っていられるか! 俺は逃げるぞぉ!


「なんだぁ、ありゃあ!? アルアがやってるのかぁ!」


「ガンちゃん、とにかく離れて! あれに当たったら確実に死ぬ!」


 俺はリベンジャーのランドセルにガンズロックを乗せて、とにかくアルアから離れることに専念した。桃使いでもない俺にできる事といえばこれくらいなものだ。


 しかし、なんでまたアルアは能力を開放したのだろうか? 彼女の中にいるラトさんはどうしたというのだ。彼がいれば、アルアは比較的に安定しているはずなのに。


 ゴォォォォォォォォォォォォォォォッ……!


 黒き風ハスターの虐殺劇は鬼がおこなったものの比ではない、本当に無差別、そこに慈悲や分別はない。ありとあらゆるものが腐り腐臭を放つ。生き物ならずとも、木や石までも腐らせるとか反則だろ。

 その行為から、ヤツにあるのはアルアが喜ぶ姿を求める貪欲な願望だけに思えた。理由は……たぶんアルアの中の『アレ』のせいだと思われる。


『まさか……戦場に漂う陰の力に中てられたのか!? だとすれば危険だ!』


「ふきゅん!? それって、アルアが鬼になるってことか?」


『まさか……おまえは彼女が何者かを俺に教えただろう? つまりはそういうことだ』


「冗談きついぜ」


 桃先輩の言葉に、俺は彼女の中に眠る『僕が考えたとんでもない神様』の姿を思い出す。あれが飛び出したら確実に世界が終わる。なんとかしてアルアを止めなければ。


 というか、鬼退治をしていたはずなのに、いつの間にか外宇宙の神を阻止する系のクエストになっていた。鳴けるぜ、ふきゅん。


 ハスターをなんとかできるのはアルア以外にいない。よって最優先はアルアを正気に戻すことだ。

 そのアルアだが……現在はハスターに乗っかって大はしゃぎナウ。もう、これじゃあ手も足も出ません、本当にありがとうございました。


「あれは、いったいなんだ? 戦場が混乱して戦い難いではないか」


 むっとした表情のシーマが小鬼の首根っこを捕まえて歩いてきた。初めて出会った頃に比べれば彼女もかなり逞しくなったものだ。


「おにぃ」


 というか、小鬼まだいたのか? もうお前がいられるような戦場じゃないだろうに。


 首根っこを掴まれた小鬼は大人しくしていた、まるで母犬に咥えられた子犬のようだ。


「アルアが暴走しているんだ、近付きたくてもあの黒い風が邪魔をして近付けない」


「黒い風? あんなウィンドボールもどきに、何を恐れているのだ。情けない連中め」


 そういうとシーマは小鬼をぽいっちょと投げ捨て、黒い風に向かって悠々と歩を進めたではないか!


 あいつ、あの風がなんだか分かっていないぞ!? あの風にやられた鬼が、そこかしこで『腐った肉』に変わり果てているのが分からないのか!?


「おいぃぃぃぃぃぃぃ! シーマ、その風に触れるな!」


 だが、時すでに時間切れ。彼女は黒き風の洗礼を受けてしまった! ぐずぐずと腐り果てる半額で買った中古の鎧、ボロボロと朽ち果ててゆくつぎはぎだらけの衣服。それらよりも耐久力のない肉体はどうなるか、考えたくもない。今俺が飛び込んでも、シーマはきっと……もう……。


「おい、貴様! 私の服が朽ちてしまったではないか! 弁償しろ!」


「ふぁっ!?」


 確かにシーマの身に着けていた安物の鎧と衣服は五秒ともたずに朽ち果てた。だが、本体たる彼女の肉体は腐るどころか妙に艶々していたのである。どういうこと?


「ふん……今頃、私の身体の垢を落としたところで、弁償額をまけることなどせんぞ!」


「それ絶対に違う、ハスターはそんなせこい事しないから! というか……いったい、おまえは何者なんだっ!? ありえないだろ、普通に!」


 クラスメイトの極めて非常識な一面を見た俺は思わずツッコミを入れてしまう。それに対して彼女は答えた。ある程度、予想できるのが悔しい。


「元上級貴族に、このような風は通用せん」


「またそれか! 上級貴族、半端ねぇな!?」


 俺は既に上級貴族がゲシュタルト崩壊を起こしつつあった。これもうわっかんねぇな?


「あはは! シーマ、のるれろれ? あははは!」


「ほう、どうやら立場を弁えているようだな。いいだろう、特別に乗ってやる」


 そして、あろうことかアルアに誘われてハスターに乗ってしまう始末。どうしてくれるのこれ? もう戦場は混沌を越えた混沌と化している。こんなの、カオス神も苦笑いだぞ!?


 だが、よくよく見れば大量にいた鬼たちは散り散りに逃走しており、俺たちを阻む壁も無くなっていた。これはチャンスと言えよう。もうアルアはシーマに任せて、俺たちは先に急ぐことにしよう。


「シーマ! アルアを頼む! 俺たちはタカアキの下へ急ぐ!」


「む? なら私たちも向かった方が……」


「いや! ここを任せられるのはシーマしかいない! 頼む!」


「……ふ、ふん! 仕方のないヤツだ! 今回は特別だぞ!?」


 チョロあま、きっと誰しもがそう思った事であろう。取り敢えず問題は山積みであるが、アルアとハスターは、シーマに丸投げして先を急ぐことにした。

 あんなの、ただの珍獣である俺にはどうにもできん。


 ここで問題が一つ、シーマの股間が下からだと丸見えだということは伝えておいた方がいいだろうか? ふきゅん……ま、いいか。まだ子供だし。


 俺たちは色々と戦場に置き去りにしてタカアキの下へと急ぐのであった。

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