502食目 アクライア山到着
俺は夕食後、少し落ち着いたところでデュリーゼさんに連絡を取ろうと艦橋に向かった。今の俺では長距離の〈テレパス〉は魔力量が足りなくて荷が重いからだ。
艦橋には通信装置なるものが設置されており、いもいもベースに屠畜された魔力を用いて〈テレパス〉を使用することが可能なのである。
「ふきゅん、ララァ、お疲れさま」
「……ききき……どうしたの? エルティナ……」
薄暗い艦橋にはオペレーターのララァとダナンが待機していた。ダナンの方は操縦席で爆睡中だ。起きているララァの方は、座席に座って読書中であったようである。
どうやらモニター画面の明かりを利用して本を見ているらしい。きっと寝ているダナンを気遣ってのことだろう。なんとも泣かせる話だ。
尚、彼女の手にする書物は相も変わらず得体のしれない物体が表紙を飾っているため、俺の興味は一瞬にして薄れてゆく。
なんだよ、そのショゴスとキュウトちゃんの『ゲロりん』を混ぜ合わせた物体は!?
「あぁ、通信装置が使いたくてな」
「……そう……今、作動させるわ……」
近年、ハスキーボイスにますます色気が付いてきたララァは、通信装置のタッチパネルを器用に操作して起動を終わらせてくれた。
この機械類を見ていると、ここがファンタジー世界であることを忘れてしまいそうになる。
『しもしも、俺、エルティナ。デュリーゼさん、息してる?』
俺は受話器を手に取り、通信装置に僅かな魔力を流して使用者を認識させ、会話相手であるデュリーゼさんに〈テレパス〉を送る。後は受話器を置くまで、いもいもベースの魔力を使用して会話ができるというわけだ。無論、長電話はいもいもベースの魔力を著しく消耗するので注意である。
『エルティナですか……辛うじてですが、息はしていますよ』
応答に出た彼の声に力は無く、非常に疲れ切った様子を窺わせた。何事かあったのは間違いないだろう。よって、簡潔に状況説明を求めた。
すると巨大鬼の出現という、とんでもない情報が飛び出してきた。その戦いにおいて彼は深い傷と大量の魔力を消耗してしまったのだという。更にはGDスクール隊も被害甚大であることを告げられた。
『そうだったのか……くそぅ、もっと調べていれば、そんなことにはならなかったのに』
『これは私の調査不足でした、責められるべきは私です』
そう言われても、最後に決断したのは俺である。そのことをデュリーゼさんに伝えると彼は力無く笑った。
『そう言われてしまっては立つ瀬がありませんね。それと、もう一つ。こちらにもう一人の桃使いが現れたことを伝えておきます』
彼の言うもう一人の桃使いとは怒竜のシグルドのことだろう。何故ヤツがフィーザントへ現れたかは詮索するつもりはない、鬼あるところに桃使いは現れるからだ。
『私はフィリミシア帰還後、回復に努めようと思います。その間に、全てのでき得る備えをやっておきますので、エルティナも決して無理はしないようにしてください。決戦の地は間違いなくフィリミシアとなりましょう』
『分かった、デュリーゼさんも無理はしないようにな』
無理をするな、とは言ったがお互いに無理をすることは分かっていた。受話器を置き、通信を終えた俺は再び医務室へ向かう。とにもかくにもキュウトちゃんをなんとかしない限り、前には進めないからだ。
それから五日後……紆余曲折あったが、なんとかアクライア山の麓まで辿り着くことに成功。乗り物酔いを抑制する魔法の開発成功にキュウトちゃんもご機嫌である。
「きゅおん! まさか、ここで物が食べられるようになるなんて。本当に地獄の日々だったぜ」
そういって、艦橋で『おいなりさん』を頬張る彼女は出発時よりも三キログラムほど痩せてしまったそうだ。それでもおっぱいとお尻の肉は減らないのは、どういう原理なのだろうか?
そのおかげで、エミール姉の妬みぱぁうわぁーが、ドえらいことになって大変であった。
「ふきゅん、ようやくここまで来たか。だいぶ遅くなったが、皆は無事かな」
俺もおいなりさんを口にしながら、タカアキたちの安否を気にした。
「はむっ、むちゃむちゃ……」
お揚げから溢れ出す甘辛い汁が口の中を満たし舌を喜ばせる。お揚げの味付けは薄口ではなく、これでもかと濃くした特別製だ。
その中に詰める飯は煎りゴマを混ぜ込んだ酢飯である。こちらは酢を抑え気味にしてある。
咲爛などは酢が効いた方が好みらしいが、こちらの国では酢を効かせ過ぎると食べられない者もいるので無難な酸味に抑えることにしたのだ。
また、酢飯に煎りゴマを混ぜ込んだのも酸味を緩和するためである。また咀嚼の際に芳ばしさを演出することで飽きが来ないように工夫した。
このようにシンプルな工夫であるが、このおいなりさんは食べ易い、となかなかに好評を得ている。まぁ、キララさんのお米を使っているから当たり前なのだが。
「拙者としては、これに温かい『かけ蕎麦』が付けば更に良いでござるなぁ」
「きゅおん、そこは『きつねうどん』だろ」
ばちばちっ!
ザインとキュウトちゃんがタブーに触れ、お互いの顔を近付けて威嚇しだした。それ以上近付けるとむちゅうと互いの唇が合体してしまうぞ?
はっ、まさかそれが狙い!? 二人は幸せなキスをして終了なのかっ!?
いかん、ここには健全な少年少女たちがいるのだ。衝撃的な場面は見せるべきではない。
「おいばかやめろ、ここで『うどんそば戦争』を起こすんじゃねぇ!」
終わりなき戦争が始まりそうになるも俺が仲裁に入ることで辛くもこれを阻止、バチバチと火花を散らす二人を引き離すことに成功する。
「ん? なんだ、チューするのかと思ったのに、しないんだな?」
米粒を一粒ずつ手に持ち、口に運ぶのはフェアリーのケイオックだ。彼はアマンダの肩に座ってザインとキュウトちゃんの動向を見守っていた。だが彼のその予想は斜め過ぎてどうツッコめばいいのか分からない。
「ちっ、賭けはハズレか。そこで、一気に行っちまえよな~」
「けけけっ、毎度」
そして、こちらでは賭け事に使われていた。勝者はゴードン、敗者はマフティだ。
「おまえらなぁ」
そんなクラスメイト達に頬を上気させて非難の目を送るキュウトちゃん。だがザインは気にも留めていなかった。この温度差はやはり男と女の違いであろう。
キュウトちゃんは女、それ一番言われてっから!
「そろそろ、山頂に向けて発進するぞ。いつ何が起こってもおかしくはない、むごむご。かふぎ、しゅふげきひゅんびをふとふぇ」
「ラガルさん、食べるか喋るかどっちかにするんだぜ」
俺たちのまとめ役を託されたラガルさんは、やはり容姿のとおり幼さを感じる人物だ。背丈も俺たちとそう変わらないため、クラスメイトが一人増えたような感覚に陥る。
とはいえ、考えていること自体は、俺たちよりも遥かに大人びているのであるが。
「んぐんぐ、ごくん。いやすまん、我慢ができなかった。あぁ、美味い」
満面の笑みを浮かべながら、ぺろぺろと指を舐める仕草は、やはりお子様のそれだ。ここら辺の部分が、やはりデュリーゼさんと比べると頼りなく思える。
だが、そう見えているだけであり、彼の頭の中ではこの先起こりうる状況を数千とおり予測し対策を練っているのだというから驚きだ。
頭脳担当ゆえかラガルさんは常に何かしらを食べている傾向が見受けられた。彼が言うところの、頭にエネルギーを送っている、である。
確かに、優秀な頭脳ほど膨大なエネルギーを必要とする。彼の言い分はけっして間違いではない。つまり、常に食を求める俺も優秀な頭脳の持ち主だった……!?
「……山頂から来る者あり……友軍です……」
ララァの報告どおり正面モニターに映し出されたのは友軍の兵だった。そのいずれも酷い有様である。
「これでは敗残兵ではないか! くそっ、いやな予想に当たった! 聖光騎兵団出撃、友軍の撤退を支援せよ! 元祖隊はこのまま、いもいもベースで山頂へ向かう!」
『了解しました、聖光騎兵団出撃します!』
ラガルさんは山頂から降りてくる兵士たちを援護すべく、聖光騎兵団のミカエルに出撃命令を下した。いもいもベースの口から次々と飛び出してゆく騎士たち、その姿はシュールであったが、あの姿は俺たちの未来の姿であると分かると、俺はふきゅんと鳴かざるを得なかった。
撤退する友軍の後ろから『茶褐色の魔導装甲兵』たちが押し寄せてくる。あれが新型の魔導装甲であろうか? 見た目も大きく変わっているようだ。
右肩に大きな魔導キャノン一門、左肩には巨大なシールドが装備されている。攻守の性能を向上させた様子が窺えた。実際に戦ってみなければ分からないことだが、性能が上がっている魔導装甲兵が数で圧してくるのであれば脅威と認識していいだろう。
聖光騎兵団と新型魔導装甲兵が激突した。それを避けるようにいもいもベースは進んでゆく。目指すは山頂、タカアキたちが戦っているであろう場所。
とにかく今はいそがなくてはならない、聖光騎兵団は山頂到着後、状況を見て回収に向かう。
「おまえら何かに掴まっていろ! 崖を登っていくぞ!」
ダナンは切り立った崖に進み、いもいもベースを登らせる。とんでもなく思い切った行動に出るものだ。
「おわわわっ!?」
俺たちは急いで固定されている椅子やテーブルに掴まり対処する。ほぼ垂直の崖を難なく上ってゆけるのは、いもいもベースの多脚の成せる業だ。
むにゅう。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!? ロフト、どこ掴んでるさねっ!?」
「アカネっ! またデカくなったな!」
もみもみっ。
「尻を揉むなっ! ひぃぃぃぃぃぃぃっ! 力が抜けるさね~!」
「うおっ!? がんばれ、アカネ! 落ちる、落ちる! ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
べちゃっ、どどすぅ!
おまえらは何をやっているんだぁ? 今はそんなときじゃ……。
その時、珍獣は見た。プルルとメルシェ委員長のBIGヒップに押し潰されているライオットを。特殊スキル『ラッキースケベ』が発動したのだろう。彼の尊い犠牲の下、二人の少女が救われたのである。
「もごごごごごっ!?」
「うわわっ、ごめん、ライオット! 今どけるから……ひゃあ、そこは掴んじゃダメ!」
「ひえぇぇぇぇん。こ、腰が抜けて動けないですぅ」
恐るべきはラッキースケベの効力だ。プルルの大きな尻は彼の顔面に覆いかぶさり、メルシェ委員長の尻の位置はライオットの股間部分だ、これ絶対に……。
プルルの巨大な尻肉に覆い被され息ができないのか、酸素を求めてライオットの手は忙しなく空を掴む。それはやがてプルルの尻肉を掴むまでに時間は掛からなかった。
彼はパニックになっているのか、ぐにぐにと尻肉を揉みしだく。
「あぁ、いやぁん! ちょっと、ライオット、離しておくれ!」
柔らかい肉は彼のバカ力に柔軟に対応し、形を変えながら破壊を免れた。気に恐ろしきはその柔らかさだ。まぁ、柔らかいからしっかりと顔にフィットして息ができないのであろう。
ぷるぷるぷる……ぱたっ。
やがて、彼の腕は力無く床に落ちた。息ができなくて気を失ったのであろう。
というか、おまえがプルルの尻を掴んで離さないから、彼女が退けれなかったんだぞ?
「よし、見なかったことにしよう!」
俺は関わらないことを選択、賢明な判断だと感心するがどこもおかしくはない。そうこうしている内に崖を登り終えた巨大芋虫戦艦は山頂付近へと到達、そこで見た光景は俺たちに絶句を強要した。




