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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
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497食目 ハンガーデッキとゴーレムたち

 ◆ いもいもベース・ハンガーデッキ ◆



「ふきゅん、これまた派手に改造したなぁ」


「ふぇっふぇっふぇっ、まだまだ物足りんわい」


 いもいもベースの口に当たる場所にハンガーデッキはあった。以前は何もないがらんとした空間であったのだが、今やそこはゴーレムギルドの整備クルーたちの聖域と化していたのだ。


 所狭しと並ぶ使い方のわからない機器、テーブルの上には奇妙な形のパーツが我が物顔で場所を占有している。それを整備クルーはこれ以上ないほど愛し気に扱うのである。その行為は最早、変態以外の何者でもない。


 その中に混じっている三人のナイスバディは見覚えがあり過ぎる。相変わらず体のラインがバッチリ分かる、ぴちぴちのスーツに身を包むブラックスターズの面々だ。

 彼女たちも整備クルー同様に奇怪なパーツを手に掲げ、うっとりとした表情を浮かべている。残念ながら、彼女たちも手遅れであったようだ。

 ここは、そっとしておくのが一番だろう。


「あら、エルティナじゃない。ようこそ、私たちの聖域へ」


「し、しまったぁ! 狂科学者へんたいへの道にいざなわれるぅ!」


 だが、時すでにお寿司……もとい、遅し。俺はガイナさんの豊満なおぱーいに挟まれ身動きが取れなくなってしまったのである。


「ふきゅーん! ふきゅーん!」


 なんという凶悪なおっぱい力だ、これでは俺ごとき白エルフの珍獣がどうにかできるものではない。


「少し見ないうちに随分と大きくなったわね。子供の成長は早いわ」


「そうねぇ、あの時よりも女らしい体つきになってるわ」


「あら、良い形のお尻ね。安産型かしら?」


 セクハラはやめろ! 繰り返す、セクハラはやめろ!


 彼女たちは同性をいいことに、俺の身体をぷにぷにと凌辱し始めたのである。だが知ってのとおり、俺はおっぱいにホールドされて身動きが取れない。

 成す術もなく俺はただ耐えるしかなかったのである。がっでむ。


「ち、ちくしょう! うらやまけしからん!」


「俺たちの三女神が聖女を抱擁……うっ! はぁはぁ……」


 なんか整備クルーどもが嫉妬の眼差しを向けてくるが、俺はあくまで被害者であることを伝えたい。


「わかるっ!」


「ちくしょうっ! そこを代わってくれ、食いしん坊!」


「荷物の搬入さえ手伝っていなければ、あのケツにダイブできたものをっ! くやしいさね!」


 でたな、変態トリオ。ここ最近は大人しかったが、隙あらば過剰なスキンシップを謀ろうとする邪悪な存在だ。彼らからガイナさんたちを護らなくては。

 いや、その前に俺を解放してくれ、というか……。


「よし、直に確認してみましょう」


「そうね、感触だけでは正確なデータが取れないわ」


「これも技術の発展のため……尊い犠牲だわ」


 なんの技術の発展だぁぁぁぁぁぁっ!? は・な・せっ!!


 俺は色々なものを護るために必死の抵抗を試みた。

 だがそこは貧弱白エルフ、彼女たちの腕力に敵うはずもなく、白目痙攣で哀れみを誘う他になかったのである。ふぁっきゅん。


「こりゃ、何をしとるんじゃ。おまえさん方もさっさと機材を設置してしまわんか」


 だがそこに救いの手が差し伸べられた、良識人のドゥカンさんである。彼に諭され、渋々ながらも俺を解放するブラックスターズのお姉さん方。

 俺は彼女らの凌辱から辛くも逃れることができたのである。


「たすかったもうだめかとおもったよさすがはりょうしきじんだとかんしんする」


「おまえさんも気を確かにの」


 今回ばかりは本気で貞操の危機を覚えた。ガイナさんたちの目がマジだったから。今後は油断しないように気を付けるとしよう。

 これが肉体が成長することによる弊害なのだろうか。以前なら何も心配することはなかったのだが……。


「お、あれはプルルと……ケンロクか」


 ハンガーデッキの奥のスペースには戦闘用のゴーレムが待機するラックが設置されている。そこで待機しているケンロクにプルルが何やら話しかけていたのだ。


「おっす、プルル。久しぶりだな、ケンロク」


「やぁ、食いしん坊。見ておくれよ、これが新しいケンロクの姿さ」


 会話ができないケンロクは親指を立てて挨拶とした。彼の見た目は以前と比べて大幅に改修されており、より重厚感のある見た目となった。特徴的なのは折り畳み式の魔導キャノンだ。

 その折り畳み式魔導キャノンはドクター・モモの魔改造によってブースターとしても活用できるようにしたそうで、遠距離からの支援が困難な場合、推力へ回して格闘戦ができるようにしたそうだ。

 以前のケンロクは張り付かれると、どうにもならなかったので大幅な戦力向上と言えよう。


「んふふ、これでモモガーディアンズも大幅な戦力増加になるよ。それに、シングルナンバーズもどういうわけか起動できたし、希望が見えてきたと言っていいんじゃないかな?」


「シングルナンバーズ……あそこで整備を受けている八体のゴーレムか? なんか変わったゴーレム達だな」


「うん、大昔のゴーレムたちで初代聖女と共に戦った伝承が残っているんだ。とはいえ……ラングステン王国で管理されていた子たちは、その『レプリカ』と言われているんだけどね」


 整備クルーの整備を受けている変わったをした八体のゴーレムたち。一応は人型をしているが上半身が異様に大きかったり、胴体が無駄に大きいなど、非常に特徴的な姿を持たされていた。

 恐らくはその姿に見合った特殊な戦闘方法を与えられているに違いない。


 その内、同じ姿をしたゴーレムが二組ほど存在している。コンビネーションを前提とした機体だろうか?

 機体なだけに期待が高まる! んっん~、これは激ウマギャグだ! メモすとこ。


「あれはゴーレムコアか……これまた恐ろしいほどデカいな」


 彼らのゴーレムコアは大きさにしてバスケットボールほどの大きさがあった。通常のゴーレム達のコアは野球ボール程度の大きさなので規格外の大きさと言えよう。


「そうだね。旧式だけど、その出力は現在のゴーレム達が持つコアの数百倍もあるんだよ。以前、お祖父ちゃんが解析して再現しようとしたんだけど、構造が『ブラックボックス化』されていて断念したらしいんだ」


「へぇ、あのドゥカンさんでも手が出せなかったんだ。でも、急にまたなんで起動したんだろうな?」


「う~ん、それがよく分からないんだよ。でもお祖父ちゃんたちは、そんなことはどうでもいいみたいだね」


「ふきゅん、見れば分かる」


 整備クルーに混じって作業をこなすドゥカンさんの目はこれ以上ないほどキラキラと輝いていたからだ。もう子供のようなはしゃぎようである。

 そんな中、一体のシングルナンバーズが俺の方を見てぎこちないながらも敬礼の姿勢を取ったではないか。

 それに倣い、他のシングルナンバーズも同様のポーズを取る。これはいったい……!?


「む、気持ちは分かるが長いこと動いておらんのじゃ、関節の動きを良くしてやるから今は我慢せい」


「……」


 ドゥカンさんの言葉を理解したのか、彼らは大人しく整備を受けることにしたようだ。

 しかし、どうして彼らは俺に敬礼をしたのだろうか? 分からないことだらけだ。


「あっ……食いしん坊、その指輪!」


「えっ?」


 俺がはめている指輪といえば、左人差し指の『ミリタナスの証』しかない。それを急いで確認すると、指輪が薄っすらと輝いていたではないか。

 そういえば、プルルの話ではシングルナンバーズは初代聖女に付き従った伝説がある。彼らはそのレプリカとはいえ、聖女を護るという意思も受け継いだのだろう。

 そうすれば、この現象も理解できる。


「そっか……俺はやっぱり皆に護られているんだな」


 ミリタナスの証にそっと手をやり感謝の気持ちを伝える。相変わらず指輪の声を聞くことはできない。

 でも……それでよかった。いつか聞くことができるように自分を高める、という目標ができたから。

 それまで、待っていてくれ。


「さて、僕もお祖父ちゃんたちを手伝ってくるね」


「あぁ、がんばってな。またな、ケンロク」


 俺はプルルとケンロクに別れを告げてハンガーデッキを後にした。



 ◆ いもいもベース・艦橋 ◆



 フィリミシアを出立して丸一日が経った。現在もいもいもベースは『いもいも』と大地を疾走中だ。


「アクライア山にはどれくらいで到着しそうだ?」


「……ききき……順調に進めば……三日かしら……」


 俺の問い掛けにララァがタッチパネルを操作して計測する。その手慣れた手付きが彼女のオペレーターとしての素質の高さを窺わせた。


「マッハの速度が出るとはいえ、常に最高速度というわけじゃないからな。障害物も多いし、陸路でなら仕方がないさ」


 そう付け加えたのは、いもいもベースを操縦するダナンだ。

 彼の操縦技術はたいしたもので、この巨大ないもいもベースを難なく扱っていた。流石は前世で数々のゲーム大会を制覇した、と自慢するだけのことはある。


「三日か……キュウトちゃん、調子はどうだ?」


「きゅおん……吐きそう」


「マジか」


 俺たちの進軍は順調そうに見えるが、残念なことにアクシデントが発生している。それはキュウトちゃんが乗り物に弱いということだ。


 そんなわけで現在、彼女は定期的に吐き気を癒すために〈クリアランス〉を行使している。これでは魔力の消費量が多くなってしまい、どこかで一泊してキュウトちゃんの魔力を回復させなくてはならない。


「となると、到着まで最低でも五日は掛かるのか!? ええい、それまでタカアキたちはもつのか?」


「焦っても仕方がないさ、彼らを信じて進むしかないよ」


「エド……そうだな。タカアキたちを信じよう」


 焦る俺を諫めたのはエドワードだった。最近、ぐんぐん背が伸びてきている。顔つきも若干、凛々しくなったような気がする。相も変わらず女顔であるが。


「あはは! きゅうと! げろうれろ? げろろ? あははは!」


「や、やめろ。うっぷ、で、でる……」


「てけり・り!」


 おいばかやめろ、そこでゲロリアンしたらショゴスと混じるじゃねぇか。


「衛生兵ー! 衛生兵ー!! 急患だぁぁぁっ!! ブランナ、アルアをひっぺがすんだぁ!」


「お任せください、エル様!」


 火山の噴火直前のようなキュウトちゃんに絡みつくアルアをブランナにひっぺがさし、すかさずマフティに〈クリアランス〉を施してもらう。

 この連係プレイによって艦橋にゲロリアン臭が蔓延することは防がれた。


「あぶねぇな、俺も〈クリアランス〉は何度も使えないぞ? 今ので魔力の三割は持っていかれたからな」


 マフティのネックは総魔力量の少なさだ。ほぼ全ての治癒魔法を行使できるものの、魔力の少なさから高レベルの治癒魔法は僅か数回しか使用できないのだ。


「ふきゅん、吐き気専用の治癒魔法でも作るしかないなぁ」


「きゅおん……そうしてもらうと助かる」


 青白い顔をして懇願するキュウトちゃん、相当に辛そうだ。これは本当に開発した方が良さそうである。


「いもいもベースは揺れもかなりあるからなぁ。だいたい、大型の船が時化しけに遭遇した感じか」


「それでも艦橋の揺れは、かなり少ないぜ?」


「だから、いもいもベースに乗る時はいつもここにいるんだよ、うえっぷ」


 ぷるぷると震える彼女を見て俺とダナンは苦笑いをした。これでは移動しながらの食事は不可能だろう。どこかで小休止する場所を決めなくてはならない。


「やっぱり色々と弊害が出てくるもんだぁ」


「だな、早いところ能力を取り戻してメインエネルギー源に戻ってやれ」


「善処するんだぜ」


 俺はダナンとそんなやり取りをしてメインスクリーンに広がる巨大な山々を見渡した。アクライア山には、この山々をいくつも越えてゆかねばならない。

 つまり、キュウトちゃんは『だいぴんちっ!』というわけだ。


「きゅ……きゅおん、俺の明日はどっちだ。うぷっ」


「これは拙いな……ちょっくら、ビビッド兄たちのところに行ってくる」


「あぁ、何かあったら報せるよ」


 そんな彼女のために、俺はさっそく新治癒魔法の開発に取りかかったのであった。

 現在、俺は治癒魔法が使えないためビビッド兄たちに協力してもらわなければならない。それでも、たゆまぬ研鑽から術式を編み出し図式化することは可能だ。

 それを元にビビッド兄たちヒーラーに行使実験してもらうのだ。


「ふきゅん、そういえばこんなこと久しぶりだな」


 わくわくしている自分がいることに気が付き苦笑する。やはり俺は根っからのヒーラーであるようだ。


 俺は傷付けるよりも癒したい。誰かを倒すよりも助けたい。争いは失うものしかない。そのことをよく理解していた。

 何故なら……俺は魔族戦争の悲惨さを経験しているからだ。


「だから……こんなこと、早く終わらせないとな」


 俺はビビッド兄たちがいる医務室のドアをノックして中へ入ったのであった。

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