442食目 集いし神級食材
無事にサトウキビをゲットしてフィリミシアに帰還した俺達は、早速、桃師匠に報告とサトウキビの鑑定を依頼しにヒーラー協会へと向かった。
ミョラムの森にて野生化したプリエナとルバール傭兵団は桃先生風呂にて理性を取り戻し、無事に人に戻ることができた。やっぱり、困った時は桃先生に限る。
そして、我が家臣ザインであるが……。
「うう……拙者、何かとても大切な物を失ったでござる」
「いつかは失う可能性がある物だから気にするな」
失った物が何か……は敢えて言わない。だが、ザインはあの日確かに大切な物を失った。
「うふふ、清々しい気分だわ。ザイン、また『遊び』ましょうね? その時はもちろん……」
「ひぃっ!?」
これには俺も想定外であった。どうやら、ユウユウは気に入った者であれば『どちら』でも食っちまうらしい。流石はウルジェを相棒にしているだけはある。今後は気を付けることにしよう。
桃師匠が普段いるのはヒーラー協会の三階にある空き部屋だ。ヒーラー協会の三階は殆どが空き部屋となっており有事の際に色々と活用できるスペースとして確保されている。
彼はその内の一室を譲り受け、桃師匠として活動している場合は、そこで色々と訓練のプランや自身の鍛錬をおこなっているのだ。
だが、もともとはジェームス爺さんの身体なので、必要がない場合は身魂分離で桃アカデミーにて活動しているそうだ。でないとジェームス爺さんに負担が掛かってしまうからな。
「ふきゅん、桃師匠、ただいま戻ったんだぜ」
「うむ、首尾はどうだ?」
桃師匠の部屋に入ると、そこには多くのクラスメイト達がワイワイと自分達の獲得した食材の自慢話を交わしていた。どうやら、皆、無事に食材を獲得してきたようだ。
「おっ? エル! 俺達も神級食材を取ってきたぜ!」
「へっへ~、どうだ、この卵! 苦労したんだぜ!?」
「エル様! ご覧あそばせ! この野菜達の姿を!」
皆、目をキラキラさせて食材を俺に見せてきた。どれもこれも一目でただ物ではないことを窺わせる品々だ。その食材達を見て、俺は一瞬、我を失いかけた。
ふきゅおん、と魂の底でピコピコと尻尾を振る黒き大蛇が「出てもいい?」と訴えてきているのだ。
もちろん、答えはNOである。
「……ふきゅん!? あぶねぇ、食欲が飛び出しそうになった。これは間違いなく神級食材だろ」
「せいか~い! 俺たちは一足先に桃師匠に鑑定してもらったんだ」
フェアリーのケイオックが、自分の身体の半分はあろうかという卵を抱え、背中の翅でひたひらと器用に宙を飛び回っている。
ひと昔前までは飛ぶのでやっとだった、というのに随分と逞しくなったものだ。
「ところで……キュウトはどうした?」
「ん? キュウトか? ほら、あそこでウルジェに抱っこされてるぜ」
俺はその言葉を聞き、あの忌まわしい記憶を呼び覚ました。ぽっちゃり眼鏡少女に凌辱の限りを尽くされる薄幸の銀狐の少女の姿を。
まさか、こんな場所でそれが再現されてしまっているというのか!?
「うふふ~ほらほら~、ここが~いいんですか~? いいんですね~?」
「きゅ~ん」
ああっ!? なんということだ! キュウトはウルジェに大股開きにされて大事な場所をなでなでされているではないかっ!!
こんなにもけしからん行為に誰も注意する者はいない! なんという風紀の乱れっ! これは見逃せぬ事態だと判断するっ!!
この桃使いエルティナの目が黒い……もとい、青い内は断じて許さないぞっ!
「ウルジェ、またキュウトの腹を撫でてるのか? 飽きずによくやるなぁ」
「うふふ~だって~可愛いんですもの~」
くっ!? なんということだ! 良識あるクラークまでもが懐柔されてしまっているとは!!
こうなったら、強硬手段に出るしか方法が……!!
「きゅおん!」
「あっ」
その時のことだ、キュウトが彼女の一瞬の隙を突いて束縛から逃れたのである。流石、一流の『子狐』は格が違った。実に見事だと感心するがどこもおかしくはない。
ん? 俺はキュウトが『人の姿』をしている、とは一言も言ってないぞぉ?
「もういいだろ? 腹ばっかり撫でられたらヒリヒリしちまうよ」
「ああん~もう少し~」
子狐から少年の姿に戻ったキュウトは俺に無事であることを示してくれた。全裸なのに堂々としている辺り、彼も裸族としての資質は十分ありそうだ。
「服着れよ、キュウト。女子が股間をガン見してるぞ?」
そんなキュウトに、リザードマンのリックが服を着るように促す。
「ん? あぁ、俺どっちの股間も知ってるから恥ずかしくないんだよなぁ。まぁ、見苦しいのであれば、すぐに服を着るさ」
「そんなものなのか? でも、その状態で魔力に当たったらやべぇだろ?」
「そ、それもそうか」
話を聞くとキュウトもウルジェの性癖に危機感を覚えていたらしく、思案の果てに子狐の姿になってやり過ごすという方法を採用したそうだ。
だが、その弊害として、やたらと彼女に腹をなでなでされることになったそうな。レズビアンであっても、可愛いものは可愛いのである。
確かにキュウトの子狐状態のお腹は、ふにふにたぷたぷで触っていて飽きない。しかも可愛いとくれば、ウルジェが癖になってしまうのも無理はない話だ。
俺も一時期、黒猫のおこげの腹を撫でまくって怒られた記憶がある。何事もやり過ぎは良くない、と学んだものだ。でも、たまに触りたくなるのは何故であろうか? まさか……中毒?
「取り敢えずは、みんな無事に戻って来てくれて、よかった。それで、桃師匠、そのサトウキビはどうだった?」
「ふん、こいつも見事に神級食材よ。おまえたち、よくやったな」
桃師匠のお墨付きにサトウキビ捜索隊はハイタッチで喜びを分かち合った。
ところで、たぬ子ことプリエナであるが、野獣化が切っ掛けで子狸状態に自由に変化できるようになったらしい。
全ての獣人が、この形態をとることができる可能性を持っているが、あくまで可能性であり、自在に人と獣の姿を変えることができる者は稀であるそうだ。
つまり、キュウトとプリエナは貴重な存在であることになる。
「うゅーん」
そんなわけで、現在プリエナは子狸状態でユウユウ閣下にモフられている。どうやら閣下はプリエナの獣状態が大層お気に召したようなのだ。
これからプリエナには彼女のご機嫌取りに活躍してもらうとしよう。それだけでプリエナには値千金の価値があるのだから。
「さてさて、集まった食材は……フレイベクス肉、塩、お米、醤油、卵、砂糖、梅、玉ねぎ、これはカイワレか? 後は……ライオットたちが採ってきたキノコか」
親子丼を作るには三つ葉と紅ショウガ、みりんに酒。そして肝心、要の鶏もも肉がない。フレイベクス肉を使用してしまうと『他人丼』になってしまうので却下だ。
ううむ、ここは一旦、別の料理を作ってプルルを満たすしかないだろうか? これだけの食材が集まればレパートリーもかなり増えるはずだから。でもなぁ……。
「おおい、今もどったぞぉ! ういっく、こいつがぁ、神酒『バッカスの愚痴』よぉ!」
「おやおや、ガンズロック。それを飲んできたのかい?」
「へっへっへ……分かるかぁ? フォク。ドワーフの里の秘宝さ。少しぐれぇ飲んでも罰は当たるめぇ」
「確かに……それと交換する価値のある物を掘り当てましたからね」
俺が妥協するかどうかを迷っていると、べろべろに酔っぱらったガンズロックが部屋に入ってきた。
酒に強いドワーフ族にして更に酒が強いガンズロックが、ここまで酔った姿を見せるとは驚きだ。
いったい、どれほどの量を飲んでしまったのだろうか? 実は手に持っている瓶は空だったりして?
「ガンちゃん、おかえり。その酒、どれだけ飲んだんだ?」
「おう、ただいまだぁ、エル。そうさなぁ……おちょこ一杯さぁ」
「へぇ、一杯か……一杯!? たった一杯で、そんなにべろべろに酔っぱらうのか!?」
「うぇっへっへっへぇ、別名『ドワーフ殺し』よぉ。噂には聞いていたが、こいつぁ、効くぜぇ?」
彼は千鳥足で桃師匠の下まで辿り着き、酒瓶を彼に手渡すと近くにあった椅子にドカリと座り、瞬く間に眠りの世界の住人と化してしまった。
これは流石に桃師匠といえども正確に鑑定できるかどうかわからない。飲んだ瞬間に酔っぱらってしまったらどうにもならないからな。何度も〈クリアランス〉を施して鑑定してもらうしかないかな?
「ふむ……良い香りだ。どれ」
桃師匠はグラスに『バッカスの愚痴』をなみなみと注いだ。
グラスに注がれた琥珀色の液体はウィスキーのようでもあるが、放たれる香りはウィスキーのものではなく、完熟した果物のようなフルーティーなものであった。
だが、その香りの中には確かにアルコール特有の物が混じっており、嗅いでいるだけで酔ってしまいそうになる。
事実、クラスメイトの数人は酔っぱらってフラフラしている者がいたので上級総合異常治癒魔法〈クリアランス〉を施してアルコールを体内から解毒しておいた。一応、アルコールも毒として認識されているらしい。
桃師匠がグラスに口を付けた。コロコロと口内で琥珀色の液体を転がし、良く味を確かめているようにも見える。やがてそれを飲みこむと……普通に二口目に入った。そして、同様に口の中でよく味を確かめ飲み干す。
やけに時間が掛かっている。まさか、神級食材ではないのだろうか?
酒は料理において重要な役目を果たす陰の功労者だ。これが在ると無いとでは仕上がりに雲泥の差が生じてしまう。是非とも神級食材であってほしいのだが……。
桃師匠は遂に三口目を口に……って、おいぃ!
「桃師匠! 普通に酒を楽しんでるだろっ!?」
「むっ! バレたか! できるようになったな、エルティナ」
「バレたか、じゃないんだぜ。それで、その酒は神級なのか」
「ふふん、心配するでない。神級食材よ。にしても……わしをも魅了する酒が、この世界にあるとは……」
そう言って桃師匠はグラスに入った酒を全て飲み干してしまった。
彼からは確かに酒の臭いがするが、彼自体はまったく酔っている気配はない。桃師匠はガンズロックを上回る酒豪であったのだ。マジぱねぇっスよ。あんた。
「どれ、俺も味見を……」
「バカ者。酒は成人してからにせい」
「ふきゅん」
どさくさに紛れて飲んじゃえ作戦は早々に見破られてしまった。ふぁっきゅん。
それにしてもこの酒は大きな収穫だ。これで料理に深みが出るというものである。
次々に神級食材判定が出たことに、プルルも大きな喜びを感じているようだ。この辛い状況下でよく耐えている。
俺であれば三日……いや、三時間もたないだろう。いや、三十分、いやいや、三秒かもしれない。、いやいやいや、そもそもが我慢できない。
「後は鶏もも肉と三つ葉、みりんに紅ショウガか。これは無理かなぁ」
「もういいよ、食いしん坊。僕のために、こんなに集めてくれたんだ。これほど嬉しいことはない。これ以上望んだら罰が当たるってものさ」
プルルは目に涙を浮かべて喜んでいるが、俺たちが望むのは『親子丼』を食べて喜ぶプルルの笑顔である。つまり、まだ道半ばであり、ここで立ち止まるわけにはいかないのである。
それは確認するまでもなく、皆の顔を見ただけで理解することができた。であるならば、神級食材の捜索は続行せねばなるまい。
「エル様~! うちの地下で発見した、お酒を持って参りました!」
そこに元祖家臣である吸血少女ブランナが、ガチャガチャとフルプレートアーマーの金属音を立てながら部屋に入ってきた。肩には大きな樽を担いでいる。
だが、残念ながら既にお酒はガンズロックが持ってきた『バッカスの愚痴』があるので、これ以上はいらないのだ。彼女には申し訳ないが持って帰ってもらおう。
「ささ、桃師匠。鑑定してくださいまし」
「む、酒は既に……ん? これは酒ではないぞ」
「え?」
ブランナがグラスに樽の酒を注ぐのを見て、桃師匠は違和感を覚えたようだ。俺も微妙に違和感を覚えている。そそがれた液体は琥珀色の液体ではあるが、それにしてはアルコール特有の香りがあまりしない。これは、ひょっとすると……。
「うむ、みりんだな。しかも神級だ」
「凄まじい、ご都合展開なんだぜ。何もかもが俺達に都合の良い方に進んでいる」
「お酒じゃなかったのですね……お父様が自信をもって銘酒とおっしゃってましたのに」
あの人を当てにしてはいけない。
ブラドーさんは確かに良い人で憎めないが、ここぞという時に華麗に的を外すので有名なのだから。
しかし、その的外れが今回にばかり、良い方に行ったのは称賛に値する。ご褒美に俺の血をご馳走してあげなくては。
「後は肉と三つ葉と紅ショウガか……三つ葉と紅ショウガは妥協してもいいが、主役が不在とか反則でしょ」
「主役を呼んだか?」
「お、おまへはぁ……!?」
わざとらしく入り口にもたれ掛かる赤髪のっぽの少年。彼は俺に対しニヒルに笑みを作ったので、俺も彼に応えるべく大声で言ってやった。
「誰だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「おまっ!? わざとにしてもヒデェだろっ!!」
「……ききき……息の合った……漫才……」
見事なツッコミと共に部屋に入ってきたのは、大きな袋を抱えたダナンと彼に密着するように歩く巨乳カラス鳥人の少女ララァである。相も変わらずラブラブでよろしいことだ。
「それで、その袋の中身はなんだ?」
「へへ、主役さ」
主役……つまりは鶏もも肉かっ! やってくれるじゃないか、ダナン! 見直したぜ!!
俺はさっそく袋を譲り受け、中身をテーブルの上に取り出した。だが、それは肉ではなかった。何やら変わった形の大きな瓶が八つほど袋に詰まっていたのである。
くしゃみをすると何か出てきそうだぁ……。
「ふきゅん、ダナン、これはなんだ?」
「あぁ、露店街で売っていた『紅ショウガ』だ。伝説級に美味いらしい」
「……」
「……」
凄まじいほどの沈黙が辺りを支配した。この沈黙に動じていないのはやはりプリエナただ一人である。
「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? 主役は鶏もも肉だるるぉっ! 紅ショウガはサポート要員だ!!」
「紅ショウガ、うめぇだろ! 俺は紅ショウガで飯三杯いける!!」
まさかの紅ショウガであった。しかも、露店街で購入したものである。これが神級食材である可能性は極めて少ないであろうが一応、桃師匠に鑑定をお願いした。
「信じられん……神級食材だ」
この桃師匠の鑑定結果に皆は驚きの声を上げることとなった。もはや、驚き過ぎて奇声へと変貌している。俺ももちろん白目痙攣を極めて奇声を上げまくった。
ふきゅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!
「ほれ、見たことか。俺の目利きをバカにするから驚くんだ」
「いやだって、素材ならまだしも、これは調理済みのものなんだぜ? 人の手が加わっているから、普通は神級なはずがないだろ。いったい、どんなヤツから購入したんだ?」
「んっとな、全身赤いタイツのひょろっとしたおっさん」
「あ……そいつ、知ってるかもしれん」
「マジかよ、世界って狭いな」
「あぁ」
俺は紅ショウガを口に含み良く味わうと、確かにあの時の紅ショウガの味がした。そう、キララさんを救出せんがために行動しようとした際に、俺の邪魔をしてきた『ジンジャーレッド』の紅ショウガ汁の味だ。アレは流石に痛かった。でも美味かった。
主を失い戦友をも失った彼は、生きるために自慢の紅ショウガを売って回ることを選んだのだろう。あの戦いで自分に戦いは向いていないことを悟ったのだと思われる。
そう、戦いはいつだって虚しいものなのだ。これを機に紅ショウガの素晴らしさを広めていってほしいものである。
「ふきゅん……何か目に見えない大きな力が働いている可能性を否定できない」
「にゃ~ん」
俺がその可能性を考慮していると、大量の瑞々しい野菜を笊に入れて持ってきたホビーゴーレム達が部屋に入ってきた。
笊を持っているのはチゲだ。そして、野菜の上にはツツオウが誇らしげに載っていた。足元にはイシヅカ、ムセルの姿もある。
「ふきゅん、おまえ達も探してくれていたのか……いや、これはイシヅカ農園のお野菜か?」
きっと、俺達が腹を空かせているのではないだろうか、と気を利かせてくれたのだろう。イシヅカ農園の野菜達は野菜嫌いのお子様ですら魅了する美味しい健康野菜なのだ。
それもそのはず、桃先生の大樹のお膝下で育てられた究極の……。
あっ。
「桃師匠! このお野菜っ!!」
「うむ、これは灯台下暗しだった。何故、もっと早く気が付かなんだか」
そう、この野菜たちこそ特別な存在であったのだ。イシヅカは毎日せっせと桃先生の湧き水を野菜達に与えていた。たっぷりと愛情をそそぎ、陽の力を与えた野菜たちが神級食材に育たないわけがない。既に十分、条件はそろっていたのである。なんで気が付かなかったし。
そして、イシヅカ農園の特徴として珍しい野菜を育てていることが挙げられる。そこら辺から採ってきたハーブ類なども育てているのだ。つまりは……。
「うおぉぉぉぉぉっ! あった、あったぞぉぉぉぉぉぉっ! 三つ葉だ!」
そう、俺がイシヅカに依頼していた三つ葉である。フィリミシアではあまり馴染みがない物であるのだが、たまたま学校の授業の際に発見した物を採取し、彼に増やしてくれるように依頼していたのである。
もちろん、俺が食べて楽しむためだが、まさかこんなところで役に立つことになろうとは、夢にも思わなかった。
これで後は主役である鶏もも肉であるが、ここで俺の頭に電流が走った。
フレイベクスは竜である。竜とは何か? 恐竜の親戚である。では、恐竜とは何か? 鳥のお祖父ちゃんである。つまりは……。
「竜は鳥の先祖だった……? だったら、フレイベクスのモモ肉で代用できるんじゃね?」
試しにフレイベクスのモモ肉を取り出し、一口大にカットし調理場に持ってゆき焼いてみた。
「これがその肉なんだぜ」
それを皆に試食してもらう。すると、さまざまな意見が飛び出してきた。
「ふぁ、鶏肉っぽいです!」
「俺は牛肉っぽかったぜ?」
「え~? わちきのはコリコリしていてたさね」
「がふがふがふ……おかわり!!」
「僕が食べた肉は確かに鶏もも肉に感じました。どうやら、モモ肉であっても部分によって食感が変わるようですね」
フォクベルトの分析は恐らく正しいだろう。であるならば、後は調理する者の力量次第というわけだ。
これで条件は整った。後は作るのみ。
「プルル、必ず神級の『親子丼』を作ってやるからな! チゲ、手伝ってくれ!」
俺の要請に彼は行動を以って応えてくれた。胸部ハッチから純白のコックコートを取り出し、その赤き身に纏ったのである。俺もそれに続き〈フリースペース〉から、愛用のコックコートを取り出し戦闘形体へと変貌する。
さぁ、調理開始だ! 皆の愛と勇気と努力の集大成を作り上げようじゃないか!
二人の調理師が皆の期待を背負い厨房へと向かう。それは激しい調理の前触れであった。




