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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
43/800

43食目 フォクベルト・ドーモンの小さな告白

向こうで、エルティナとライオットが何かを始めたようだ。

何をしてるのだろうか?


……料理を教えているのか。

果たして、がさつな彼に料理ができるのだろうか?


あ、申し遅れました……僕はフォクベルト・ドーモンと申します。

僕の家系は代々、王家に仕える家系なのですが、

領地や位といったものは持っておりません。

それは、ドーモン家の仕事は裏の仕事が大半だからです。


諜報活動に始まり、要人の護衛、物資の奪還、そして暗殺もこなします。

いわゆる汚れ仕事ってヤツです。

なので、どんなに活躍しようと表立って表彰や賛辞はされません。


まぁ、それは僕にとってそれほど重要ではないのですが。


何故なら、僕はドーモン家の三男だからです。

家督は普通は長男が継ぐものなのですが、

現在は年の離れた長男と次男の二人が現役で活躍しているので、

いつ命を落とすかわからない状態です。

そのため、家督を継ぐ候補として僕まで入れられてしまいました。


そういったこともあって……

現在、僕の将来の夢に危険が迫っている状況なのです。


僕の将来の夢は、冒険者になって自由に世界を旅すること。

色々な土地を巡って、さまざまな人々に出会う。

そのような人生を送ってみたいと、

冒険者の書き残した書物を読んでいる内に思うようになりました。


まだ、先のことはわかりませんが、

兄二人が命を落とさず家督を継いでくれればいいな、

と思っている今日この頃です。


さて、話は変わりますが……僕には、気になる子がいます。


はい、向こうでライオットに料理を教えている白エルフの少女。

エルティナです。


彼女はとにかく変わった少女で、

魔法が得意な白エルフという種族であるにもかかわらず、

攻撃魔法が殆ど使い物にならないという可哀想な娘です。


使えるには使えるのですが、

その全てが暴発し爆発してしまうという『爆弾少女』なのです。


でも、そんなことにもめげずに

「有効的に使うにはどうすれば?」と悩んだり、

「これで、勝つる!」と言って試した挙句、

結局は使いものにならなくて落ち込んだりと、

非常にコミカルに動き回って見る者を楽しませてくれます。


でも時折、彼女の表情に影が落ちる時があるのを僕は見逃していません。

その、表情は滅多に見せることはありませんが、

初めて目撃した時の衝撃は今でも覚えています。


その表情は、僕と同じ年齢の子供がするようなものじゃなかったからです。

彼女の見せた表情は、僕の父や兄が見せる表情と同じだったのです。


そんな彼女ですが、僕によく相談を持ちかけてきます。


「おいぃ、フォク。相談相手になってくれないか?」


「ええ、構いませんよ」


放課後の空いた時間で彼女のつくった『魔法技』について

考察や改良点などを教えてくれとお願いされるのです。


エルティナは力を手に入れることに貪欲です。

それが唯一、彼女がまともに使える『日常魔法』で

補おうとしている事に驚愕しました。


普通では考え付かないことだからです。

それは、普通に魔法が使える僕達では、

思いも付かないようなトリッキーな魔法の数々でした。


この『落とし穴』などは素晴らしい、としか言いようがありません。


いくつかこなさないといけない工程はありますが、

間違いなく効果は絶大でしょう。

ゴーレムなどの巨大な戦力を一時的に無力化でき、

地上部隊の抑制にもなる優れた『魔法技』です。


あぁ、『閃光手榴弾』もよく考え付いたものですね。


咄嗟に発動できるくらい簡単な工程なのに、

今まで誰も思い付かなかったなんて信じられません。

更にはこのようなやり取りもありました。


学校の校舎裏での出来事です。


「フォク! 見てろ~! 大技だぞ!」


「えぇ、見てますよ。始めてください」


僕の合図と共に、

『フリースペース』から取り出した大量の枯葉が彼女を包み込む。

彼女お気に入りの魔法技、『木ノ葉隠れ』だ。

しかし、以前は枯葉はエルティナの周囲を回っていただけで、

あまり意味のない魔法技でしたが……?


やがて、枯葉がひらひらと落ちてゆき……

そこにいるはずの彼女の姿が消えていた。

これはいったい!?


「え! エルティナ!?」


「ふっきゅんきゅんきゅん! これが真の木ノ葉隠れだぁ!」


エルティナは何処にいるのでしょうか?

声はすれども姿は見えず、辺りを見渡しても彼女の姿は確認できませんでした。


「俺はここだ~!」


地面が砕ける音がして、エルティナが地面から飛び出してきました。

その場所とは……。


「俺は一歩も動いてないぞ~!」


『木ノ葉隠れ』を発動した場所でした。これは盲点です。


「『木ノ葉隠れ』を発動している間に魔法技『土遁』で地面に潜ったんだ」


『土遁』これも彼女が作った魔法技。


これは『落とし穴』の工程を利用した緊急回避用の魔法で、

素早く地面に隠れることができるので色々なことに応用できそうです。

兄さん達にも教えておいて損はなさそうだと思いました。


「なるほど……魔法技同士の組み合わせですね」


上手い使用方法だ。

これならば、落ちてきた枯葉で潜った痕跡も消える。

相手をやり過ごすにはなかなか利用できるかもしれない。


「それならば、こういう組み合わせはどうでしょうか……」



などというやり取りを繰り返す内に、

僕はいつの間にか彼女のことが気になるようになっていた。


彼女は色々と、周りのことをよく見ている。

基本的に、僕はこういう性格なのでサポートに回ることが多い。

誰もやりたがらないような地味な仕事をこなすのは、

いつの間にか僕の役になっていた。


「……ふぅ、これでいいかな?」


「ふきゅん、おつかれさん! ジュースを奢ってやろう」


パーティーメンバー全員分の実戦訓練の準備を整えた僕に、

エルティナはいつも飲み物を持ってきてくれるのだ。

これはここ最近のやり取りである。


かなり手間が掛かるので、普通は全員でやるのですが……

ライオットは、ガサツなので余計に仕事を増やすので却下。

ヒュリティアは、家庭の事情で狩りに行かなければならないので頼めず。

リンダは……ドジっ子は勘弁願いたい。

ガンズロックは、装備品の手入れをしてもらっているので、

そこまで頼るわけにはいかない。

エルティナは残念なことに、体力と力がないので戦力外だ。


そんなわけで、ほぼ僕一人でこなしているのが現状である。


「いつも苦労掛けてすまないな、本当に助かるんだぜ」


「エルティナも、僕に付き合って残る必要はないのですよ?」


「そんなわけにもいかないだろう?」と言いながら、

彼女はバシバシと僕の肩を叩いた。

実際は『ぺちぺち』としか鳴っていないのですが。


こんな感じで、僕の苦労を労ってくれるのです。

お人好しと言ってしまえば、それまでですが……

それでも彼女の行為には感謝の念が絶えませんでした。

苦労する甲斐があったものだと思ってしまいます。


そして、彼女には意外な特技がある。

実はエルティナは料理が上手なのです。

最初に腕前を披露してくれたのは実践訓練の時でした。


生憎と好き嫌いが多い僕は、最悪パンのみでも構わないと考えていたのです。

そこに、彼女がスパイスを駆使して、

肉の臭みを抑えたブッチョラビの肉を焼いてくれました。

これには、いたく感動したものです。


絶妙な塩加減、スパイスの香り、香ばしい肉が食欲を刺激し、

これがまた持って来たパンに良く合いました。

野菜と塩のみのスープも美味しかったです。

あり合わせの材料でこんなにも美味しい料理を簡単に作ってしまうとは。


これには、パーティーメンバーのみならずクラス全員が驚いていました。

この一件以降は、彼女がパーティーの料理担当となったのです。


昼食の時に他のパーティーメンバーが乱入してくるので作るのが大変だ、

と文句を言っていますが、

律儀に作ってあげるのは彼女の優しさか? ただのお人好しなのか?

もしかしたら、両方なのかもしれない。

そう思ってしまいます。


その内に、彼女なら僕に合わせて料理を作ってくれるかも知れない……

などということを考えるようになっていきました。




「まぁ、長々とお話しましたがとにかく僕は彼女が好きなんですよ。

 率直に言ってしまえば、将来は彼女と結婚して世界を旅したいです」


「ダメですかね?」と僕の長い話を聞いてくれた彼に聞く。

彼は何も言わず、『ぽん』と僕の肩に手? を置いてくれた。


「ありがとう、がんばってみますね」


何も語らない彼は、エルティナに『ヤドカリ君』と呼ばれている。

本来は『シーハウス』が彼の名前だ。

いや、それは種族名であり、名前などなかったのかもしれない。

僕が何故、彼にこのような話をしたかはわからない。


ただ単に、溜めていたものを吐き出したかっただけ、なのかも知れない。

それでも彼に、彼女に対する思いを話せて良かったと思う。


エルティナを見ると……彼女は天を仰いでいた。

僕も釣られて、彼女が見ている空を見上げる。


「良い天気だ」


その晴れ渡った空は、清々しいまでに青かった。

今日も良い天気になりそうである。

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― 新着の感想 ―
[一言]  少年とおっさんの恋愛話はちょっと…(・∀・)せめておっさんの精神が身体に引っ張られてるならまだしも、気になる口癖以外ガッツリおっさんだし…
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