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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
404/800

404食目 邪悪なる融合

俺達の理不尽な強さに怯え竦むフレイベクスは既に負け犬同然だ。

伝説の邪竜といっても桃先輩達と俺達に掛かれば

チート能力を無残に引っぺがされ挙句に、

容赦のない攻撃を受けてボロ雑巾のようにされてしまう。


きっとフレイベクスは今まで自分より強いヤツと戦ったことがないのだろう。

封印された時も色々と小細工されたからやられた、と思っていたに違いない。


そんなんじゃ甘いよ。


世の中には、おまえが想像できないような強者が腐るほどいる。

おまえが暴れ回っていた時代のことは知らないが、

今の時代には狂ったように強いヤツらがそこいら辺で暇を持て余しているだ。

そんな連中の足下にも及ばない俺達にビビっているようでは、

勝負する前から結果が見えている。


「すぐ楽にしてやる」


「エルティナ、それは悪役のセリフだ」


格好付けて言ったセリフだったが、

桃先輩にそれは悪役のセリフだとツッコまれた。

鳴きたい、ふきゅん。


「弱者をいたぶるつもりはない。すぐに決着をつける」


「……」


「おいぃ……なんでシグルドには言わないんですかねぇ?」


俺が遺憾の意を示すと同時にフレイベクスがドス黒い息を吹きかけてきた。

ダークブレスとかそういったものだろうか? なんか、とてもきちゃない。

なので、むしゃむしゃしちゃいましょうね~。


「フキュオォォォォォォォォォォォォォォォン!」


ずぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……げぷっ。


即座に闇の枝を出してダークブレスを全て食わせる。

彼はそれをとても美味しそうに吸い込んで全てをたいらげた。

自身の必殺技を無残にも破られたフレイベクスはいよいよもって鳴きそうだ。


このように「もうこいつだけでいいんじゃないのかな?」

と思われている闇の枝に対して俺はある決まりを設けていた。


一つ、闇の枝は防御技とする。

一つ、闇の枝は反則攻撃をやらかしてくる者に対する制裁とする。

一つ、闇の枝は残飯処理班とする。


という決まりを設けているのだ。

まぁ、フェアじゃないし何より俺の活躍が……げふんげふん。


「OH……前よりもクレイジーな行動をみせてくれるな、お嬢ちゃん」


「割と普通の行動だぞ」


「ふきゅおん」


ダークブレスがなくなったことで正面ががら空きになった邪竜に対して

黄金の竜が突撃を試みる。


「ダイクが乗っていない今、手加減はせぬ!」


まともにぶちかましを受けたフレイベクスが吹き飛び壁に激突する。

もんどりうって苦しむフレイベクスに向かって

シグルドは『暴虐の音玉』を放った。

その数、なんと五つ。


「マジか」


「生成に五……いや、三秒か。これは脅威だな」


爆裂する音の爆弾。

器用なことに着弾するタイミングを一個ずつずらしているので

フレイベクスの特殊防御スキルも意味をなさない。

調整したのは間違いなくヤツの桃先輩であるマイクだろう。


しかし、驚くべき個所はそこではなかったのだ。

シグルドが放った音玉が破裂と同時に火を放ったのである。

彼らが放ったのは正しく爆弾であった。


「HAHAHA! お嬢ちゃんのチェーンソーをみてピンときたね!

 初心者でも使える日常魔法であそこまでできるんだ、

 だったら俺達もできるんじゃないのかってね?

 ブラザーの特性は『固』俺は『散』。

 どうだい? ボマーには打って付けの能力だろ?

 まぁ、魔力が少ないから連続使用はきついけどな」


「おまえらはボンバー〇マンだったのか……」


「せめてボンバードラゴンといってくれYO」


なんということでしょう、

俺が満を持して公開した『ファイアーチェーンソー』の発想を

パクられてしまったではありませんか、ふぁっきゅん。


シグルドはこれで厄介な特殊攻撃をまた一つ覚えてしまったわけだ。

ええい、厄介な。今の内にケツの穴にハバネロを突き刺して暗殺しておくか?


そんなことを考えていると

所々が焦げて無残な姿を晒したフレイベクスが悲し気に鳴いた。

完全に戦意は失せているようだし、ここいら辺で勘弁してやるとしようか。


「シグルド、フレイベクスの心は完全に折れたようだ」


「……とどめは刺さぬのか?」


「お仕置きは十分だろう。お肉も貰ったし制裁は十分与えた」


「しかし……」


「桃使いは救う者だ。

 確かにヤツは多くの命を奪ってきただろう。

 だからといって命を奪ってしまえば俺達もフレイベクスと同じだぞ」


そう、食べる目的以外で命を奪ってはいけない。

その代りと言ってはなんだが、

悪事を働いてきた者に対しては心がへし折れるまでお仕置きを据えてやる。

これは桃使いとしての心構えであり同時に俺が自分に定めたルールでもある。


「うむ……そうだな。ここは汝に従おう」


「フレイベクス、これに懲りたら大人しく暮らすか、寝てるかするんだな」


そう告げて俺はフレイベクスの傷を癒してやった。

チユーズは治療できればどんな生物でもホイホイ治すヤツらだ。


『ひゃっは~』『おおものぶっけんだ』『なおしがいがあるぞ~』

『ぜんいんでかかれ』『うでのみせどころだ~』『ふっきゅん』『ふっきゅん』


あっという間に傷が塞がってゆくのを見て

目を丸くしフレイベクスは困惑した表情で俺達を見つめる。

だが、その目には恐れこそあったものの敵意はなかった。


「フレイベクス! そいつらの言葉に耳を貸すな!

 おまえが受けてきた『迫害』を忘れたのかっ!?」


「!!」


折角、上手く行きかけていたのにハーインの言葉を聞いて

フレイベクスの目に憎悪と怒り、

そして悲しみの黒い炎が再び燃え上がってきてしまった。


「おいぃ! これ以上、フレイベクスに罪を重ねさせるんじゃねぇ!

 地獄の閻魔様も許してくれなくなるぞ!?」


「黙れ! 貴様らにフレイベクスを真に救うことなどできぬわ!

 こいつが人間に何をされてきたのかも知らぬくせに!!」


「なんだと?」


「フレイベクス!『俺』に心を開け! おまえを救えるのは鬼たる俺達だ!

 カオス神の娘として生まれ人間達のために働いてきたおまえを

 邪竜にまで貶めた者……マイアスのことを忘れたわけではあるまい!

 こいつらはそのマイアスの加護を受けた者達だ!

 怒れ! 恨め! 憎め! 決して許すな! この偽りの世界を!」


カオス神の娘だって!? フレイベクスが!?

そのわりには全然強く……いや待てよ?

そういえば、こいつって肉体だけが独立して……あ、まさか!?


「フレイベクスを止めろ! 肉体を砕いても構わない!

 それかハーインでもいい! 二人を近付けさせるな!!」


桃先輩が俺よりも先に結論に辿り着いたようだ。

仮にもカオス神の娘であるフレイベクスがこんなに弱いわけがない。

弱いのは当然だ、何故なら『魂』が入っていないのだから。

いくら特殊能力を持っていても

中身のない抜け殻が熱い魂を持つ俺達に敵うわけがない。


では……魂が入った場合どうなるか?


「もう遅い、来たれカオス神の娘フレイベクスよ。

 おまえをわかってやれるのは俺だけだ」


そう言ったハーインの肉体が赤い光の粒に解れてゆく。

そしてくるくると螺旋を描きフレイベクスの周りを漂い始めた。

この光景には見覚えがある……忘れようはずもない!!


「し……真・身魂融合だというのかっ!?」


「バカな!? 鬼である者が真・身魂融合をおこなうなど!!」


だが現実に起こっているのだ。

それは決意と覚悟の証。

だが、普通は託す者が光の粒になるはず。

光の粒に姿を変えたのはハーインの方だ。


『始まるのだ、我ら鬼の時代が。

 弱き者は等しく餌となり果て、強者たる鬼に貪り食われる時代がな』


ハーインの光がフレイベクスに入り込んでゆく。

ビクンと身体を大きく震わせた後、その瞳が怪しく輝いた。


「時は来た! もうフレイベクスも俺を拒まぬ!

 叶えてやろう、おまえの望むものを! 鬼たる俺が、ハーインが!!

 カーンテヒルを潰し、父なるカオスを蘇らせ、

 再びおまえを女神に戻してやろう!」


ハーインという魂を得たフレイベクスの肉体がメキメキと膨張してゆく。

その勢いは止まらず、見る見るうちに二十メートルに届くであろう巨体へと

変貌を果たしてしまった。


「さぁ、マイアスの犬どもよ、滅びの時だ……滅せよ!!」


ごぅんっ!!


爆発音と共に吐き出される大量のダークブレス。

それはそびえ立つ崖をも腐らせる腐食の息であった。


「うおっ!? やべぇ!! 闇の枝っ!!」


「フキュオォォォォォォォォォォォォォォォン!!」


三度登場の闇の枝であったが、

その膨大な腐食の息を全てのみ込むことはできなかった。


ちょっと~、量が多過ぎんよ~!?


「くそっ! まだ子供の闇の枝じゃ全部食いきれねぇ!」


「あれで子供なのかYO!?」


「ツッコミは受け付けません、桃先輩! 被害は!?」


「大丈夫だ、GD隊には届いていない。

 彼らには、こちらに近付き過ぎないよう警告をしておく。

 いくらGDでも、あの腐食の息には耐えられまい」


「これがフレイベクスの真の力だというのか?」


新たに生まれた、そそり立つ壁とも言えるフレイベクス。

いや、ハーインと言った方がいいのだろうか。

どう考えてもハーインの方が主格に見える。


「エリス! 離れていろ! すぐに終わらせる!

 マジェクトも……まてまて! なんで木偶人形にやられているんだ!?

 ええい、エリス! そいつを回収して離れてくれ!

 ……まったく、手のかかる義弟だ!」


マジェクトぇ。


俺達がちょっと目を離している隙に、彼はチゲによってボコボコにされていた。

地面に突っ伏したマジェクトの頭から

三つほど縦に重なってたんこぶができている。

ミニフライパンを掲げて決めポーズを取っているチゲの勇士がまぶちぃ。


「……ふむ、チゲのゴーレムコアからおまえの桃力の反応が確認できるな。

 恐らくは長い間一緒にいたせいで、

 おまえから溢れ出た桃力が蓄えられていたのだろ」


「偶然ってあるんだなぁ」


「案外、自分に桃力があるのをわかっていたのかもしれないぞ?」


「ふきゅん、そうなのかな……チゲ! こっちに来るんだ!」


俺の声に気付いたチゲがパタパタと駆けてくる。

マジェクトはヘタレではあるが一応鬼なので大金星といえよう。

よくがんばったな、チゲ。


「やれやれ……もう少しだったんだがなぁ、取り逃しちまった」


「ふきゅん、仕方がないよ。オオクマさんは連戦続きだったんだしさ」


「問題は自分を曝け出したハーインをどうするかだな。

 ああなったら、あいつは強いぜ? ためらいをぶん投げちまってるからな」


どうするかなんて考えている猶予はない。

咆哮を上げたハーインがその巨体を揺らして突撃してきているのだから。


「ダイク、エルティナ、我に乗れ! 飛ぶぞ!!」


「あぁ、頼むぜ、相棒!」


「ちょ、まてよぉ!」


シグルドに乗り遅れた俺は間一髪のところで尻尾にしがみ付き難を逃れた。

ここからの景色が超怖い。


こうして見るととてつもない大きさだ。

さて、どうしたものか?


戦いはハーインの真・身魂融合によって形勢が逆転する事態になってしまった。

果たして俺達は勝利を掴むことができるのであろうか?

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