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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第九章 神級食材を求めて
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438食目 珍獣 イン フォレスト

 転移した先は見事な庭園だと感心するがどこもおかしくはなかった。特に急ぐ用事がなければ、ほぅ……と頷きながら知ったかぶりをしつつ、名も分からない花々を愛でるところである。

 俺は花の名前など知らなくてもいいと考える白エルフだ。その美しさで心を和ませ、香りで心をときめかせてくれればいいのである。

 あ、たんぽぽと菊は名前を覚えているぞ。だって、あいつら食えるし。


「ややっ、これは見事な庭園でござるな」


「ふきゅん、そうだな、ザイン。見た感じ……エルタニア城内部か? 随分なところに転移先を設定したものだな。もしも、敵にテレポーターを利用されて殴り込みされたら、とんでもない目に遭うぞ」


「それなら心配は無用ですよ。テレポーターにちょっとした仕掛けを施してありますから」


 その声は見事な花壇の中から聞こえてきた。声の主はチート転生者フウタだ。花畑に埋もれて何をしているのだろうか? いい大人の男性がするような行為ではない。

 だが、彼はチート転生者だ。もしかすると、この行為をすることによって乱数を変えることができるのかもしれない。だとしたら、この世界は彼の思うがままに動いてゆく……!?

 やはりチート転生者は危険だ。今の内に、彼の鼻の穴にミントを突っ込んで退治するしかない!


「ふむ、どのような仕掛けを施したのか興味があるでござる」


 ザインがそのようにフウタに訊ねると、彼は身体を起こして質問に答えた。頭の上に花が二輪ほど乗っかっていて、少しばかりお間抜けに見える。


「大した仕掛けじゃないよ、フィリミシア城から敵意を持ってエルタニア城行きのテレポーターを利用した者は『石の中』に転移してもらうだけだから」


「マジで震えてきやがった」


 フウタはテレポーターにとんでもない仕掛けを施していた。やはりチートは何を考えているか分かったものではない。笑顔の裏には邪悪にほくそ笑む顔が潜んでいることに間違いはなかった。

 そんな彼に戦慄していると、パタパタとこちらに近付いてくる足音が聞こえてきた。それも複数だ。走り方からして幼い子供だと思われる。


「あー! おとうさま、みつけたぁ!」


「みつけた、みつけた」


「おっと、これは油断してしまった」


 花畑から上半身を起こしていたフウタは二人の幼女に激しくタックルをかまされていた。

 この幼女……手加減というものを知らないようだ。なかなか腰の入った体当りだったが、彼は慣れているようでしっかりと二人を受け止めていた。流石はチートだと感心する。


「ははは……ああ、すみません。この子達は俺の娘ですよ」


「ふきゅん、顔がそっくり……というか同じだな。双子か?」


「そのとおり、この子達は双子の姉妹です。姉のユミー、そして妹のミエです」


 フウタの双子の娘はピンク色の髪と瞳を持つ可憐な幼女達であった。姉のユミーの方が少しばかり気が強そうに感じる。その反面、妹のミエは大人しいように見える。

 年の頃は俺達とさほど変わらないだろうか? 俺たちが歳不相応な精神の持ち主ばかりで感覚が狂っているのか、彼女達がより一層に幼く感じてしまう。たぶん、これくらいが年相応の精神なのだろう。


「おとうさま、このこたちはだれぇ? おとうさまのおともだち?」


「ん~、少し違うかな? 彼女は聖女エルティナ様だよ。前に話をしただろう?」


「あー! ユミーしってる! ふきゅんだ! ふきゅん!!」


「ふきゅんだ、ふきゅんだ」


「ふきゅん!?」


「確かにふきゅんでござるな」


 なんということでしょう。俺はフウタの策略により、幼女達にふきゅんとして憶えられてしまっていたではないですか。

 これは間違いなく訴訟問題に発展する! 弁護士を呼べ! 弁護士を!!


「まぁ、それは置いといて……フウタ、俺達はミョラムの森の最深部に行かなくちゃならないんだ。どうもヒーちゃん達が厄介ごとに遭遇しちまったらしくてな? 俺の力が必要になったらしいんだ。そんなわけでミョラムの森の場所を教えてくれると助かる。ロフトの説明じゃ、いまいち分からないんだぜ」


「ふむ……それで彼女達の帰りが遅かったのか。分かりました、こちらで馬車を用意するので、それに乗ってください。レンジャー駐屯所のグレー隊員にも連絡を入れておきますので、後は彼を頼っていただければ」


「ありがとう、フウタ。ユミーとミエも落ち着いたらゆっくり会おうな」


「うん! ばいばーい!」


「ばいばい」


 俺とザインはフウタが用意してくれた馬車に乗り、一路ミョラムの森を目指した。

 ううむ、やはりというか、この馬車も魔改造が施されているようだ。街道はそれほど整地されていないにもかかわらず殆ど振動を感じない。かなり良質のサスペンションを使用しているに違いなかった。


 更には内装だ。外観は極一般的な馬車であるのに内部はこれでもかというほど豪華な造りになっていたのだ。ソファーにテーブル、更には天井に魔導照明付きで車内は明るいときた。

 テーブルの上には見事な装飾の皿に盛られたフルーツが添えられている。まさにファンタジー世界のリムジンといったところか。内部だけだが。


「いやはや……外と内がこれほどまでに違うとは。外をわざとみすぼらしく作って盗賊共の目くらましとしたのでござろうな。上手く考えたものでござる」


「たぶん、前に豪華に作って失敗した経験が活きたんだろうなぁ」


 フウタはなんでもできる反面、詰めが甘いところがある。エレノアさんの気を引こうとして失敗した名残がヒーラー協会の随所に見て取れるのだ。それを省みれば失敗を活かした馬車である、という推測はあながち間違いではないと思えてくるのである。


 後、たぶん女絡みで失敗したんじゃないのかな? これ以前の馬車。




 ふっきゅん、ふっきゅんと推理を重ねている内にミョラムの森の入り口に作られたというレンジャー駐屯所に到着した。当初は三時間ほどの道程であると告げられていたが到着までに二時間半という少しばかり早い到着となった。どうやら、御者さんが気を利かせて急いでくれたようだ。


 少しばかりくたびれた感じの初老の御者さんに少し多めのチップ手渡し、俺は駐屯所内で一番大きな建物を目指して歩き出した。フウタの話によると、そこがレンジャー隊員の司令塔であるらしい。

 パッと見はバカでかいログハウスといった感じだ。自然の素材だけを用いて建てられたのだと思われる。


「おっ? 早いな、エルティナ!」


「ふきゅん! グレー兄貴!」


 ログハウスの大きなドアが開き、中からゴリラ……もとい屈強な大男がのっしのっしと出てきたではないか。

 彼こそは、ここの大親分……もとい大隊長、グレー・ドーン兄貴である。そして、グレー兄貴の足元には彼の愛する象さん型のホビーゴーレム、ゾルゥがパオーンと嬉しそうに鳴き声を上げていた。


 俺はさっそくグレー兄貴に、ここに来た経緯を説明し協力を仰いだ。説明を聞いていた彼は次第に難しい顔へと表情を変化させていった。ロフトの言っていたゴリラとは、やはり彼のことで間違いないようだ。


「やはりな……遂にその時が来ちまったか」


 グレー兄貴はゴツイ手でバシンと顔を叩き気合いを入れると、すっくと立ちあがった。

 間近で見るとタカアキよりも大きく感じる。森の中で不意に彼と遭遇したら、熊でも逃げ出すんじゃないだろうか?


「よし、こちらの準備は既に整ってるぜ。エルティナの方はどうだ?」


「あぁ、こっちも整ってるぜ。いつでも出れる」


「右に同じく」


 どうやら俺が来るとの連絡を受けた彼は、いつでも出れるように準備を整えてくれていたらしい。

 こちらとしても急ぐ理由が人助けであるため、彼の配慮は非常にありがたかった。すぐさま俺達も立ち上がりグレー兄貴の後に付いてゆく。


「ぱお~ん」


 俺たちは象さんホビーゴーレム、ゾルゥに送りだされ、レンジャー駐屯所本部を後にした。



◆◆◆



 森を進むこと二時間ほど、俺達はミョラムの森の中層部にまで到達していた。

 グレー兄貴の話によると最深部入り口までには、いま少しの時間が掛かるらしい。森の中は歩きにくく歩行速度が大幅に遅くなるためだ。主な原因は俺……ではなく、ザインである。


 俺はこう見えても森での生活が長い。森での歩き方は幸いなことに身体が覚えていた。

 尚、当時の環境に近付けるために、俺は下着姿へとトランスフォームしている。だが流石に全裸はザインが許してくれなかった。ふぁっきゅん。


「山道とは違い、森がこうも歩きにくいとは……精進が足りなかったでござる」


「ザインも全裸になれば、森のなんたるかが分かるはずだぁ」


「それでわかりゃあ苦労はしないぜ? エルティナ」


 レンジャー隊員であるグレー兄貴は流石であった。なるべく森を傷付けないようなルートを選択し、木の枝が張り巡らされて通れないと思い込んでしまう道であっても、軽く枝をどかして道を作ってくれるため、今のところほぼ一直線で最深部に向かうことができている。


 下着姿になって五十パーセントほどの能力を解放している俺は体力が充実しているため、人の手を借りる必要がないことも大きい。靴も脱いでしまえば木登りだって可能ではないだろうか?


 あ、珍しいキノコみっけ! むしゃむしゃ。


「こらっ、勝手に食べたらダメだ。希少なキノコだったら厳罰が課せられるんだぞ?」


「ふきゅん、珍しいと思った瞬間……既に口の中に入っていたんだ。夢や幻覚なんかじゃねぇ、本当に恐ろしい現実を体験しちまったんだぜ」


 生えている野草やキノコを自由に摘み取って食べれるのは表層部だけという決まりがあるらしい。中層部以降は希少な野草が主に生えているのだが、まだ成分が解明されていない物が多種多様に存在しているためだ。

 中でも触れただけで死んでしまう毒キノコや、匂いを嗅いだだけで発情してしまうという、とんでもないワラビなども当たり前のように生えているので、素人が迂闊に入り込むと生きては帰れない。

 それゆえに、レンジャー隊員は森と人々の安全のために日夜パトロールしているのである。


「それで、身体に異常はないか? 今おまえさんが食べたのは『セクスリバース』という毒キノコだ。食べちまうと性別が反転しちまうんだが……まったく変化が起こらないな」


「マジで!? グレー兄貴、もっとくれ!」


「ダメだ、それに食べて死亡した例も数十件もあるんだ。とはいえ……まったく変化が起こらないというのもスゲェな。痙攣を起こし始めたら急いで吐き出させるところなんだが、白エルフはやっぱり普通の種族とは違うみてぇだ。はっはっは」


 おごごごご……せっかく久々にパオーン様を股間に召喚できると思ったのに! 始まりの森で免疫を付けてしまったがゆえに、俺にはありとあらゆる毒が通用しなくなってしまったのだ!

 これで男になるという野望は完全に断たれてしまったのである! ふぁっきゅぅん!


「よし、じゃあザインに食わせよう」


「もががっ!?」


 俺は腹いせに食いかけの『セクスリバース』ザインにを食わせることにした。問答無用で口の中にキノコをぶち込む。彼がそれを飲みこむと、すぐさま肉体に変化が起こったのである。


「な、なんでござるか、これはぁぁぁぁぁぁっ!?」


 どうやら肉体の変化は一瞬で完了するらしい。この事からなかなかの毒であることが窺える。まぁ食ったから、このキノコがどれだけの危険性を持ってるか分かっていた。

 大雑把に言うと、食っても死なん!……である。


「おおう、可愛らしくなったじゃないか」


「お、御屋形様っ!? 股間が頼りないでござる!!」


 女になってしまったザインは予想よりも可愛らしい顔立ちになっていた。股間が頼りないと言っている辺り、象さんが家出してしまたのだろう。なかなかの素晴らしい効果に俺は満足した。

 あ、〈メディカルステート〉でしっかりと詳細も確認しておかなくては。


「おまえは……遊んでいる場合じゃないんだろ?」


「ふきゅん、それもそうだ。先を急ぐぞ、ザイン」


 グレー兄貴に窘められた俺は先を急ぐことにした。


「せ、拙者はどうすればっ?!」


「折角だから女という者がどういうものか体験しておけ。その症状は中毒だから〈クリアランス〉で解毒可能なんだ。ふっきゅんきゅんきゅん」


「ほう、それは初耳だな。報告書に記載しておくか。学者様が大喜びするぜ」


「せ、殺生でござるよぉ……」


 情けない声を上げるザインの尻を叩き発破をかける。

 うむ、安産型か。我がクラスの女子は安産型が多くて何よりである。




 更に暫く移動すること三十分。俺達は遂にヒュリティア達と合流した。だが、俺達は再会を喜ぶ前に目に飛び込んできた光景に唖然としてしまったのである。


「おめぇらは、ここをどうしたいんだ? ベースキャンプならまだしも、砦を作るだなんて普通考え付くもんじゃねぇだろ?」


 呆れ顔のグレー兄貴が言うとおり、そこはベースキャンプではなく砦であったのだ。

 丸太でもって建造された巨大な砦は至る所に出入り口が設けられており、きちんと門番まで配置されていた。一際高く建てられた物見やぐらには油断なく目を光らせるおっさんの姿がある。

 砦とは別に食糧庫らしき物も設置されているようだ。中を覗くと肉がズラリと干されている。干し肉でも作っているのだろう。


「うほっ! うほほほ!」


「うごご! うがごっ!」


 粗末な動物の皮を身に着けた汚いおっさん達が石斧を掲げて俺達を歓迎してくれた。たぶん彼らは元ルバール傭兵団のメンバーだろう。どういうわけか、完全に野生に還ってしまっている。

 いったい、ここで何が起こったんだろうか? 取り敢えずは話が通じないので、俺も野生に還ることにした。


「ふっきゅんきゅん! きゅんきゅ~ん!」


「うがっ! うがががががが!」


「うほっ! うっほうっほ! うほっ!」


「御屋形様! それでは事態は解決するどころか後退するばかりでござる! 後、早く男に戻してくだされ!」


 確かにザインちゃんの言うとおりだ。このままでは事態は好転しないでバックステッポゥ! するばかりである。だが、男に戻すというのはキャンセルだ!


「おぉい、騒がしいな? どうしたんだ……」


 俺達のやり取りを聞き付けたのか、砦の中から怠そうにロフト達スケベトリオが姿を見せた。そして彼らは一瞬その動きを止めてしまう。まるで、そこだけが時間の流れを止めてしまったかのように。


「新鮮な美少女!」


「俺達はきみに会うために生まれた!」


「だから、きみのケツにフォーリン・ラブ!」


 しかし、次の瞬間、ロフト達は既に女と化したザインに抱き付いていた。高速移動とかそう言った類の移動じゃない。本当に空間転移をおこなったかのように移動を完了させていたのである。無論、抱き付いている部分はそれぞれの好みの場所だ。

 こいつら本当に女なら、なんでもいいんだな。


 あまりの出来事に白目痙攣状態になっているザインちゃんから三人を引っぺがす。そろそろザインを男に戻してもいいだろう。面白い光景も見れたことだしな。


「キ、キュウト殿の苦悩がよくわかったでござるよ」


「帰ったら同情してやれ。喜ぶから」


 ザインに〈クリアランス〉を施し、無事に男のザインに戻ることになる。その光景を見ていたロフト達は絶句した。自分達が抱き付いていた少女がザインであったことに驚いたのであろう。


「なんで男に戻したんだ! あの胸は無限の可能性があった!!」


「あぁ! もったいない!! あの引き締まったくびれは、なかなか堪能できないんだぞ!?」


「極上のケツに育つ可能性大だったさね! 早く戻すさね! 早くっ!!」


 うん、違った。彼らは知っていて抱き付いていたようだ。ザインは泣いていい。


「もう、女体化はこりごりでござるよ」


「正直、すまんかった」


 俺はザインに謝罪し、ヒュリティアに会うため砦内に向かう。このままでは一向に話が進まないからだ。もう、野生化したおっさん共は放っておいてもいいだろう。なんだか、本人たちは活き活きしてるし。


 砦の内部はこれまたしっかりとした作りになっており、所々に設置されている蝋燭の明かりが良い感じの雰囲気を作り出していた。

 所々を小さなリスたちが駆け回っている。ちゃっかり定住してしまったのだろう。踏まないように気を付けなくては。


「しっかし、まぁ……短期間でこれほどの物を作り上げるとはな」


 まったくもって、俺もグレー兄貴と同感であった。ルバール傭兵団は絶対に進むべき道を誤った連中の巣窟に違いない。変態レベルのスペシャリストが、これでもかと在籍している傭兵団なのである。


 ロフトたちに案内されてとある部屋に辿り着く。この部屋にヒュリティア達がいるそうだ。

 俺は久々に会う親友に心を弾ませながら、部屋の中へと入るのであった。

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