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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
503/800

503食目 GD・X・リベンジャー

 赤く染まる大地、そこに横たわる兵士たち。群がる鬼どもが屍をも蹂躙する。


「ひでぇ……」


 誰かがそう口にした。何度も戦場に立ち、このような光景は見てきたはずであったが、今回はその中でも最悪の光景だ。虐殺劇とはこういうものなのか、と恐怖すら湧いて出てくる。


「なるほど、陰の力をこうして高めているというわけか。やってくれる」


 怒りの炎が俺を突き動かした。自分が何をしているのか認識する前に行動に移っていたのである。だが目的地など一ヶ所しかない、それはハンガーデッキだ。俺の相棒たちを迎えに来たのである。


「ふぇっふぇっふぇっ、来たか」


「ドクター・モモ! 俺のリベンジャーは!?」


「改修し終えておるぞい。見てみぃ、これが生まれ変わったGDリベンジャー。その名も、『GD・X・リベンジャー』じゃて」


 ハンガーデッキには改修の終えているリベンジャーが新たな姿を見せていた。軽量化による必要最低限だった装甲は増加され防御力を増している。パイルバンカーも取り回しが効くように小型化されているようだ。その中でもとりわけ目立つのがランドセルだ。


 四方に伸びるブースターの形はX。なるほど、それでリベンジャーにXを冠したのか、と納得に至る。


「追加装甲には全て姿勢制御用のスラスターを増設しておる。これでリベンジャーも空中での姿勢制御が可能になったというわけじゃ。その分、重量が増したが……それはブースター出力を限界まで強化したことで軽減しておいたぞい。くれぐれも潰されるでないぞい? ふぇっふぇっふぇっふぇっ!」


「何気に恐ろしい改良ありがとうございます」


 俺としては外の凄惨な光景よりも、このマッド・ドクターの方が恐ろしく感じた。これは、けっして気のせいではないかと思われる。最大の敵は身内にいた……?


「ドクター・モモ、ランドセルに付いている、この折りたたまれている物はなんだ?」


 大型ランドセルに追加されていた物はX型ブースターだけではなかった。折り畳まれ小さく収納されているパーツを発見したのである。


「それには『第三の搭乗者』が乗っておる」


「第三の? それは誰なんだ?」


 俺は気になって折り畳まれているパーツを覗き込むと、折り畳まれていたパーツが展開し棒状になった。見た目は巨大なキャノン砲であるが、その発射口にあったのは鉄の砲弾ではなく木の枝。それはすなわち……。


「か、輝夜!?」


「さようじゃ、Xリベンジャーの反応限界を上げるために彼女の力を利用した。その名も『ムーンライトシステム』」


「ふきゅん!? ムーンライトパ……」


「おっと、そこまでじゃ。それ以上はいかん」


 危うく口を滑らせ大惨事になるところであった。流石はドクター・モモ、冷静な判断能力だ。


「『ムーンライトシステム』、これは輝夜に蓄積された桃力をX・リベンジャー全体に張り巡らせ循環させることによって、驚異的な反応速度を獲得するシステムじゃ。輝夜に蓄積された桃力は元々はおまえさんのものじゃ、扱い方は知っておろう?」


「輝夜に俺の桃力が蓄積されていたのか?」


「そうじゃ、おまえさんは自身の膨大な桃力ゆえに気が付いておらんかったようじゃが、輝夜は溢れ出す桃力を吸収し成長してゆく。その量は通常の桃使いであるなら微々たるもの。しかしながら、おまえさんの桃力は微々たる量どころか異常じゃ。それゆえに輝夜の吸収する桃力も途方もない量じゃった」


 トントンと腰を叩き、丸椅子に座るドクター・モモ。そしてテーブルの上の皿にあったシュークリームを口に運ぶ。あれはアマンダが作った新作のトリプルクリームヴァージョンに相違ない。

 生クリーム、カスタードクリーム、そしてストロベリークリームを絶妙な配分でシューに詰めた素敵なスイーツだ。まだ俺も実食していないアマンダシリーズの三番目の作品っ! うらやまちぃ!


「完成していたのか……アマンダシリーズ!」


「そう、輝夜はアマンダシリーズの……って違うわい。話の腰を折るでない」


 怒られた。だって、羨ましかったんだもの。


「あ~っとぉ? どこまで話したんじゃったかのう……そうそう、輝夜の桃力じゃったな。確かに彼女は膨大な桃力を蓄積しておるが、自由に桃力を出し入れできるわけじゃないのじゃ。吸収した桃力は基本的に吸収されたままの状態になる。輝夜自身も意のままに出し入れできないそうじゃからの」


「ふきゅん、そうなのか」


 吸収ばかりして出さないとか、パンクしてしまわないのだろうか? いくら成長するために消耗するとはいえ、かつての俺の桃力の量は異常とも言える。その桃力を大量に吸収してきた輝夜の姿は、ほんのちょぴり大きくなった程度だ。見た目は全然変わらない。


「さて、気になるのは吸収した桃力がどこにあるかじゃが……実は輝夜の中に全てがあるわけではない事が判明しておる」


「えっ? どういうことだ?」


 輝夜が吸収しているのに輝夜の中に無いとはこれいかに? 俺のつるんつるんのブレインはアンサーを求めて、わっしょいわっしょいと踊り狂った。

 当然、アンサーは「おめ~に与える答えはにぃ!」と冷徹に言い放つ。もう頭が沸騰しそうだよぉ!


 頭を抱えて「ふきゅん、ふきゅん」と鳴く俺を見兼ねて、ドクター・モモは答えを述べた。

 どうやら、答えを求めて悩む俺の姿を見て楽しんでいたようだ。ぷじゃけるな!


「輝夜に吸収された桃力の行き着く先は『月』じゃ」


「月? 空に浮かぶお月様か?」


「さよう、桃使いたちのパートナーたる神桃の枝たちの大本は、月にある『月夜見の大樹』じゃからの。あ、これは言ってはいかんかったわい、忘れろ」


「無茶を言うんじゃねぇよ」


 何気にタブーに触れてしまった気がするが、華麗にスルーして話を続行する。油断のならない爺さんだ。


「でじゃ、月に送られた桃力は月夜見の大樹に集められて管理されているわけじゃよ」


「月夜見の大樹の名を言うのは、タブーじゃなかったのかぁ?」


「科学者はタブーに挑んでなんぼじゃ」


 開き直りやがった。まったく、科学者ってヤツは……。


 俺はここで、ある事に気が付いた、ひょっとして、いもいも坊やたちが本能的に桃先生の芽の葉を求めていたのは、月夜見の大樹の葉に似ていたから、ではないのだろうかと。

 そうすれば説明も付く、いもいも坊やたちが熱心に桃先生の芽に群がっていた事に。


「なあ、ドクター・モモ。月夜見って、男? 女?」


「うん? なんじゃ、急に。神なんぞ性別をころころ変えるから一概には言えんが……今は女であることが多いと聞くのう。元々が性別を判断しにくい中性的な顔じゃから、気紛れで男と女を楽しんでいるらしいわい」


「それはある意味で羨ましいな。そっか……なら、お母さんということだな」


 俺の呟きにドクター・モモは意味深な頬笑みを返した。


「ふぇっふぇっふぇっ、そうとも取れるのう。でじゃ、話は『ムーンライトシステム』に戻る。このシステムは輝夜に蓄積された桃力を引き出して使うわけじゃが、引き出し消耗すると面白い現象が起こるんじゃ」


「面白い現象?」


「そうじゃ、桃力を失った枝に、今度は大本である月夜見の大樹が桃力を送るんじゃよ」


「ふきゅん、そんなことができるのか」


「みたいじゃの。研究途中でなんとも言えんが、一定量の桃力を保つように月夜見の大樹がコントロールしているようなのじゃ。枝は月夜見の大樹にとって桃力を吸収するための端末である、と同時に『子供』じゃからだとワシは推測しておる」


「親と子か……」


 今まで輝夜のことをあまり詮索してこなかった俺であったが、彼女にこのような秘密があったとは思わなかった。しかし何故、月夜見の大樹は桃力を必要としているのか、謎は深まるばかりだ。


「最後に『ムーンライトシステム』は月が出ている時に最大限の効果を発揮する。今がその時じゃな」


 それは当然の事だろう、逆に月が出ていないと真価を発揮できないということでもあるが。


「リベンジャー、行くぞ!」


 俺の声に反応してX・リベンジャーがその身を解放する。俺は迷うことなくGDと一体化し、新たなる力を得たリベンジャーの息吹を感じ取った。


『システム・オールグリーン、ムーンライトシステム起動。いけるぞ、エルティナ』


『レディ』


『……』


 桃先輩、ムセル、そして輝夜。俺は、俺たちチームは友軍を救うために戦場へと向かう。


「さぁ、行ってこい! 新たなる力、GD・X・リベンジャーの力を見せ付けてくるんじゃ!」


 ドクター・モモに見送られ、新たに建造された発進用カタパルトに乗る。足が固定され射出準備が整った。


『……発進どうぞ……』


 ララァのハスキーボイスに促され、名乗りを上げる。


「エルティナ・ランフォーリ・エティル! X・リベンジャー、いっきま~す!」


 カタパルトから勢いよく空へと飛び出す。空には冷たい輝きを放つ三日月、眼下に広がるは鮮血の色、血の臭いが混じる澱んだ風に、悪鬼どもが蔓延る殺戮の大地。

 ここは紛う事無き生と死が交差する戦場。


「やってやる……!」


 俺とX・リベンジャーの挑戦がここに始まった。

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