表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
45/800

45食目 朽ちた洋館

楽しい、楽しい、お昼時である。


午前中は皆と遊んだため、海産物の狩りには行けなかった。

確か予定では昼食は鉄板焼きだったはずだ。


う~ん、今からでも海産物を獲りに行こうか?

いや、ダメなようだ。

既に支度は済んで後は焼くだけの状態になってしまっている。


仕方がない、事前に用意した材料で鉄板焼きを楽しむことにしよう。

俺は皆と食事を楽しむために、

賑やかな音を立てる鉄板の下に向かうことにした。


既に皆は鉄板焼きを始めていた。

ジュウジュウと美味しそうな匂いと音が、俺の猛烈な食欲を刺激する。

肉の焦げる匂いが、空の胃袋を強烈に揺さぶる。

これは堪らない、早く俺もお肉を焼いて腹に詰め込まなければ!(使命感)


さっそく、俺もブッチョラビのロース肉を焼き始める。

焼き加減はレアだ。

やはり寄生虫がいない肉はレアに限る。


周りはこんがり、中はジューシーなのがレアだ。

だが中が冷たいのはレアではない。

一見、生のように見えるが、

きちんと熱がとおり、旨味成分が活性化されている状態を『レア』というのだ。


肉を焼いている間に、『フリースペース』から特性ソースを取り出す。

かけるソースはオレンジソースだ

オレンジの酸味と甘味が、

塩コショウを振り掛けただけのロース肉と非常に合うのだ。


焼き上がったロースに塩コショウを振り、

香りの良く見た目も鮮やかなオレンジソースをかける。


う~ん、オレンジ色のソースが綺麗だぁ!


「いただきます! はむっ」


合掌。そして感謝。


俺の血肉になってくれるブッチョラビに感謝を捧げ、

焼き立てのロース肉をパクリと頬張る。

肉表面のカリッとした歯応えの後、

溢れ出る肉汁と脂が口いっぱいに広がり、俺の欲望を満たしてくれた。


咀嚼する度に新たな発見を楽しませてくれる。

溢れ出る肉汁は留まることを知らず、

さもあれば、くどくなりがちな油を、

オレンジソースが巧みに包み込み中和する。

見事な連係プレーに有り余る拍手を送りたいほどだ。


「ブラボー! おぉ……ブラボー!!」


無意識の内に送ってしまっていた。

まぁ、特に問題ないだろう。


さて、こういったロース肉ではあるが、

俺はお上品に食べてはいない。

豪快にフォークをロース肉に突き刺し、そのまま口に運び噛み千切る。

この野生を感じる食べ方に、ある種の興奮を覚えるのだ。


飛び散る肉汁など気にはしない。

付着した汁など、海に入れば綺麗に流れてしまうからだ。

焼き肉は焼き上がった瞬間から劣化してゆく。

一分一秒が惜しい、見た目など気にするな!

その旨味を存分に味わうのに、お上品さなど無用なのだ!


見たまえ、あのワイルドなお子様を!

焼き立ての肉塊を素手で掴み、本能のままに齧り付き、食い千切る。

肉の断面から溢れ出る肉汁! 口の周りにこびり付くは旨味成分!

ガフガフと咀嚼し、ごくりと飲み込む様はまさに肉食獣!

彼は生まれながらに肉の楽しみ方を知っているのだ!


そんなライオットが食べているのは、ブッチョラビの肩ロースである。

この部分は歯応えがよく、塊で食べるには丈夫な歯が必須になるが、

条件が揃えば、これほど肉を食べていると感じる部分はないだろう。


その部分の肉を、彼は手掴みで食べていたのだ!

ワイルドにも、ほどがあるというものだ。


「おいぃ……ライ、おまえ、手が熱くねぇのか?」


「ん? あぁ、全然。鍛えてるから手の皮が厚くなってるんだ。

 今じゃまったく平気だぜ……がふがふ」


そうなのか……俺も試しにやってみようと、

焼き立ての肉に手を伸ばし……そっと離した。


ええ、はい。

アホみたいに熱いです。

彼は色々とおかしいです……はい。


暫らく手を加えない肉を食べていたが、

ただ切っただけの肉では流石に飽きてくる。


そこで、刻んだ玉ねぎを混ぜたブッチョラビの挽き肉を、

半分に切ったピーマンに詰めて焼く。

タレは大根おろしに醤油をかけた物だ。


焼く面は挽き肉の方とする。

ピーマンの方にすると挽き肉が焼き上がらない上に、

先にピーマンが焼き焦げてしまうからな。


「焼けたかな? うむ、おっけいだぁ!」


仕上げに、焼けたブッチョラビの挽き肉ピーマン詰めに、

あっさりとした大根おろしのタレを載せて完成!


うんうん、美味しそうだぁ。


俺はさっそく完成した挽き肉のピーマン詰めにフォークを突き刺し、

そのまま豪快に噛り付いた。


もしゃ、むぐむぐ……ごくん。おいちぃ! 


挽肉の柔らかさとピーマンの歯応えが宜しい。

挽き肉から溢れるジューシーな肉汁が、

ピーマンのほろ苦い味を抑えて丁度良い感じにしてくれる。

また、大根おろしのタレがさっぱりしていて、

何個でも食べてしまいそうだ。


「わぁ、エルちゃんが、また何か作ってるっ!

 えへへ……一個ちょうだい!」


リンダが俺の焼いている挽き肉のピーマン詰めにフォークを突き刺し、

熱々のそれをぱくりと食べてしまった。

食べるのには問題はない、

心配なのは彼女が大のピーマン嫌いであるということだ。


リンダは野菜がピーマンであることに気が付いていないようで、

むしゃむしゃと食べ進めてゆき、

最終的にはぺろりと全てたいらげてしまった。


「このお料理、凄く美味しい!」


やはり、彼女はピーマンの存在に気が付いていないようだ。

ここでピーマンの存在を教えてあげるとしよう。


「リンダ、そのお野菜はピーマンだぞ」


「え……うそ?」


俺の言葉が信じられないのか、

リンダは挽肉が詰まった緑色の野菜をしげしげと見つめた。


「ほ、本当だ! 気が付かなかった!」


どうやら、気が付かなかったので食べれたようである。

要はピーマンの青臭さと苦さがダメなのだろう。


ジューシーな挽き肉を詰めて香ばしく焼いたため、

リンダの苦手とする二点が軽減されたことにより、

ピーマンだと気が付かなかったのだと思われる。


その後も「これなら食べれるよ!」と言って、

もりもりと食べ進めたリンダであった。


俺の昼食が消えてゆくんだぜ……(白目痙攣)。




「お~い! なんか変な建物見つけたぞ~!!」


昼食を食べ終え皆でくつろいでいると、

ダナンがそのようなことを叫びながら駆け寄ってきた。


「変な建物ですか?」


フォクベルトがどのような建物か尋ねると、

ダナンは得意顔になって建物の説明を始めた。


「凄く大きな洋館でさぁ……

 かなり年季が入ってるうえに、人が住んでいる気配がしないんだよ。

 これはもう、何か出るだろ?」


舌をベロンと出し、ダナンはお化けのジェスチャーをマネた。


これは完全にフラグである。

最早、嫌な予感しかしないので、

俺は同行することを断固たる意思を以って拒否するだろう。


「よぉし! 行ってみるか~!」


ライオットが、その変な建物に行く気が満々であった。

彼は俺と共に恐怖の体験をしたばかりだというのに、

もう忘れてしまたのだろうか?


正直な話、暫くは恐怖体験はしたくはない。


「肝試しかぁ……うぅ~、ドキドキしてきたよっ!」


リンダは怖がってはいるが、肝試しに行く気であるようだ。

その一方で、フォクベルトとヒュリティアは否定的な意見を示した。


「止めておいた方がいいのではないでしょうか?

 それに外見がどうであれ、人が住んでいる可能性もありますよ」


「……そうね、私の家もボロ小屋だしなんとも言えないわ」


その言葉が出ることを予め予測していたのか、

ダナンは挑発とも取れる言葉を語り始めた。


「へっへっへ、怖いのか~? それじゃ仕方がないよなぁ。

 お漏らししたら恥ずかしいもんなぁ?」


しかも、挑発対象は俺である。

ビキビキ! と擬音が鳴り響き、俺の頭部に『!?』が発生する!

調子に乗っちゃあいけねぇぜ! ダナン!


「ふっきゅんきゅんきゅん……!

 ビビらせようなど小賢しいマネなんだぜ!

 俺を怖がらせることができるのなら大したものだぁ!」


「ほいきた、それなら探索決定だな」


……あれ? これはどういうことなんですかねぇ?

俺は行くとは、一言も言ってないのですが?


ダナンの口車に載せられた形となった。

皆は結局のところ、行く気が満々であったのだろう。がっでむ。


「謀ったな、謀ったな! ダナン!」


「ふふふ、人聞きが悪い。

 俺はただ、怖いかどうかを聞いただけだぜ」


ダナンは極めて邪悪な暗黒微笑を浮かべていた。

このような邪悪を、のさばらせておくわけにはいかない!

ヤツが寝た後に、額に『肉』と書いて成敗してくれる!(夜襲)


「じゃあ、行こうぜ。

 晩飯までに戻れば問題ないだろうしな」


ライオットは拳をバシバシ突き合わせながらそう言ったのだが、

俺達がこれからおこなうのは、肝試しであり、

血湧き肉躍る熾烈な戦いではない。

彼はそれを理解しているのであろうか?


……してないのかもしれない(呆れ)。




俺達はダナンが発見したという建物に到着した。

ちなみに、全員水着のままである。


「うわぁ……」


まさに「うわぁ」だった。

外観がいかにもって感じの建物がそこにあったのである。


築何年になるかわからないくたびれた外観、雑草が生え放題の庭。

立派な石像は無残にも砕け散り、所々に赤黒い染みが見て取れる。


そして、このヤヴァイ外観には見覚えがあったのだ。

前世の話であるが、テレビゲームでやり込んでいた

『生物的危機』に出てくる建物に酷似していたのである。


偶然だとは思いたいが、

どうしてもこの建物内には「ヴァ~」とか言いながら、

のろのろと歩く臭い方々がいらっしゃるように思えてならない。


「お~? 中々、年季入ってるな!」


明らかに気分を高揚させている獅子の獣人の少年。

この様子から間違いなく、ライオットの目的は肝試しではない。

それは、彼が体を解していることからも理解いただけるだろう。



「へへ……それじゃあ、さっそく中に入ろうぜ。

 先頭は誰が歩く~?」


薄ら笑いを浮かべたダナンが、チラッと俺を見てきた。

これは明らかに舐められている。

ここは一つ釘をさしておくとしよう。


「ビックリした際に爆ぜていいのであれば、

 俺が先頭で歩いてもいいんだぞ?」


「スンマセン」


俺の言葉を聞いた瞬間、ダナンは土下座で謝ってきた。

他の皆も後ろに引いている。

即死クラスの爆発は流石に勘弁願いたいもようであった。


「先頭は俺が歩くぜ。

 エルに爆発されたら堪ったものじゃないからな」


「それが無難だぁな、エルはぁ後ろからついてきなぁ」



先頭はライオット、前衛がヒュリティア、ガンズロック。

後衛はリンダ、フォクベルト、ダナン、俺だ。

一応はダンジョンに突入する、

という設定なので陣形を組んで建物に侵入する。


「それじゃあ、ドアを開けるぞ?」


ライオットがボロボロの正面入り口のドアノブに手を掛け、

ゆっくりと開け放った。

軋むような音を立てて古いドアがゆっくりと開いてゆく。


その音に俺は思わず『ビョクッ!』としてしまい、

咄嗟に身構えてしまった。


テレビゲームであれば、

このような音には問題なく耐えれたであろうが、

これは現実の音である。

俺の小動物のような警戒心が敏感に反応してしまったのだ。


「エルちゃん……まだ、中にも入ってないよ?」


リンダは手で口を押えて、くすくすと小さく笑う。

それに釣られる形で、皆も笑い始めてしまった。


ふ、不覚!

この俺が、このような場所で無様な姿を晒してしまうとは!


しかし、彼らが笑っていられるのもここまでであろう。

この建物の中には、失禁物の恐怖が待っているに違いないからだ。


よって……俺もお漏らしの可能性があるので、

ぼちぼち帰りませんかねぇ?(提案)


そんな提案など却下だ、

と言わんばかりに俺達はゆっくりと建物に入って行った。


玄関ホール……

かつては、煌びやかな装飾が施されていたであろうその場所は、

今ではその名残を残すのみとなっていた。

朽ち果てた赤い絨毯が栄華を極めたのであろうと、

想像させるが、ただただ空しいばかりである。


「……ボロボロね」


「うわぁ……思ったより酷い光景だな。

 こりゃあ、お宝も期待できないかなぁ?」


ヒュリティアとダナンが、建物内の荒れ方に溜め息を漏らす。

その間も俺は警戒レベルを最大にし、

大きな耳をピコピコとさまざまな方向に向け音を拾う。

音は情報を得るのに非常に役に立つのだ。


俺の大きな耳は意識を集中すれば、

足音はもちろん、

離れた位置にて小声で話す会話ですら聞こえるという、

極めて優秀な性能を持っているのだ。


「あはは、エルちゃんの耳がピコピコ動いて可愛い!」


「随分と警戒してますね。

 何か潜んでいそうですか?」


リンダとフォクベルトの反応が違い過ぎる。

その違いに少し集中力が乱れたが、

これといった異音は聞き取れなかった。


「今のところ、特に異常はないな」


「そうですか……でも、警戒は怠らない方が良いですね」


クイッと眼鏡の位置を直し、フォクベルトは辺りを見渡した。

しかし、玄関ホールを好き勝手に見て回っているメンバーを見て、

彼は肩を落とし脱力する結果となってしまう。


「せめて、僕達だけでも気を付けましょうか」


「ふきゅん、そうした方が良さそうだな」


俺達は古びた洋館を探索する。

ただの肝試しで終わってくれればいいのだが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字:と 焼く面は挽き肉の方のする。
[一言]  いつ頃失禁するんです?(・∀・)wkwk
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ