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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
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392食目 繋ぐ者

◆◆◆ ライオット ◆◆◆


光に包まれる俺とエルティナ。

その光はとても温かく、そして……どこか懐かしい感じがする。

周りの景色が確認できないほど眩しいのに、

俺は目の前にいるエルティナを見ることができた。


やはり彼女の姿は八歳の姿。

俺の手をしっかりと握って微笑みかけている。

その笑みに釣られて俺も微笑み返す。


まるで、何度も何度も繰り返された約束ごとのように。


やがて俺達の身体は光の粒に崩れてゆき、

螺旋のように混じりあっていった。

古き記憶を辿り蘇ろうとしているのだ。


そして、俺達はひとつになった。





「おぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


咆哮。

それは歓喜の声か? それとも溢れんばかりの力に戸惑う悲鳴か?


否、これは産声だ。


体から溢れ出す莫大な桃力。

それに混じるように絡み付くオーラと魔力。

止らない、力が溢れて、想いが溢れて止まらない。

まるで留まることを忘れてしまったかのように……止まらない。


『真・獣信合体エルオット爆誕!』


心の中……いや、魂の中でエルティナを感じ取ることができる。

俺達は文字通り一心同体となったんだ。


……というか、エルオットはないだろう、エルオットは。

いや、それよりもだ。


『エルっ! 俺がメインでいいのか!?』


どうやら合体後の姿は俺を基本としているようで、

肉体の方も自分の意思で動かせていた。

少しばかり身長も伸びているのか視界が高く感じる。

髪の毛も長くなっているようだ。

肉体が成長している証拠だと判断した。


『あぁ、構わないさ! 桃力の調節は俺がおこなう!

 ガツンと行ってくれ!!』


エルティナの力強い言葉に後押しされた俺は、

鬼穴前にいる三角鬼を見据えて答えた。


『あぁ、任せてくれ! 俺の拳……今度こそ届けて見せる!』


俺は軽く拳を握る。

たったそれだけの行為にもかかわらず風が生まれ皆の髪を揺らした。


「ラ、ライオット……なの?」


「プルル、ごめんな。すぐに終わらせるから」


横たわる彼女に微笑みかけ軽く床を蹴って駆け出しす。

俺の視界に映る世界がスローモーションのように遅く動いた。

とても不思議な感覚だ。


『ライ、右四十五度。左三十度』


『わかってる』


頭が四角の鬼と丸い鬼が襲い掛かってきた。

俺が意識を失っている間に鬼が二体も出現してしまったようだ。

強大な力を持つ鬼が二体もいる……だが不思議と恐怖心は沸いてこなかった。


「童、こけおどしのつもりかっ!」


「喰らってやろうぞっ!」


二体の鬼の動きには無駄がない。

並みの腕前しか持たない戦士であれば、

彼らに一撃の下で仕留められてしまうだろう。


だが今の俺にとって……こいつらは遅い、あまりにも遅過ぎる。


ひゅおっ……。


俺は手刀でもって鬼達の首を刎ねた。

空気を切り裂く音と頸が斬られる音が重なる。


『構わず鬼穴に』


『あぁ、任せてくれ』


エルティナの知識が俺に流れてきた。

鬼穴が開いている状態ではまともに鬼を退治することはできない。

だから、鬼達が鬼穴に吸い込まれる前に、俺は鬼穴に向かって踏み込んだ。

その鬼穴の前には三角鬼の姿。


「小僧ォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


ヤツも踏み込んできた。

どうやら鬼穴を護るつもりはないらしい。

いや、すぐさま頸を刎ねられた鬼が復活して出てくることを

知った上での踏み込みか。


ヤツの踏み込みは床を砕き爆発的な加速を産む。

だが、それは今の俺も同じこと。


俺は力を籠めて踏み込む。

踏み込みに耐えられずベキベキと悲鳴を上げる大理石の床。


「三角鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


右拳にあらん限りの力を籠めて繰り出す。


『俺の桃力っ! ライオットに応えろっ!』


エルティナの桃力が俺の拳に集まりピンク色に輝く拳と化す。

そして俺達の拳は激突した。


「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


衝突しあう陰と陽の力。

その衝撃に耐えられず崩壊してゆく大理石の床。

クラスの皆も悲鳴を上げて床に伏せ、吹き飛ばされないように踏ん張っていた。


……あ、シーマが壁にめり込んでる。


『シーマのことは気にするな!』


『お、おう』


エルティナの即答に俺はそう答えるしかなかった。

シーマには後で謝っておこう。


「その力……貴様、いったい何をした!?」


「答える必要はない! 知りたければ……拳で知れ!」


「是非もなし!」


三角鬼は恐るべき速度と威力を秘めた拳を高速で繰り出してきた。

空を切り裂き大地を抉るであろう必殺の連続攻撃を

俺はそれ以上の速度と威力を秘めた拳で以って応える。


最早、周囲は元の原型を留めてはいなかった。

俺達の拳圧に耐えることができなかったのである。


『何をしているのかまったく見えんが、とにかくがんばれ!』


『あぁ、任せておけ!』


エルティナの応援を受け俺は更に拳の速度を上げる。

それに伴いピンク色の光が俺の身体を包み込むように広がってゆく。


『桃仙術〈武闘戦陣〉。

 これはライオットの身体を反動から保護する効果がある。

 音速の拳を放っても衝撃で肉がパーン!

 と弾けることはないから遠慮なく放て』


『あぁ! お言葉に甘えて……やってやるぜ!』


俺の肉体はまだまだ成長過程の中にある。

それを知っているエルティナは俺の身体の負担を減らすべく

サポートに徹してくれていた。


「つあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「う、ぬ……ふはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


速度を上げた拳。

だが、それに喰らい付いてくる三角鬼。

俺は感じ取った。

戦いの中で三角鬼が成長していることを。


ヤツも感じ取っているのだろう、俺もまた戦いの中で成長していることを。


「嬉しいぞ! 貴様のような漢にもっと早く出会いたかった!」


「俺もだよ。三角鬼」


「だが、我らは所詮相容れぬ! 一瞬の邂逅の後に生き残るのはただ一人!」


「ならば、その答えはこの拳で示すっ!!」


嵐のような拳の応酬が止み、一瞬の静寂の後に最後の激突が開始された。


三角鬼が渾身の力でもって踏み込む。

まるで、これが今生において最後の一撃であることを示すかのように。

まさに捨て身……この一撃に全てを賭ける誇り高き戦士の覚悟。


俺は彼と拳を交えて確信に至ったことがある。

三角鬼は敵であるのだが、

同時に戦士として俺は彼に尊敬の念を抱いていたことだ。


その強大な力、己の肉体のみを信じて戦う姿勢。

戦っている時だけは彼に邪心がないことが拳を通じてわかったのだ。

それ故に悲しく感じた。


戦いだけが三角鬼の心を癒す方法だったと気付いたからだ。


『ライオット!』


『あぁ、三角鬼の想いに……応える!!』


迫り来る三角鬼の拳。

当たれば死は免れないだろう一撃必殺の拳が眼前に迫った。

それを圧倒的な集中力で見据える。

極限まで高まった俺の集中力は、

彼の拳ですらゆっくりと捉えることができたのだ。


風を切り裂く音が耳に残る。

頬を切り裂かれ鮮血が宙に舞う。

その俺の血が床に落ちる前に行動に移る。

このチャンスを逃せば、俺はきっと後悔するから。


「はあっ!!」


俺は敬意と尊敬を籠めて、三角鬼に渾身の拳を叩き込んだ。


一発。


「ぐおっ!」


二発。


「がっ!」


三発。


「ぐふっ!!」


三角鬼が宙に浮く。

その時、俺の頭にはエルティナ以外の声が響いていた。




『称えよ、愛せよ、汝が敵を。

 救え、哀れなる迷い子を。

 汝に古くから伝承されてきた奥儀を伝えん』


それは男の声。

とても頼り甲斐があって、それでいて悲し気な声。


桃先輩ではない。

どちらかというと、雰囲気はエルティナに似ている。

声の質はまったく違うが、話し方がとても似ていたのだ。


そして流れ込んでくる膨大な知識。

俺の頭が悲鳴を上げる。

だが、それをなんとか堪えると信じられないほどの技の数々を覚えていた。

いずれも、かなり荒々しい技だが。


『俺の拳はきみに託した。

 エルティナではもう満足には扱えないからな。

 要はきみに丸投げしたってことだ。

 後は桃師匠に指導してもらうといい。

 じゃ、そういうことで』


『まてまて! 奥儀の伝承なのに軽すぎるだろう!?

 というかあんたは誰だっ!? なんでエルのことを知っている!?』


一方的に話して去ろうとする声の主をなんとか引き留めようとする。


『知ってどうする? もの好きなヤツだな……まぁいいか。

 俺の名は木花桃吉郎。かつて桃太郎と呼ばれた記憶の残り香。

 まぁ、エルティナの先輩の亡霊といったところだ。

 それじゃあな、繋ぐ者……ライオット』


そう言い残し木花桃吉郎の声は聞こえなくなった。




宙には浮いたままの三角鬼の姿。

俺と木花桃吉郎と名乗った桃使いの亡霊との会話は

一瞬のことだったことを示している。


俺は即座に合掌の構えを取った。

継承されしは桃使いの奥儀。

脈々と受け継がれし拳に宿るのは数多くの漢達との戦いの記憶。

そして、愛と悲しみ。


称えよ戦士を、愛せよ汝が敵を、

救え、己に牙を剥く全ての者を……その拳で。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 集え、桃力! 導け、俺の拳! 三角鬼! きぼうを抱いて逝けっ!!

 桃戦術、奥儀!〈輪廻転生拳〉!!」


右拳に集まる莫大な桃力あいのちからを凝縮し叩き込む。

極めて単純、極めて強力無比、俺達の想いが最も届くであろう奥儀。


木花桃吉郎は……いや、過去の桃使い達はずっとこの技で

多くの鬼達を戒めの鎖から解き放ってきたはずだ。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


宙高く舞う三角鬼の胸には俺の拳の後がくっきりと残っていた。

そこから広がるようにして桃力が全身を包み込んでゆく。


「暖かい、これはきぼう……?

 わ、我は……そうか……敗れたのだな。小僧……名は?」


「ライオット」


「そうか……おまえに出会えて……よかった……」


三角鬼は満足げに頷き、その身を桃色の光と変えて天に昇ってゆく。

命を賭けた戦いのみに救いを求め、

最後まで己の拳にこだわった漢の最期だった。


「ば、バカなっ!? 鬼穴が開いているんじゃぞ!!」


「おぉ……三角鬼、我が友よ。

 何故、先に輪廻転生いってしまったんじゃ……。

 童、おぬしは許さん、許さんぞっ!

 わしらの憎悪をその身に受けるがいい!!」


鬼穴から出戻った鬼が仲間を失った恨みをぶつけてきた。

仲間を失う痛みを知っているのに何故……。

そう思った瞬間、俺の感情が爆発してしまった。


「なんで……おまえ達は痛みを知っているのに、悲しみを知っているのに、

 それを増やそうとするんだっ!!」


俺の叫びは咆哮となり二体の鬼を威圧する。

それはビリビリと大気を震撼させ皆にも伝わったようで

彼らの竦みあがる様子がわかった。


『ライ、もちつけ』


『落ち着け……な。わりぃ、感情が溢れちまった』


『仕方がないさ。ほれ、まだやるべきことが残ってるぞ』


『あぁ、任せてくれ』


鬼穴から出たばかりの二体は竦みあがり棒立ちになっていた。

ならば、鬼穴ごと浄化しよう。

今の俺にはその力が、エルティナの支えがある。


『エルっ!』


『応! 回れ桃力! 愛と勇気と努力の風を受けて!』


俺の想いに応えエルティナが桃力を増幅させてゆく。

体内で加速する桃力、それに俺は気を混ぜ込む。

驚くことに彼女の桃力はそれを喰らうことなく素直に受け入れていった。


「いける……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


両手が桃力の輝きに包まれ薄暗い部屋を照らす。

それを腰だめに構えて融合させる。

後は……放つのみ!!


「迷うことなく辿り着けるよう……いけっ!!〈獅子咆哮波〉!!」


「………っ!?」


放たれたのはピンク色に輝く巨大な獅子。

その獅子は鬼と鬼穴を飲み込んで天高く走り去っていった。

悲鳴さえも許されず二体の鬼は輝く獅子によって輪廻の輪に送られたのだ。

鬼穴も獅子に粉砕されて跡形もない。


これで鬼穴も破壊できた。

後は……。


「ぐぅ……あぁぁぁぁぁぁっ!!」


「リンダっ!!」


「リンダぁ! そいつを離せぇ!」


フォクベルトとガンズロックが

鬼の角を手にして暴れているリンダを取り押さえようと必死になっているが、

彼女の圧倒的な力に阻まれ、その体に多くの傷を作るに留まっていた。


『エル』


『あぁ……でも、ありゃあ一筋縄ではいかねぇぞ』


『それでも、やるんだろ?』


『もちのロンだぜ』


俺は足に力を籠めて踏み込んだ。

目指すはリンダと、その手に持つ黄金の角。

彼女を正気に戻して早くこんな戦争を止めなければ。


俺とエルティナは揺るぎない勇気を携えて、

狂戦士と化したリンダに向かっていった。

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