↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第九章 神級食材を求めて
409/800

409食目 魔力過多症

◆◆◆ ドゥカン ◆◆◆


エルティナがムセルとチゲを引き取った後、

わしは慣れ親しんだ工房に赴き改修中のゴーレム達の面倒を見ていた。

いずれも戦闘用として生を受けたにもかかわらず

戦闘に参加できなくなってしまった連中である。


生まれた当時は最先端の装備と性能を誇っていた彼らも、

今となってはロートル扱いされるまでになっていた。

時の流れとは残酷なものである。


「やれやれ、わしよりも若いおまえらがロートル扱いとはの」


戦闘に耐えられないと判断された場合、彼らの辿る道は三つ。


一つは火器類を全て取り外し、民間に払い下げる。

多くは警備用ゴーレムとして第二の人生を歩む。

戦いを生き延びたゴーレム達は、だいたいこの第二の人生を歩むことになる。


二つ目は解体。

ゴーレムコアを特殊な装置を用いて分解しコア内の魂を解放する。

当然、そのゴーレムは二度と動かなくなる。

意外なことに解体を選ぶ連中は少なくない。

戦いに疲れたゴーレムにとって解体は安息を得るための手段。

わしも彼らの意思を尊重して多くの最期を看取ってきた。


三つめは……改修。

ゴーレムコアに多大な負担が掛かるが最新の機体を手に入れることができる。

正直な話、これを選択するゴーレムは多くない。

ゴーレムコアに負担が掛かるということは寿命を減らすのと同じ。

しかも、改修の後には戦いが待っている。

余程のことがない限りこの選択を選ぶゴーレムはいなかった。


「何がおまえらを突き動かしておるんじゃか」


改修を受けているのはラング改が二十機、そして……ケンロク。


プルルと行動を共にしていたケンロクであったが、

鬼の台頭、そしてGDの登場により性能の差が顕著となり

彼女について行けなくなったのだ。


先の戦争も参加は見送られた。

鬼に通常兵器は効果がなく、

旧式の魔導キャノンしか搭載していない彼には

非常に厳しい戦場だったのだ。


現在、ケンロクは剥き出しのゴーレムコアとフレームのみという状態だ。

人間に例えるならば骸骨に心臓が付いている状態といったところだろう。

彼の青いゴーレムコアが一定間隔で光を放ち生きていることを告げている。


ケンロクはプルルがまだ物心つく前から共にあった。

彼女が物心つき自由に出歩くようになってからは、その傍らにいた。

まるで兄のようにプルルを見守っていたのだ。


であるなら、武装を外し家政婦タイプのゴーレムとして生きてみてはどうか、

と提案をしたが彼はあくまで戦闘タイプとしての生き方にこだわった。

何かを予感しているのだろうか?


だが彼は何も語らなかった。

わしに伝わってくるのは改修してほしいという願いのみ。


「おまえの頑固な性格はプルルに移ってしまったぞい」


幸いなことに改修は順調に進んでいた。

ドクター・モモという強力な協力者を得てからは

ギルド内作業員の技術力が飛躍的に向上したからである。

その分、ギルド内の情報が外に漏れないように箝口令が敷かれているが。


「時間が全て持っていってしまう……か」


わしは白エルフの少女の言葉を思い出していた。

そう、全ては時間が持っていってしまう。

苦労して開発した新しい技術も、時が経てば使い古された技術になり果てる。

病気だってそうだ、発見が遅れれば手遅れになる。

……プルルの母親のように。


「結局は言えなかったわい」


実のところ、わしはエルティナに重要な話を切り出せなかった。

時の流れが全てを持っていってしまう、

その言葉を聞いた瞬間、わしの決意が揺らいだ。

結局、言うタイミングを逸した後はずるずると彼女のペースに乗せられて

うやむやのまま終わってしまったのである。

いや、終わらせてしまった……か。


ひとつため息を吐き、わしはケンロク達の改修作業を再開させようと

工具箱から愛用のレンチを取り出した。


その時のことだ。

ガシャンと何かが倒れる音がして、すぐに呻くような声が聞こえてきた。

慌てて呻き声のする方へ行くと

孫のプルルが地面に蹲って荒い息をしているではないか。

瞬間に血の気が引いてゆくのがわかった。

だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「プルルっ! しっかりするんじゃ!!」


「はぁ、はぁ……お、お祖父ちゃん……胸が苦しいよ……」


急ぎ駆け付けプルルを抱きかかえる。

その顔は真っ赤に火照っており呼吸も不規則だ。


「これはまさか……『魔力過多症』っ!? なんということじゃ!」


危惧したとおり彼女の身体が異様に熱い。

これは魔力が暴走している証拠。処置が遅れれば命が危ぶまれる。

幸いにしてまだ意識はある、これならばまだ間に合うはずだ。


「急いで魔力を放出しなければ、この子は娘のように……!!」


通常、人は体内で魔力を作り出す箇所は一つだ。

場所は手であったり、足であったり、脳であったりする。

だいたい一般的な箇所は脳であるようだ。


だが、例外は存在するもので、

極々稀に体内に魔力を生み出す箇所が二つ存在する者が生まれることがある。

それがプルルの母親であり、わしの娘であったアルルだ。


彼女が『魔力過多症』と判明したのはプルルが生まれて三か月経った頃のことだ。

突然、娘が体が燃えるように熱いと訴えてきた。

慌ててヒーラーを呼び治癒魔法を施してもらうも症状は悪化してゆくばかり。

機転を利かせた娘の夫、シュオが魔導協会の魔法使いを呼び事態は収拾をみせた。


『彼女は「魔力過多症」だと思われます。凄まじい魔力でしたよ』


人の身体は自分の作り出す魔力に耐えられるように出来ているそうだが、

それは魔力を作り出す箇所が一つの場合であることが条件である。

娘のように魔力を作り出す箇所が二つある場合、

肉体が魔力を上手く抑えることができなくなる。

その場合、身体は過剰分の魔力を異物として認識し排除するようになるそうだ。


『もう少し遅かったら彼女は魔力の暴走によって

 周りを巻き込む「大爆発」を起こしていたことでしょう』


その魔法使いの言葉にわしらは戦慄した。

彼が言うには熱を帯びた膨大な魔力は火属性の性質を得ることとなり、

それが限界まで体内に充満した結果〈ファイアーボール〉のように爆ぜるという。

それも体内でだ。到底耐えられるわけがない。


『この症状は我々も手を焼いております。

 本来なら隔離するのが最も被害が出ないのですが……

 奥様は子供が生まれたばかりなので、それはあんまりだと思われます。

 そこで……この魔力を吸収するアミュレットを付けて生活してください。

 日常魔法も使えなくなりますが命には代えられないでしょう』


魔法使いは色のない宝石が付いたペンダント型のアミュレットを娘の首に掛けた。


『その中央の宝石は吸収した魔力の量によって色を変えてゆきます。

 最初は青、緑、黄色、オレンジ……そして赤。

 最後には黒くなり魔力を吸収しきれなくなって割れてしまいます』


『割れたら……どうなるんですか?』


『先ほど説明したとおりになります。

 ですのでこまめに魔導協会に赴いて

 アミュレットの魔力を抜くようにしてください。

 悪い言い方になりますが、奥様は生きた時限爆弾となってしまわれたのです』


『そ、そんな……』


そう、娘は生きた時限爆弾となってしまったのだ。

この症状は今のところ治療する術がない。

早期発見であれば抑制できるのだが大抵は手遅れの状態で発見される。


「何故、抑制しておいたのにこの症状が!?

 確かアルルが使っていたアミュレットの予備があったはず……!!」


プルルも調べてもらったところ『魔力過多症』であることが判明した。

この子の魔力を生み出す箇所は脳と心臓。

いずれも潰すことはできない部分であり、

魔導器具でもって抑制することしかできなかった。


そこでわしは知り合いの魔法使いと協力し、

魔力抑制装置となる術式を赤子のプルルに刻み込んだ。

それは心臓から発せられる魔力を尿に送り込むというものであり、

一定量貯まると尿と一緒に排出される仕組みになっている。


これは当時、人体に及ぼす影響が立証されていないため、

認可が下りていなかった禁呪と呼ばれるものだ。

後に正式に認可されることになるが、

当時は魔法協会の圧力が強く、なかなか認可には至らなかったのである。


プルルにアミュレットを常時付けなければならない、

という煩わしさに悩まさせたくないという思いで

わしらは無許可でそれを実行に移した。

それは高い効果を発揮しプルルの魔力は暴走することなく安定を見せたのである。


少しばかりの時が過ぎ落ち着いたところで調べてみると、

やはり彼女の脳と心臓部分から魔力が発生していた。

しかし刻み込んだ術式は順調に作動しており、

大量の魔力は尿と一緒に排出されて暴走状態になることはなかった。

そして今日に至るまで一切症状は出てこなかったのである。


それが何故……今頃になって。


わしは寝台にプルルを横たわらせ、

急ぎ工具箱の中の厚い布で包んであるアミュレットを取り出し彼女の首に掛ける。

すると中央の宝石が次々に色を変えていった。


青、緑、黄色……まだ止まらない。

オレンジ……赤……! 頼む、止まってくれい!!


「……と、止まった」


宝石は黒になる手前、赤黒い色でようやく変化を止めた。

なんという莫大な魔力量であろうか。娘の二倍どころではない。

色一つ変化するには平均的な魔法使い一人分の魔力が必要になるそうだ。


平均的な魔法使いの魔力値は150。

つまり今のプルルの魔力値は少なくとも750となる。


……異常だ、普通の人間が耐えられるような魔力ではない。

勇者殿ならまだしも、この子は普通の人間だ。

このままではプルルがいつ爆発してもおかしくはないだろう。


「早急になんとかしなくては……もう娘の二の舞はごめんじゃ」


わしはプルルを抱きかかえ魔導協会へと急いだ。

大切なものを二度と失わないために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。