表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第九章 神級食材を求めて
424/800

424食目 白い聖域

 どれほど眠っていたのだろうか? 俺は何者かに頬を触れられるのを感じて意識が覚醒した。

 何故、俺はこんなところで寝ていたのだろうか……と朦朧とする意識の中で考え簡単に答えが見つかって目を開ける。すると、目の前には自分の身体を俺の頬にすり寄せている、さぬきの白い姿が確認できた。目を覚まさない俺を心配してくれていたのだろう。そのすぐ傍には身を震わせる、うずめの姿も確認できる。


「ごめんな……心配かけちまって」


 ふるふると身を震わせる白い蛇の子供を安心させるべく、俺は手を伸ばし小さな蛇の頭を撫でてやった。目を細め安心した様子を見せるさぬきを見て、うずめもまた安心した様子を見せる。

 最近は気を付けるようになった迂闊な行動も、食べ物が絡むとどうも疎かになってしまうようだ。今後の課題として真摯に受け止め改善してゆくことにしよう。こいつらに悲しい思いをさせるわけにはいかないからな。


 俺は横たえていた体を起こし周囲の様子を観察することにした。幸いにも大きなケガはしていないようだ、ということはそれほど深い崖ではなかったということだろうか? そのように良い方向で考えていたのだが、どうにもおかしいことに気がついた。この場所はどこを見渡しても岩壁が見当たらないのである。

 落ちる途中に岩壁に当たってあらぬ方向に飛ばされたのであれば今頃は大ケガをしているだろうし、仮にケガを負ってなかったとしても岩壁が一切確認できないのはどう考えてもおかしい。それに救援が来てくれているのであれば、俺の傍から離れることはしないはずだ。俺が意識を失っている間に何があったのだろうか?


 うんうんと頭を捻っていると、こちらに向かってくる足音が聞こえてくるではないか。誰であろうか? と考えた後に俺は身構えた。俺はエドワード達と兵には独りで行動しないように伝えてある。だが、今聞こえる足音は一人のものだ。このことから推測するにこの足音の主は吉幸衆のものか、あるいはそれ以外の者の足音であることが濃厚である。


 すぐさま、さぬきと、うずめを俺の首と頭といった定位置につかせ、いつでも攻撃魔法が使用できるように準備を整える。俺の攻撃魔法は無差別範囲攻撃ではあるが、俺と密着している場合はその対象も俺の一部とみなされ魔法から保護されることになる。その分、威力は落ちることになるのだが、威力が威力なので誤差の範疇で済まされるのだ。こう改めて考えると俺の攻撃魔法は本当い酷いな。


「やぁ、目が覚めたようだね。きみは崖から墜ちて危ないところだったんだよ?」


「ふきゅん!? あんたはいったい!?」


 深い霧の中から姿を現した者は本当にいったい何者なんだ、と思わせるに十分な姿をした大男であった。その大男は仮面を着け目と鼻を隠しているため、顔の全貌を見ることはできない。確認できるのは彼が短い金髪であり、整った口元であることだけだ。まぁそこまではいい……その程度の容姿をした人物であるならフィリミシアを探せば意外というほどに見つかるから。

 だが、仮面とレスラーパンツにマントってどういう状況なんだ。どこからどう見ても不審者にしか見えねぇよ! きっと俺の命の恩人なんだろうけど、そのようにしか思えないのが悔しい!


「私は通りすがりの超人『キララ九十七世』だ。親しみを込めて『キララさん』とでも呼んでくれたまえ」


「キ……キララさんきゅうな……」


「おっと、『キララさん』だ。それ以上はいらないよ」


 きらりと白い歯を光らせニヒルに微笑むキララさん。きっと良い人なんだろうけど、その姿で全てが台無しになってしまう。何を想ってそのような姿で霧深い山の中にいるのだろうか? ま、まぁいい、取り敢えずは助けてくれたお礼を言っておかなくては。


「キララさんが俺を助けてくれたのか、礼を言うよ、ありがとう。俺の名はエルティナだ」


「いや、なんの、困っている者を救うのが私の務めだ、気にしないでくれたまえ」


 このセリフから、この人は底抜けのお人好しか信念の塊のような人物であることが窺える。できれば後者であってほしいところだ。お人好しは悲惨な最期を遂げる場合が多いから。


「それにしても俺は運がよかったのかな、偶々キララさんがいてくれなかったら、最悪俺は死んでいただろうし……本当に助かりました」


「それならきみの友人に礼を言うんだね、私はその声に導かれ駆け付けたのだから」


 彼はそう言うとマントの中からおむすびを取り出し俺に手渡した。それはコメの一粒一粒が艶々と輝きを放ち、この世の物とは思えないほどの美しさをまざまざと俺に見せつけたのである。


「きみの握り飯は残念ながら間に合わなかったよ。あぁ、安心してくれ、彼はきちんと大地に還しておいた。その代わりと言ってはなんだが、このおむすびを食べてくれ。きみに食べられるのであれば、この子も本望だろうから」


「ふきゅん、ありがとう……いただきます」


 キララさんから手渡されたおむすびを震える手で受け取りおずおずと口に運ぶ。そして米粒が口に入った瞬間、俺はコメの価値観を大幅に更新せざるを得なくなったのだ。


 かつて日本に置いて米とは貨幣と同等の地位を得ていたほど重要な食材であった。時を経るごとにその価値は薄れ、日本人であるにもかかわらず米を食べないものまで現れるようになった。だが、この米を食べればその考えは百八十度変わると断言できる。いったいどのように育て、収穫し、精米の後に炊いたらこのような美味なる白い宝石ができあがるのだろうか? 最早これは美味しいというよりも尊いと表現したい。


「はぐ、はぐ……おいちぃ!!」


「ははは、まだあるから遠慮せずにお代わりするといい。小さな子がお腹を空かせてはいけないからね」


 俺が無我夢中でおむすびを食べ進めるさまを見て、謎の大男であるキララさんは心底嬉しそうに微笑むのであった。



◆◆◆



 尊いおむすびを腹いっぱいに食べた後、俺とキララさんは俺の仲間を探すまで護衛をしてくれることになった。とはいえ、この深い霧では捜索自体が困難を極める。〈テレパス〉で連絡を取り互いに無事であることを確認したことで部隊は大きな混乱を避けれたが状況は依然芳しくないことは確かである。


「なぁ、キララさんはどうして、こんなところにいるんだ?」


 なかなか仲間と合流することができない苛立ちを紛らわせるために、キララさんに疑問に思ったことを訊ねてみることにした。こういう状況下において、一番のタブーは冷静さを失うことであり、少しでもそれが保てるのであれば積極的に実行するべきであると考えに至ったのだ。


「うん、私はね復讐……いや、これはもう個人的な問題ではないか。そう、言うなれば友との『約束』を果たすためにここまで来たんだ。この山のどこかに皆の幸せを奪い踏みにじった残虐な超人が潜んでいる。私はそいつを倒すために、この山を彷徨っているんだよ」


「……」


 お人好しであろう彼から飛び出したへヴィな会話の内容に俺は絶句した。復讐という言葉が出てきた際はどうしたものかと一瞬困ったが、その後に彼は『約束を果たす』と言ったのだ。それは暗い感情を克服し光に向かって歩き出した証拠だ。ここは愛と勇気と努力の桃使いとして彼を応援せざるを得ないだろう。


「そっか……何か協力できることがあったら遠慮なく言ってくれ、恩返しがしたいんだ」


「ありがとう、その言葉だけで十分さ。きみの優しさは私の親友の優しさに良く似ている」


 仮面に隠れた彼の目は見ることはできない。だが、仮面越しにその優しい眼差しを感じることができた。彼はとてつもなく重い何かを背負っている。それは強さの証であり自身を苦しめる枷でもある。

 やはり、この人は俺達桃使いによく似ている。このまま別れるわけにはいかないと感じた。


「キララさん……」


「しっ……何者かの気配がする。それも良くない者が放つそれだ。エルティナは私の陰に隠れるんだ」


 キララさんのいう嫌な気配を感じ取ったのは、彼の大きな体の陰に隠れた時のことだった。俺も気配を感じ取るのが上手な方だと自負していたが、キララさんのそれは俺を遥かに上回るようだ。それはきっと歴戦の戦士が持つ直感のようなものだったのだろう。彼の鍛え上げられた肉体の陰に入った際に目に飛び込んできた無数の傷跡……それは昨日今日付いたようなものではなかったからだ。

 彼はきっと、今日まで幾多の戦いを生き抜いてきたに違いなかった。


「何者だ、姿を現せ」


 キララさんが白い霧の向こうに声を投げかけると、やがて黒い影がぼんやりと浮かび上がり、やがて濃い霧を切り裂き飛び出してきた。


「げぇっ!? おまえはっ!!」


 キララさんは霧から飛び出してきた筋肉ダルマを見て驚愕した様子だった。俺は彼の背後に隠れているので顔を見ることは叶わないが明らかに動揺していることがわかった。出会ってから間もないがキララさんは沈着冷静な男性であると認識している。そんな彼をこれほどまでに動揺させるあの大男はいったい何者なのだろうか?


「ぎゅぎゅぎゅぎゅう! 久しぶりだな! キララ九十七世!」


 とんでもなく個性的な笑い方をする大男は、どうやらキララさんを知っているようだった。そしてキララさんもこの男のことを知っている……というよりは、なんらかの因縁を持っている者同士のようだ。


「ようやく見つけたぞ、うしマン!」


 いやいや、ド直球過ぎるだろ、その名前。

 どう考えても見た目が牛だからそう名付けた、的な安直な名前が飛び出て不覚にも吹き出してしまう。だが、その俺の失態によって牛男に俺の存在を感付かれてしまった。これは不幸な事故だと主張したい。

 牛マンと呼ばれた大男は大雑把に説明すると、ギリシャ神話に登場するミノタウロスという半牛半人の怪物がレスラーパンツを履いたような人物だ。もうあの頭が被り物のように見えて笑いをこらえるので精一杯である。あんたら、これからプロレスでもおっ始めるつもりなのか?


「これは驚いた、貴様が子供を連れているとはな。その容姿からして貴様の娘か?」


「違う、この子は山の中で危ないところを助けただけに過ぎない。私とは無関係だ、手を出すな!」


「ぎゅぎゅぎゅぎゅう、手は出さんさ……手はな」


 キララさんが俺を庇うように前に出た。その様子を見て、にたにたと顔を歪ませている牛マンは次の瞬間、その巨体に見合わぬ俊敏さを発揮し頭部にある二本の巨大な角をキララさんにぶつけたのである。


「〈刃裏剣牛早阿ハリケーンギュウサー〉!!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 あぁっ!? キララさんがあの凶悪な二本の角の餌食にっ!!


 刃裏剣牛早阿をまともに喰らったキララさんは、きりもみしながら天高く弾き飛ばされた後に地面に叩き付けられた。なんという威力だ、キララさんほどの大男がこうも容易く吹き飛ばされるとは! この牛マンは一見ネタキャラにしか見えないが、とてつもない実力者だ!!


「ぎゅぎゅぎゅぎゅう、相変わらず甘い男だ。このガキを庇わなければかわせたものを」


「な、なんだってぇ……!?」


 なんということだ! キララさんは俺を庇ったばかりに刃裏剣牛早阿をまともに喰らってしまったのだ!くそっ! 俺が油断していたばかりに……こうなったら、俺がキララさんの代わりにこいつを爆破処理するしかない!! ここ暫くは俺自身があまり活躍していないから、ここぞとばかりにやってやんよぉ!?


「……待ちな、テンカウントにはまだ早いぜ」


「げぇっ!? キララ九十七世! 刃裏剣牛早阿の直撃を受けて何故死んでいない!?」


「このぬかるんだ地面が衝撃を吸収してくれたのさ」


 震える足で立ち上がるキララさん。彼に刻み込まれたダメージは確かなものであり、死んでいないのが不思議なくらいの出血の仕方だ。だが、彼の放つ闘気は衰えるどころか増すばかりである。そんなキララさんの姿に気圧され後ずさる牛マン。その隙を見逃す俺ではない。

 キララさんと牛マンの間合いが離れた隙を突き、俺は〈ヒール〉を使用する。俺から飛び出してくるチユーズ達は何故か全員、首に白いタオルと眼帯を掛けていた。


『たて~』『たつんじゃあ』『じょ~』


 たぶんそれ違う。


 俺は勘違いしているチユーズを生暖かい目で見守りながらキララさんの状態を観察する。出血は多いように見えるが顔色、呼吸共に良好。震えていた両足もしっかりしていることから脳震盪の心配もないようだ。チユーズの活躍によって傷も塞がった、初っ端から出鼻を挫かれたがこれで振り出しに戻せたぞ。


「ダメージが消えてゆく……これがエルティナの能力なのかい?」


「あぁ、俺は戦うのが苦手……というか、なんというか。でも、傷付いた者を癒すのは得意中の得意なのさ」


 見る見るうちにキララさんの傷が癒えてゆく様子を目の当たりにした牛マンはその動揺を隠すこともしなかった。しかもあろうことか、俺の治癒魔法を褒め称えたではないか。


「見事な腕前だ! どうだ、そいつよりも俺の下で働いてはみないか? 俺の下につけば、この世の全ての快楽が手に入ることを約束しよう。俺は有能な者に対しては寛大だからな! ぎゅぎゅぎゅぎゅう!!」


 あまりにも分かり易過ぎる勧誘であった。今時、べたべたな悪役でもそんな台詞は吐かない。しかも、牛マンは自信があるのか腕を組んでふんぞり返って俺の答えを待っていた。もうなんて答えてやろうか?


「耳を貸すな、エルティナ。ヤツは約束を守ったためしがない」


「ふきゅん、まぁそうだろうな」


 小声でキララさんが俺に注意を促す。当然、俺も牛マンの言葉などには耳を貸すつもりはない。だが、キララさんに不意打ちにだまし討ち、略して『不意だま』をかまされて黙っているほど俺はヘタレではない。直接戦闘ではあんまり役に立たない俺であるが、それ以外であるならば活躍の機会もあるというもの。

 目にものを見せてくれる、そして己の行為を後悔するがいい……牛マン!


「ふきゅん、この世の全ての快楽か……魅力的だな」


「エ、エルティナ!?」


 俺はゆっくりと牛マンに歩みを進める、その様子に慌てるキララさんに心配をするなという視線を投げかけ、それを受け取った彼はそれを理解し無理矢理引き留めることをしないでくれた。


「ぎゅぎゅぎゅぎゅう! やはりおまえは賢い子供だった! その選択は正しい! さぁ……もっとこっちへ来なさい、今日から俺がおまえのご主人様だ!!」


「だが断る」


「ぎゅぎゅっ!?」


 俺は牛マンが勝ち誇り優越感に満ちる、その最高の瞬間を狙っていたのだ!


「このエルティナ・ランフォーリ・エティルの最高の快感の瞬間とは、交渉相手が勝ったと思った瞬間に『NO』といって拒絶することだっ!! 確かにおまえの全ての快楽を与えるという約束は魅力的だ。だが、その快楽も心許す友がいてこそ最高の輝きを放つもの! おまえのようなドブ以下の匂いをぷぃんぷぃん臭わせる野郎が隣にいても道端の石ころ程度の価値しかねぇよ! ふぁっきゅん!!」


 俺はあらん限りの『奇妙な』ポージングを披露し相手の心を砕きにかかったのだ。いくら肉体が強かろうとも心までは強いとは限らない。肉体は訓練を重ねれば鍛えられる、だが心を本当に強くするには幾多の試練、悲しい出来事を乗り越える必要があるのだ。


 牛マン、おまえの言葉は軽過ぎる。その脆弱な心のようにな!


「お、おのれぇっ!! 俺を舐めたらどうなるか教えてやる!」


 顔を真っ赤にして俺に突撃を試みた牛マン。分かり易過ぎて最高にハイってやつだ。

 俺の直前まで牛マンは迫り、巨大な二本の角が俺にまで後一歩というところでヤツの姿は消えた。


「ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」


「ふっきゅんきゅんきゅん……単細胞めぇ」


 そう、ヤツの行動を予測して予め〈落とし穴〉を設置しておいたのだ。この初見殺しの魔法技を見抜くことなどできようはずもない。昔と違って設置時間も短縮、見た目もどこに設置してあるかわからず自分で掛かってしまうほどの精度なのだから。


「さぁ、どうしてくれようか? このまま埋め立ててやろうかぁ? ふ~っきゅんきゅんきゅん!」


 この時ばかりは俺は悪魔だぁ……! 悪党には容赦しないぞぉ!!


「待つんだ、エルティナ。牛マンとの決着は私が付ける。いや……付けなければならないんだ」


「キララさん……わかった、任せるよ」


 キララさんの決意の籠った目……仮面に隠れて見えないが、その眼差しを感じて俺は彼の申し出を承諾し、〈落とし穴〉を解除した。すると蟻地獄のように柔らかくなっていた地面が元の硬さに戻り牛マンが穴から飛び出してくる。やはりその形相は怒りに満ち満ちていた。


「このガキがっ! ぶっ殺してやる!!」


「待て、牛マン! 私が相手だ!!」


「ぎゅぎゅぎゅぎゅう、キララ九十七世! 俺の邪魔をする忌々しいヤツよ! ここで出会ったのも運命というもの、この『大鍋デスマッチ』で貴様の息の根をとめてくれるわっ!!」


「こ、これは……危ない、エルティナっ!!」


 牛マンがそう告げると地響きが起こり地面が割れて、そこから見上げなければならないほどの巨大な黒い鍋がせり上がってきたではないか。

 このことにいち早く感付いたキララさんは俺を抱えて丈夫そうな木の枝に跳躍してみせた。流石は自称超人だ。俺を抱えて難なく高さ三メートルはあろうかという枝に飛び乗ったのである。スゲェ。

 そして鍋の中だが、白い大きなリングが丈夫そうなロープに支えられて宙に浮いていた。


 やっぱりプロレスじゃないですかやだー。


 更にはリングの下……つまり鍋の中には美味しそうな匂いのする黒い液体がぐつぐつと煮え滾っている。はて、この匂いはどこかで嗅いだことのある匂いだが……なんだっただろうか?


「追ってこい、キララ九十七世!」


「望むところだ、牛マン!」


 キララさんは俺を枝に残し白いリングへと飛び移った。そして華麗に着地すると纏っていたマントを投げ捨てその見事な肉体の全貌を明かしたのである。

 また牛マンも戦闘準備を終えていた。屈伸をしていただけだったのだが身体が一回り大きくなっているのがわかる。今までは本気でなかったということなのだろう。その表情もリングに上がる前とは別人のように引き締まったものになっていた。

 この白い聖域が二人の男を戦士へと変貌させたのだろうか? それはわからない、わからないが……これから起こるであろう激闘だけは理解できていた。


「がんばれ、キララさん」


 俺はたった一人の見届け人……いや、観客だ。俺はこれから始まる二人の戦いを記憶する義務がある。それこそが場違いな存在である俺の唯一できることなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ボーダーランズ?に似たような名前の人物が居たような…? [一言] これはヨイショ正しいBUFFALOマンの必殺技!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ