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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十章 激震する世界
461/800

461食目 ミリタナスの証~解放されしは新たな力~

 最終作戦は実行に移された。瓦礫を貪り食い明日への道を切り開くのは闇を司る暴食の大蛇、全てを喰らう者〈闇の枝〉だ。

 彼の後にできた道を俺たちは全力で駆け抜ける。止まることは許されない。止まること、それ即ち『死』を意味するのだから。


 だが、お年寄りや子供はそうはいかない。いかに短縮されたからといっても、北側に設置された脱出ポイントまではかなりの距離がある。

 休み休み行動したいところではあるが、そのような余裕がないのは脱出に参加した者であれば承知の上だろう。現に体力の無い者たちでも必死に食らいついてきている。

 それは生への渇望であり執着だ。見ようによっては浅ましいと思うものもいよう。だが、この欲望こそが明日を掴む原動力になるのは否定のしようがない。


「とんぺー! この子を乗せてやってくれ! 俺は走れる!」


「わんっ!」


 だが、走り始めて十分ほどで子供たちの体力がなくなり始めた。そして、アクシデントは付き物なのか、走っている最中に転んでしまい、足を挫いた者も続出し始める。

 

 ケガの方は範囲型治癒魔法〈ワイドヒール〉を定期的に施し対処できるが、体力が尽きた者への対処はどうしようもない。こればかりは体力がある者が肩を貸すしかないのである。


「エルっ!」


「ライっ! いいところにっ! 手を貸してくれ! 体力のない者に肩を!」


「分かった!」


 ここでフォクベルトの部隊に所属していたライオットが合流してくれた。現在、フォクベルト隊はガンズロック隊と合流し、帝国部隊の足止めをしつつ本隊である俺たちの下に合流するタイミングを計っているそうだ。


「……大神殿が」


 誰かがそう呟いた。かつては荘厳な威容を放っていた歴史ある建物は完膚なきまでに破壊され、瓦礫の山へと変貌を遂げていた。

 大神殿はミリタナス神聖国のシンボルだ。それがこのような無残な姿にされて心を痛めない民がいないわけがない。


「必ず……必ず戻ってきます! 必ず!」


 そう叫んだのは白神官長のノイッシュさんだった。返事はない、当然だ。大神殿はただの建物なのだから。では、俺の耳に聞こえた声はいったいなんだ?


『まっていますよ』


 確かにそう聞こえた気がした。それは俺ばかりではない、きっと歯を食いしばって走り続けているミリタナスの民たちも確かに聞こえたのだろう。


 誰一人として死なせるわけにはいかない。彼らを待っていてくれる『物』がいるのだから。


「帝国部隊接近! 迎撃!!」


 俺の口から桃先輩の怒号が飛ぶ。対処に当たるのはルドルフさんとクリューテル。そしてザインは刀を鞘から脱がずにそのまま使用するようだ。

 彼の鞘は雷を模したかなり大きく重量のあるものだ。そのまま使えば鈍器にもなるし、力を開放すればそれ自体が刃と化す。

 今回は力を開放していないので、鈍器として扱うようだ。


「ミリタナスの民は止まるな! 走れっ!! はぁ、はぁ!」


 俺は立場上ミリタナスの民を先導しなくてはならないので、決して立ち止まるわけにはいかない。ルドルフさんたちのことは気にかかるが、彼らを信じて先に進むしかないのだ。


「帝国部隊接近! 数は……三!!」


「なんだって!?」


 帝国部隊が三ということは約六十名もの兵が押し寄せてきているということだ。迎撃といっても俺とライオットでは到底カバーしきれない。

 当初は光の枝で相手の戦意を食ってしまおうと考えていたが、あの兵士の様子では食べても意味がないだろう。プログラムで動く生きた機械とされてしまった者には効果を発揮できないのだ。


「どうする!? 連続〈ファイアーボール〉をぶっ放すか!?」


「それでは民を巻き込む!」


「ええい、いったいどうすれば!?」


 もう目視で帝国兵の姿が確認できる。このままでは攻撃魔法をまき散らされてしまう。ここに至ってしまっては、俺も腹をくくるしかない。

『神・獣信合体』でケツァルコアトル様に変化し大暴れするしか……。


「こうすればいいのよ」


 その麗しき声が聞こえた瞬間、多くの帝国兵たちは粉々になって吹き飛んでいってしまった。彼らの魔導装甲の特殊能力などお構いなしの暴虐。このようなことが可能な者は一人しかいない。


「クスクス、みんな苦戦しているようだけど……何故、苦戦しているのかが分からないわ」


「ユウユウ閣下! 早い! もう来た! これで勝つる!!」


 突風を従えて舞い降りるは鮮血に彩られた絶対強者、ユウユウ・カサラだ。あれほど殺すなと釘を刺しておいたのに、月夜に照らされて艶めかしく輝く返り血を見る限り、軽く百はやっていると見える。マジ、ユウユウ閣下。


「まどろっこしいのよ。こういった連中は相手にしても気分が悪くなるだけ。さっさと楽にしてあげなさいな」


「それができれば苦労はしないんだぜ」


「あら、ガンズロックとフォクベルトは簡単に仕留めていたわよ?」


「マジで!? 最近の二人は成長がとどまることを知らないんだぜ……」


 ガンズロックは重量のあるツーハンドアックス、フォクベルトは謎のライトセ〇バー。いずれも魔導装甲には相性がいいと思われる。意外なところでの活躍に俺もパーティーメンバーとして鼻が高い。


「エルティナ! 感心している暇はないぞ!」


「ふきゅん! そうだった! ユウユウ閣下! ここは任せる!」


「ええ、さっさとお行きなさい。私の攻撃の巻き添えを食わないようにね」


 ユウユウは妖艶に微笑み軽やかに跳躍した。とても子供が見せるような表情ではない。

 彼女が天高く跳躍したのを確認した後に、俺は広範囲に魔法障壁を多重で展開した。魔法障壁の層は百だ。これくらい準備しておけば大丈夫だろう。


 ゴガンッ! バリバリバリバリッ!!


 うひょう、こりゃ堪らん! 魔法障壁の八割が余波で吹っ飛んだぞぉ!


 これには白目痙攣で全力ダッシュせざるを得なかった。当然、ミリタナスの民も白目痙攣状態で走っている。これでは強力な援軍なのか絶望なのか分かったものではない。


「走れぇぇぇぇぇぇっ! とにかく走れぇぇぇぇぇぇっ! 巻き添えを食う前に離れろぉぉぉぉぉっ!!」


 とにかく、これに尽きる。三十六計逃げるに如かずだ。逃げるんだよぉぉぉぉぉぉっ!


「桃先輩! 脱出ポイントまで後どれくらいだ!?」


「およそ二キロメートル! もう少しだ、諦めずに走り続けろ!」


 二キロメートル。文字に表せばそれほどの距離ではないように思える。だが、実際は絶望的に長い距離だ。特に命に危険が差し迫っている現状ではとてつもなく長く感じる。

 それでも、俺たちは走らなくてはならない。明日に命を繋げるために。


「帝国部隊接近! 数は……八!」


「な、なんだって!? ここまで来て! そんな数、俺たちじゃ捌き切れないぞ!!」


 部隊数八、約百六十名にも及ぶ魔導装甲兵を相手にすることになる。突破するなど不可能に近い。

 最も現実的なのはユウユウ閣下にお願いすることなのだが、彼女との距離はだいぶ離れてしまっている。今から救援に呼んでも、足が遅い彼女では時すでに時間切れとなっていることだろう。


「どうする、桃先輩!? もう、俺がやっちゃうか!?」


「それはいかん! おまえはとにかく脱出ポイントに辿り着くことを優先しろ!」


「そんなこと言ったって、目の前に見えてきた黒い連中をどうするんだよ!?」


 もう目前に見えている黒い人だかり。というか人の壁。これを突破するのは容易ではない。

 だが、俺たちはなんとしても突破して脱出ポイントへ辿り着かなくてはならない。


「くそっ、もうやるしかねぇ!」


 俺は単独で魔導装甲兵の軍団に突撃を試みようとした。その時のことだ。

 人差し指にはめていたミリタナスの印が眩い光を放ち始めたではないか。これはいったい?


「おぉっ!? この輝きは……まさか『ミリタナスの古き輝き』! あぁ、なんたることだ!」


「ボ、ボウドス大神官長様! 知っておられるのですか!」


 この輝きを見て、ボウドスさんはすぐさま祈る仕草を取った。それに倣い、ノイッシュさんも同じく祈りをおこなう。二人とも同じ作法だ。


「聖なる力よ、我らが崇めし者に大いなる力を与えたまえ!」


 ボウドスさんが力ある言葉を天に捧げると、一筋の光が天より降り注ぎ俺を包み込んだではないか。するとどうだ? 身体の奥底からとてつもない力が湧きあがってくる。こんな感じは初めてだ。


 桃力の限界突破とはまた違う力に、俺は大いに戸惑った。だが、この力を使わない手はない。皆を救うことができるのであれば、俺はなんでも利用する。俺は奥底で渦巻く力の塊を解放した。

 爆発的な魔力、そしてオーラ、が混ざり合い俺を至高の存在へと変貌させてゆく。


 見せてやろう、俺の新たなる姿フォームを!!


「ふっきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 俺は咆えた。それは新たなる戦士の産声。

 黄金の毛に包まれしは野生を露わにした俺。強靭な筋肉を有する四肢はがっしりと大地を踏みしめる。鋭い眼光は敵を目据えて離さない。その強靭な牙は強固な鎧をも噛み砕くだろう。

 そう、これこそが俺の新たなフォーム『聖獣化』だ!!


 皆も俺の突然の変貌に絶句しているようだ。だが驚くのはまだ早い。この姿の俺の力を見せ付けてくれるわっ!!


『エルティナ、やる気満々のおまえに水を差すようだが……これが今のおまえの姿だ』


『ん? なんだ、この金色のお饅頭のような生物は?』


 脳内映像に表示された生物は先ほど俺が言ったとおりの生物だった。金色の毛に覆われた饅頭のような身体に短すぎる四肢と尻尾。そして不自然に長いたれ耳。ピンク色の鼻が少しばかりラブリー。極めつけは、その眠そうな青い眼だ。


 俺は不思議な生物の映像を見て首を傾げた。何故これが超ぱぅあーを獲得した俺なのだろうか。

 すると映像の奇妙な生物が首? を傾げたではないか。その映像を見てビョクッとしてしまい、俺の大きな耳が跳ね上がる。すると映像の珍妙な生物のたれ耳も跳ね上がったのだ。


 認めたくはないが、まさか……。


「ふきゅん!」


「ちゅん!」


 俺は咆えた。すると、やはり映像の珍獣も咆えた。そして金色の饅頭の上に載っているすずめも鳴いた。どう見ても、いつも俺の頭に載っている、うずめさんである。


 うん、こりゃ間違いないわ。


『なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


 獣を越え、人を越え、神へと至る……ではなくて、容赦なく逆を行っている。どう見たって退化です。本当にありがとうございました。ふぁっきゅん。


「おぉ……なんという、神々しいお姿! 溢れ出る力が後光のように輝いておりまする!」


「くっくっく、くははは、ふあぁぁぁぁぁぁっはっはっは! 勝った!」


 血迷ったか、二人とも!? ボウドスさん、ノイッシュさん! 今の俺はどう見てもただの珍獣だ! 帝国兵になんて敵うはずないじゃねぇか! いい加減にしろっ!


『と、取り敢えず、時間くらいは稼ぐぞ』


『おいぃ……この姿でどう時間を稼げばいいんですかねぇ?』


 もう、どうすればいいのか分からない。取り敢えずは体当りでも仕掛けてみるか?

 俺は激烈に短い四肢に力を籠めて駆け出した。


 よちよちよちよちよちよちよちよちよちよちよちよち……。


 遅い! 遅すぎる!! 誰だ、超絶な力を手に入れたって言ったヤツは! 出てこい!!


『エルティナ、この速度では体当りをしても無意味だ!』


『奇遇だな、桃先輩! 俺もそうじゃないかと思っていたよ、こんちくしょう!」


 ああ、もう。目の前まで帝国兵が迫っているというのに! こうなりゃ、自棄だ! くらえ!!


 俺は帝国兵の部隊に尻を突き出し放屁した。


 ぶおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!


 放たれたのは確かに『屁』であったに違いない。だが、その規模と威力が桁違いであったのだ。

 兵国兵約百六十名はこの圧倒的な放屁の威力に耐えることができずに、ことごとく天高く吹っ飛んでいってしまったのである。


「これが……ミリタナスの証の力」


「我々は今、大いなる瞬間を垣間見たのだ」


 見ないでくれっ! こんな間抜けな俺の姿をっ!! なんでこうなった、なんでこうなった!?


『エルティナ、凹んでいるのはよく分かるが、今がチャンスだ』


『うぐぐ……分かってるさ、桃先輩』


 俺は「ふきゅん」と咆えて、民を再び先導し脱出ポイントへと急ぐ。


 よちよちよちよちよちよちよちよちよちよちよちよち……。


『遅い! もっと早く走れんのか!?』


『これが限界だ! 足がくっそ短いんじゃあ!!』


 俺がモタモタしていると、ひょいと持ち上げ走ってくれる者がいた。少しきつめの美人顔、紫色の美しい長髪をなびかせて疾走するのは、クラスメイトのシーマ・ダ・フェイだ。


「何をやっている、珍獣! そんな速度では夜が明けてしまうではないか!」


「ふきゅん!」


 この姿でよく俺だと分かったな、とツッコミを入れたいが、今はそのようなことをしている場合ではないことくらいは分かる。

 彼女は俺よりも走る速度が速いので、このまま運んでもらうことにしよう。何よりも楽ちんだ。


 シーマの部隊も合流したことで体力のない者に肩を貸す人数が増えた。これで移動速度はさらに加速する。目的地点はもうすぐだ!

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