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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十章 激震する世界
457/800

457食目 リトリルタース市民救出作戦

 砂漠を時速二百五十キロメートルで爆走するのは巨大な芋虫だ。


『いもいもいもいもいもいもいも……』


 こんな巨大な芋虫が、実は人の手によって作られた陸上戦艦だとは誰が思うだろうか。誰も思うまい。


「いもいもーびる号の移動音と同じとは、愉快じゃのう」


「左様でございますね、咲爛様」


 いもいもーびる号を知っている咲爛と景虎は、感慨深そうにスクリーンに映る外の景色を眺めていた。

 この二人はこのようにのんびりとしているが、各部隊を仕切る隊長たちはそれどころではない。この作戦を成功させるために、俺のいる艦橋にて連携を確認している真っ最中なのだ。


 俺はメインエネルギー源なので、いもいもベース稼働中は迂闊に持ち場を離れることができないのである。その内、魔力の予備タンクでも作ってもらおう。


 このいもいもベースは急ピッチで制作された試作型なので、所々に至らない部分がある。その至らない部分や不具合をドクター・モモに報告するのも大切な仕事なのだ。


「十人構成のパーティーを十作って陽動をおこなうのは分かった。問題はタイミングだな」


 ガッサームさんはこういった作戦に慣れているようで、重要なポイントをしっかりと把握していた。


「レジスタンスと接触しなくちゃあ、何も始まらねぇんじゃねぇのかぁ?」


 ジャックさんも長年の経験からか、作戦の順序というものを理解しているようだ。やはりベテランの冒険者は頼りになる。

 俺たちだけではすぐさま『脳筋プレイ』に走るので、きっと戦場が滅茶苦茶になっていたことだろう。


「ふきゅん、レジスタンスには俺が接触する。他のヤツじゃ疑いを与えかねないからな」


 作戦はこうだ。

 まずは俺がレジスタンスのアジトに乗り込んで説得する。続いてモモガーディアンズと冒険者たちで構成したパーティーを十部隊ほど編成し、リトリルタースの各地で帝国兵を相手に派手に暴れ回る。

 帝国兵が囮に気を取られている内に一般市民を誘導し、いもいもベースで一気に離脱するというものだ。


 作戦自体は単純明快。だが、この作戦はタイミングがずれると致命的になりかねないのだ。

 市民を誘導するのが早過ぎれば帝国兵に見つかってしまうし、遅過ぎれば各部隊が全滅の憂き目に遭ってしまう。

 リトリルタースに駐屯する帝国兵は千五百。単純に、こちらの十五倍の戦力差だ。


「レジスタンスのアジトの位置は既に把握している。問題は市民の移動にかかる時間だ」


「桃先輩、市民の収容にはどれくらいの時間が掛かると予想されますか?」


「三十分以内で終わらせたいところではあるが……中には子供や老人もいるだろうから、これ以上かかる可能性もある」


「三十分以上か……厳しいですね」


 桃先輩に質問をしたエドワードが彼の返事に難色を示した。確かに市民の避難に三十分以上時間が掛かると、陽動をおこなう部隊にかなりの負担がかかる。最悪、死傷者も出かねない。


「いもいもベースで直接アジトに乗り込むのはダメなの?」


「それでは目立って帝国兵の総攻撃を受けることになる。却下だ」


 リンダの脳筋的発想は嫌いではないが、実現するにはかなりの課題をクリアーしなくてはならないので現実的ではない。事実、桃先輩もその案を却下している。


 市民を収容するまで、たった百人で千五百もの帝国兵を相手にするのは無理があるし、人を殺さない、というハンデをモモガーディアンズメンバーは背負っているのだ。

 一部の者は無視しそうであるが、なるべくは殺さないように伝えてある。


 また、帝国兵に鬼が紛れていると更に難易度は向上する。ソウルリンクによって攻撃こそ可能であるが、防御ができないので損耗が激しくなることだろう。


 更にどういうわけか、桃先輩のチートレベルのサーチであっても帝国兵が鬼であるか否かを判別できないそうなのだ。何か特殊な妨害を張られているらしいのだが、その原因すらも分からないという。


「なぁ、トウヤさん。モルティーナに地中にトンネルを掘ってもらうってのはダメなんスか?」


「ダナン、それは俺も真っ先に考えた。だが、聖都リトリルタースは砂漠の上に都市を築いている。そのため地盤を特殊な魔法で固めて建物を築いてきたようなのだ。表層こそ一般的な地面となっているがトンネルを掘る深さまでとなると強度が鋼鉄並みに固くなっている」


「うへっ、それじゃあ、モルティーナでも無理だ」


「おあ~、ただの鉄くらいならいけるんすが、鋼鉄は無理っすね~」


「きゅおん、それでも十分すげぇな」


 この事実の発覚により、俺たちは正攻法で作戦を与儀なくされた。少数が多数を相手取るには奇策がもっとも効果が高いのだが、思ったよりも選択肢が狭いことに不安を覚える。だが、それでもやるしかない。


「目標地点まで、あと十分」


「……ききき……周辺に帝国兵の反応無し……」


 いもいもベースで接近できるギリギリの距離までリトリルタースに近付き、そこからは徒歩で町に入り込む。時刻は午後六時四十分。薄暗くなってきており作戦を実行するには都合が良いと言えよう。


「よし、作戦の最終確認をおこなう。まずエルティナがレジスタンスと接触し、市民を脱出させる準備が整い次第、移動力のある三つの部隊がリトリルタースの南側で陽動をおこなう。その後、エルティナは脱出先である町の北側に移動。残る部隊は脱出中の市民が襲われないように帝国兵を上手く陽動してくれ」


 口で言うのは簡単。誰しもがそう思っていることだろう。それはきっと言っている桃先輩本人もだ。


「エルティナの護衛はルドルフ殿、ザイン、とんぺーだ。エルティナはとんぺーの背に載せてもらうようにな」


「おごごご……もっと足が速ければ格好が付くというのに」


 俺と桃先輩とのやり取りで周囲に僅かな笑いが生まれた。良い感じに肩の張りが抜けたようだ。


「そして、道案内としてクリューテル嬢に同行してもらう」


「私は聖都リトリルタースの生まれですので道案内はお任せください」


 道案内は桃先輩が頼んだのではなくクリューテル自らが志願した。生まれ故郷が無残な姿になっているというのに、気丈にも市民のためと自分を言い聞かせて立ち上がってくれたのだ。


「よし、各部隊の隊長はメンバーを選出してくれ。時間は二十分だ」


「……ききき……目標地点に到達……」


 いもいもベースが動きを止めた。モニターには薄っすらとリトリルタースが見て取れる。かなりの距離があるため、町の損害状況は把握できない。


 待機室に各部隊の隊長に選ばれた面々が向かう。

 選ばれたのはエドワード、フォクベルト、ガンズロック、ブルトン、フォルテ副委員長、ヒュリティア、シーマ、ガッサームさん、ジャックさん、ヴァンさんだ。


 シーマは意外にも指揮能力が高いことが判明している。元上級貴族と名乗るだけあり、そちらの方面の勉強もこっそりとおこなっていたらしい。

 もっとも、本人は生まれもった素質であり元上級貴族ならできて当然と言っていたが。


 彼らは時間いっぱいまで使用してメンバーを厳選した。基本的に慣れた者をメンバーに加える傾向にあったが、南方面で陽動する部隊はとにかく足の速いメンバーで構成されており、少しばかり協調性に問題を抱えているように思える。

 南での陽動を指揮するのはフォルテ副委員長、ヒュリティア、猫の獣人ヴァンさんだ。無事に帰ってきてくれることを願うばかりである。


「俺たちは先に脱出ポイントで待機してればいいんすね?」


 いもいもベースの操舵士とオペレーターであるダナンとララァは、先に脱出ポイントに向かい待機だ。

 特にダナンはソウルリンクを維持するためにも、何がなんでも生き残ってもらわねばならない。


「ふきゅん、ムセルとチゲを護衛に付けるから安心してくれ」


「いやいや、ムセルは分かるけど、チゲはつい最近まで非戦闘員だっただろ?」


「今のチゲを昔のチゲと一緒にしてもらっては困る。それにチゲが扱うライトフェザー鉱石製の『中華鍋』の防御力と『おたま』の攻撃力を舐めてもらっては困るんだぜ」


「おまえらは貴重な鉱石をなんだと思ってるんだ」


 ムセルは貴重な戦力であるがダナンとララァの護衛を任せることにした。若干、不服そうであったが任務の重要性を諭すと、すんなりと引き受けてくれたのである。


 そしてチゲだが彼はヒュリティアから応急処置の技術、そして桃師匠から剣術を習っているので侮れない強さへと急成長していた。

 メインウェポンの『おたま』とシールドの役割を果たす『中華鍋』で立派に護衛を果たすであろう。これも軽くて丈夫なライトフェザー鉱石のお陰である。

 だが、彼の最強の武器は皆を護りたいという優しさから生まれる『勇気』であると、俺は信じていた。


 今では近接戦が俺よりも強いだなんて口が裂けても言えない。


「時間だ、メンバーの選出は終了したな?」


 桃先輩の確認に皆が頷く。それを見届けた桃先輩は俺に出撃の号令を促した。


「これより『リトリルタース市民救出作戦』をおこなう。各員の奮闘を期待する! 出撃!」


 俺の号令に皆は短く「応!」と声を上げた。

 こうして、俺たちの『戦争』は幕を上げたのである。



◆◆◆



 異変に気付いたのは、いもいもベースをマジックカードに収容して町に向かい、三十分ほど経った時のことだった。

 誰かが町が燃えている、というのを耳に拾いララァに上空から偵察してもらったところ、炎上どころか所々で爆発が起こっているとの報告があった。


「まさか、帝国兵がレジスタンスに総攻撃を掛けているのか!? このままでは……」


「どうするんだ、桃先輩!? このまま突入したら作戦もへったくれもなくなるぞ!」


 最悪のタイミングだった。なんと帝国兵がレジスタンスに総攻撃を仕掛けているというのだ。このまま突入すれば千五百もの帝国兵とまともにやり合わなくてはならなくなる。

 俺たちの目的はあくまでレジスタンスと市民の救出であり、帝国兵の殲滅ではないのだ。


「エルティナ、危険だが敵陣を突っ切ってレジスタンスと接触するしかない」


「なるほど、見事な判断だと感心するがどこもおかしくはない」


「まてまて、おかしいだろ」


 この見事なやり取りに横やりを入れたのはガッサームさんだった。


「お嬢ちゃんは大将だろうが。真っ先に危険地帯に飛び込んでどうするんだよ?」


「え?」


「え?」


 不思議そうな顔をするのは俺を含むモモガーディアンズの面々。青い顔をするのはガッサームさんと冒険者達だ。

 ただし、ジャックさんとヴァンさんは除く。この二人は俺のことをよく知っている。


「ライオット、割と……普通だよね? エルちゃん」


「そうだな、リンダ。止めたって一人で突っ込むよな? エル」


「僕としては、僕の後ろに控えていてほしいんだけどね、将来の妻として」


「おまえらの大将像が怖くて知りたくねぇな」


 どうやら、ガッサームさんは俺のことを心配してくれているようだ。だが、モモガーディアンズは軍隊とは違うし、俺は大将だからといって後ろでふんぞり返る趣味は無い。

 そこに救うべき命があるなら、たとえ過酷な妨害があろうとも俺は突撃を敢行するのだ。


「時間がない、とにかく作戦通りに行く。細かな指示はソウルトークでおこなうから臨機応変に対処してくれ」


「「「「応!」」」」



◆◆◆



 ここに作戦は敢行された。まずは俺がレジスタンスと接触しなくてはならない。桃先輩の索敵によってレジスタンスの位置はすぐに特定できたが、そこに移動するまでが大変だ。

 あの古代ギリシアを連想させる美しい町並みは姿を消し、瓦礫と黒い煙に包まれた荒廃した廃墟となっていたのだ。


 そんな故郷の姿を目の当たりにしクリューテルの表情は歪む。だが、彼女は気をしっかりと持って道案内に徹したのである。


「こちらの道を行けば近道ですわ!」


『帝国兵九名接近、一時待機だ』


 流石に帝国兵の数が多くて、なかなかレジスタンスと接触できない。このままではレジスタンスはおろか、保護されている市民もやられてしまう。


『焦るな、エルティナ。急ぐのと焦るとでは違うぞ』


『ふきゅん、分かってるんだぜ』


 帝国兵を無視して突っ切りたい気持ちをなんとか抑え込む。まだ、突っ切るには距離が空き過ぎているからだ。


 クリューテルに道案内されること十五分ほど。何度、爆発音を聞いたかわからない。爆発は帝国兵によるものなのか、はたまたレジスタンスたちによるものかは分からない。だが爆発音は確実に大きく聞こえるようになっていた。


 やがて、激しく飛び交う攻撃魔法が視認できるようになってくると、桃先輩が最終確認をおこなってきたのである。いよいよ以って戦闘開始となるようだ。


「そろそろ、レジスタンスと帝国兵が戦闘をおこなっている地区へと到着する。各部隊も配置に着いたようだ。エルティナ、覚悟はいいか?」


「待ちくたびれたぜ、ルドルフさん、ザイン、クー様も準備はいいか?」


 無言で頷く彼らを確認し、俺の足となってくれるとんぺーにしっかりと抱き付いた。最近、また彼の体が大きくなった気がする。成長期だろうか?


「よし……突撃!」


 桃先輩の掛け声と同時に、俺たちは飛び交う攻撃魔法の嵐の中に飛び込んだ。

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