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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第九章 神級食材を求めて
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411食目 さまざまな方法

俺がぼんやりとプルルの病気のことばかり考えていても、

授業はどんどん進んでゆく。

事前にアルのおっさん先生には連絡を入れていたみたいで、

プルルはGDゴーレムドレスを身に纏った状態で授業を受けていた。

一人だけ異様な姿で目立つことこの上ない。


さて、整体による治療は残念ながら病の解消には至らなかった。

後の方法といえば投薬による治療、外科手術による患部の摘出、

といったところであろうか?


もう一つこの世界独自の方法もある。

それは呪術による治療だ。


地球においてはそんな方法で治れば苦労はしないと笑われてしまうだろうが、

この世界はそんな幻想が実在するファンタジー世界なのである。

よって、試す価値は十分にあるだろう。


「次~エルティナ。この問題を解いてみろ~」


幸いにもこのクラスにはララァという呪術に詳しい少女がいる。

加えてヒーラー協会に戻れば最強の呪術師であるディレ姉がいるのだ。

もはや呪術を捨てるという選択肢はないのである。


「勝ったな」


「正解だ、この地名はカッタナ平野と呼ばれていてだな……」


だが、まだまだ方法はあるはずだ。

一人の知恵では限界がある。

予想外の方法で病が治癒される例は意外と多いのだ。

それに、ここには多くの友人達がいる。

彼らを頼らずしてどうするというのだろうか。


そう、試せるものは全て試す。

そして後世のためにも、その全ての結果を記録しておこう。

きっと俺達がプルルのためにおこなう行為は無駄にはならないはずだ。



◆◆◆



放課後、俺とプルルはヒーラー協会へと向かった。

もちろんクラスメイト達も全員参加だ。

加えてアルのおっさん先生もついてきた。

きちんと学校側には許可を得ているそうだ。


ヒーラー協会に到着した俺達を出迎えてくれたのは

銀髪の角刈りが極まっているスラストさんだ。


「準備はできている、しかし『魔力過多症』か……。

 レイエンの『魔力多消費症』といい厄介な病だな」


「でもプルルはモモガーディアンズのメンバーだし何よりも大切な友達だ。

 絶対に諦めるわけにはいかないんだぜ」


俺は学校から帰宅する前に『テレパス』を使用してスラストさんに

プルルを治療するための広いスペースを確保してもらったのだ。

丁度、ヒーラー協会の三階にまだ空いている部屋があったので

急ぎ片付けてもらったのである。

ちなみに主にそれをおこなったのはビビッド兄だそうだ。

後でお礼を言っておこう。


「この部屋を好きに使うといい。

 治療の記録はしっかりと付けるようにな」


「わかったんだぜ」


彼はそう言い残すと自身の仕事をするために

ギルドマスタールームへと帰っていった。


流石はスラストさん、俺の考え方とまったく同じのようだ。

こういった難病を抱える患者は滅多に現れることがないが、

その分、病気の解明まで至らないことが多くある。

とにもかくにも情報が少ないのだ。


しかも治癒魔法で治せない、ということが情報の少なさに拍車を掛けている。

それゆえかヒーラー協会に存在する膨大な資料であっても、

『魔力過多症』の情報が書かれたページが

僅か二ページというものになっているのだ。


情報、少な過ぎぃ!


「聖女様、魔導協会に所属する友人から

『魔力過多症』の資料を借りてきましたぞ。

 ですが、やはり有益な情報が少ないですなぁ。

 あちらさんも、この病には困り果てているようです」


ドアをノックして入ってきたのは

若手を指導してくれている引退ヒーラーのセングランさんだ。

魔導協会に顔が効くらしく貴重な資料を借り受けてきてくれたのである。

恐らくはスラストさんの指示によるものだろう。

本当に気配りの出来る良い上司を持ったものだ。


地位的には俺の方が上なのだが、

ここにいる時の俺はあくまで一人のヒーラーであるので問題はない。


「セングランさん、助かるよ。

 これが魔導協会の『魔力過多症』の資料か……どれどれ?」


手渡された資料はなかなかの分厚さだった。

魔導協会が真面目に『魔力過多症』の治療をおこなってきた証とも取れるだろう。

セングランさんは有益な情報は少ないと言ったがそんなことはない。

この膨大な失敗の記録こそ俺が求めていたものであるからだ。

成功とは多くの失敗という礎の上に建っているものなのだから。


ふむふむ、魔法使いらしくヒーラーが思いも付かないような手段を用いて

患者を治療しようとしたケースが百を越えているぞ。


むむ、整体による治療も記述されている。

こちらは専用の魔導器具も使っておこなったのか……。

やはり、これも失敗だと記述されているな。


後は呪術も試したみたいだな。

これも失敗だと記述されている。

ええっと、呪術行使者はジュ・レイーデ? 知らんなぁ。

それよりも最後にこの治療をおこなったのは百年以上も前か。

なら、呪術による治療は試してみる価値があるな。


百年も経っていれば呪術といえども進化を果たしているはずだ。

加えてこちらには呪術のスペシャリストがいらっしゃる。

彼女は「あくまで自分はヒーラー」というだろうけどな。


後は外科手術も試しているのか……こっちは酷い結果ばかりだな。

その試みは称賛するが準備と手術後の処置がまずくて

患者の全てが一週間以内に死亡と書かれている。


ん? 外科手術を受けた患者の記録の日付が近いな。

十八件も立て続けに治療をおこなっているぞ。

ということは、この年は患者の発生件数が多かったということか。

だけど、この後から患者の記述が極端に減っているな。

結局、治療の成功例もなし、か……散々な結果だ。


投薬による治療もおこなっているようだけど……うん、これは酷い。

患者に毒薬を飲ませてどうするんだ。

魔導器具は造りだせても薬は上手く作れなかったようだ。

それでも失敗を事細かに記載していることは高く評価したい。


当時は製薬のエキスパートの黒エルフとも

協力できるような時代ではなかったのだろう。

黒エルフの立場が飛躍的に向上したのは今の王様の尽力があってのことだしな。


この資料の記述者はマケット・クルシマという人か。

きっと真面目を絵に描いたような人物なのだろうな。


よし、投薬による治療は視野に入れておくとしよう。

外科手術は本当に最後の手段だ。

それに至るまでには消毒液やクロロホルム、鎮痛剤といった

特別な薬品を作らないといけなくなるからな。


「ふ~む、こうして目を通すと本当にさまざまな試みをおこなっているな。

 でもその全てがことごとく失敗に終わっている。

 アミュレットによる抑制は一時的なもので数年後には死亡か」


む、特殊な例として患者の身体に抑制術式を刻むというものがあるぞ。

これは近年におこなわれたものだな。

日付もこの資料の中では最新のものだ。


記述によれば抑制術式はなかなかの成果を上げているようだな。

現在に至るまで発病の報告はなし……か。

病気の早期発見が鍵になると書かれている。


ふむふむ、一番最初におこなわれたのが八年前か。

ええっと……被験者は……『プルル・デュランダ』。


……。


俺はプルルをジッと見つめた。

つまり、彼女はこの最も効果を上げていた処置でも発病し

最早あとがない状態といえるのだ。


それにこの資料に記載されている多種多様の治療の全てが

あえなく失敗であると記されている。

俺達が試せる治療行為は非常に少ないといえるだろう。

だが、俺達はそれをやってのけなければならない。


俺達のがんばりいかんでプルルの生死が分かれてしまうのだから。


「ふきゅん、皆、これからホワイトボードに

 これまでおこなわれてきた『魔力過多症』の治療方法を書いてゆく。

 これら以外に何か良い治療方法があるという者は挙手してくれ」


俺は魔導器具であるホワイトボードに手を触れ

魔導協会が保有する資料の内容を浮かび上がらせてゆく。

こういったときは魔導器具というのは便利だ。

いちいち自分で書いてゆく必要がないのだから。


「うわぁ……結構な種類を試してんだな」


「あっ、私が試そうとした方法がある」


やはりクラスメイトが試そうとしているものは

殆どここに書かれているもののようだ。

このことから相当に力を入れて病気を何とかしようとしていたことがわかる。

それでも何名かのクラスメイトが手を挙げて治療方法を提示した。


「御屋形様、拙者にお任せあれ」


「ふきゅん、ザインか、意外だな。何か良い治療法でも?」


「はっ、拙者は針治療の心得を持っておりまする。

 拙者の剣の師が腰を痛めておりましたゆえ習得いたしたのでござります」


「ほぅ……針治療か。確かにラングステンでは知られていない治療法だな。

 これも一種の整体だが、治らないという確証はない。よし、やってみよう」


どうやらカーンテヒルにおいての日本であるイズルヒにも、

東洋の医術『針治療』があるようだ。

それを八歳であるザインが習得しているのには驚かされる。

まぁ、彼も約束の子だし多少はね?


ザインは〈フリースペース〉から年季の入った箱を取り出すと、

その箱の蓋を静かに開けた。

すると中には見事な治療針がズラリと並んでいるではないか。


「おぉ、見事な針だな」


「おわかりになられますか、御屋形様。

 これは稀代の名工、ホソクケ・ズル殿がこしらえた針でござる。

 拙者の針治療の師から譲り受けた品なのでござるよ」


ザインはプルルにうつぶせになるように指示した後に、

背中を出してくれと頼んだ。

無論、針治療をおこなう為であってやましい思いはないはずだ。

彼女もそのことを理解していたので素直に服を脱ぎ、

染み一つ無い綺麗な白い肌を晒した。


「なんだか怖いよ、痛くしないでね?」


「大丈夫でござる、医療用の針ゆえ痛みは殆どござらぬよ。

 寧ろ、この美しい肌に針を刺す拙者の方が怖いくらいでござれば」


だがザインが針を手にし、いざ治療となったところで異変が起こった。

突如としてプルルの白い肌が赤く染まってしまったのである。


「ふきゅん!? 何事だぁ!?」


「こ、これは、いったいっ!?」


それはどんどんと広がってゆく。

広いキャンバスのようなプルルの背中に

真っ赤な花がどんどんと咲いてゆく様は恐ろしいものがあった。


「おい、ザイン! 鼻血、鼻血!

 女の素肌見ただけでそれじゃあ、治療どころじゃねぇだろ」


「ちょっ!? ザイン、僕の背中に掛けないで!」


「す、すまぬっ!」


なんと、背中に突如として出現した赤い花の正体は

ザインの鼻血であったのだ。きちゃない。


ロフトの指摘で我に返った俺達は慌ててザインの鼻血を止めにかかった。

取り敢えずは布切れを彼の鼻の穴に突っ込んでおく。

治癒魔法で治しても、また出てくる可能性があるからだ。


それにしてもザインの女性に対する免疫のなさは致命的だ、

後で修正しなくてはなるまい。


「かたひけばい」


「クッソ情けない顔になったな」


男前の顔が台無しになった彼であったが、

針治療の方は見事な腕前であると感心することとなる。

そして、整体に入るのだが

彼の場合はライオットやユウユウのような無茶な体勢を要求せずに、

プルルの身体に負担が掛からない程度の整体であった。

彼女の身体を解すといった感じであろうか。


「いかがか? プルル殿」


「ふぁ……すっごく気持ち良かったよ」


そう言うようにプルルの顔は蕩けるような表情になっていた。

だが肝心の魔力を抑えるということには至ってはいない。

彼女の手首を取って魔力量を調べてみたが、

若干の消費を確認したものの解決には至らなかった。


「ふぅむ、だふぇでござったか」


「気持ち良かったんだけどねぇ」


「気持ち良くなることが目的じゃないから失敗だな」


ちょっとは期待していたのが残念ながら失敗に終わった。

しかしながら若干の魔力の改善はあったと記載しておこう。

後の世に情報を残すことは義務なのである。


次に名乗りを上げたのは予想外の人物であった。

白いバンダナがトレードマークのスケベ少年ロフトであったのだ。


「むむっ、ロフトは何か良い治療法を知っているのか?」


「もちろんさ。まぁ、見てなって」


そういうとロフトはプルルを寝台の上に仰向けで寝かせた。

そしてコキコキと指を鳴らし、その動作を真剣に見つめる。

かなりやる気だ、これはひょっとすると期待が持てそうである。


「ところでどんな方法で治療するつもりだ?」


「ん? 決まってるだろ。俺がやるのは『マッサージ』だ」


「おいぃ……マッサージは既に結果が出ているんだぞ」


「内容を見る限り大したマッサージはしていないようだぜ。

 俺のマッサージはスゲェんだぞ? お姉さま方からも絶賛の嵐よ」


そう自信満々にいうロフトであるが、俺は段々と心配になってきた。

プルルも不安そうな表情を浮かべている。

だが、ここまできたら試してみるしかない、

ということもあり彼女は渋々ながらロフトの治療を受けてみる運びとなった。


「……痛くしないでね?」


「大丈夫だ、寧ろ気持ちよくしてやる」


超嫌な予感がしてきた。

そのような予感を浮かべた途端にロフトはやらかした。

プルルの服の中に手を入れ、まだなだらかな胸をもみもみしだしたではないか!

なんという邪悪な行為! 許されざるよ!!


だが暫くするとロフトの表情が険しくなってきた。

遂には眉間にしわを寄せマッサージを停止したのである。


「っ! くそっ……冗談だろ? 魔力だまりが心臓にありやがるぞ!」


「なん……だと……!?」


なんと、彼は真面目に治療行為をおこなっていたようだ。

だが最初のにやけた顔はいただけない。

だから勘違いされるのだ、と言わざるを得ないだろう。


「そうじゃよ、その子の魔力の発生個所は脳と心臓じゃ」


「ドゥカンさん……」


声を掛けてきたのは腰をトントン叩き

疲れた表情をしたプルルの祖父、ドゥカン・デュランダであった。

恐らくはスラストさんが連絡を入れてくれたのだろう。


「場所が場所なだけに手の施しようがないんじゃよ」


「なんてこったぁ、これじゃあ外科手術もできやしない」


奥の手がいきなりつぶされてしまった。

簡単な部位なら多少無理しても完遂する自信があるが、

心臓なんてとてもじゃないが無理だ。


「こりゃ俺のマッサージでも無理だぜ」


「ちなみにロフトのマッサージはどんな効果が?」


「新陳代謝を劇的に活発にさせる効果があるんだ。

 なんでも俺の個人スキルがそうさせているらしいんだけど

 詳しくはわからねぇんだ。害はないみたいだから気にしてないけどな。

 でだ、何度もおこなうと効果はどんどん高くなってゆく。

 新陳代謝が高まれば魔力の消費が上がるのは知ってるだろ?

 そこで魔力の消費を高めれば上手くいくかなぁって思ったんだけど、

 俺のマッサージの起点って心臓からなんだよ。

 これじゃあ、たぶん魔力を余計に増やしちまうぜ」


そう言うと彼は名残惜しそうに自身の手をプルルの胸から離した。

ロフトの意外な特技と個人スキルに驚くと共に

彼が真剣に治療にあたっていたという事実に衝撃を受けた。

これは彼に謝罪しなくてはなるまい。


「うへへ……数年後が楽しみだぜ」


よし、やっぱりやめた!


「魔力の発生個所が心臓というのが厄介だな。

 他に何か良い方法を思いついたヤツはいるか?」


「ねぇ、私思ったんだけどさ」


狼の獣人少女アマンダが俺を見て自分の意見を述べ始めた。


「エルティナさんの黒くて大きな蛇で

 魔力の発生個所『だけ』を食べることはできないの?」


「それは難しいな」


そう、それは俺も真っ先に考え付いた。

だが冷静に考えると、

それはとてつもなく難しいことであると気が付かされたのである。


そもそも、全てを喰らう者・闇の枝は俺の食欲が具現化したものだ。

見境なく全てを食らう為だけに存在するため『目』がない。

そのため選別して食べるということがほぼできないのだ。

ある程度は指示にしたがって食べてくれるのだが、

それでも大雑把な食べ方しかできないのである。


闇の枝を司る『いもいも坊や』が成長してくれれば、

この問題も解決できる可能性はあるがいつになるかわかったものではない。

加えて闇の枝は現在最も強力な全てを喰らう者であり、

それゆえに制御をおこなうのが非常に難しい存在なのだ。


「俺もそれを考えたが、下手をすれば心臓ごと『むしゃぁ』しちまう」


「そっかぁ……それなら残るのは呪術とお薬?」


「そうなるなぁ」


俺達はまず呪術を試してみることにした。

薬の方は材料集めから始めなくてはならないからだ。

材料は後日、皆で集めに行くという方向で決定した。


「よし、俺は『先生』をお呼びしてくる。

 ララァはセッティングの方を頼むんだぜ」


「……ききき……任せて……」


寝台に横たわるプルルの周りに蝋燭を置き火を点けてゆく巨乳少女を横目に

俺はラングステン最凶……もとい最強の呪術師を呼びに行くのだった。

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