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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十一章 The・Hero
482/800

482食目 炎の紋章

 ◆◆◆ デュリーゼ ◆◆◆


 噴水の裏手に転移を果たした私たちは特殊魔法〈カムフラージュ〉で、その姿を隠した。

 演説には演出も必要になってくるのである。そのため、我々はエルティナの演説の進行状況に合わせて華麗に登場する予定となっていた。

 もっとも、予定だったのは私だけなので、他の三人の白エルフが登場すれば彼女も驚くことだろう。

 大賢者と称される私と白エルフが三人も現れれば、否応なしに戦意、そして感心が向上するはずだ。


 噴水広場に集まっているのはモモガーディアンズのメンバー、そして何事かと集まった多くの町民たちだ。その中には多くの冒険者たちも混ざっていた。


 実は民衆が多く集まったのにはカラクリがある。それは特殊魔法〈チャーム〉を極微弱にモモガーディアンズに付与し町中を歩かせた後に、この噴水広場に集合させたのだ。

 この魔法に惹き寄せられた町民が無意識のうちに、ここに誘導されるという仕組みである。


「エルティナちゃんは何を始めようとしているんだろうかねぇ?」


「もう危ないことはしないでほしいもんだが……」


 エルティナは聖女の座を失って、尚も町民には受け入れられていた。そこかしこで彼女の身を案じる声が聞こえている。これも彼女が築き上げてきた信頼というものであろう。


「ふきゅん、そろそろ時間だな。始めるとすっか」


 広場に設置されたスピーチ台に、赤色と黒色そして金色の装飾を施された見事なドレスを着込んだエルティナが登場すると、ざわつく噴水広場が一気に静寂に包まれた。そしてエルティナの演説が始まる。


「今日は志を共にする同士諸君に集まってもらったのは他でもない、暴挙を繰り返すドロバンス帝国がラングステン王国に侵攻を開始した、との情報を入手したからだ!」


 ざわ……ざわ……。ざわ……ざわ……。


 野次馬としてこの演説を聞きに来ていた民衆がざわつき始めた。これは王宮が町に知らせるよりも早い情報だからだ。

 ラングステン騎士団がドロバンス帝国に敗北したという記憶はまだ新しい。その帝国がラングステン王国に攻め入ってくるというのだから民衆の動揺も頷けるというものだ。


「ラングステン騎士団は先の戦いでその戦力の半数以上を失い、最早この国を護ることは困難である!」


 それもまた周知の事となっていた。王宮からはその事実を公開してはいないが、民衆はそれを察しており今尚、騎士団が再編成しきれていないことを危惧していたのである。

 その事実をエルティナが突き付けたことにより、更に民衆は動揺を深めてゆく。


「我々はこのまま、帝国によって愛する国を! 町を蹂躙されてもいいのか!?」


 エルティナは少しばかり大袈裟に身体を使ってジェスチャーをおこなっている。その目立つ衣装と相まって演説の効果は絶大なものとなっていた。

 演説はとにかく目立ち、そして自信をもっておこなわなくてはならない。弱気でおこなうものではないのだ。


「答えは否! この国には! この町には! 護るべき尊い人々が大勢いる!」


「でも騎士団はもう……!!」


 野次馬の一人が声を張り上げた。この訴えは想定内。


「そう、騎士団の再編成には今暫くの時間が必要だ! だが、その時間は既にない!」


「じゃあっ! どうするんだよ!?」


「そうだ、そうだ!」


 ヤジを飛ばす民衆は特に戦う力が無い者ばかりのようだ。露店街で店を営む元冒険者たちや力ある者たちは黙してエルティナの演説を聞いている。


「ここに集った者たちに、今一度聞く! 諸君らは、このまま帝国に愛する国を、町を、大切な人を蹂躙されてもいいのか!?」


「う……」


 ヤジを飛ばしていた町民はエルティナの気迫に押され言葉を失った。今の彼女の言葉には確かな力がある、その訴えには必死さがある。それはすなわち覚悟の量の違い。

 ヤジを飛ばしている町民には、まったくそれがない。それでは今のエルティナをやり込めることなど、できようはずがないのだ。


「ドロバンス帝国は投降を決して認めはしない! それはミリタナス神聖国が受けた侵略で証明されている! ではどうするべきか!? 我々に残された選択は二つ!! 滅亡を受け入れるか、戦って未来あすを掴み取るかだ!!」


「そ、そんなものは強者の弁じゃないの!!」


 そうヤジを飛ばした女性はその後に「あ……」と声を漏らし口を抑えて泣きそうになっていた。

 それもそうだろう、その強者の弁ともとれる言葉を、能力を失いこの町で最も弱いであろうエルティナが発していたのだから。

 彼女はその弱者が国を護るため、愛する者を護るために立ち上がろうとしている事実に気が付いたのだ。


「そう、これは強者の弁だろう。だが……皆さんが知ってのとおり、私はその能力の全てを失った! 敢えて言おう、私は誰よりも弱者である!」


 エルティナは言った。この場に集まった全員に聞こえるように、自分は弱者であることを伝えたのである。それはこの町の住人であれば知っていることであった。

 自分を弱者であると認めることが、どれほどの勇気を必要とすることか。それを理解したのか、ヤジを飛ばしている者はどんどんと少なくなってゆき、黙してエルティナを見守るようになってゆく。


「だからこそ、こうして皆さんにお願いにやってきた! 愛する国を! 町を! 人を護るために、どうか力を貸していただきたい!! このエルティナ・ランフォーリ・エティルに!! 皆さんのお力を、どうかお貸しいただきたい!」


 エルティナは集まった者たちに頭を垂れた。その姿はかつて自信に溢れて行動していた彼女とは結び付け難い。

 エルティナは人に貸しを作ることがあっても、借りを作ることは極めて少なかった。人を救うことを第一に行動していた彼女らしい出来事だ。

 ゆえに借りを返したい者が多くいるという事実、私はそれを期待して彼女に演説をおこなわせた。


 なんとも浅ましい策だと思う。だが、私は形振りを繕うつもりも余裕もない。鬼と戦うとはそういうことなのだ。全力を尽くして尚も負ける……それが鬼との戦いなのだから。


「……」


 沈黙、誰しもがお互いの顔を見合わせ返答に困っていた。だが、流れはこちらにあると私は確信していた。顔を見合わせるということは力を貸すことを少しでも考えているからだ。


「話は分かった! 俺たち露店街の住人はエルティナに全面協力を約束する!」


 事態は間もなくして動いた。長らくエルティナとの絆を深めていた露店街の住人たちが協力を申し出てくれたのである。だが、これは想定内のこと。


 ここで町民たちがざわつき始めた。この噴水広場に武装した集団が大挙してやってきたのだ。身形からしてフィリミシアの冒険者の集団だと思われる。

 彼らはエルティナの前までやってくると胸を張り堂々と宣言した。


「俺たち『フィリミシアの冒険者』三百七十六名はエルティナ・ランフォーリ・エティルに持てる力を全て捧げる!!」


 どうやら彼女は燻ぶり続けていた者たちの説得に成功していたようだ。流石はエルティナといったところだろう。

 私は彼女から協力者については何も聞いていない。これは敢えてである。期待した戦力が後になって当てにできなくなった時の落胆は士気に影響を与えるからだ。主に私のやる気に直結するのである。


 この冒険者たちの参加は大きい。彼らが今まで燻ぶり続けていたことは民衆も知っていた。そんな彼らがエルティナに命を預け戦うと宣言したのだ。このことで町民の表情に変化が表れ始めた。


「マジかよ……あの飲んだくれどもが!? これって緊急クエストかよ!?」


「マジで!? じゃあ俺たちも参加した方がよくね?」


 フィリミシアの冒険者の参戦により、たまたまこの町に来ていた他国の冒険者たちの関心を引くことにも成功していた。これで冒険者の参加数が更に増加するだろう。


「お、おいっ! あれはなんだ!?」


「えっ!? あれは……騎士? 騎士の一団がこっちへ向かって来ている!」


「でもラングステン騎士団じゃないぞ? いったいあの騎士たちは……?」


 町民たちが噴水広場に登場した騎士の一団に驚きの声を上げた。騎士たちはそんな彼らに目もくれずエルティナの眼前までやってきて、そのフルフェイスヘルムを取り外し素顔を晒した。

 その素顔は幼さが残る少年少女のもの、その事実に町民たちは声を失った。自分達よりも遥かに年下の彼らがこうして志願兵を願い出に来ていたのだから。


「全員、気を付けっ!」


 ガシャンと音を鳴らし姿勢を正す。一糸乱れぬその行動に彼らの本気さが理解できた。

 そして見事な装飾が施された白銀の鎧に身を包んだ少年騎士たちが堂々と名乗りを上げる。


「ミリタナス神聖国『聖光騎兵団』団長代理ミカエル・ムウ・ラーフォン、以下百二十三名! エルティナ・ランフォーリ・エティル様に身命を捧げるべく参上いたしました! この命……いかようにもお使いください!!」


 彼らはエルティナに対して臣下の礼をおこない忠誠を誓った。彼女は既に聖女ではない、その彼女に彼らは聖女におこなうべき礼を行使したのだ。


 どよめきが一気に膨れ上がる、そして私たちの興奮も一気に高まっていった。エルティナの持つ求心力は能力が失われても、いまだ健在であったということに。

 確かに彼らは若輩ばかり、だが……磨けば光る玉だ。否応無しに期待が高まるというもの。


 だが、これで終わりではなかったのだ。騎士たちが道を開けると、そこを歩いてくる一人の少女姿があった。


「え……あ、ああっ!? うそっ!? あの方はっ!」


「おい、冗談だろっ!?」


 圧倒的な力強さを微塵も隠すことなく、そして誇るがのごとく、威風堂々と少女はエルティナの前まで歩を進め、そして……臣下の礼を取ったではないか。


「僕はミリタナス神聖国の『勇者』サツキ・ホウライ。立ち上がりし者、エルティナ・ランフォーリ・エティルに忠誠を誓うことを、ここに宣言いたします」


 三大勇者の一人までをも動かすという事実。最早、人々は驚愕を隠すことができなかった。勇者一人で国家戦力を賄える、とすら噂されるのだ。

 最強の勇者『タカアキ・ゴトウ』は首都の護りとして動くことはないだろう。だが、ミリタナスの勇者サツキは別だ。彼女の護衛対象は教皇なのだから。

 その彼女が教皇ではなくエルティナに就くという事実。それは彼女が教皇よりも優先される存在であるという証。いよいよ町民たちはエルティナを見る目を変えていった。


『デュリーゼさん……マジかよ!? うちの姫様はいったい何もんなんだ!?』


 これにはラガルも興奮を抑えられずに私を問い質してきた。無理もない……長い間、彼女を見守ってきた私でさえ、彼女の秘めたる力をこうして思い知らされたのだから。


 さて、ラガルにエルティナが何者か、と聞かれたが私にはこう答えることしかできない。


『何者ですか……先ほど勇者サツキが言ったとおり「立ち上がりし者」なのでしょう』


 我らの驚愕は終わることが無い、次々と集う戦士達に圧倒され続けた。その中でも異質な集団が噴水広場に集い注目を集めている。


「……お待たせ、エル。スラム地区から戦える者を集めてきたわ」


「ヒーちゃん、それに……ギド親分!」


 黒エルフの少女が連れてきた戦士達は身形こそみすぼらしいが、いずれも腕に覚えのありそうな者たち。そんな中にあって異質の存在……そう彼らは犯罪に手を染めていたであろう者たちだ。


「あれから、皆で話し合った」


「ギド親分……」


 筋肉の塊とも言える巨躯の漢。左目は眼帯で覆われ小汚いあご髭を蓄えている。睨むだけで人を殺せそうな鋭い目つきが印象的だ。


「エルの嬢ちゃん、俺たちゃあ犯罪者だ。どうしようもねぇ、クソッタレどもさ。捕まりゃ打ち首だ。ここを逃げ出して他の国に逃げ込んでも何も変わりやしねぇ、いつか捕まって死を待つばかりだ」


 ギドと呼ばれた巨漢の言葉に頷くのは、彼同様に罪を犯しここに流れ着いた『ならずども』たちだ。恐らくは彼に従っているのだろう。

 彼にはそんな彼らを従わせるほどのカリスマを持っているという証だ、と判断することにした。


「そんな俺たちが、今の今まで生きて来れたのは他でもねぇ、あんたと温情を掛けてくれたラングステンの王様のお陰さ。知ってるんだぜ? ここの王様はとんでもねぇ、お人好しだってことはよ」


 ならずどもたちは下品な笑いを撒き散らす。実に品性が無い笑い方だ。だが、そんな中にも覚悟が見て取れるのを私は見逃さなかった。


「だからこそ、同じ死ぬんだったら……あんたたちのために死にてぇ! 道端の糞みてぇな俺達だが、使ってやってくれねぇか!? このとおりだ!」


 たかが、ただのならずものども。されど、ここに集まったならずどもたちは『等しく』戦士であった。このような犯罪者たちまでも惹き付けるのか……エルティナは。


「こちらこそ、よろしく頼むよ、ギド親分! 皆!」


 改めて知るエルティナという少女の秘めたる可能性、なまじ能力を失ったがゆえの才能の開花といえようか。

 人を惹き付け集める、という選ばれし者しか持つことができない能力に。


「わんわん!」


「あ、とんぺー……わぁお」


 とんぺーと呼ばれた白い犬……いや、アレはホワイトファングか、それに付き従ってやってきたのは無数の動物達だ。いったいどうなっているのだ? まさか戦争に参加するつもりなのだろうか。判断に困るところだ。


「ひゃんひゃん!」


「あ、雪希」


 私が判断に難儀していると、水色の毛玉のような生物がエルティナに飛びついた。そして、その後ろから歩いてきた騎士は確かに彼であった。


「ル、ルドルフさん」


「久しぶりですね、エルティナ」


 ルドルフ・グシュリアン・トールフ。エルティナが聖女であった時の護衛を務めていた騎士である。彼女が聖女を辞した後は静養のために警護から離れていた。その彼がこの場に姿を現したのである。


「エルティナ・ランフォーリ・エティル、引き続き、私は貴女のために我が剣を捧げましょう」


「で、でも……俺はもう聖女じゃない」


 エルティナは彼の言葉に首を振るも、彼は穏やかに微笑みこう続けた。


「忘れたのですか? 私は自由騎士です。自分が信じた道を進むことを許された存在。きっと陛下も、この時のために私を自由騎士に据えたのでしょう。だから……これからもよろしくです、エルティナ」


 その力強い言葉にエルティナは人目はばからず涙した。


「ありがとう、ルドルフさんっ! こちらこそ、よろしく頼むよ!」


「ひゃんひゃん!」


「あぁ、雪希もよろしく頼むっ!!」


 エルティナは確かに多くのものを失った、それは確かだ。だが、それを穴埋めするかのごとく、多くの力が彼女の下に集結しようとしている。これは彼女が持つ引力に相違ない。


『そろそろ頃合いですね、ザインとサクラン姫は間に合わなかったようですが仕方がないでしょう』


 私たちはエルティナの下へと転移した。噴水の脇からこそこそと歩いて出てゆくのは情けないからだ。これはエルティナの晴れ舞台、であれば我々も演出には気を遣わなければならないのである。


 光と共に姿を現した私たちを見て、戦士達と民衆は目を見開いて驚愕の表情を見せてくれた。これくらい驚いてくれれば、私たちも演出に凝った甲斐があるというものだ。


「エルティナ、機は熟しました」


 私は静かにそう告げた。

 そう、機は熟したのだ、長い長い屈辱の時を耐え忍び、我ら白エルフの逆襲がここに始まるのだ。彼女たちと共に。


「だ……だ、だ、だ、大賢者デュリンク様だっ!!」


「え、うそっ!? あちらの方は聖翁バッハトルテ様!?」


 時が止まったかのような様子は暫しの時を経て再び動き出し、今度は濁流のごとき騒めきとなった。


「き、筋肉番長バージェス様まで!?」


「えーっと……取り敢えず、可愛い白エルフの子がいる!」


 ラガルは殆ど外界で活動していなかったのか、知名度が低過ぎて名前も覚えてもらえてなかったようだ。

 というかバージェス……おまえはどういう内容の活動をおこなっていたのだ?


「デュリンクさん!? それと……ふ、ふきゅん!? 白エルフだぁ!」


「ふふ、彼らが生き残った同胞です、聖翁バッハトルテ、筋肉だるまバージェス、さぼり魔のラガルです」


「「待て、待て! なんだ、その紹介は!?」」


 ふん、おまえたちなど、これで十分だ。


「ほっほっほ、真面目に活動せんから、そう言われてしまうのじゃよ。ワシがバッハトルテじゃ、白エルフの姫よ」


「ふきゅきゅん!? お爺ちゃん白エルフっ!? ど、どういうことなんですかねぇ?」


「詳しくは後ほど説明いたします。エルティナ、演説の仕上げを」


 私の促しに彼女は頷き、再び皆に向かって演説を開始した。


「ありがとう、ここに集いし戦士達よ! 私は誓おう、最後の最後まで皆と共に戦うことを!」


 彼女は右腕を天に突き上げ、そう宣言した。その瞬間のことだ、彼女の赤い義手から勢いよく炎が噴き上がり、空を燃やし尽くすがごとく広がったではないか。

 その光景を見て、驚きのあまり腰を抜かす町民が多数発生した。私も少しばかり驚いてしまう。不覚。


「ふきゅん!? ふきゅん!? ふきゅん!?」


 だが、一番驚いていたのはエルティナであった。どうやら、自分の意思で出したものではないようだ。


「そ、空が……あ、あれはっ!?」


 誰かが言った、空に燃え広がる巨大な炎があると。

 誰かが言った、あれは『炎の紋章』だと。


「……あれは、クラークの盾に刻まれていた紋章じゃないか」


 リザードマンの少年が空を燃やす炎の紋章を見て涙をこぼした。その手の盾には、炎の紋章と同じ『ブレイブファルコン』の紋章が刻まれている。


『ブレイブファルコン』は己よりも強大な敵に対しても勇敢に立ち向かうことから、そう名付けられた隼である。それはいつしか勇気の象徴として扱われ、家紋として刻まれることが多くなった。


 大空で翼を広げるブレイブファルコンの紋章はその炎と相まって、まさに『フェニックス』のようだ。死しても炎と共に蘇る……まさに我らのシンボルに相応しいではないか。

 その紋章を見て何が起こったのかを理解したエルティナは落ち着きを取り戻していた。その顔に穏やかな頬笑みを浮かべて。


「チゲ、クラーク、おまえたちも力を貸してくれるんだな……ありがとう」


 エルティナは大粒の涙をこぼしていたが力強く笑っていた。そして、演説の最後を締めるべく私に振り返る。


「デュリンクさん!」


「えぇ、いいですとも」


 私は彼女の声を風の魔法に載せてラングステン王国、いや、世界全土に向けて流す。この時のために開発したとっておきの魔法だ、必ず成功させてみせる。


 聞くがいい、世界に散らばる勇士たちよ。これが汝らを導く英雄の声だ。


「聞けっ! 勇気ある者たちよ! 我が名はエルティナ・ランフォーリ・エティル! 今、この世は世界を食い尽さんとする邪悪に脅かされている! その邪悪を打ち払わんとする勇気があるならば……集え!『炎の紋章』の下へ!! モモガーディアンズの下へ!! 我は汝らと共に戦えることを切に願う!!」


 風に彼女の力強い声と共に、世界が迎えている危険な状況も風に載せて流す。この危機的状況を理解できる者ならば、きっと加勢に来てくれるはずだ。


「やるぞ、皆……鬼退治だ!!」


「「「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」」」


 集いし者達は腕を炎の紋章に向かって突き上げ雄叫びを上げた。それは鬼を打ち払わんとする軍団の結成を意味するものだった。

 真の意味で鬼退治の軍隊『モモガーディアンズ』が結成されたと言っていいだろう。


 ここにエルティナの逆襲は始まろうとしていた。

 何度、倒れようとも立ち上がる不屈の闘志を持ちし者……彼女と鬼を巡る本当の戦いが今始まろうとしていたのだ。

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なんかあの国も来そうやな
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