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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第九章 神級食材を求めて
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429食目 神級食材クッキング

 神気という謎エネルギーについてはひとまず置いておき、取り敢えずはプルルに美味しいご飯を食べさせてあげたい。

 ここ数日間、彼女はずっと肉と果実しか食べていないのだ。この白米と醤油の追加は必ずやプルルに希望を与えることだろう。今から彼女の喜びに満ち溢れる顔を見るのが楽しみである。


「ふきゅん……ところで桃師匠、プルルの姿が見えないようだけど」


「む、あやつはだな……」


 桃師匠が珍しく口籠った様子を見せた。彼の不審な態度に焦燥感が急速に募ってゆく。まさかプルルの身に何かあったのだろうか? まさか神級食材以外の物を口にしてしまったとか? ありそうで困る。


 俺たちが悪い方向に物事を考えてしまっていた、その時のことだった。けたたましくドアが開け放たれ、開いたドアの向こう側にはピンク色の癖っ毛を持つ少女、プルル・デュランダが険しい表情で仁王立ちしていたのである。


 身に着けている黒い衣服は身体にフィットしていて体形が丸分かりという中々にきわどい服だ。しかしながら動き易そうである。恐らくは桃師匠に言いつけられた鍛錬が終わったのだろう。少しばかり息が荒く顔が赤く染まっている。

 しかしながら、それでも普段の彼女からは想像できない荒々しい登場に、流石の俺達もふきゅんと鳴くしかなかった。

 だが、俺達は彼女の言葉に更に驚かされる事となったのだ。


「ココ、ボクノナワバリ! オマエラ、マルカジリ!!」


 そう片言を言い放った後、彼女はアグレッシブに襲い掛かってきたではないか!? そして、標的は何故か俺!

 いったい、どうしてしまったんだ、プルルは!?


「むぅ……修行きょうかし過ぎたか。だが、見事な抑え込みよ!」


「いったい、何やったんだ、あんたはっ!? ぬおぉぉぉぉぉぉぉっ!? 噛み付こうとするなっ!」


「ウガガガガガガッ! マンジュウ、クワセロ!」


「お、御屋形様っ!?」


 プルルに押し倒された俺は噛み付こうとする彼女に必死に抵抗する。しかし、とんでもない腕力だ。

 以前の彼女の力とは比較にならないほどの力の前に、俺は風前の灯火となってしまった。彼女が饅頭と言っている辺り、狙いは俺のぷくぷくのほっぺたであろう。

 今のプルルに噛み付かれたら悲惨なことになるのは明白である。最悪の場合、〈ウィンドボール〉の使用も致し方ないだろう。というか、今がその時だ。


「うおっ!? プルル! おまえ、エルに何やってんだ! 離れろっ!!」


 騒ぎを嗅ぎつけた獅子の獣人少年ライオットが俺を救出するため、果敢にも野獣と化したプルルの引き剥がしにかかった。

 掴んだ部位は彼女の大きく柔らかい臀部! 何故そこを選んだっ!? 故意か!? 計画的な犯行に俺は白目痙攣するしかない!


「フ、フニャァァァァァッ!? サワルナッ!」


 ぶんぶんとお尻を振ってライオットを振り解こうとするも、この行為はかえってライオットを本気にさせてしまった。物凄い速度で振られる彼女の尻をがっしりと掴み離さなかったのである。


「離すもんかっ! エルは俺が助ける!!」


 プルルの大きな尻を掴む彼の指が柔らかな肉にずぶずぶと埋まり、形の良い尻を卑猥な形へと変化させる。プルルは更に腰を振って抵抗するも、その行為はライオットを意地にさせ、彼の指を臀部の肉に埋めさせてゆく事となった。どこまで埋まってゆくのだろうか、柔らか過ぎてびっくりだ。


 これって、助けてもらっている立場の俺が言っていいことかどうかわからんが、かなりエッチな行為だよな? しかも、ライオットは振り回されて体勢を崩し、ただプルルのエロいケツをわし掴みにしているスケベ小僧となり果ててしまっている。だめだこりゃ。


 というか……おい、そこのおまえら! ニヤニヤしながら見守ってないで早く助けてどうぞ! こらっ、メルシェ委員長! 何が禁断の三角関係だ!?

 こちとら、さっきから口が三角形で白目痙攣状態だ! 早くなんとかしてっ!!


「おいぃぃぃぃぃっ!? 桃師匠! プルルが肉食系女子になっているのはまだ許容するが、完全に肉食獣になってるじゃねぇか!! これはどういうことなんだっ!?」


「うむ、食欲を増進させるために少々きつめの修行をつけたのだが……フレイベクスの肉の効果のことを失念していてな。日を追うごとに逞しくなっていったのよ。見よ、この猛々しき姿を。これこそ戦う者のあるべき姿ではないか」


「とんでもねぇ言い訳しだしたよ、この人!?」


「お、御屋形様っ! 拙者はどこを掴めばっ!? や、やはり尻でござるかっ!?」


「ザイン、ケツから基準を外せっ! 肩を掴んで引き剥がしてくれ! おわぁっ! あっぶね!?」


 フレイベクスの肉を食べた者は能力が一時的に向上することが確認されている。だが、それを日常的に摂取していればどうなるかまでは確認していなかった。もともとがいわくつきの肉ではあるが精神的に来るには早過ぎる。きっと、桃師匠のきつい修行のせいで彼女が現実逃避しているのだと信じたい。

 それでも肉食獣はどうかと思う。もっと別なものはなかったのだろうか? ふぁっきゅん。


 ザインの活躍でなんとかプルルを引き剥がし、残った皆で彼女を拘束することで俺は無事に救出された。帰ってくる早々、酷い目に遭った。これでは先が思いやられる。


「プルルはわしらが見ておく。おまえは早急に食べるものを作るがいい」


「わかったんだぜ」


 桃師匠にそう言われ、俺はヒーラー食堂の厨房へ急いだ。今プルルは桃師匠によって簀巻き状態にされて床に転がっている。なんとも哀れな姿だ。俺が美味しい料理を作って正気を取り戻させてやるぞ。



◆◆◆



 厨房へとやってきた俺は料理人達に混じり早速調理を開始した。と言っても材料が材料なのでご飯を炊く程度しかおこなわないが、お米の量が丁度一人前しかないので失敗は許されない。そして醤油の方は桃先生の果実を煮詰めた物を混ぜて葛餡のようにとろとろに仕立てた。

 初めに教えておくが、今俺が作ろうとしているのはお粥だ。出来立てあつあつのお粥に醤油ベースの葛餡をとろ~りとかけて召し上がってもらうのである。

 肉オンリーの食事でさっぱりとした物が食べたいであろうと推測し、この献立を考え付いたのである。お米を美味しく味わうのに有効的な調理だと思われるので、迷うことなく選択に至った。


 さて、問題はこの梅だ。こいつは並みの食材ではない。イズルヒの料理人達をことごとく打ち破ってきた歴戦の猛者なのである。

 聞いた話によると、砂糖に漬けても、蜂蜜に漬けても酸味は抑えられず、逆に砂糖と蜂蜜を酸っぱくさせるという変態的な酸味を持っている。この酸味をどうにかしなければ、永久の梅を食べることなど到底適わないだろう。さあ、どうやって調理くっぷくさせてやろうか?


 普通の調理法はほぼ試されたらしく塩漬けもダメだったそうだ。すり潰して水で薄めるも、その水を支配し舐めることもためらわせるような酸っぱさに変えてしまうらしい。

 ここまでくると、もう梅という名の兵器と言ってもいいのではないだろうか? 実際に、この梅のことを知らずに食べてしまった者が泡を吹いて気を失った、という逸話が残っているくらいなのだから。


「ふっきゅんきゅんきゅん、相手にとって不足はない……ユクゾッ」


 だが俺はこれしきのことで諦めるようなお豆腐メンタルを持ち合わせてはいない。必ずやおまえを調理して食べられるようにしてくれるわ! まぁ、みてなって。




 ……そう考えていた時期がありました。




 何をどうしようとも、この野郎はビクともしねぇ! まるで難攻不落の城砦を相手にしているかのようだ! なんなんだ、この梅はっ!? おめぇ、それでも果実かよ! おぉん!?


『くっくっく、おまえごとき小娘が私の相手をしようなど……百年早い!』


『な、なんだとう……! 言わせておけばっ!』


 そして遂には梅にバカにされてしまう有様であった。この事実を受け入れるわけにはいかない、是が非でも食べられるようにしなくてはならないのだ。それは、そろそろお粥が良い感じに出来上がる頃だからである。

 俺はお粥にこの梅をそっと寄り添わせたいと考えていたのだ。やはり、お粥には梅干しであると頑なに信じているのである。

 だが、この梅はとても強大であった。ありとあらゆる調理をもってしても酸味を抑えることができなかったのである。もう俺に残された手段はない、いったいどうすれば……!


『諦めるがいい、所詮この私を食べることなど不可能なのだから。我が酸味は無敵、無敵ぃぃぃぃぃ!』


 むかっ。


 俺は調理手段が残されていないことへの苛立ちと、梅による挑発によって怒りがボムッと爆発した。ぐわしと梅をわし掴むと、ヒーラー食堂の料理人が用意した酢が入った桶の中にぶち込んでやったのである。


『そんなに酸味が好きなら、このクソ酸っぱい酢の中にでも入ってろ、おらぁん!』


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 酸っぱいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』


 するとどうだ、梅が途端に苦しみだしたではないか!? 自身が酸味に弱いとかどうなんだ、梅として。だが、これはチャンスかもしれない。この梅を完膚なきまでに調理たたきのめして食べれるようにするには弱点を攻めるしかない。であるなら、このエルティナ・ランフォーリ・エティル、容赦はせん!


『ふははははは! そんなに、この普通の酢がお気に召したかね? だったらもっと味わうがいい!』


『や、やめっ!? がぼぼぼぼぼぼっ!? しゅっぱいぃぃぃぃん!』


 圧倒的な酸味でもって料理人達を凌辱してきた永久の梅の弱点……それは意外にも酢であったのだ。こんな調理の仕方なんて思いつくはずがない、酸味に酸味を加えるだなんて自殺行為にもほどがあるからだ。だが、これこそが盲点であり、今まで永久の梅が調理不可能食材と認識されてきた理由だろう。


『バカな……酸味の王と呼ばれたこの俺が!?』


『くっくっく、王を倒すのはいつだって平民なのですよ?』


『な、なにぃ!? 貴様ら……この時を狙って!?』


 なんということであろうか、普通の酢が酸味の王である永久の梅に反旗を翻したのである。永久の梅はこの事実に戦う力を奪われてしまい、遂にその身を赤く染めて力尽きてしまったのであった。


調理せいあつ完了!」


 俺は全く使わなかった包丁を格好付けて構え、完全勝利を宣言した。偶然による勝利ではあるが勝てばよかろうなのである。

 俺は赤く染まった永久の梅を摘み上げ口に運んだ。肉厚の梅は口の中で酸味を主張するも、それは決して過剰な主張ではなくギリギリの線を攻めるというものであった。その後に、ほんのりと甘い果肉の味わいを口に残し酸味のフォローをする、という心憎い演出を披露したのである。

 とても先ほどまでの食物兵器と同じ物とは思えないほどの美味しさだ。これならば、キララさんのお米で作ったお粥にぴったりだろう。

 さぁ、お粥もできたし味見をして味を調えたら、すぐプルルに持って行ってあげなくては。



◆◆◆



 俺はトレイに出来上がった料理たちを載せてプルル達がいる三階の一室へと向かった。流石に簀巻き状態の彼女が食堂まで来るのは無理があるためだ。慎重に階段を上り目的地へと到着する。

 簀巻き状態でウガウガ言いながら、ビタンビタンと跳ねていたプルルの目に理性の輝きが戻ったのは恐らくお粥と梅、そして醤油ベースの葛餡の気品溢れる香りのお陰だろう。


「あ、あれ……僕は今までどうしてたんだろう? 記憶が曖昧だよ」


「ふきゅん、思い出さなくていいんだ……永遠にな」


 彼女が肉食獣として活動していた記憶は、この料理達のお陰で消し飛んだようだ。まさに不幸中の幸いと言えよう。願わくば彼女が二度と思い出さないことを願うばかりだ。真実を知ってしまえば、きっと恥ずかしさで悶絶した反動で彼女が爆死しかねない。


 プルルを食卓に着け、トレイに載せたお粥たちをプルルの前に置くと彼女が見つめてきたので、俺は頷き安心させる。その様子を見た彼女は目を輝かせてスプーンを手に取り食事を開始した。


「いただきます! はむっ……おいひぃ! おうひぃよう!」


 久々の肉以外の食べ物に感激し涙を流す。なまじ食べ物に溢れた町にあってフレイベクスの肉と桃先生以外を口にできなかった彼女がようやく口にした他の食べ物だ、感動もひとしおであろう。

 まぁ、フレイベクスの肉と桃先生は他の者達からすれば喉から手が出るほど欲しい食べ物であるのだが。


 醤油ベースの葛餡は本来であれば、鰹節などをたっぷりと入れて取った出汁で割りたかったのだが、それは叶うことはなかったので醤油だけを使った。だが、それは下手な出汁を入れない方が正解だったという結果になったのだ。

 どうやら神級の食材、特に調味料などは既に完成されている味なので、下手に手を加えるとバランスが崩れてかえって美味しくなくなってしまう。ゆえに素材を活かす方向で調理するように気を遣わなければならないのだ。


 だが、これは料理人としては面白くはない。いつかガッツリと手を加えて美味しい調味料に進化させてやると心に誓ったのである。今は材料が足りな過ぎてどうにもできないが。


 良い塩梅に粒が残ったお粥をふうふうしながら口に運ぶプルル。だが、そこに恐るべき刺客がやってきたのである。その者とは、ヒーラー協会の白い悪魔ようじょ、アルア・クゥ・ルフトである。


「あはは! おかゆっゆ! おかか! あるあ、くうくう! あははは!」


「て~け~り~・り~!」


 ああっ! なんということだ!? お粥大好きっ子である彼女が、この香りに気が付かないわけがなかったではないか! 彼女はプルルのお粥を奪おうと下僕のショゴスをけし掛けたのである!


 けし掛けたとは言ったが、実際には食べたさそうにしているアルアのためにショゴスが勝手に襲いかかったという状況だ。当の本人は指を咥えて食べたさそうに涎を垂らしているだけである。

 だが、主人のために汚れ役を進んで務めるのが従者の務め、とばかりに彼は凶行に及んだ。なんという主人への愛情であろうか、その愛ゆえに俺は対処に遅れてしまった。身体を張ってでもショゴスを止めるべきだったというのに!


 ショゴスが凶行に及ぶ寸前、プルルは跳びかかってきた彼に対し、優雅とも取れる動きで空いている左手をを突き付けた。その手は奇妙な形で握られている。

 それを確認した瞬間、バチンという音を立ててショゴスが吹っ飛んだ。その先にはメルシェ委員長がっ! ああっ、お顔にクリーンヒットぉ!!


「ぴぎゃっ!? うえぇぇぇ? なんですか、これ? ぬめぬめのどろどろです~! 最近はこんなのばかりじゃないですか、やだ~! ひ、ひぃぃぃぃぃっ!? 服の中に入ってきた!?」


 メルシェ委員長にぶち当たって九死に一生を得たショゴスであったが、彼を受け止めたメルシェ委員長は致命的なダメージを被ることになった。まぁ、また精神的なダメージであるから放置でいいだろう。


「あげないよ……このお粥は僕のだから」


 恐るべきは彼女の戦闘能力である。プルルはまさに指先一つでショゴスをダウンさせてしまったのだ。彼女が使用した技、それは『デコピン』である。たったそれだけで鬼を蹂躙した怪物をダウンさせてしまったのだ。

 桃師匠はプルルにどのような修行をつけたのだろうか? 下手したらライオットよりも強いのではないのだろうか、と本気で思ってしまう。


「むう……見事だ。『出虎品でこぴん』を見事習得しておるわ」


「おいぃぃぃぃぃっ! プルルに何を教えているんだよ、桃師匠!?」


「『出虎品』とは、かつて武芸の達人が物陰から『出』てきた『虎』の頭を指一本で破壊し、毛皮や肉などを商『品』にして売ってしまったことから命名された必殺奥義。それを、この歳で習得するとは……やはり、わしの目に狂いはなかった」


「誰も技の由来なんて聞いてないよっ!? 見ろぉ、アルアの悲しそうな顔を……」


「あはは! しょごごすう、ぶっちっぱ! あはははははははははは!!」


「大爆笑!? あぁ、もう滅茶苦茶だよ!!」


 俺がこの惨劇に白目痙攣をせざるを得ない状況下にあっても、プルルは優雅に食事を進めていった。なんというメンタルの強さであろうか、これも桃師匠の修行の賜物であるとするなら、なんということをしでかしてくれたのでしょうか? あの頃の彼女は死んだ! もういない!


 今のプルルは言うなれば……『世紀末救世主プルル』だ! 革ジャンなんかを気合いだけで爆ぜさせて、上半身裸になる暗殺拳法の使い手に違いない!


 もう「ほあたぁ!」で「ひでぶぅ!」だよ!!


 流れる手付きで醤油ベースの葛餡をとろりとお粥に流し込む。適切な量を選択した彼女には称賛を送らざるを得ない。入れ過ぎるとお粥の繊細な味が壊れてしまうからだ。彼女はお粥の食べ方をよく知っているようだ。

 両者が合わさり至高のハーモニーを口の中で堪能した彼女は表情が完全に淫らになってしまっていた。一歩間違えれば『アヘ顔』である。それほどまでに、神級食材のみで作ったこのお粥は官能的で蠱惑的なのだろう。

 俺も少しだけ味わったが、食欲を全力で抑え込むために壁に頭を打ち付ける、という奇行に打って出なくてはならない事態に陥ったことを伝えておく。もう少しで闇の枝が『ふきゅおん』と飛び出てくるところだった。


「はぁぁぁぁん……美味しい」


 とても十歳に満たない少女が出すような嬌声ではない。これが神級食材のみで作られた料理の凄さと恐ろしさなのか、と俺は戦慄するハメになった。自分で作っておいてなんだが、このお粥は渾身の出来であったのだ。

 ある程度、米の形を残しお粥にするには細心の注意が必要であり、やたら無暗に掻き混ぜてはならないという決まりがあるのだ。掻き混ぜると米が崩れてドロドロになってしまうからな。


 そして遂に問題の永久の梅に手を伸ばすプルル。大きな梅の実はスプーンで容易に切れるほど柔らかくなっていた。これはヤツが俺に完全敗北を喫して腐抜けた結果であろうと推測している。

 赤く染まった果肉をふっくらとした唇を備えた口の中へ運び咀嚼する。すると僅かに顔を歪めふるふると身を震わせた後にため息を吐き、自然な動作で頬に手を当て恍惚の表情を浮かべた。

 やはり、俺以外が食べても大丈夫なばかりか、絶妙な酸味バランスは健在のままであるようだ。


 彼女がお粥を完食するまでに、それほどの時間は要さなかった。もともとがそれほどの量ではなかったこともあったが、彼女の食べる速度が一向に衰えることがなかった、というのが最大の要因であろう。


「ごちそうさま、なんだか身も心もさっぱりとした気分だよ」


「おそまつさま、なんだぜ。プルルの喜ぶ顔が見れて一安心だぁ……」


「ありがとう、食いしん坊。そして皆も」


 問題はまだまだ山積みである。だが、プルルの笑顔とエロさを再認識した俺は、決意を新たにして問題に立ち向かうことを誓ったのであった。

 後、桃師匠には少しばかりお説教をしておく。拒否権はない。

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