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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十章 激震する世界
459/800

459食目 魔導装甲の恐怖

 遂に作戦は決行された。先頭に立ち民を誘導するのは物理防御力に定評がある魅惑の騎士ルドルフさんと、魔法抵抗力がほんの少しばかり神掛かっている俺だ。

 その後方にクリューテル、ザインが控えている。いつでも飛び出して帝国兵を叩きのめすというスタイルである。


 脱出作戦開始から十分ほど経過しているが、俺たちは民を引き連れてゆっくりと町の北側を移動している。それは、あるタイミングを見計らっているからだ。


『エルティナ、陽動部隊が交戦を開始した。我々は陽動が落ち着くまでゆっくりと移動する』


『分かったんだぜ』


 桃先輩は先ほど俺が闇の枝におこなわせた『無理矢理道を造る』方法を利用して、一気に脱出ポイントに向かう案を俺たちに提示した。

 ボウドスさんやミリタナスの民と相談した結果、その案は採択され決行を待つ状態になっているのだ。


『まずいな、町の北側に帝国部隊が二部隊駐屯している。ダナン達の位置からも近い。ブルトン、頼めるか?』


『……了解した』


 桃先輩が町全体の戦況を把握してくれるお陰で、今のところは辛うじて順調と言ったところだ。それでも、帝国兵の数の暴力で徐々に圧され始めている部隊もある。

 特に南東で陽動をおこなっているヒュリティアの部隊が苦戦しているもようで、大量の帝国兵に包囲されつつあるようだ。


『ヒュリティア、少し北側へ部隊を移動させろ。場合によっては町から離脱しても構わない』


『……了解、逃げ道を確保しつつ北へ移動します』


 桃先輩は矢継ぎ早に部隊に指示を出している。その指示速度がこれまた早い。そして、細やかな配慮がなされている。

 慣れたとはいえタイピング音がドえらいことになっており、エンドレスでカタカタと頭の中に響いていた。その内、この音が聞こえなくなるようにソウル・フュージョン・リンクシステムを改良してくれないだろうか? 後でドクター・モモに相談してみよう。


「クー様、現在位置は?」


「今は大神殿へと続く大通りに出る手前ですわ。ここは見晴らしがいいですから、慎重に行動しなくてはなりません」


「ふきゅん……となると、移動は一旦ここまでだな」


「そうだな、ここから闇の枝で道を造り一気に駆け抜ける。各部隊の状況を見て実行に移すぞ」


俺たちは物陰に潜み息を殺した。その際に、桃仙術〈桃結界陣〉を張り巡らせる。

 この〈桃結界陣〉は桃先輩の桃力をブレンドした特別製だ。彼の特性『幻』によって、瓦礫の幻を作り出しミリタナスの民の姿を隠したのである。これならば余程のことがない限り見つかる心配はないだろう。


「順調でござるな。このまま事が進めばよいのでござるが」


「さり気にフラグを立てているが、そうであってほしいんだぜ」


 果たして、それはザインのせいであっただろうか? 不気味な雰囲気を纏う帝国兵の部隊が、真っ直ぐこちらに向かっていているではないか。


 ただの偶然だろうか? いや、違う! 明らかに連中はこちらを『把握』している!!


『桃先輩!!』


『各部隊に連絡! 本隊は敵に捕捉された。これより戦闘に入る! 敵は少数、各部隊は陽動に専念! 追って指示を出す! 以上!』


 イレギュラーな事態は想定内だ。ここは俺たちだけで凌がなくてはならない。ボウドスさんたちに市民の護衛を任せ、俺たちは帝国部隊に打って出た。


「ふっきゅ~ん! 突撃だっ!!」


 帝国部隊の編成は一部隊二十人となっているようだ。それに対し、こちらはたったの四人。だが、いずれも一騎当千の強者であるため、相手に後れを取っているとは微塵も思わない。


 俺たちの強さを見せつけてくれよう。ふっきゅんきゅんきゅん。


「〈ファイアボルト〉! 〈アイスボルト〉!」


 クリューテルが牽制のために二種の魔法を『同時起動』させて攻撃を開始した。

 炎の矢の弾道は高く、そして氷の矢の弾道は低い。それは、それぞれに役割が違うからだ。


 まずは氷の矢が帝国兵の足下に着弾。彼らの足を凍てつかせ大地に縛り付ける、続けて動けなくなったところに炎の矢が飛び込んでくる。

 当然、彼らは動きを封じられているため、回避はできず大量の炎の矢を受けることとなるのだ。


 なんという、隙を生じぬ二段構え。この方法には俺もインスピレーションを刺激されて脳内で新しい魔法技が『みょん、みょん』と誕生しようとしている。


「っ!? そんな……効いていない!?」


「ふきゅん!? なんですと!」


 爆炎の中からゆっくりと近付いてくる帝国兵たち。彼らが纏う魔導装甲は僅かに損傷しているものの、その足取りはまったくぶれることがない。そんな彼らは青白い膜のような物で覆われていた。


 これには俺も驚きを隠せなかった。クリューテルの攻撃魔法の威力は決して低くはない。寧ろ、一撃の威力はクラス内で上位に位置する。そんな彼女の攻撃魔法が、これほどまでに効果がないとは。


「アンチマジックフィールドだと!? 帝国はこんな物まで作りだしていたのか!」


「アンチマジックフィールド!? 知っているのか、桃先輩!?」


「桃アカデミーに類似した装置がある。まさか、この世界で目にするとは思わなかったがな」


 流石は変態科学者を有する不思議学園だ。まぁ、学園というのも桃使いの神のシャレで名付けたらしいが。


「どうやらエルティナの魔法障壁と同等の障壁の強度を持っているようだ。多重にはできないようだが十分過ぎるほどの強度だ。並の攻撃魔法では貫くことはできないと思っていい」


「ふきゅん、マジか!?」


 なんということだ、レジスタンス兵がいいようにやられていたのは、このアンチマジックフィールドのためだったのだろう。ということは陽動をおこなっている部隊も苦戦は免れない。これは大変なことになった

ぞ。


「この装置が恐ろしいところは少ない魔力で『誰でも』使用できるところだ。魔導装甲に標準装備されてると見てもいいな」


「つまり、攻撃魔法にめっぽう強い兵士が爆誕してしまったわけか!? そりゃないぜ!」


「ならば、拙者が切り捨てるまで! いざっ!」


 ザインが抜刀し帝国兵に切り掛かった。その動きはとても速い。俺もあんな動きができたらなぁ……。

 だが、そんな彼の動きが急に鈍った。まるで水の中にでも突入してしまったかのように。


 ガキンッ!


「なっ!? これはいったい!!」


 ザインの斬撃は帝国兵の魔導装甲に僅かな傷を刻むにとどまった。あの鈍った動きでは魔導装甲を両断することができなかったのだ。

 それでも十分な速度の振り下ろしだった。それでも切れないということは、魔導装甲に使用している材質が相当の硬度を誇っていると考えていいだろう。


 帝国兵が右腕を天高く上げた。その手甲から発生する光の剣。間違いない、魔導光剣だ。それが動きが止まったザインに向かって振り下ろされようとしていたのだ。

 ザインの動きは鈍いままだ。このままでは魔導光剣の餌食になってしまう。そう判断した瞬間、俺は行動に移っていた。


「ザイン!! 闇の枝!!」


「ふきゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」


 はみゅっ。


 俺は急いで闇の枝にザインを飲み込ませたのである。魔導光剣は闇の枝に命中するも、光の刃はことごとく闇の枝に食われてしまいザインには届かない。

 すぐさま闇の枝を引き返しザインを吐き出すように命じる。


「よし、闇の枝、よくやった。ザインを吐き出してくれ」


「ごっくん」


「おまっ!? だから飲み込むんじゃねぇよ。ぺー、しなさい! ぺー!」


「ふきゅおん」


 ちょっとしたアクシデントはあったが、無事? にザインを回収することに成功した。彼は白目痙攣状態であったが……たぶん大丈夫だろう。ライオットも大丈夫だったし。


重力グラビティーフィールドまで備えているのか! これでは効果範囲内に入り込んだら動きが鈍くなるのも理解できる! 帝国め……いったいこのような技術をどこで手に入れたのだ!?」


 これではミリタナス神聖国が、ことごとく負けてしまうのも無理はない。圧倒的な防御能力の前では手も足も出なかったのだろう。一方的に攻撃され倒されていったに違いない。


『こちらヴァンです! 帝国部隊に敗走中! 指示を!!』


『こちらエドワード! 帝国兵の魔導装甲の情報はありませんか!?』


『ガッサームだ! 帝国部隊を二部隊、撃破! だが、なんだ? あの妙な能力は!? 情報をくれ!』


 ガッサームさん、つぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 流石はカサレイムの冒険者は格が違った!


『今情報を送る! 帝国兵に太刀打ちできないと判断した部隊は即刻、脱出ポイントに移動せよ!』


 次々に送られてくる敗走の知らせ。攻撃魔法を主体にした部隊は最悪の相性であり、かなりの損害を被っているようだ。

 このまま戦闘を続ければ全滅の憂き目に遭うことを悟った桃先輩は、各部隊の隊長に状況を判断して撤退するように指示を出した。


 さて、こちらもこの帝国兵をどうにかしなくてはならない。

 とここまで俺の護衛に付いていたルドルフさんがその役目をザインに任せ、帝国兵に突撃を開始したではないか。その行為は無謀に等しい。


「ルドルフさん!」


「お任せください、ガッサーム殿の戦果を聞いて思うところがありました」


 当然、帝国兵は彼を迎撃するために攻撃魔法を放ってくる。無数の炎の矢が彼目掛けて降り注ぐ。


「〈ファイアボルト〉ですか。無駄です」


 なんと彼は回避することもせずに一直線に向かっていったのだ。そして、炎の矢はことごとく彼に命中し爆ぜた。

 だが、ルドルフさんはそんな炎の矢を意に介さないかのごとく、帝国兵に飛びかかった。

 よくよく彼を見ると周りに薄っすらと白い何かが纏わり付いている。あれはいったい……?


「む、アレは冷気か。恐らくはフェンリルの冷気だろう」


「そう言えばルドルフさんはフェンリルの加護を受けていたっけ」


 フェンリルの加護とは自身の周辺に冷気の層を作り出す能力であり、火属性の攻撃魔法は相殺、水属性に至っては吸収し魔力に変換するというチートレベルの加護だ。ただし、雷属性にはめっぽう弱い。

 基本的には暑さに弱いフェンリルたちが外で活動するための能力であるのだが、フェンリルと契りを結ぶと、そのフェンリルと同等の加護を授かるらしい。

 つまりは目に見えない結婚指輪みたいなものなのだろう。


「はぁっ!」


 ルドルフさんが振り上げたのは巨大な盾だ。だが、このままではザインの二の舞になる。


 ゴシャッ!


 そう思っていた時期が俺にもありました。


 ルドルフさんの巨大な盾は少しばかり重力フィールドの抵抗を受けるも、そのままの勢いで帝国兵の頭部を叩き潰してしまったのである。


 って、おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? 殺しちゃダメでしょ!?


 とは思うものの状況が状況だ。彼を責めることなんてできやしない。俺たちがやっていることは、まぎれもなく戦争なのだから。

 やらなければやられる、今はその場所に俺たちは立っているのだ。


「やはり、いけますね。重い武器で叩き潰せば重力フィールドを突破でき……」


「ルドルフさん!!」


 それは僅かな油断。頭部が叩き潰された者が攻撃を仕掛けてくるとは誰が想像できようか。

 俺たちが見つめる中、ルドルフさんは魔導光剣に貫かれた。

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