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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十章 激震する世界
462/800

462食目 黒い風

『帝国部隊接近! 西と東より三部隊!! 迎撃できる者はいるか!?』


 桃先輩の援護要請が陽動部隊に送られる。ここに至っては陽動部隊も相当に消耗が激しいはずだ。


『……西は任せろ』


『なら東は僕たちに任せてもらおうか』


 この要請に応えたのはブルトンとエドワードの部隊だ。彼らなら、なんとかしてくれることだろう。

 俺たちはとにかくミリタナスの民を脱出ポイントへと誘導し、いもいもベースに搭乗させなくてはならない。


『もう少しだ! 脱出ポイントが見えてきたぞ!』


 桃先輩がいうとおり、ダナン達が待つであろう脱出ポイントが肉眼で確認できた。だが、事はすんなりとは運ばない。

 なんということでしょう、帝国兵が脱出ポイントへの道をご丁寧にも封鎖しているではありませんか。


「最後の最後まで邪魔をする連中だな!」


 シーマが悪態を吐く、それは俺も同じ思いである。道を塞ぐ帝国兵は三名、部隊からはぐれたのか他の兵士は倒されてしまったのかは定かではないが、今の俺たちではとにかく厄介な相手だ。

 おならで吹き飛ばそうにも、もう出ないのでどうしようもない。今度きばったら、うんうん先生が登場してしまう。それだけは、なんとしても避けたいところだ。


「コウゲキヲ、カイシシマス。コウゲキヲ、カイシシマス」


 帝国兵が俺たちにターゲットを定めて攻撃体勢に入ったその時、破裂音が聞こえ帝国兵の頭部を何かが貫いた。

 俺は破裂音のした場所を瞬時に特定、その方角を向くと焼けて黒焦げとなった木の枝に陣取り、スナイパーライフルを構えるムセルの姿があったのだ。


 頭部を撃たれた兵士はピクリとも動かない。まさか、スナイパーライフルで重力フィールドを貫けるとは……ドクター・モモはとんでもない魔改造を施していたようだ。


 続いて二度の破裂音。一つは兵士の左肩、もう一つは兵士の右腕に命中し、最初の兵士同様にピクリとも動かなくなった。いったい、どういうことだろうか?


「にゃ~ん」


 その隣にいるのは頭の上で咲く桃色のタンポポが綺麗な猫型ホビーゴーレム、ツツオウだ。

 ムセルとツツオウはハイタッチをして戦果を称えあっている。


『なるほど、個人で制御装置の位置が違うのか。ツツオウはその場所を感知してムセルに伝えていたのだろう。なんという敏感で繊細な察知能力だ』


 ツツオウの意外な能力が発覚して驚くが、その指示に従って正確に撃ち抜くムセルも驚異的だ。

 これで脱出ポイントまでの障害はすべて取り除かれた。後は陽動部隊を回収して脱出するのみとなる。


「脱出ポイントに到達! って、うわわわっ!?」


「ふきゅん!? おごごごごご……! このタイミングで変身が解けるとか、明らかに狙ってるだろ」


 脱出ポイントに到達した瞬間に珍獣化が解けてしまった。俺はシーマに抱えられて移動していたので、急に重さが戻って彼女が支えきれなくなり、共に大地に熱いキッスを捧げてしまったのである。


「酷い目に遭ったんだぜ」


『災難だったな。ダナン、ララァ、いもいもベースを出す。こちらに来てくれ』


『『了解』』


 俺はマジックカードを取り出し、いもいもベースを召喚する。すると、たちまちの内に芋虫型の巨大陸上戦艦がその雄姿を見せたではないか。


 いもいもベースはいつ見ても勇壮無比であるな!


「こ、これは……いったい!?」


「ままー、でっかい、いもむしぃ!」


 流石に初めて見る者たちは、いもいもベースの威容に呆気に取られているようだ。まずは俺たちが、いもいもベースの尻から搭乗し艦橋へと向かいシステムを起動させる。


「……メインシステム起動……システムオールグリーン……側部搭乗口を開放……」


 ララァが手早くシステムを起動させて側部搭乗口を開放すると、いもいもベースの装甲の一部がスライドし、階段が地上目掛けて降りてゆくではないか。

 しかも、その階段はエスカレーターであり、体力が尽きた者でも自力で搭乗できるものであった。

 流石、ハイテクを惜しげもなく詰め込んだだけのことはある。


『ドクター・モモは本来、搭乗にショートワープ方式を採用したかったらしい。ただ、いもいもベースとのシステム相性が悪かったため、見送ったそうだ』


 なにそれ怖い。もう一段上のハイテクが既に確立しているとは思わなかった。


『市民の乗り込み完了まで帝国兵を近付けさせるな! 動ける者は周囲の警戒に当たれ!』


 桃先輩の指示に応えるシーマ隊とムセル。そこにルドルフさんたちとフォクベルト、ガンズロック隊が合流し守りは強固なものへとなってゆく。


「桃先輩、一番遠くで陽動してくれている部隊はどうなっているんだ?」


「現在、こちらへ向かって移動中だ。ヴァン隊は早々に見切りをつけて移動を開始していたから、もうすぐ到着するだろう。ヒュリティア隊もヴァン隊同様に道に細工を仕掛けて移動している。こちらも、もうすぐ到着すると思われる」


 どうやら魔導装甲に苦戦していたヒュリティア隊とヴァン隊は戦闘継続困難と判断し、早い段階で妨害工作に転じていたようだ。その結果、脱出ポイントに近付くことになりスムーズに合流できる事となったみたいである。


「ただフォルテ隊が少しばかり遅れているが……まぁ、彼らなら大丈夫だろう」


「ふきゅん、地味に強いからな、フォルテ副委員長」


 彼こそが「戦いは素質ではない、ということを教えてやる!」という言葉が具現化したような存在である。

 彼の素質はオールCという平々凡々なものだ。だが、その戦闘能力たるやユウユウ閣下を推して、驚異的と呟かせるほどだ。

 どうやらユウユウの父親と戦い方が似ているそうだが……まさかな。


「おん、おん!」「にゃ~」「チュ、チュ!」


 ぞろぞろとビースト隊が艦橋へとやってきて無事な姿を見せた。彼らの役割は遊撃隊だ。主に帝国兵の攪乱を担当してくれていた。

 中でもぶちまるは、その規格外の戦闘能力を持って数名の帝国兵を戦闘不能にしているのだから大したものである。


「よく無事に帰ってきたな。えらいぞぉ」


 魔力を供給してなければ思いっきりなでなでしてやるところだが、生憎とエネルギーは八十パーセント程度の充填である。

 このままでも即時発進できるが、俺は満タンにしてから発信したいタイポなので、きっちりと注ぎ込む。


 ここで、ヒュリティア隊とヴァン隊が合流し、市民の誘導の手伝いを始めた。これにより、いもいもベースへの収容は加速する。


『各部隊は本隊合流に向かえ! もうすぐ市民の収容が終了する! 合流ポイントはここだ!』


 桃先輩の指示からそろそろミリタナスの民の収容が終わるようだ。長いようで短かった作戦もいよいよ大詰め。皆と勝利の喜びを分かち合うためにも、なんとか犠牲者が出ないことを祈るばかりだ。


『ジャック隊、合流! おら、わけぇのは先に芋虫に入ってなぁ!』


『エドワード隊、帰還。いもいもベースの防衛に当たる』


『……ブルトン隊だ。同じく脱出ポイントに到達した。援護に入る』


 次々に合流する陽動部隊。後はガッサーム隊とフォルテ隊のみとなった。

 

『市民の収容は完了した! ガッサーム隊、フォルテ隊はどうか!?』


『あぁ、でけぇ芋虫が見えてるよ!』


 どうやらガッサームさんたちは間に合いそうだ。お、見えた見えた。

 数名負傷しているみたいだが、それでもやたら元気なおっさん達の姿に安堵する。


『フォルテです。メルシェたちを先に向かわせました。到着し次第、発進してください』


『きみはどうするんだ!?』


『大丈夫です、間に合わせますので』


 フォルテ副委員長は、どうやらメルシェたちを安全に合流地点へ向かわせるために殿を務める気らしい。いくら、彼が強者であるといっても、たった一人で殿を務めるなど無謀だ。なんとか思いとどまらせることはできないだろうか。


「心配そうね? 大丈夫よ。寧ろ、護る者がいない方が彼らしく戦えるわ」


 艦橋に現れたのは全身を真紅に染め上げ、優雅に微笑む深緑の髪を持つ少女、ユウユウ・カサラであった。


「このモニターも彼の戦う姿を映し出すことができれば満点をあげられるのだけどもね」


「現在は無理だ」


「うふふ、それは残念。それじゃ、シャワーを浴びてくるわ」


「了解した。シャワールームの場所は分かるか?」


「えぇ、もちろん。真っ先に調べておいたわ」


 ユウユウは言うだけ言うと、大きな尻をフリフリさせながらシャワールームへと行ってしまった。いったいなんだったのだろうか?


「彼女なりの優しさといったところか」


「ふきゅん、乙女心は分からないんだぜ」


 フォルテの連絡から六分後、メルシェ委員長たちが合流し殿を務めているフォルテ以外の全員がいもいもベースへと帰還を果たした。

 負傷者は延べ六十七名、うち重傷者は二十四名、重体は三名。だが、生きて帰ってきたのであれば重体だろうがなんだろうが完治させることが可能だ。


 チユーズ、ひとっ走りして重体の患者を診てやってくれ。


『うおー』『まかせろー』『このときの』『ために』『おれたちは』『いるー』


 勇ましく飛び出してゆく治癒の精霊たち。見た目は可愛らし幼女なのに俺に似てしまったがために、やたらと男らしくなってしまっている。なんとか女の子らしくさせてやりたいものだ。


 はっ、これが親心というものなのだろうか?


『ならば、おまえが女らしくならねばな』


 あ、それ絶対に無理。


『まったく、おまえというヤツは……まぁいい、いもいもベースを発進させる』


『おいぃ……フォルテ副委員長がまだなんですがねぇ?』


 そう、彼がまだ合流できていないのだ。ソウル・リンク・パラメーターでは彼の死亡は確認されてはいないが、結構ギリギリの線をいっている。このまま置き去りにしてしまえば、絶対に彼は助からない。


『フォルテの言葉を信じろ。彼が自分の大切な者を残して死を選ぶわけがなかろう』


『ふきゅん、それは、そうだけど……』


『部下を、そして友を信じることは将として必要不可欠だ。今は大丈夫でも非情な決断を迫られる時も出てくる』


『……分かった。俺はフォルテ副委員長を信じる』


 魔力の充填は既に完了している。後は出発を待つばかりとなっていたのだ。外で防衛に当たってくれていたジャックさんとガッサームさん、ブルトンとガンズロックたちをいもいもベースに帰還させ、遂にリトリルタース脱出となった。


「……ききき……進路クリアー……発進どうぞ……」


『いもいもべーす、はっしんだよ! はっしんだよ!』


「了解、いもいもベース、発進します」


 ゆっくりと、いもいもベースが動き出す。沢山の足が忙しなく動き、悪路を物ともせずに前進を開始したのである。


 そのいもいもベースに追いすがってくるのはホバー移動をする帝国兵だ。攻撃魔法を乱射してくるも、いもいもベースの重装甲はそんな物では貫けやしない。


 ドクター・モモいわく、俺の〈イフリートボム〉を二十秒耐えることができるそうだ。つまり、山を軽く吹き飛ばすほどの爆発に耐えることができるらしい。


 ただし、ぽんぽんは装甲が薄いので要注意とも言われている。脆い部分を一斉に攻撃でもされたら、あっさりと撃沈されかねないとのことだ。


「エルティナさん! フォルテは!?」


「ふきゅん、メルシェ委員長。フォルテ副委員長はまだ来ていない」


「そ、そんな!? 待つことはできないんですか!?」


 メルシェ委員長が慌てて艦橋にやってきた。彼女の衣服はボロボロになっていて戦闘の激しさを物語っている。特に下半身、お尻の破れ具合が激しいことから、そこを集中攻撃されたに違いない。

 なんといっても、面積が段違いだからな。


「残念ながらそれはできない。帝国兵も追ってきている」


「で、でもっ!」


 桃先輩の非常とも言える通達に彼女は目に涙を浮かべた。


「大丈夫、フォルテ副委員長を信じろ。間に合わせるって言ってたぞ」


「エ、エルティナさん……」


 メルシェ委員長の目に浮かんだ涙が、いもいもベースに伝わる振動でこぼれた。この衝撃は魔法によるものではない。


「うぬ、連中め。魔法では効果がないと見て実弾兵器を使用してきたな」


「魔法は防げても実弾兵器は無理なんだぜ」


 恐れていたことが起こった。遂に帝国兵が実弾兵器を使用してきたのである。いもいもベースは攻撃魔法にはめっぽう強いが、実弾兵器を使用されると装甲の材質だよりとなってしまう。

 非常に強固ではあるが、それにしたって限度というものがある。立て続けに攻撃を受ければ蓄積したダメージで一気に装甲が破壊されかねない。そうなるといもいもベースは脆い部分を露出してしまい、結果として撃沈させられてしまうのだ。


「トウヤさん、迎撃兵装ってないんスか?」


「急ぎだったもので未装備だ。予定としては地対空ミサイルと機関砲を装着予定だったのだがな」


「丸腰じゃあ、逃げるしかないですね」


 とは言ってもトップスピードに至るまではまだ暫くの時間が必要だ。どんどんと衝撃が強くなることに焦りを感じるのは必然と言えよう。


「……いもいもベース……左舷被弾……走行速度二十パーセント……ダウン……」


「ふきゅん、桃先輩。なんとかしないと、いもいもベースがやられちまう!」


「分かっているが、有効な攻撃手段がない」


 まさか、ここまでホバーの速度が出るとは思わなかった。現在、いもいもベースは時速百五十キロに到達しているが帝国兵はしっかりと食い付いてきているのである。後方を映すモニターにはバズーカ砲を構える帝国兵の姿が映し出されていた。


「ぐっ、純粋な火薬での爆発ではアンチマジックフィールドも意味をなさない! やってくれる!」


「完全に誤算だったんだぜ」


 ドロバンス帝国がここまで備えていたとは大誤算であったのだ。いくら化学が進んでいるとはいえ、魔法を基礎とした装備開発をおこなってきたのがドロバンス帝国であったのである。

 それが魔法を頼りにしない兵器を生み出していようとは誰が想像するであろうか。


『いもっ! いもも!!』


「ふきゅん、どうした!? いもいも坊や!」


『くるよっ! くるよっ!』


「なんだって!?」


 突然、いもいも坊や艦長が何かの接近に反応した。そして、それは俺も感知するに至ったのである。

 何故なら、それは俺たちが待ち望んだ者の帰還であったのだから。


「『かぜが……くる!』」


 後方を映しだすモニターにバズーカを構える帝国兵の姿が映る。だが、彼が手にするバズーカは火を噴くことなくバラバラに切り刻まれ地面へと置き去りにされた。


 黒い風。


 モニターを見つめている者は、彼の者をそう捉えたであろう。


「うふふ、やっときたわね」


 いつの間にやら風呂上がりのユウユウ・カサラが艦橋に来ていた。濡れた髪がすっごくセクシー。


「さぁ、見れるわよ。彼の本性が」


 吊り上がる口角、歪む目。それは、これから起こるであろう圧倒的な暴力を予想してのことか。俺たちはそれを目の当たりにして絶句せざるを得なかった。


 黒い何かが三十名はいるであろう魔導装甲兵をバラバラに切り刻んでいったのだ。そのあまりの速さにモニターには黒い線が映っているようにしか見えない。

 とても人間ができる芸当ではないことを、この場に居る者全員が認識していることだろう。だが……それを彼はやってのけているのだ。


「うふふ、素敵よ……フォルテ。メルシェがいなければ『食べてしまいたい』と思うほどに」


 ユウユウのモニターを見る顔が、いよいよ以って恍惚としたものになってゆく。絶対に後で摘まみ食いくらいはしそうだなと危機感を募らせる。


 頼むから、皆がいるところでおっぱじめないでくれよな!? 絶対だぞ!?


「そ、そんな……これがフォルテの『加速』の能力なの? こんな能力だったなんて」


「メルシェ委員長は、彼の能力を知っているのか?」


「は、はい。彼が言うには、『加速』できる程度の能力だよって。大した能力じゃないって」


「それはきみに余計な心配をさせたくはなかったのだろう。いま解析したのだが、本当に恐ろしい能力だ」


 桃先輩の説明によると、フォルテ副委員長の個人スキル『加速』は自身はもちろんのこと、ありとあらゆる物を『加速』できるらしい。しかも、それは『物』だけではないというのだ。


「推測であるが、彼は何かしらの方法で傷付けた部分を『加速』しているはずだ。時間経過による劣化によって装甲は脆くなるからな。そして切りつける際に生じる衝撃波も加速して利用しているに違いない」


「それじゃあ、まるで『人間かまいたち』みたいなものだな。でもそれじゃあ、自分が何をやってるか分からなくなるんじゃないのか?」


「認識、思考、判断力を『加速』しているとすればどうだ?」


「無茶苦茶じゃないか」


「彼はそれができるのだ」


 次々と葬られてゆく魔導装甲兵たち。自分が何をされているかも分からないままバラバラにされていっているのだ。終始無言のまま、淡々とそれをこなしてゆくフォルテ副委員長は、哀れな帝国兵よりも殺戮マシンのように思えてしまう。

 今の彼の姿を見て、メルシェ委員長はどのように思っているのだろうか。


「ぶくぶくぶくぶく……」


 メルシェ委員長は白目痙攣状態で泡を吹いてイッてしまっていた。流石に刺激的過ぎる映像であったようだ。

 人がバラバラになってしまっているもんなぁ。きっと思考の許容範囲を逸脱してしまったのだろう。


「クスクス、だらしのない娘ね。これが貴女のダーリンなのよ?」


 気を失ったメルシェ委員長を抱きかかえ、人差し指で彼女のふっくらとした唇を弄るのはユウユウ閣下である。

 この行為が妙にエロい。ロフトたちが目撃していれば、きっと「ごちそうさまです」とでも言うことだろう。


「「「ごちそうさまです!!」」」


 いるんかい。


「食いしん坊、ボウドス大神官長をお連れしたぞ」


 どうやらロフトたちはボウドスさんを連れてきてくれたらしい。彼らは戦いに次ぐ戦いでかなりの傷を負っていたので、いもいもベースに搭乗後は、医療室で治療を受けていてもらっていたのだ。

 負傷していた箇所も綺麗に治療されているようで一安心である。


「せ、聖女様……この画面は」


「ボウドスさんには話しておいた方がいいな。これが『約束の子』の能力だ」


「な、なんと……!?」


 モニターには追いすがる最後の魔導装甲兵が切り刻まれ骸と化した瞬間が映し出されていた。その後、別のモニターに彼の姿はあった。


『任務完了、フォルテ、帰還しました』


 いもいもベースの上部装甲の上に立つ彼の姿は異様であった。あれほどの数の魔導装甲兵を切り刻んだというのに返り血の一つも付いていないのである。

 極めつけはその顔だ。無表情……多くの命を奪っているにも関わらず関心が無いと言わんばかりの顔だ。

 ただ自分は任務をこなしただけ。それはたとえるならプロの暗殺者とも言えるだろうか。


「ん? あれ? フォルテって武器もっていないのか?」


「そう言えば、いつも使っている片手剣が見えないな」


 ロフトとスラックがフォルテの違和感を感じ、それを指摘した。確かにいつも愛用しているなんの変哲もない極々普通の鉄の剣を持っていない。まさか……。


「あぁ、彼は『素手』で魔導装甲兵をバラバラにしていた」


 桃先輩から衝撃の事実を告げられた。だとしたらフォルテは……!!


「フォルテ副委員長は忍者タイポだった……!? 強力なライバルの登場に黄金の鉄の塊を尊敬する俺は複雑な気持ちが有頂天となり珍獣化する」


「あの形態はもう止せ。俺でもサポートのしようがない」


「ミリタナスの証に言ってくれなんだぜ」


 できる事なら再びひっそりと深き眠りに就いてほしいところだ。もう、あの形態は嫌なんです勘弁して下しあ。


『よく帰ってきた。今、上部ハッチを開ける。そこから内部に入ってくれ』


『了解しました』


 これで無事全員が今回の作戦から生還できたというわけだ。まさに大勝利と言えるのではないだろうか?

負傷者こそ多く出てしまったが、奇跡的に死者は一人も出なかったのである。


「ふきゅん、これで一段落だな」


「だが、戦いはこれからだ。急いでゼグラクトへ向かおう」


 俺たちは次の戦いに向けて、ひと時の休息を取った。この記念すべき勝利を称える意味でも、また勝利を得る原動力になった皆のためにも、俺は全身全霊でもって料理をこしらえ皆に振る舞った。


 振る舞った料理は『かつどぅん』だ。また次も勝利できるよう、また全員無事に帰還できるように願いを込めて、全て『神級食材』で調理したのである。

 プルルも久々に皆と摂る食事を本当に嬉しそうにしていた。


 食事を終え戦いに疲れた皆は眠りに落ちていった。俺も魔力タンクを満タンにして睡眠を取ることにする。


 尚、ダナンとララァは寝ずの番で、いもいもベースをゼグラクトへと移動させることとなっている。

 これはこれで大変な仕事だ。全てが解決したら盛大に労ってあげなくては。


 俺には所有者の特権として個室があてがわれているので、そこへと向かう。もう疲れてへとへとなので、ロフトたちのように覗きをする気にもならない。アイツらは本当に体力があるな。


 部屋へとたどり着き、簡素なベッドへと身を投げた。それから眠りに落ちるまで二秒もかからなかったと思われる。今は何も考えずに微睡みの中でぷかぷかと漂う俺であった。

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