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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
501/800

501食目 残された力

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


「デュリンクさんの霊圧が……消えた……!?」


 キュウトちゃんのために、乗り物酔いを抑制する魔法を開発中の俺は、デュリーゼさんの霊圧……もとい気配が感じ取れなくなったことを察した。

 これは白エルフに備わる感覚機能であり、長い時間を共に過ごした者同士はなんとなくではあるが、同族がどのような状態に陥っているか、遠く離れた状態でも察することができるようなのだ。


 デュリーゼさんには霊的な能力は備わっていないので、この場合は魔力が枯渇している状態に陥っているのだろう。

 極めて危険な状態だ、まるでほっぺに餌を限界までため込んだハムスターのような状態のキュウトちゃんのように。ちなみに、彼女はその後、見事な『ゲロイン』に昇格した。


「どうしたの? エルティナちゃん」


「ふきゅん、虫の知らせというヤツを感知したんだよ、ティファ姉」


 ヒーラーが集う医務室にて、乗り物酔いを抑制する魔法は開発されている。事実上、魔法を完成させるのは、治癒魔法が使用できる彼らに任せるしかないのだ。なんとも口惜しくはあるが、現在において治癒魔法が使えない俺では仕方のないことだった。


「エルティナは相変わらず、とんでもない図式を編み出すなぁ」


「慣れだよ。寧ろ、ヒーラー協会の決算報告書を作成できる、ビビッド兄の方が凄いと思う」


「はは、それこそ慣れだね」


 ポリポリと頭を掻いて照れ隠しする彼は、出会った当時とは比べ物にならないほどに成長していた。それに比べて今の俺ときたらどうだ、なんの力も無い珍獣ではないか。

 と、ここまで考えて思考を停止させる、考えがネガティブになってきたからだ。失った物はしょうがないし、今あるものを再認識しポジティブに行かなくては、この長丁場を乗り越えることなどできやしない。

 それにビビッド兄たちだって、最初はクソザコナメクジ部隊だった。それがたゆまぬ努力を重ねた結果、今日に至っているわけだ。それなら俺にだって出来るはず。


「ふ、ふきゅん!?」


 そう思ったところで、俺は致命的なミスを犯していることに気が付いた。再認識、そして確認。これを遥か彼方にキラーパスしていたのだ。

 つまり、俺は失った部分だけを認識して、残された能力を確認したつもりになっていたのだ。従って、俺は超ド級のおバカということになる。この件に関しては箝口令を自らに敷くことによって、情報の漏えいを防ごうと思う。

 見事な隠ぺい工作だと感心するがどこもおかしくはない。流石は俺、完璧だ。


「ん? どうかしたの? エルティナちゃん」


「ふきゅん、俺は断じて能力の確認を怠ってはいない」


 意識外からの刺客っ! それは意外っ! 味方であるはずのエミール姉によるもの!!

 

 なんということであろうか、箝口令を自らに布いたにもかかわらず、僅か二秒で情報が漏えいしてしまったではないか!? 誰だっ! 情報を漏らしたヤツはっ!


「え? 能力の確認って……」


「な、ななななな、なんでもないですよ?」


 ティファ姉の追求に冷静に対処する、どもってなどいません、幻聴です。


「ふ……話は聞かせてもらった」


「げぇっ!? お、おまえはぁっ!」


 そこに現れる謎の男、その名もマスク・ド・エド! どうかお帰り下さい!


「ダメじゃないか、肝心なことを忘れちゃ」


「ふきゅん、盲点だったんだぜ。失った物だけを確認して、残った方を確認したつもりになってた」


「それじゃあ早速だけど、エルに何が残っているのか確認しようか」


 マスク・ド・エドは身に着けていたマスクを外してエドワードに戻った。なんの意味があってマスクド・エドになっていたのだろうか? 激しくツッコミを入れたいが、今は我慢する。


 確認をする、といっても現在はキュウトちゃんのために新魔法を開発中だ。この魔法の開発が遅れれば、それだけタカアキたちとの合流が遅くなる可能性が出てくる。確認は確かに大切なことだが、今は一刻も早く新魔法を開発しなければ。


 そうエドワードに伝えようとしたところで、いもいもベースが停止してしまった。どうやらキュウトちゃんが限界を迎えたようだ。今頃は何度か目になる『ゲロイン』化を果たしているのだろう。南無。


「どうやら、今日はここまでのようだね。これでも結構、進んだ方だと思うけど」


「予定より遅れているんだぜ、この調子じゃ到着までに一週間以上かかっちまう」


 やはり山岳地帯をいもいもベースで越えるのは時間が掛かる。加えて路面の悪さだ。その凸凹した路面の走行は激しい揺れを実現させ、乗り物に弱いキュウトちゃんを確実にゲロイン化させてしまう。

 それは今日一日で彼女が何度、嘔吐しているか分からなくなるほどに酷い有様である。


「ほい、急患だよ」


「き、きゅおん……俺、がんばった、もう、ダメ。ぐふっ」


 ダナンとララァに支えられてゲロインが医務室に帰還した。最近の彼女は、ほぼ医務室が自室といってもいい状態と化している。

 彼女はベッドに寝かされると、そのまま白目痙攣状態となって物言わぬオブジェと化した。これでは美少女も台無しである。


「これは明日まで移動できそうにないね」


「だなぁ……ビビッド兄、これが起こした図式。後はトライ&エラーで不具合を教えてほしい」


「うん、わかったよ」


 俺とエドワードは休憩を兼ねて、俺に残された力を確認すべく医務室を後にした。向かう先はブリーフィングルーム、そこには桃先輩がいるからである。彼と共に能力を確認すれば、これからの俺の方針も定まることであろう。


 ブリーフィングルームの大型テーブルの上に桃先輩はいた。正確には桃先輩の未熟な果実である。彼は俺たちがやって来たことを認識すると声を掛けてきた。


「どうした、エルティナ」


「ふきゅん、実は……」


 事情を桃先輩に説明すると、予想どおり呆れた返事が返ってきた。事情が事情なだけに、くどくどとお説教をされなかったのが唯一の救いだ。


 早速、桃先輩を交えての力の確認となる。現在、俺に残されている力は何かを一つ一つ確認してゆく。

 身体能力は種族ゆえに低い、魔力は一般市民程度。だが、この魔力の低さゆえに俺は新たな力を得る、GDという新たな力だ。


 そして桃先輩曰く、俺は身体能力に反して反応速度が高いそうなのだ。つまり、俺の反応に身体がついてこない、という悪循環に陥っていることになる。この事は俺が身に着けて戦っているGDリベンジャーで証明されているらしい。


 確かに思う節が多々ある。GDリベンジャーを身に着けている時の俺は、己の思うがままに動くことができる。それはきっとムセルのサポート無しでは不可能なことだとは思うが。


「それは違う、確かに初期段階ではムセルのサポート無しでは、まともな動きはできなかった。だが、今となってはムセルのサポートでは追い付かず、俺もおまえの動きを、正確にはGDリベンジャーの動きを制御しているのだ」


 桃先輩の返答は俺の予想外のことであり、大いに俺を困惑させた。それは既にGDリベンジャーが俺の反応速度についてこれなくなりつつある、という事に他ならないからだ。

 俺がGDを身に纏い実戦を経験したのは僅か一度。その後、いもいもベースを停止させている時を利用して、何度かプルルと模擬戦をおこなったが、そこまで反応がいまいちという気はしなかったが……。


「この数日間の訓練データでも、おまえの反応速度が異常であることは明白、これを見ろ」


 そう言うと未熟な果実から光が飛び出て、何もない宙に映像が映し出された。その様子は非常にシュールであるが、ここは真面目な場面なので黙っておくことにする。


 映像には俺の反応速度を数字化したもの、そしてGDリベンジャーの各部位の限界反応速度が表示されていた。問題であるGDリベンジャーの限界反応数値、そのいずれもが俺の数値を下回っている、という事実に俺は驚きを隠せなかった。


「理解できたか? おまえは強大な魔力を、そして特殊な能力を失ったがゆえに、本来の才能を発見することができたのだ。確かに、おまえの肉体では、この才能を発揮することはできない。しかし、GDはおまえの反応速度を活かすことができる唯一無二の存在だ」


「でも、GDリベンジャーは、もう俺についてこれないんじゃないのか?」


 俺の懸念に桃先輩は答えた。


「今のままではな。だが心配はない、このデータを既にドクター・モモへ渡してある。今頃はGDリベンジャーを改良していることだろう。以前、おまえが漏らしていた不満な点も同時に改修をおこなっているはずだ」


 以前漏らしていた点といえば、空中制御の問題だ。それと最近ではパイルバンカーの取り回しの悪さを相談している。パイル部分が長過ぎて扱い難いことが実戦を経て判明したのだ。

 待機状態の長いパイル部分で、シーマの後頭部を殴ってしまったことは記憶に新しい。彼女でなければ致命傷になっていただろう。

 シーマ、耐久力マジパネェッス。


「おまえの反応速度の点はこれくらいでいいだろう、GDもドクター・モモに任せておけばいい。おまえに残された力はもう一つある、そのことに気付いたのは先日、桃師匠からの連絡を受けてからのことだ」


「俺に残されたもう一つの力?」


 桃先輩は桃師匠から何を聞かされたのであろうか? 俺に残っている力はもうないように思われるが。そんな俺の疑問に桃先輩は簡潔に応えた。


「『神気』、おまえが両親から授かった偉大なる力」


「神気……!? それが俺には残されているのか?」


「そうだ、神気とはおまえの魂そのもの、奪われれば死に至る。奪われていないことは、おまえが生きていることで証明されているからな。これは俺も桃師匠に指摘されるまで気が付かなかった。極めて不覚だ」


 神気、それは神の力であると桃師匠から教わっている。詳しいことは彼でもわからず鍛え方も保持者それぞれであるため、己が己の神気を理解しなければ成長することはない。

 てっきり、神気もアランに奪われていると思っていた俺は、神気のことが頭から離れていたのである。つまり、神気が使えるのであれば……!


「神気、発動!」


 ももももももももももももももももも……!


 テリーマ……げふん、げふん、キララさんから託された升から、神級食材であるお米がもりもりと湧き出てくる。神気を注ぎ込んだ結果だ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!? マジで神気が残ってる! 思い込みっておっかないな」


「まったくだ。やはり確認は怠ってはならないな」


「ということは、他の神級食材も増やせるってことだね? プルルが喜ぶと思うよ」


 升から溢れる米を手で掬い、その艶を確認すると、エドワードは俺にそう言って微笑んだ。


「あぁ、ここ暫くはプルルに不憫な想いをさせていたからな。今日はご馳走をこしらえて彼女を喜ばせてやろう。となれば……親子丼だな」


「あぁ、あれは美味しいからね。その後は僕にオムライスを頼むよ」


 俺に残された力の確認はこの後も続き、結果としてはあまり役に立たない能力ばかり確認された。


 調理器具を持つと通常の二倍の筋力を得る、つまりは一般人と同じ力になるだけ。

 包丁の攻撃力を増加させる、そもそも包丁は食材にしか向けない。

 おたまの耐久力を増加させる、おたまを使って何をするんですかねぇ?

 肌が赤ちゃんレベルでモチモチしている、どうすれというんだ。

 オナラの威力が通常の五倍、これは笑えない。


 役に立たなさそうな力が出まくったところで、確認作業は一時中断となった。気分転換に夕飯を作って、その後また確認作業に戻ろう。

 俺とエドワードは桃先輩にそう伝えると、娯楽施設のキッチンへと向かうのであった。

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