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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第九章 神級食材を求めて
441/800

441食目 ソウルイーター

 ……ふっふっふ、初めてですよ。この俺が本気で〈ヒール〉して、うんともすんとも言わなかったのは。絶対に許さん、絶対にだ! このままじわじわと弄り癒してくれるわ!!


 治療を始めて十分ほどが経過していた。眠り続ける少女に魂の力を注ぎ続けるも変化は一向に訪れることはなかったのである。

 渾身の力を籠めて治療しているというのに一向に変化が起こらないとなると、流石の俺も凹み始めてしまう。だが、ここで諦めるのはNGだ。

 確かに俺の魂の力は少女の魂に注がれている。にもかかわらず、変化が起きないというのはおかしいではないか。だとしたら、俺の力を阻害しているなんらかの要因が存在しているに違いない。


「ふきゅん、変化がない。これは魂の中を調べてみるしかないな。ヒーちゃん、ちょっくら行ってくる」


「……え? 魂の中って」


 俺には頼れる魂の友人、そして守護者がいる。彼らに協力を仰ぎ少女の魂を調べてみることにしよう。

 本来であれば魂内はプライベートなので勝手に侵入すると怒られてしまうのだが、このまま手をこまねいているわけにはいかない。現場の判断という事で強行突入しよう。


 俺はミニマムサイズの魂の分身を作り出し、同じくミニマムサイズのいもいも坊やとヤドカリ君を引き連れて少女の魂内へと突入した。

 尚、俺の身体は初代様が管理してくれている。ありがたや、ありがたや。


 少女の魂内に入り込む。『支配層』であるはずなのだが、そこは何者かに食い荒らされており、無残にもスカスカの状態となっていた。これでは目を覚ますわけがない。

 だが、俺の〈ソウルヒール〉であるならば『支配層』修復は容易におこなえるはずだ。『意思層』ともなると、こうして直接魂を分けて出向かねばならない危険な治療となるわけだが……あれか。


 俺達の前方に少女の魂を貪り食っている、ミミズともムカデとも判別が付かない気色悪いヤツがいた。恐らくはヤツがソウルイーターであろう。

 ソウルイーターに決まった姿はない。元となった魂の性質によって姿を変化させるので、意外とこいつはソウルイーターである、と判断することが難しいのだ。

 だが、目の前のこいつは現行犯であるのでソウルイーターで確定だ。


『おいぃ……この子の魂を食うとか、おまえソウルイーターだろ? ソウルイーター汚い、流石ソウルイーター、汚い。そんなおまえは、この桃使いエルティナが輪廻の輪に強制送還してやろう』


『んかぁぁぁぁぁぁぁ……!!』


 魂を喰らっていたソウルイーターがこちらに振り向いた。身体はうねうね、だが顔は、おっさんやないか。マジでキモイ。

 というか口の周りに魂のカスを付けっぱなしにすんな。いや、その前に魂食ってんじゃねぇよ。ふぁっきゅん。


 どうりで少女が目を覚まさないわけだ。治しても片っ端から喰われてしまったのでは堂々巡りである。

 どうやら、このソウルイーターは寄生するタイプのようだ。少女が魂を食い尽くされて息絶えてしまわなかったのも、こいつが寄生するタイプだったからだろう。

 時間を掛ければ魂は自然回復してゆくのだが、回復した分を食べてしまえば『支配層』は機能しなくなるため、この少女は寝たきりになる。

 本来なら身体が衰弱して死んでしまうだろうが、幸か不幸かこの家には彼女を生き永らえさせる機械が存在していた。それを利用して、この寄生体は今まで安定した魂の補給をおこなってきたのだろう。


 俺達を目撃したソウルイーターは唸り声を上げて襲いかかってきた。

 まぁ、当然だろう。今の俺たちは魂そのもの、ヤツにとっては食料でしかない。だが、その条件はそちらとて同じこと。俺達を見た目で判断しない方がいい。


 最初に動いたのは、いもいも坊やだ。口からぴゅーっと糸を吐き出して、ソウルイーターの不細工な顔を完全に隠してしまった。

 突然のことに動揺して長い身体をくねらせて暴れる魂喰らいに、今度はヤドカリ君がその大きなハサミを振りかざし突撃を試みる。


 ちょっきん、ちょっきん、ちょっきん。


 なんということでしょう。あの長くてキモイソウルイーターが、短くてキモイおっさんへと変わってしまったではないですか。


 ……汚物は消毒だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


 あまりにも見苦しかったので〈桃源光〉を使用し、ソウルおっさんを輪廻の輪へと速やかに強制送還する。これで、いろいろな意味でひと安心だ。


 おっさん、もうソウルイーターなんかになるんじゃないぞ!


『なんか、すっげぇ疲れた気がするんだぜ』


『いもぉ……』


『……』


 これには、いもいも坊やもヤドカリ君も苦笑いであった。

 取り敢えずは魂の治療の邪魔をしていた厄介者の排除に成功したので、このまま内部から魂を治療してしまおう。外部から〈ソウルヒール〉するよりも効果は高いからな。


 でも流石に〈ソウルヒール〉の連続使用は堪える。莫大な魔力と魂の力である桃力を消費するからだ。

 いましがた〈桃源光〉を使用してしまったので、ここは一旦、引き返した方がいいのかもしない。でも、ここまで来たのなら無理をしてでも治療してしまった方が……と判断に悩んでいると、不思議なことに身体が突如として発光しだしたではないか。これはいったい?


 その光はお月様の放つ輝きによく似ていた。そして身体に流れ込んでくるこの力も、俺はどこかで経験しているはずだ。


 この力は……そっか。だったら、俺もやってみせないとな。


 俺は〈ソウルヒール〉を発動させた。桃色の輝きを纏ったチユーズ達が大工道具を手に飛び出してゆく。というか、魂を大工道具で修復する光景はかなりシュールだ。

 それでもなんの問題もなく魂が修復されてゆく。その光景は実に幻想的で美しいものだった……と思いたい。

 完全に修復された魂内は非常に美しい光景を俺達に見せつけた。この子の魂は元々が美しいのだろうと思われる。

 さぁ『支配層』は完全に修復できた。後は『意思層』を確認して帰還しよう。治療のためとはいえ、あまり長く人の魂内のいるのは避けなくては。


 俺たちは光り輝く魂内を飛ぶ。それはまるで輝く宇宙を飛んでいるような感覚であった。




 


「……ふきゅん、工事……もとい治療完了だぜ」


 無事に肉体への帰還を果たした俺は凝り固まった身体をほぐした。

 やはり身体は輝いており、心身ともに力が漲っていることが理解できた。


「ヒーちゃんもありがとな……って、めっちゃ光ってるぅぅぅぅぅぅぅっ!?」


「……役に立てたのなら、嬉しい」


 そこには薄暗い部屋の中にあって美しく光り輝く踊り子の姿があった。

 その輝きは決して目が眩むようなものではない。闇を優しく照らす月のような輝きだ。穏やかで大人しいヒュリティアに相応しいといえる。


 彼女は部屋の広いスペースで踊っていたようだ。俺は直に踊りを見ないと不思議ぱぅわーを得ることができないものだと思っていたのだが、どうやら勘違いであったらしい。


 それにしても……ヒュリティアの衣装がエロい。マディさんも、なかなかにきわどい衣装を渡したものだ。褐色の肌を隠す布地がミレニア様レベルで少ない。やはりミリタナス神聖国は深刻な布不足だった……!?


 俺がそのようにミリタナス神聖国の未来を憂いていると水槽内の少女のまぶたがゆっくりと……。


「がぶぉっ!? がぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?」


 おぼれてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?


『パニックになっているだけメカ。今、養液を排出するメカ』


「キャリード・エスは冷静だな」


『私の役目は姫の目覚めで完了したメカ。長い、長い任務だったメカ』


 溶液を排出し水槽を開いたキャリード・エスは『任務完了』と言い残し機能を止めてしまう。その声は全ての役目を果たし退役した軍人のような感じがした。

 きっと、キャリード・エスを作った科学者によって、そのようにプログラムされていたのだろう。


「お疲れさま……キャリード・エス。ゆっくりお休み」


 何も反応しなくなった鉄の塊に手を掛け労いの言葉を贈る。返事こそなかったが、どことなく誇らしげな様子であった。


「げほっ、げほっ……あんまー」


「っ! 私が分かるのね? 本当に、本当に……」


 アルウィーネさんは目を覚ました我が子を抱きしめた。目から溢れる涙は留まることを知らない。

 その母親を不思議そうに見つめる娘は、自分が今までどうなっていたかを知らないようだ。無理もないだろう。


「よかったじゃねぇか。今までの苦労が報われる……なぁ、嬢ちゃん?」


「ぐすっ、ぐすっ、私は貴方よりも年上ですよ」


 グレー兄貴の目じりにも光る物があったが、そこは漢として知らない振りをするのが大人の醍醐味だろう

 なんにせよ、この親子とグレー兄貴の苦悩の日々はここに幕を下ろしたのである。そして、ミョラムの森の最深部も再び命に満ち溢れることだろう。


「ところでヒーちゃん。まだ光ってるんだが?」


「……うん、止め方……分からない」



◆◆◆



 リビングに戻り一息吐いたところでザインたちがやってきた。ロフト達の姿も確認できる。このままでは彼らによってアルウィーネさんが凌辱されてしまうことは確実だ。

 そこでグレー兄貴の個人スキルを使用して彼女らを匿ってもらうことになった。アルウィーネさんと娘さんにグレー兄貴に抱き付いてもらいスキルを発動するのである。そうすれば、きちんとスキルの効果は発揮されるそうだ。その代り、移動はできなくなるらしい。


「うゅ~ん」


 それとは別に、とてとてと短い足で歩み寄ってくる子狸プリエナがかわゆい。彼女は暫くぶりの再会に目を輝かせて喜んでいた。


「全裸ボインはどこだ!? 俺は全裸ボインを要求する!」


「見事なくびれがいると聞いて!!」


「ケツ! ケツ! ケツ!! 早くっ! プリーズ!!」


 ええい、喚くな変態共!! アルウィーネさんのおっぱいと、くびれと、お尻は俺が護る!!


「ふっきゅんきゅんきゅん……全裸ボインさんは治療が完了した娘さんと旅立った。もういない。だが安心しろ、彼女の全裸は俺がメモリーしている。帰ったら絵にして見せてやろうじゃないか」


「くっ!? 遅かったか! だが……絵にしてくれるというのであれば我慢しよう」


「残念だなぁ」


「そうさね」


 妙に大人しく引き下がる三人に違和感を覚える。心のどこかで警鐘が鳴り響いている感じがするのだ。いかん、連中はどこかのタイミングで仕掛けてくるはず……!! いったい、どのタイミングで?


「でも、今日の俺達には女神がいてくれる!」


「おお! 引き締まったくびれにメロメロだぜ!」


「流石は、あのお姉さんの妹さね! もう我慢できないさねっ!」


 動いたっ! だが……まてまて! 早過ぎんだろ、おまえらっ!?


 俺が手を伸ばした瞬間には移動が完了していた。我らが半裸の踊り子ヒュリティアは無残にも彼らによって……。


「うゅーん」


「「「な、なにぃ……!?」」」


 しかし、それを上回る動きをしたのがヒュリティアであった。とてとてと近寄ってきた、たぬ子を身代わりにし、彼らの抱き付き攻撃から悠々と回避に成功していたのである。

 そして、たぬ子は抱き付いてきたロフトに対し、嬉しそうに尻尾を振っていた。


「か、変わり身……!? 俺達の『瞬動術』を上回るだと!!」


「セクハラのために血の汗流して身に付けた技術が破られたっ!」


「悔しいさね! 悔しいさね!!」


 どうやら彼らはセクハラのために恐るべき歩行術を習得していたらしい。その情熱を別の方向に向ければ、たぶん歴史に残る人物になる可能性は大いにあるのだが……無理だろうなぁ。

 でも、ヒュリティアはよく三人の瞬動術に反応できたな、といったところで、まだ彼女が輝いていることに気が付いた。輝きは最初の頃よりも収まっているが、いまだに薄っすらと輝いており、より一層に彼女を神秘的に見せていた。


「……ロフト達の動きがスローモーション……いえ、違うわね。先が『視えた』と言った方がいいのかしら。不思議な能力ね。初めて知ったわ」


 彼女の言葉に絶句するロフト達は真っ白になって燃え尽きた。ここに一つ、親友に謎ができた瞬間である。自分ですら把握できない能力を発揮して戸惑うヒュリティアに、不覚にも萌えてしまうのは仕方のないことだろう。


 何か困ったことがあるなら、俺に相談するがいい。桃先輩に頼んでなんとかしてもらうから。

 他力本願をフル活用することに躊躇がない俺は、桃先輩を酷使することを躊躇わない! 全ては我が親友のため! だからお願い許して! 桃先輩!


「まぁ、そういうわけで、俺達はサトウキビを回収してフィリミシアに帰るぞ」


「うぃ~。あれ? ゴリラのおっさんはどうしたんだ?」


「ゴリ……グレー兄貴は一足先に出ていったぞ。ミョラムの森の最深部を調査するそうだ」


「ふ~ん、まぁいいさね。ケツがいないのであれば、ここに用はないさね」


 俺たちは本来の目的を果たすためにサトウキビの生えている場所へと移動を開始した。家を出る際にグレー兄貴達がいるであろう場所にウィンクをバチコーンと放っておく。

 これでアルウィーネさん親子も静かに暮らせるというものだ。


 サトウキビの場所は先ほどアルウィーネさんに聞いておいたので辿り着くことができるだろう。現在この森に俺達を阻む者などいない。移動もスムーズだ。

 グレー兄貴に残ってもらった理由には二つある。一つはあの親子のアフターケアだ。


 どうやら、娘さんはグレー兄貴のことを父親だと勘違いしているようなのだ。よって、心が成熟するまでは彼に父親を演じてもらうか、またはそのまま父親になってもらう。

 アルウィーネさんも親身になってくれたグレー兄貴を少なからず想っている様子であるので、できれば後者を選んで母娘ともども心を癒してやってほしいものだ。心優しい彼であれば、それも可能だと信じている。


 もうひとつは……ふっきゅんきゅんきゅん、みなまで言わせるなぁ!

 お、いたいた。げっつ!


 これは親睦を深めるために必要不可欠であるため、仕方なく懐に忍ばせるのである。大丈夫、ちゃんとキノコにも承諾を得たから。


 暫く進むとサトウキビらしきものが見えてきた。どれもこれも大きく育っており立派だ。そのうちの一本を切り取り、皮を剥いて齧るとあま~い汁が口いっぱいに広がった。


「あんま~い! そして、おいちぃ!!」


 これは大変に危険な甘みだ。いつまでも齧っていたい気持ちに強制変更させられてしまう。自制が聞かなくなるこの甘みは、本能に直接訴えかけているかのようだ。

 このサトウキビでお菓子を作ったらどうなってしまうのだろうか? きっと世の中、エミール姉みたいなぽっちゃりさんだらけになって、でぶ専パラダイスになってしまう!? き、危険だ!


「このサトウキビの存在をエミール姉に知られてはならない。いいな?」


「エミール姉? あぁ……あのむっちりお姉さんか。マジで爆乳だよな。いや、最近は超に届くか……?」


「俺はあの人、痩せた方がいいと思う。くびれがないし」


「でも、あの超絶ヒップは突撃したい衝動に駆られるさね」


 おまえらは彼女のどこを見ているんだ。いや、そんなことはどうでもいいか。とにかく、彼女には、これ以上増量されてもらいたくはない。健康的にも今が限界といったところだ。


「へぇ……上品な甘みですね。味わうと口の中が涼しく感じます」


「ふきゅん、天然の和三盆みたいな感じだな」


「あぁ、何か知った味かと思えばそれでござったか」


 高級砂糖『和三盆』のような爽やかさと甘み、そして腹の底から活力がみなぎってくるこのサトウキビは

神級食材の可能性大だ。取り敢えずはプルルの分と俺の分を伐採して引き上げるとしよう。

 欲張って大量に伐採したらもう生えてこなくなる可能性があるからな。欲張っては結果的に損をするのだ。

 俺の分のサトウキビでアマンダと一緒にクッキーを作る予定だ。これなら皆で食べられるからな。


「クウヤは持って帰らないのか?」


「俺ですか? う~ん、今回、俺はあまり役に立ちませんでした。そんな俺が貰ってもいいのでしょうか?」


「いいんじゃね? 報酬は山分けだって、それ一番言われてっから」


「そうですか……では一つだけいただいてゆきます。きっと母上が喜んで使ってくれることでしょう」


 そういうと彼はサトウキビを一本だけ切り取り〈フリースペース〉へとしまい込んだ。その謙虚さに俺は思わず「ほぅ……」と感心することになる。やはり、漢は謙虚さがないといけない。



◆◆◆



 サトウキビを無事に手に入れた俺たちは砦という名のベースキャンプへと帰還した。今日、一泊したらこのベースキャンプを後にする。その前に俺たちはやらなければならないことがある。


 一つは野生化したこいつらをどうにかしないといけない。このままフィリミシアに帰ったら偉い騒動になることは間違いがないからだ。

 対処法としては……桃先生を浮かべた『桃風呂』に浸かってもらう。困った時は桃先生に頼るに限る。治るかどうかは未知数であるが。


 幸いなことに、ルバール傭兵団はユウユウの要請に従い大きな浴場を制作していた。浴槽や壁には贅沢なことにヒノキを使用している。とは言ってもこの世界ではメジャーな素材であり、あちこちに生えているし、植林もされているのでお手頃な素材として愛されていた。

 なんとも言えない良い香りにウットリしてしまう。今から入浴するのが楽しみだ。


 もう一つが……我が家臣との親睦を深めるという目論見だ。

 どうも彼は固い部分がある。俺を主君と仰いでくれるのは嬉しいのだが、同時に俺たちは級友であり共に歩む仲間であるのだ。もう少し打ち解けてほしいと思う。そこで、こいつだ。


 性転換キノコ『セクスリバース』! こいつをザインに食わせて一緒に風呂に入る作戦!

 共に風呂に一緒に入れば、もう勝利は確定したも同然! 裸の付き合いに偽りなどない! いける、いけるぞぉ! この作戦!

 後は皆に許可をもらうだけだ。裸の付き合いは、皆でした方が楽しいに決まっている。


「……え? ザインと? でも彼は男でしょう?」


「女にする」


「……え?」


 ごそごそと懐から秘密兵器『セクスリバース』を取り出し、ヒュリティアたちに見せる。今回はシイタケサイズの可愛らしいヤツだ。赤と青の水玉模様がカラフルである。

 ちなみに味の方はマイタケによく似ており大変に美味である。鍋に入れたら、さぞかし美味しくなることだろう。


「こいつを食べると性別が反転するんだ。ザインで試したから間違いない」


「……無茶するわね」


「ちょっと!」


 ぷりぷりとご立腹なのはユウユウ閣下だ。やはり俺の策には無理があったのだろうか? 俺としては完璧だと信じていたのだが……。


「そんな面白いことを黙っていただなんて……でもいいわ、これからもっと面白いことをするんでしょう? うふふ、たのしみだわ。ザインったら、どんな可愛らしい顔をみせてくれるんでしょうね?」


 ノリノリであった。

 

 だったら、いけるぜ! ひゃっはー! 御大将のお墨付きだぁ!







「と言うわけで、食え」


「しょ、正気でござるかっ!? 拙者は男でござるよっ! おなごと風呂に入るなど……」


 流石に抵抗があるか。だが、これも親睦を深めるためだ。心を鬼にしてでも食べさせなくては。


「ザイン、俺達はもっと互いを知る必要がある! それには共に『風呂』に入るのが手っ取り早い!」


「その考えはおかしいでござるよ!? 御屋形様はもっと恥じらいをお持ちいただきたい!」


「恥じらいなど……いらぬっ!!」


「言い切ったっ!?」


 俺以上に恥じらいを持つザインは、まさしく大和撫子に相応しいだろう。

 ううむ、いやがるザインをこれ以上強引に誘うのも心が引ける。ここはまたの機会にするべきか?


「何をもたもたしてるの? お風呂、沸いたわよ。こういう時はね……こうするのよ」


「もががっ!? ごくん」


 風呂が沸いたことを知らせに来たユウユウは、俺が手に持っていた『セクスリバース』を確認し、次の瞬間、実に自然な動きでキノコを奪い、ザインの口の中にねじ込んだ。この間、僅か二秒の出来事である。

 その悪意のない自然な行動にザインは全く対応できず、シイタケサイズの『セクスリバース』を飲み込んでしまった。この行為に俺は戦慄し白目痙攣をせざるを得なかったのである。


「あら、可愛い。それじゃあ、お風呂に入るわよ」


「にゅおぉぉぉぉぉっ!? ご、後生でござる! 拙者、自分の裸を見たくはないでござる!」


「痛みは一瞬なんだぜ」


「どういう意味でござるかっ!? 拙者、死ぬのでござるかっ!?」


 ユウユウ閣下に、むんずと首根っこを掴まれて連行されるザインちゃんの後を追う。そして処刑場……もとい、脱衣所に到着する。そこには服を脱いでいたヒュリティアがいた。


「……あら、可愛い。ザインは女の方がいいわね」


「全然、嬉しくないでござるよ。とほほ」


 そう言いながら下着を躊躇なく脱いでゆくヒュリティアは豪胆だと思う。遂には一糸纏わぬ姿となった。その姿に将来、確実に男を虜にさせるであろう資質を垣間見ることとなる。

 だがそれは艶めかしいのではなく、美しいという比率の方が多い。彼女の裸体は芸術的であるのだ。


 逆にユウユウの裸体は危険だ。この歳でどうやったら、そのボディに育つというんだ?

 いくらファンタジー世界だといっても無理があるだろう。成長の早い、亜人や獣人ならともかく。

 彼女は現段階で成人の女性の平均的なプロポーションを誇っているのだ。おっぱいも育っていて、ぷるんぷるんいっている。


「ぐひひ! こういう時は女でよかったさね!」


 ネズミ獣人のアカネも既に服を脱ぎ終えており全裸となっていた。やはり獣人は成長が早い……とは言ってもまだまだ成長の余地を残している。ロフトが指摘するように尻が大きく成長しているようだ。


 さぁ、俺も服を脱いで決戦に備えよう。


「クロス……あぅっ!! ぽいっちょ」


「……エル、服はちゃんとたたまないと」


 ヒュリティアが脱ぎ捨てた服をたたんでくれた。きっと、将来は良いお母さんになることだろう。


 ん、俺? 期待するなっ!!


「貴女はいつまで服を着ているのかしら?」


「し、しかし……拙者は!! ああっ!?」


 もじもじしているザインちゃんに業を煮やしたのか、ユウユウ閣下は力尽くで着物を脱がしてしまった。


「うふふ、いいじゃないの。可愛がってあげるわ、ザイン」


 赤面するザインちゃんの顎を艶めかしい手つきで撫でるユウユウはどう見ても妖女であった。

 どうやったら、この歳でこのように育つのだろうか? 親の顔を見てみたい。

 あ、見たら死ぬかもしれん。やっぱ、今のは無しの方向で


「うう……もう婿にいけないでござるよ」


「そん時は貰ってやるから安心しろ。ほら、いくどー」


「えっ!?」


 俺は妙に嬉しそうな顔をするザインちゃんの手を引いてヒノキ風呂へと突撃した。

 だが、浴場に入った瞬間に主導権をユウユウ閣下に奪われ、哀れにもザインちゃんは彼女のおもちゃとなってしまったのである。

 こうなったら、もう俺はザインを見守る他にない。たぶん死なないから大丈夫だろう。


「くすくす、それそれ」


「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」


 ユウユウ閣下の激しい責めによって、ザインの嬌声が風呂に響く。

 これって親睦に繋がったかどうか、もうわっかんねぇな?


「ま……いっか」


「……いい湯ね」


「うゅ~ん……」


「うっはぁ、そこまで入れちゃうさね? それ以上は……あっ!?」


 ザインには帰ったら美味しい蕎麦をご馳走してやろう。うん、それがいい。

 俺はそんなことを考えながら、ヒノキ風呂を心ゆくまで堪能したのであった。

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