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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
400/800

400食目 変わる戦況

◆◆◆ ヤッシュ ◆◆◆


突然に姿を現した黒髪の少女、そして少し遅れて姿を現した銀髪の少女は

鬼を圧倒する力を私にまざまざと見せつけた。

確か二人はモモガーディアンズ所属のサクラン姫とクリューテル嬢だ。


そして、宙に滲み出るようにして現れた闇から一人の男が現れた。

その男は鬼の仲間であるようで、私と戦っていた女性型の鬼をエリスと呼んだ。

そしてヤツは彼女にマジェクトと呼ばれたのだ。


マジェクト……そしてエリス。私はこの二人の名に聞き覚えがあった。

我が娘の仇であるアラン、エリス、マジェクト。

その中の二人が今この場に居る。

予感ではあるが、この二人が娘の仇である可能性は高い。


エルティナとの約束で敵討ちはしないことになっているが、

どうしても感情的になってしまうのは仕方がないだろう。


だが、私は約束を守らなくてはならない……父親として。

辛いところだが、娘の悲しむ顔を見たくはないのである。


更には以前、フィリミシア城が鬼と化したグラシ伯爵に襲われた際、

突如として現れたもう一人の鬼の名でもある。


その際は勇者タカアキ様が撃退したそうだが、

今回彼は遠く離れたラングステンで国を護っている。

彼抜きで私達がこの二人の鬼を退治しなくてはならないのだ。

これは、なかなかに骨が折れることが予想できた。


その予想は見事に当たり、先ほどまでこちら側にあった優位性は、

マジェクトが現れたことによって徐々に逆転しつつあった。

こういう時だけ予想が当たるのだから腹立たしい。

当たるなら競馬の大穴を賭けている時にしてほしいものだ。


優位性が逆転した要因はマジェクトが攻撃魔法の使い手であり、

しかも現在はエリスの能力によって

無尽蔵に陰の力を回復できる状態になってしまっているからだ。

魔法使いタイプにとってこれほど真価を発揮できる状態はないだろう。

マジェクトもそれを当然知っており、

遠距離からの強力な魔法攻撃を徹底していたのである。


「へっへっへ……そらそら、どうした? かかってこいよ」


「うぬぬ、そなたこそ男の癖に、そのような離れた場所で魔法を撃つでないわ!」


「やり方がせこいですわ!」


「なんとでも言えよ。これが俺のやり方なのさ」


む……おかしい、報告書によれば

マジェクトは残忍でプライドが高いため挑発に弱いだろう、

と記載されていたはずだ。

にもかかわらず、彼は少女達の挑発と罵倒をさらりと受け流していた。


「マジェクト、貴方少し見ない間に大人になったわねぇ?」


「まぁ……な、俺を変えた存在がいることは確かさ」


これは少しばかり、まずいことになった。

現在は均衡が保たれているが長丁場になれば回復手段がある向こうに分がある。

ここは多少無理をしてでも突撃して魔法使いの方を潰す必要性が出てきた。


「私に……やれるか?」


覚悟を決めて踏み出そうとした時、空が眩い光に満たされたではないか。

何事かと思い思わずそちらに目を向けると巨大な人の姿が空にあった。


「あれは、エルティ……うおぉぉぉぉぉぉぉいっ!? なんて姿をしているんだ!!」


神々しさすらある光に包まれた女性の姿はまさかの全裸。

それが知らない女性であったのなら『ごちそうさま』と手を合わせていたことだろう。

しかし、その顔には見覚えがあったのだ。

いや、忘れようはずがない。私の娘なのだから。

少し見ない内に大きくなって……特におっぱい。


いやいや!? 違う違う! そうじゃない、そうじゃない!!


「こらっ、エルティナ! 嫁入り前の娘が人前で肌を見せるなどけしからん!

 ……あ、死んでしまったからいいのか? どうなんだろうか?

 いやいや! それでもいかん! いかんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


空に浮かぶ娘は私の言葉が聞こえたのか少しばかり困った顔を見せた。

久しぶりに見る娘の困った顔は可愛いなぁ。

だが、その足元にいるもう一人の娘が遠く離れているのに

ピンポイントで私に呆れ顔を向けてきた。


なんか……はい、すみません。


「あ、あれは……エルティナ!? そんな! あの娘は死んだはずでしょうに!」


「あぁ、間違いねぇよ。確かにアラン兄貴がやったはずさ。

 ん? 下のちんちくりんと繋がっている……どういうことだ?」


こいつらが娘を殺した犯人で間違いないようだ。

そう確信を持つと私の心の底に眠っていたドス黒い感情が鎌首を持ち上げた。

抑えようにも抑えきれない感情に私は自分でも驚いてしまった。

残念ではあるが、やはり私はエルティナの父親として、

こいつらを許すことができないようだ。

もう感情を抑えることができない。許せ、エルティナ!


私が右足に力を籠めて飛び出そうとした瞬間、眩い光が私を包み込んだ。

その光は私の昂った感情を鎮める効果があるようだ。

先ほどまでの殺意が嘘のように治まっていったではないか。


暫くして完全に自分を取り戻すと、

私の胸から黒い靄のような物が飛び出て空にいる娘の下に飛んでいってしまった。

娘は……エルティナは私に穏やかな笑顔を向けると、

その靄を胸に抱き寄せて消し去ってしまった。


「エルティナ……」


あの子は死んでも人々のために力を尽くしているのか。

次々と黒い靄が集まってゆき、輝くエルティナの胸の中に消えてゆく。

そして全ての黒い靄を吸い尽くしたエルティナは

微笑みながら光の粒に解けて消えていった。


「な、なんてこと……陰の力がまったく感じられないだなんて!

 ライスイーターも言うことを聞いてくれない。

 洗脳が解けてしまったわ! マジェクト!」


「くそっ……上手くいっていたんだがな。

 エリス姉貴はハーインさんの下に向かってくれ。ここは俺が引き受けるからさ」


「で、でも!」


「まぁ、なんとかするよ。俺も無理はするつもりは……ない!」


マジェクトは右腕からドス黒い闇を左手から赤黒い炎を出し、

その内、赤黒い炎を私と少女達に向けて放った。


「鬼仙術〈暗火牢苦アンカーロック〉だ! さぁ。早く行ってくれ姉貴!」


「マジェクト……! 気を付けてね!!」


彼が放った赤黒い炎は私達の手前に着弾した。

まさか狙いを外した? それとも牽制だったのだろうか?


だが、そう考えた瞬間に一際眩しい閃光が一瞬視界を潰す。

その隙を突いてエリスが闇の中に身を投じて姿を消してしまった。


「うぬ、逃げたか。たわいもない」


「この攻撃魔法はめくらましですの……きゃっ!?」


地面に撃ち込まれた赤黒い炎は消えず、

突如として燃え盛り私と少女達を覆い尽くしてしまった。

それはまるで炎の檻。

マジェクトは最初からこれで私達を封じるつもりだったのだろう。


「へへ……おまえ達なんかとまともにやり合うかよ。

 あのガキとやり合った後に改良した自信作だ。

 耐久力も継続時間も半端じゃないぜ? そこで焼け死んじまいな。

 それじゃあ、あばよ、桃使いもどきさん」


そう言ってマジェクトもドス黒い闇を作り出し、

その身を投じて姿を消してしまった。


「やられた! あいつら、ハーインに合流するつもりだ!!」


追いかけようにもこの炎の檻が邪魔で追いかけることができない。

これは間違いなく陰の力を混ぜ込んで作られた炎の檻。

普通の方法では破れないだろう。


「うぬぬ、炎では蝶がすぐに焼けてしまうのう」


「わたくしも炎は……チリチリのパーマは嫌ですわっ!」


私もガントレットで檻を殴ってみたがビクともしない。

かなり強力な陰の力を練り合わせて作られているようだ。


……まさか、あの無尽蔵に供給されていた陰の力の殆どを

これにつぎ込んだのか!?

だとしたら、ここを突破することは容易ではないぞ!!


「なんということだ……」


「これはまいったのう」


突破するにしたって時間が掛かり過ぎるだろう。

ここまで来てなんという失態だ。

こうして私達は成す術もなく

戦況を見守ることしかできなくなってしまったのであった。




◆◆◆ シグルド ◆◆◆


煌めく青い閃光。

光を黒く染める禍々しい闇。


その両者は因縁に決着を付けるべく全力で一撃一撃を放っていた。

互いの技量は均衡している。惜しむらくはダイクの右足。

それが欠けていることによっての均衡であったからだ。


「死ねぇっ! ダイクっ!!」


「随分とお喋りになったじゃねぇか! ハーイン!!」


攻撃をおこなっているのは両者だけではない。

彼らの足となり働いている我らもまた、互いを牽制し合っていたのだ。

フレイベクスの放つ闇のブレスはやっかいではあったが、

我の桃力とシグルドの青き剣で封じることができた。


現在、直面している懸念は均衡が破れないということだ。

スタミナに問題があるダイクに長期戦は望ましくはない。

だというのに互いの腕前はほぼ互角ときている。


『こりゃあ、まずいぜ、ブラザー』


『うむ、どうしたものか』


何か切っ掛けとなるような事があればいいのだが……。

だが、その切っ掛けはすぐさまやってきた。

……最悪の形で。


ドス黒い闇がハーインのすぐ傍に現れたかと思うと、

そこから二体の鬼がぬるりと姿を現したのだ。

一人は先ほどハーインの傍にいた女の鬼、エリスとかいう者だろう。

もう一人の小男は見たことがない。

だが、油断ならぬ陰の力を持っていることがわかった。


「どうしたのだ、エリス」


「ハーイン様、ごめんなさい。

 洗脳が解かれてしまって撤退せざるを得ませんでした」


「何? おまえの術が破られたのか? では先ほどの輝きは……」


戦闘に集中していたので正確に把握していないが、

先ほど凄まじい閃光が放たれていたのを確認していた。

マイクは心配いらないと言っていたので確認を後回しにしていたが、

それがエリスの術を破った要因になっていたようだ。


『HAHAHA! 同業者がやったみたいだぜ? ブラザー』


『同業者? それでは……』


高速で迫る巨大な桃力の塊。

それは確認するまでもなく我の宿敵……。


「エルティナか!」


そこには巨大な黄金の蛇が鎌首をもたげて宙に浮いていた。

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