40食目 夏の白エルフとヤドカリ君
季節は夏。
この世界にも、『夏休み』というものがある。
期間は七月から八月までの一ヶ月間だ。
その夏休みを利用して休日初日から、
俺はクラスの皆と海水浴に来ていたのである。
なんと、二泊三日のキャンプだ! ひゃっほい!!(大歓喜)
引率は担任のアルのおっさん先生だ。
頼りになるし適任だろうが……
我々はスティルヴァ先生の参加を望んでいた!!
あの、乳! 尻! あの少し濃い目の褐色の肌!!
きっと……眩しいくらいの、エロさになってただろう!!
でも他の用事がある、とやらで参加は見送ったそうだ。……残念!!
それでもクラスの生徒全員が参加という、前代未聞の人数になった。
ワー、センセイ、タイヘンソウダナー。
大抵一人くらい風邪引いて出れない、
とかありそうだが一人として欠けることなく参加となった。
……健康で何よりだ。
「海だ~!」
海に着いたリンダがはしゃぎだした。
それに釣られて、クラスメイト達もはしゃぎ始める。
ラングステン王国王都フィリミシアから東に行くこと三日間の道程、
アクアルネ海岸が俺達を待っていた。
テレポーターで一瞬なんですけどね!
お代はエドワードの祖父である王様がだしてくれたのだ。
持つべきは友である(ゲス顔)。
俺の眼前には穢れなき青い海が広がっていた。
とてつもなく綺麗である。
綺麗な砂浜にはゴミの欠片ひとつない。
小さなカニが横歩きでちょこちょこ動き回り、
かもめが「みー」と鳴きながら、青い空を気持ち良さげに飛び回っている。
これが、本来あるべき姿なのだろう。
俺の知っている海は酷いものだった。
まぁ……多くは語らない。
この世界と比べるのも酷な話である。
地球はあまりにも人間の数が多過ぎた。
あまりにも文明が発達し過ぎたのだ。
昔は地球も、カーンテヒルのように美しい海が広がっていたのだろう。
地球の人々は利便さと共に、失ってはならないものを失い続けているのだ。
それを理解して、俺は悲しさとほんの僅かな懐かしさを思い出していた。
「さっそく泳ごうぜ! もう我慢できねぇよ!」
既に海パン一丁になってるライオット。
どうやら、服の下に着ていたようである。
気が早いな君は……少しは落ち着きたまへ。
「こら~! まずは準備体操からだ!
着替えて準備体操してから海に入るんだぞ!」
アルのおっさん先生も大変だな……。
海を目の前にした子供達は最早手に負えなくなるぞ。
「ひゃっほー!」
いきなり、海に飛び込んだのは……やっぱりライオットだった。
アルのおっさん先生は泣いていい。
他の生徒は、きちんと準備体操してから海にはいった。
えらい、えらい。
俺も準備体操をしておこう。
おいっちにぃ、さんしぃ……ぬふぅ。
準備体操で体力が尽きたのは内緒な?(約束)
「エルちゃん一緒に海であそぼっ!」
リンダが俺を誘いにきた。
彼女はピンクの……スクール水着!? そんな物があるのか……。
この世界は実に衣服が充実している。
水着なども非常に多種多様なのだ。
ちょっとお高いのは、こちらでも同様である。
「えへへ……似合ってる?」
くるりと回って、リンダは照れくさそうに笑った。
とてもチャーミングな笑顔である。
「おぉ……似合ってるぞぉ」
彼女の幼さが強調され、見事なお子様ぶりが発揮されている。
すごく……幼児です……。
「エル……まだ着替えてないの?」
うおっ!? まぶし!?
褐色の肌に白いワンピースの水着!
パーフェクトだ! ヒュリティア君!! きみは良くわかっている!!
七歳にしてこの色気だ!
数年後には、どれほどの破壊力になっているか見当もつかない!
俺がヒュリティアの可憐な姿に悶えていると、
視界の隅でのそのそと動いている物体の姿を確認した。
「なんだ……あれ?」
「ん? あ~、あれはシーハウスだ。
大人しい魔物だから放っといてもいいぞ~。
ただし、非常に手強いから間違っても攻撃するなよ?」
アルのおっさん先生がシーハウスと教えてくれた生物は、
ぶっちゃけでっかいヤドカリだった。
俺が乗っても平気なくらいの……平気?
「……こちらホワイトリーダー! これより、敵の砦を制圧する!」
「ホワイトワン! 了解した! 援護に向かう!」
「ホワイトツー! 陽動は任せろ!」
俺の号令を理解したダナンとリックがネタに合わせ、
リックが援護という名の『抱っこ』を、ダナンが陽動という名の
『通せんぼ』をした。
そして、抱き抱えられた俺はヤドカリの貝殻に降ろしてもらい、
頂上を目指して登り……遂には到達に至ったのだった!
「敵の砦を制圧した! 我々の勝利だ!」
俺は勝利宣言をした!
「ミッションコンプリート!」
続いてダナンが、作戦成功を宣言し……。
「ブラボー! おぉ……ブラボー!!」
リックが歓喜の声を上げた!!
そして、ダナンとリックが抱き合って喜んだ。
俺は殻の上で腕を組み、満足そうに頷いている。
ヤドカリ君はマイペースに移動を開始していた。
「何をやってるんだか……」
そんな俺達を、銀ドリル様が冷めた目で見つめていた。
では、そろそろ俺も着替えるか。
砂浜に立てたテントの中に入り込み着替えを開始する。
ごそごそ……よし、着替えは完了だ。
さっそくお披露目といこうか。
「どやぁ……」
「エルちゃん、それって……!」
「……どう見ても」
ふっきゅんきゅんきゅん……完璧だろ?
「ダイバースーツだよ!?」
「……明らかに食べ物を狙っているわね」
そう、俺が着たのはダイバースーツ!
俺の目的は泳ぐことじゃない! 獲物を狩ることなのだ!
「出陣じゃ~! 海鮮物を乱獲して差し上げろっ!!」
俺はバタバタと海に向かって突撃をおこなう。
その後に、ヒュリティアとリンダが続く。
「ふきゅん!」
海に入るとヒンヤリとした海水は
夏の日に火照った体を冷やしてくれたはずだった。
……ダイバースーツのお陰でちっとも冷たくないよ!
体も火照ったままだよ! ふぁっきん!
まぁいい、恒例のネタでもやっておくか。
「ふぃ~……いい湯だぁ」
「お風呂じゃないよっ?」
よかった、リンダがちゃんとツッコんでくれた。
取り敢えずは満足、満足……。
「よし……さっそく調査開始だぁ!」
ちゃぷん、と海に潜る。
……ゴーグル着けるの忘れてた。
取りに戻るのが面倒なので、このままでいいかな。
ふきゅん! 顔だけがちべたい!
なんだか不思議な気分だぁ……。
う~ん、凄い綺麗だから見渡しがいいな!
キョロキョロと辺りを見渡すとお目当ての物がそこにあった。
「第一、村人発見!」
最初に見つけたのは、二枚貝だった。
あさりかな? いや……あれはホッキ貝か!?
いずれにしても大物だ。
急いで保護して差し上げなくては!(使命感)
だがその前に……。
「ぷはぁん!」
息が続かねぇ! 肺活量が低過ぎる! ダメじゃねぇか俺!
これじゃあ、ホッキ貝を獲りに行けるか怪しいぞ……。
ヤツは結構、深い所に居た。
ぐぬぬ……どうやって獲ってくれようか?
……そうだ! 以前、魔法障壁を球状にして展開したことがあったはずだ。
それならば酸素を確保しつつ、海に潜ることができるのではないのだろうか?
まったく以って俺は賢いんだぜぇ……(自画自賛)。
「れっつ、ちゃれんじ!!」
俺は魔法障壁を展開した!
……残念! まったく球状にならない!!
「あるぅえ~?」
何度も試したのだが、俺の前には盾みたいな魔法障壁が出現するのみである。
どうして、球状に展開してくれないんだろうか?
「むむむ……あ!」
そうだった! あの時は桃先輩と『身魂融合』してたんだった!
桃先輩抜きだと、俺は魔法障壁も満足に操れないのか。
くやしいのう、くやしいのう。
だが……背に腹は変えられん! おいでませ、桃先輩!!
俺の手に光が集まり……未熟な桃、『桃先輩』が降臨した。
「久しいな、後輩。今日は何用だ?」
「お久しぶりです! 先輩!!」
俺は桃先輩に事情を説明した。
案の定、彼は呆れてしまったが理解はしてくれた。
「なるほどな……動機はしょうもないが、
魔法障壁の形を自在に操れるようにすることにかんしては賛成だ。
それでは身魂融合だ。」
「応! 身魂融合!!」
俺は桃先輩と融合した。
相変わらずその果実は青春の味がした。
すっぱ~い!
『ソウル・フュージョン・リンクシステム起動。
シンクロ率六十二パーセント、システムオールグリーン。
では、さっそく練習といくか。
魔法障壁の大切なポイントはイメージだ。
そうだな……まずは泡のイメージからおこなおう』
俺は桃先輩に言われたとおり泡をイメージする。
そして、魔法障壁が球状に展開し……すぐに割れてしまった。
『こらこら、一瞬で割ってどうする?』
「泡をイメージしたら割れた」
泡って、そんなものじゃないか……よって俺は悪くない。
『ふむ……まぁ、イメージはできるようだな。
では、イメージを変えてみようか。
次は風船だ、泡より割れにくく泡より大きいぞ』
「まかせろ~! そいやっ!!」
俺は風船をイメージし……膨らませ過ぎて破裂した昔の思い出を
フラッシュバックさせてしまった。
パァァァァァァァァンッ! と魔法障壁が爆ぜた。
『何故お前は、直ぐ爆ぜるのだ?』
「解せぬ……」
遂に魔法障壁すら爆ぜるようになってしまった。
そのため、俺は深い悲しみに包まれてしまう。しくしく。
その後、四苦八苦しながらもなんとか形にできるようになった。
『ふむ……なんとか様になったな』
「あざーっす! 桃先輩のお陰です!」
俺達は魔法障壁の効果を試すべく、海へと向かった。
海底なう。
俺は海の底を歩きながら素晴らしい景色を楽しんでいた。
もちろん、海の幸も頂戴している。
美味しそう!
球状に生成した魔法障壁は、十分な酸素を確保できるようになった。
だいたい、十分から五分くらいだ。
酸素がなくなってくると小さく萎んでくるので、
なくならない内に海中から上がるようにしている。
「移動が……しにくいのが……難点だなぁ」
移動はもっぱら徒歩による移動のみである。
魔法障壁は俺を包み込むように展開しているので、
泳ごうとしても空を切るのみであった。
でも、魔法障壁が水の抵抗を受けるので、
水の中に入って歩くのと同じ感覚になる。
おおぅ、ゆっくり、ゆっくり。
「いずれは、お魚もゲットしてやるぜぇ」
『その為には訓練あるのみだな……近道はないと思え』
予想以上に上達した俺の魔法障壁に活路を見出した先輩は、
今後の訓練プランに魔法障壁を追加すると言っていた。
『精霊達に嫌われている以上、お前は他の方法で強くならねばな。
魔法障壁も使いようだ。
強固な盾にもなれば……このように特殊な移動手段にもなる』
桃先輩は感心した様子で話しを続ける。
『正直、魔法障壁をこのように扱う者はお前が初めてだ。
後輩よ、どうやらお前は考えが柔軟であるみたいだな。
知恵を絞り、さまざまな試行錯誤を繰り返すのだ。
それは、必ずやお前の力になるだろう』
「わかりました! 魔法障壁の無限の可能性をご覧に入れてみせましゅ!!」
……気合を入れ過ぎて嚙んだ。
お願い、見逃して!!(白目)
たっぷりと海で戯れた俺達は、ただいま昼食の準備中だ。
そして、料理担当は当然のように俺である。
「たまには、他の方の手料理が食べたいんですがねぇ……?」
「これ、ばっかりはなぁ……
食いしん坊があんなに、美味い料理を作っちまったんだから」
皆が口を揃えて「仕方ないね!」と口を揃えて言った。
しかも、全員満面の笑みである。ちくせう。
まぁ……是非もなしだ。
さっそく調理に取り掛かろう。
海に来て作る物……それは、もちろん『ソース焼きそば』だ!
男子達に設置させた焼き台に据えられた大きな鉄板が、
十分熱せられたことを確認し、ブッチョラビの脂身を丹念に塗っていく。
次は野菜だ。
キャベツも男子共に丁度良い大きさに切らせて……
おいぃ! デカ過ぎるだろ!?
しかもこれ……手でただ、千切ってあるだけじゃねぇか!!
誰だぁ!? 手を抜いたヤツはぁ!!
ビキビキ……!
ええい! 知らんっ!! 食ったら同じだ! 投入!
ジャァァァァァァッ……と良い音がする。
俺はこの音が大好きなのだ。
続いて人参と玉ねぎ……ピーマンも入れたかったが、
嫌いなヤツが多いので泣く泣く割愛せざるを得なかった。
ピーマンに謝れっ!(げきおこ)
空いているスペースで、毎度お馴染みのブッチョラビのお肉を炒める。
いろんな部位を使用して、さまざまな食感を味わってもらおう。
バラ、ロース、肩ロース、モモ、ヒレ、ウデ、なんでもござれだ。
軟骨や耳軟骨、喉軟骨は炒めて塩コショウを振り……
ガンちゃんのおつまみに。
コリコリして美味しく、お酒が止まらなくなるはずである。
合わせるのであればやはり『ビール』であろう。
ここで蒸し麺を投入だ。
野菜と合わせ、焼き上がりかけた肉も合流させる。
いよいよ仕上げのウスターソースだ。
「全員! 気を付けぇいあぁぁぁっ! これより……ソースを投入するっ!」
がたっ! ざわ……ざわ……。
作っている料理を眺めていた皆にも緊張が走る!
俺はウスターソースを豪快に投入した!
じゅおぉぉぉぉぉっ! と最高に良い音がし……
続いて香ばしいソースの香りが立ち上る。
「わあっ!!」と歓喜の声が砂浜に響き渡った。
やはり、この瞬間が最高だなっ!
俺は手早く混ぜ合わせる。
いい感じの焼きそばが出来上がった。
だが、これで完成と思うなかれ……肝心な物がまだあるのだ。
俺は『フリースペース』から秘蔵の逸品を取り出す。
それは……辛子マヨネーズだ!
出来上がった焼きそばの上に、ビームのごとくかけ完成!
……だと、いつから錯覚していた?
俺は密かに目玉焼きも作っていたのだぁ!(暗黒微笑)
半熟の黄身にしてるから焼きそばの上で崩してもいいし、
そのまま食べるのもいい。
きみの自由だ。
「ふきゅん! できたぞぉ! 皆群がれ~!」
「わぁい!」
クラスの皆が焼きそばに群がる。
瞬く間に焼きそばは消えていった。
犯人はライオットだろう(確信)。
って……俺の分がねぇぇぇぇぇぇぇっ!?
これはまず、第一弾だ! しくしく……。
次は俺が取ってきた海の幸を鉄板に載せ焼いてゆく。
ホタテにあさり、アワビもあるぞ! ひゃほう!
ホッキ貝はボイルだ! んん~、テンション上がってきた!
調味料に醤油もあるから、お造りも作っちゃう!
ワサビがないのが残念だが……鮮度が良いのでよしとしよう。
ワサビたっかいのよ!? 高級品だよ! 残念!
おっと! ホタテの口が開いた!
バターを入れて……溶けてきたら醤油だ。
はあぁぁぁん! バター醤油は最高の匂いだな……(確信)。
あさりはそのままでいい。
ほれ、くえくえ! ちゃんと、貝のお汁も飲むんだぞ!
ホッキ貝も茹で上がった!
何も付けないでいける! 甘いぞ~!
「エル~! 魚捕まえてきたっ!!」
「でかした! ライ……って、どうやって捕まえたんだソレ!?」
ライオットが捕まえて来たのは、なんとカツオだった。
彼の腕の中で、ビチビチと暴れている。
「ちょっと持ってろ」
俺はカツオをシメて血抜きをする。
こうしないと生臭くなるからだ。
血抜きが終わったら、さっそく捌いてゆく。
三枚に下ろしてお作りに。
付けるタレは、マヨネーズを醤油で溶いた物。
こうすると不思議なことに生臭さが抑えられるのだ。
残りは軽く炙って一口大に切って……塩を振って食べてもらう。
カツオのたたきみたいな感じだ。
生憎と藁を持っていないので本格的な物は作れない。
「豪華な昼食だぁ……」(まだ食べてない)
気が付くと少し離れた場所に、先ほどのヤドカリ君が佇んでいた。
……こっちを見ている。
彼もご飯を食べたいのだろうか……?
よかろう! きみに昼食を奢ってやろう!
俺は『フリースペース』から取り出した大きな葉っぱに、
作った料理を適当に載せヤドカリ君に進呈した。
「これはヤドカリ君のご飯だぁ……さぁ、お食べ」
それが自分の物だと理解したヤドカリ君は、
美味しそうに料理を食べ始めた。
「どやぁ……」
料理をたいらげたヤドカリ君は満足して去っていった。
途中振り返って何度もハサミを振ってくれた。
よかった、よかった。
そして俺は昼飯を食いそびれた。
……俺は泣いてもいい。
ふきゅん! 少しは残しておいてくれよう!(遺憾の意)