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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
485/800

485食目 フィーザント防衛戦

 ◆◆◆ カリスク ◆◆◆


「ははぁ……随分と歯応えのない。これなら五百の兵で十分だったんじゃねぇか? チグサ」


 潮風が頬を撫でる、良い気持ちだ。そして戦場に転がる無数の死体、焼け焦げた人型の何か。やはり戦場はいいものだ。生きている実感を与えてくれる。

 自慢の赤髪のリーゼントはアランのものを真似たものだが、俺は非常に気に入っていた。この天を突くような髪型は、まさに男の象徴と言えるからだ。実に気合いが入る。


「カリスクの悪い癖です、私たちが負けることはアラン様の顔に泥を塗るのと同じなのですよ? 全力で殲滅するべきなのです」


「へへっ、分かってるさぁ……だから、おまえを副官に連れてきた」


「まったく……」


 俺は暴力が好きだ、殺すのはもっと好きだ。

 女を犯すのが好きだ、無抵抗の者をいたぶるのは最高の娯楽だ。

 弱者を苛めるのなんて堪らない。権力者は嫌いだ、弄り殺したい。


 だが……俺は戦うのが一番好きだ、何もかも忘れることができる。


 ラングステン王国侵攻の先鋒を任された俺は副官にチグサ・メルを据えてラングステン王国南方に位置するフィーザントを目指した。

 船はゼグラクトの町で鹵獲した物を使用している。それゆえか木造の物ばかりであり、ラングステンの抵抗にあって四隻ほど沈められてしまった。まぁ、その内に海から出てくるだろう。アイツらは海の中でも活動できるように『強化』されているからな。


「敵部隊は撤退しましたが追いますか?」


 チグサは黒髪ショートヘアーを潮風になびかせながら赤い縁取りの眼鏡を元の位置に戻した。この女はかなり性格はきついが、ベッドの上では可愛い声を出して鳴く。俺のお気に入りの女だ。


「当たり前だ、俺は『切り込み隊長』だぜ? 俺が行かねぇで誰が行くんだよ」


「了解しました、ではカリスクは二千五百を率いて追撃を。私は海に沈んだ兵を纏めて後詰をおこないます」


「おう、よろしくぅ! てめぇら! 狩りの時間だ! 付いてこい!!」


 あぁ……堪んねぇ、鬼になってからは人生が激変した。何をしても力さえあれば許されると分かったからだ。それを教えてくれたアランには感謝しかねぇ。


 それにアイツは俺が最も飢えていたものをくれた。


「へへっ……必ず期待に応えてやるぜ、アラン」


 そうだ、俺が飢えていたものは『仲間』。うわべだけの仲間じゃない、一蓮托生の仲間がほしかったんだ。鬼になればもう後戻りはできない、その覚悟を受け入れた者のみがアランの仲間を名乗れる。

 ヤツは知っていた、苦痛と孤独を。俺が長い間、味わってきた寂しさと飢えを理解してくれたんだ。

 あぁ、そうさ。ヤツは俺以上に悲惨な人生を歩んできた。だからこそ……!


「もう、俺たちの時代なんだ……ぬくぬくと惰眠を貪ってきた連中には退場願わねぇとなぁ?」


 そう、権力を傘にしてきた連中の時代は俺が終わらせる。これからは『鬼の時代』だ! そうだろ? アラン!



 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


「どうやら、リオット隊が撤退を始めたようです」


「ふきゅん、いよいよか……桃先輩、ムセル、状態はどうだ? むしゃむしゃ」


「GDリベンジャーとのリンクは良好、いつでもいける」


 リオット兄の戦闘開始の報告と共に、俺はマジックカードを発動しGDリベンジャーを身に纏った。今回は防腐加工した桃先輩の果実をランドセルに組み込んでの初戦闘となる。

 ムセルには動作サポートを、桃先輩には索敵やエネルギー管理を担当してもらう。


 尚、今俺が食べているのはザインがこしらえた『しおむすび』だ。流石はお米民族、戦前はしおむすびに限る。

 とても塩味がきついのは、戦闘にて大量の汗をかき塩分不足になることを見据えているのだという。


 ふっきゅ~ん、ちょっぱい~ん! でも完食しちゃう、びくんびくん。


「何度も言うが、桃使いの時のような戦いはできない、そこのところを肝に銘じておくんだ」


「分かってるんだぜ、俺の華麗なテクニックを披露してしんぜよう。ふっきゅんきゅんきゅん」


 あれから俺は白目痙攣しながら猛特訓を重ね、実力と自信を取り戻しているのだ。以前までとはいかないが近接戦闘ならば以前とは比べ物にならないほど向上している。

 桃師匠に『これでもか』と基本を叩き込まれ、地べたに這いつくばって白目痙攣したことは無駄ではないことを証明してくれよう。

 それに稽古の最中はいつも雪希と炎楽、うずめが付き合ってくれたのだ。絶対に無様な姿を見せるわけにはいかない。


「ひゃんひゃん!」「うっきー」「ちゅん!」


 桃師匠はどういうわけか、彼女らにも稽古をつけた。そして、彼女らと常に行動を共にするように、とも言いつけられた。その理由は明かしてくれなかったのだが、桃師匠は意味のないことを口走る人物ではない。彼女たちと行動することは、きっと何かしらの理由があるのだろう。


 そして、言っておく……雪希、炎楽、うずめはぶっちゃけ、俺よりも強くなってしまった。どうやら、桃師匠に強化され過ぎたようだ。これには俺も白目痙攣せざるを得なかった。ふぁっきゅん。

 ただし、それは俺がGDリベンジャーを装備してない場合だ。


 GDリベンジャーは対鬼用に調整されてはいるものの、対人にも強力な威力を発揮するのである。まさに隙のない二段構えと言えよう。

 もう何が襲い掛かってきても「ふきゅん」と言わせて「ごめんなしあ」とケツプリ土下座させる勢いだ。


 その操縦技術もGGMグランドゴーレムマスターズを戦い抜いたムセルと、歴戦の兵である桃先輩があってこそなのだが……あれっ? 俺の成分って、いったいどこにいったんだぁ……!?


「リオット隊が本隊に合流! 後続にドロバンス帝国軍! 数二千五百!」


 俺が白目痙攣して存在意義を捜索していると、伝令兵が報告を伝え戦いの時が迫ったことを知らせた。いよいよだ。


「来ましたね……エルティナ、準備はよろしいですか?」


「もちのロンだぜ」


 ここを突破されればフィーザントの町は破壊されてしまうだろう。いくら住人の身の安全が確保されていても生きる場がなくなってしまえば、それは死んでいるのと同じだ。

 護らなくてはならない、彼らの帰る場所を、生きる場所を。


「よし……『モモガーディアンズ』、出撃だ! 鬼どもをぶっとばせ!!」


 俺の号令に雄叫びで応えた戦士達は鬼の軍団に突撃を開始した。先頭は『聖光騎兵団』で編成された部隊だ。先の戦いで命を失った先輩騎士の無念を晴らさん、とする彼らの士気はもう留まることを知らない。


「デュリンクさん! いってくる!」


「指揮は任せてください、ご武運を」


「エルティナ姫! こっちは任せてくれ!」


 全体の指揮をデュリンクさんとラガルさんに任せ、俺はクラスの皆を率いて戦場へと向かう。俺には『本丸』でふんぞり返るという選択肢はない。皆と共に戦うために今まで辛い特訓を重ねてきたのだ。

 それに俺は演説で誓った、最後まで皆と戦うと。その誓いは絶対だ、決して破ることなどない!


「皆……ユクゾッ!」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


 俺は疾風かぜを切って戦場へと飛び込んだ。



 ◆◆◆ トウヤ(桃先輩)◆◆◆


 よもやエルティナの近接戦闘を目撃することになろうとは。基本的にエルティナは種族特性により接近戦に向かない、よって魔法による遠距離攻撃、及び仲間をサポートすることに長けていた。

 そのいずれでもない近接戦闘だ、俺が違和感を覚えるのも無理はないだろう。


『右から鬼接近! 数二!』


「んなろっ! 桃力の弾丸をご馳走してやる!」


 エルティナは俺の報告を理解し素早く鬼を捕捉、手にするヘビィマシンガンが火を噴いた。連射モードで放たれた桃色に輝くエネルギー弾が魔導装甲兵を貫く。


「……!?」


 鬼と化した魔導装甲兵は断末魔の悲鳴を上げることなく、魔導装甲を残して桃色の光となって天に昇っていった。桃力によって呪われた力から解放されたのだ。


 しかし、なんという威力だ、ドクター・モモが自信ありげな態度を示すのも理解できる。だが、それを凌駕するのが左腕に固定装備されたパイルバンカーだ。


『エルティナ、前方に変異種! 数は一!』


「ムセル! サポート頼む!」


『レディ』


 合成音が鳴り、ムセルがサポート体制に入ったことを伝える。これがサブコクピットに新しく組み込まれたコミュニケーションシステムだ。

 GDの挙動をサポートするホビーゴーレムたちは一部を除き会話能力がないためこのシステムの開発は急務となっていた。だが、GD制作で人の手が割けないため開発は遅れていたのだが、ここで制作の協力を申し出てくれた者たちがいたのだ。


 それは、かつてGGMグランドゴーレムマスターズで戦ったブラックスターズの選手、ガイナ、マシュー、オルテナの三人だったのだ。

 更にはホビーゴーレムギルドのフォウロギルドマスターも参加し、極めて早い速度でシステムは完成に至った。

 これにはドクター・モモの助言もあったが、それでも異例の速さだという。


「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ベキベキと音を立てて大口を開いて噛み付きをおこなってくる変異種型の鬼。その姿は最早『人』であったことを完全に捨て去っている。

 その口の中に生えている無数の牙がエルティナを噛み砕かんと迫るも、彼女は極めて自然な動きでそれを回避。その最小限の動きは反撃のチャンスを用意に掴んだ。


「桃先輩!」


『左肩にコア!』


「了解! ぶぁぁぁぁぁぁぁるかんっ!」


 エルティナは牽制として頭部桃バルカンを変異種顔面に向けて発射、桃色に輝くエネルギー弾が炸裂し変異種は怯んだ。

 その隙を狙っていたエルティナは必殺の一撃を叩き込む。


「うおしゃぁぁぁっ! ぱぃんるばんくぁー! ふっきゅぅぅぅぅぅぅっん!!」


 ムセルのモーションアシストによって、変異種の左肩にパイルが正確無比に突き刺さる。そして発射、薬莢がバンカーから排出され、巨大なパイルに貫かれた核が露出する。


「浄化っ!」


 エルティナの掛け声に反応し、大型のランドセルが桃力をパイルを経由して変異種の核に流し込む。桃力を流された核は一瞬にして浄化された。


「ぎぉおおぉぉぉおおぉおぉぉおおおお!!」


 変異種が断末魔の声を上げ、桃色の粒子に姿を変えて天に昇ってゆく。

 変異種は核を潰さない限り活動し続ける極めて厄介な鬼だ。その核を探し出すことも俺の役目である。


「うふふ、壊し甲斐のある玩具ね。ほらほら、もっといい声で鳴きなさいな」


「ぎゃばぁぁぁぁぁぁっ!? あばばばばばばばばばばっ!?」


 効率を考えないのであれば、ユウユウのように徹底的に破壊することも一つの手だ。こんなことが許されるのは彼女くらいなものなので参考にはならない。


 クラスメイトたちは鬼と戦い慣れているのか、実に効率よく鬼たちを退治せしめていた。特に鬼に有効打を与えられるエドワード、ライオット、フォクベルトの三人は獅子奮迅の活躍だ。


 そんな中でも特に成長が目立つのがザイン、ルドルフ殿、そしてエルティナのお供を言いつけられた三匹の獣たちである。


「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ザインの振り下ろした刀が魔導装甲兵を難なく両断した、恐るべき切れ味である。

 彼が手にする家宝の刀が以前とは比べ物にならないほど鬼に対する威力が増していたのだ。理由は解析している時間が無いので分からないが、現状においてかなりの戦力だと判断できる。


 そして、その身のこなしだ。以前のような甘さは消え失せ、抜身の刀のような鋭さと冷たさを感じさせる。最早、彼自身が刀であると錯覚させるほどの覇気を纏っていた。


「はぁぁぁぁぁぁっ……ふんっ!」


 そしてルドルフ殿だ、彼は本当に思い切ったことをする。彼が手にするのは呆れるほどに巨大な『モンキーレンチ』だ。その最大全長は二メートルにも及び、重量は軽く百七十キログラムに及ぶ。しかも、彼はそれを片手で振り回しているのである。あの細身でとてつもない怪力だ、と改めて驚かされた。


 この異形のモンキーレンチの製作者はドゥカン・デュランダ。ドクター・モモの思想に毒されてしまった人物である。


 彼の戦い方は至ってシンプルだ、その重量を活かして叩き潰す。あの質量は『重力フィールド』であっても、そうそう防ぐことは叶わない。現に魔導装甲兵が紙風船のごとく潰されてしまっているのだから。


「レンチっ!!」


 もう一つの機能がモンキーレンチの本来の機能だ。彼はその先端で鬼の頭部を挟み込み、レンチを起動させた。すると鬼の頭を挟み込んだ先端は自動で動き出し、遂には鬼の頭部を押し潰してしまったのである。これも『重力フィールド』では防げない。

 この武器を考え出したドゥカン氏は狂気に憑りつかれているのではないか、と心配になるが強力な武器には変わりがないので黙することにする。


 そして、彼が手にする盾だ。今は改良された鎧の両肩に装備されているが、その内側には『大出力ブースター』が内蔵されている。

 この二枚の盾は彼の意思を拾い、自由に向きを変えることができるのが特徴だ。


「ブースト!」


 その両肩に装着された盾が彼の声に反応して後方に火を噴く。ブースターが作動したのは一瞬であったが、加速に利用するのであれば十分であろう。

 その加速を利用して超質量のモンキーレンチが恐るべき速度で振り降ろされた。


 グシャッ。


 彼に狙われた変異種は断末魔の悲鳴を上げることなく地面と共に肉塊となり果てた。もう行動すらできないほどに叩き潰されれば、それはすなわち退治されているのも同然だ。間もなく、その変異種は漂う桃力によって浄化され、輪廻の輪の中に還っていった。

 更に彼は間髪入れず前方にブーストして後方に飛び退き、攻撃後の硬直を狙った鬼の追撃を逃れる。まさにヒット&アウェイを基本とする戦い方である。


 彼が身に纏っている鎧はGDではなく、もともと彼が身に付けていた鎧にドクター・モモが対鬼用の改良を加えた物だ。

 だが、これは明らかにやり過ぎだと思う。彼の頑強さがなければ、とてもじゃないがまともに扱えない。特に改良を加えたのは、その盾だというが……まともな改良ではないことは確かだろう。


 攻撃力、機動力共に大幅にパワーアップを果たした新たな彼に対して、鬼たちは一方的に叩きのめされていたのである。


「ひゃうぅぅぅぅぅぅぅぅん!」


 フェンリルの子、雪希はその小さな体からは想像がつかないほどの身体能力を備えていた。彼女の攻撃方法は体当りだ。普通であれば、質量に劣る彼女が体当りをしても有効的なダメージは期待できない、と考えるのが一般的だ。それは正しい。


 だが……彼女の体当りは普通の体当りではない、その身に氷を纏わせるのである。その様はまさに氷のロケット弾だ。

 高速で飛びかかり、同時に身に纏う氷をつららの形に形成し鬼を貫く、という方法を取っていたのである。

 その氷の頑強さは魔導装甲を容易に貫いている点からして相当なものだ。使いようによっては強固な盾ともなろう。


「うっきー!!」


 イフリートの炎楽の戦い方は至ってシンプルだ。炎の棒を作り出し相手を打ち付けるというものである。ただし、その棒に接触した鬼はその炎に焼かれ続ける。

 まるで粘着物であるかのように離れず消えない炎は被害者を次々と増やしていった。鬼がその熱さに怯み他の鬼に接触すると、その鬼にまで炎が燃え移るのである。まさに炎のウィルスといった感じだ。


「ちゅん」


 雀のうずめは戦闘には直接参加はしていない。GDリベンジャーの頭部に作られた彼女専用の座席にて、延々と自分に対して『桃仙術』を行使している。


 行使している桃仙術は『治癒霊光ちゆれいこう』という肉体を復活させるものだ。『治癒魔法』となんら変わりないが、消耗するものが魔力ではなく『霊力』という点が大きな違いだ。

 霊力とはすなわち、自身の魂が生み出すエネルギーであり、桃力とは似て異なる力である。


 そしてもう一つ、彼女が行使している桃仙術がある。桃仙術『他傷己受たしょうこじゅ』、これは指定した対象が受けたダメージを半分肩代わりするという非常に危険な桃仙術だ。

 彼女はこの桃仙術をクラスメイト全てに使用し、そのダメージの半分を引き受けていた。並大抵の覚悟では到底このようなことはできない。

 うずめはその小さな体で、皆と共に『戦っている』のだ。


 だが、その大いなる成長を遂げた者たちが霞むような活躍を見せている者がいる。


「そこっ!」


 己の名字を冠するGDデュランダを駆るプルル・デュランダの存在だ。彼女は戦場を縦横無尽に駆け回り、次々と鬼たちを退治していった。

 その戦い方は長年、桃使いたちを見守ってきた俺ですら戦慄するものだったのだ。


「見える……そこっ! 遅いよっ!」


 GDの柔軟性はゴーレムにありがちな可動範囲の制限を取り払っている、そのため彼女の動きは非常に滑らかであり、また空中にてブースターを使用することにより三次元的な戦闘を可能としていた。

 この未知の戦法に鬼たちは誰一人として着いてくることができず、一方的に撃破されていったのである。


 だが、そのプルルを根底から支えているのは、桃師匠が彼女に仕込んだ『戦闘技術』にあった。遠距離からの魔導ライフルによる射撃、近接においての魔導光剣。

 それらも使えないほどに接近されれば、相手の膝目掛けての蹴りで膝を破壊し、転倒したところに魔導光剣を突き刺して止めを刺す。その一連の行動を彼女は淀みなくおこなうのだ。

 情け容赦などまったくない、まるで桃師匠の生き写しのような戦いぶりに背筋が凍る。


『デュリンクさん! 戦況はっ!?』


 ここでエルティナが『デュリンク軍師』に連絡を入れた。戦況が気になるのだろう。俺も桃使いとリンクしない状態では広範囲の情報収集は不可能なので、現在は彼の魔法が頼りだ。


『現在は均衡を保っております。このままでは数に劣る我らは不利になりますね』


『何か切っ掛けがいるな……分かった、ありがとう!』


『無茶はしないで下さいね』


 この状況下で均衡を保つということは余程優れた指揮をおこなっているということだ。質、兵数共に相手が上回るというのに、それを微塵も感じさせない。恐ろしい男がこちらに就いたものだ。


『それで、何か考えがあるのか? エルティナ』


「あぁ、あそこに目立つ旗があるだろ? あれ絶対に敵の大将だ」


『恐らくはな……腕に自信があるのだろう』


「うん、だから……敵大将にカチコミをかける」


『ふむ……は?』


 俺の聞き間違いであろうか? 彼女はこの乱戦の中、敵の司令官を討つと言ってきたのだ。どうか聞き間違いであってほしい。


「ムセル! 敵の大将のケツに『ぱぃんるばんくぁー』をぶち込んで差し上げにユクゾッ」


『レディ』


『レディ、じゃない! 正気か、エルティナ!?』


「均衡を崩しに行くだけさ、別に討ち取れなくてもいい」


『おまえは……』


「ついでに討ち取れればもっといいけどな! おいぃ、みんな! 敵の大将をボコりに行くぞ~!」


「「「わぁい!」」」


 この子供たちは……まぁいい、今に始まったことではない。この子たちが纏まった時、その突破力は並みはずれて高くなる。寧ろ、この『矢』を敵の心臓に叩き込むのも悪くはないだろう。


「はい、お邪魔するわよ」


 足の遅いユウユウ・カサラがGDリベンジャーのランドセルに乗ってきた。このGDはランドセルが大型化しているので余裕を持って乗ることが可能だ。ただし、人が乗ることを想定していない。


「ふきゅん!? ユウユウ閣下! 重量おー……」


「うふふ?」


「ナンデモナイデス、ハイ」


 圧力に屈して「ふきゅん、ふきゅん」言いながら大地を疾走する。流石に速度は落ちるが止む無しだろう。今度、ドクター・モモにユウユウ・カサラ用に乗りものを作ってもらうのもいいかもしれない。


 俺たちは均衡を崩すべく敵司令官の下へと殺到した。

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