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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
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391食目 古き誓いの言葉

◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


この世とあの世の狭間にて仮死状態のライオットを連れ戻した俺は

無事に現実世界に帰還し目を覚ますことができた。

目の前には俺を抱きしめて護ってくれているブランナの顔がある。


「ふきゅん」


「あぁっ、エル様! 目が覚めたのですねっ!

 ライオットが……ライオットが!!」


ブランナが目に涙を溜めてそう訴えてきたが、

俺は事情を知っているため冷静に「ふきゅん(大丈夫だ)」と返事をしておいた。

彼女に意味が伝わったかどうかは不明であるが。


皆の愛と勇気と努力の力により、

現在進行形で俺の桃力はもりもりと回復している。


……あれ? 回復していない。どういうことですかねぇ?


ライオットが死んだことによって

深い悲しみに包まれてしまっているのだろうか?

これは事を急がなくてはなるまい。


俺は魂の中から語りかけてきた初代から、

桃力の特性の謎の一部を教えてもらった。


桃力の特性とは魂の欲求や望むものが表面に現れたものであり、

それ故に一人ひとり個性的な特性を持つに至るそうだ。


俺の場合は魂に『全てを喰らう者』を宿しているため、

その欲望がもろに桃力に影響し『食』という

わけのわからない特性を獲得するに至ったわけだ。


この特性『食』は意識をしないで使うと、

食らったものを全て桃力に取られてしまうのだが、

きちんと制御した場合、

食ったものを本体である俺に補給できることが判明した。


流石、初代様はなんでも知っているぜ。

彼女は全てカーンテヒル様に教えてもらったと謙遜しているが、

こっそりと色々調べてくれていることは、まるっとお見通しなのである。


その知識を獲得したが故に、今まで意識しないで喰らってきた陽の感情を、

今度は意識して食べれるようになった。

基本的に陽の感情は甘い味が多いようだ。


たま~に、酸っぱいものが混じっている時があるが、

それはきっと青春の味なのだろう。

よって、気にしないこととする。


今気が付いたのだが……これって食べ放題のお店にて

無差別にムシャムシャしまくっている状態、

と言ってもいいのではないだろうか? しかもただで。


いいぞぉ、これ! 堪んねぇなぁ!!(邪悪顔)


とは言え……いつまでも感動に浸っているわけにはいかない。

俺が桃力を蓄えて、この世とあの世の狭間に滞在している間に

色々と戦況に変化が起こっていたようで、

フォクベルトとガンズロック達にマフティ達までもが合流して

鬼穴を破壊しようと奮闘している。


……というか、リンダ何やってんの? それヤヴァくね?


猛り狂うリンダはいつにも増して『お淑やかさ』をぶん投げていた。

そんな彼女の手にしているものを見て、

俺は背筋が凍るような感覚に陥る。

というか、アレは見たことがある気がするのだが……はて、なんだったかなぁ?


『早く、リンダから鬼の角を引き剥がすんだ!

 腕ごと切り落としても構わない! 早くっ!!』


あぁ、そうそう、鬼の角だ。


桃先輩がいつにもなく矢継ぎ早に指示を出している。

相当に切羽詰まっているのだろう。

なんたって鬼の角だもんなぁ。


………ふぁっ!? 鬼の角っ!?


おいぃぃぃぃぃぃぃっ!? なんでそなもんをリンダが持ってるわけ!?

それ反則でしょうに! これはきっと鬼の仕業に違いない!

汚い、鬼汚い。流石、鬼……汚い。


これはいかん。

このままではリンダが悪い子になってしまう。

早急にライオットを起こして秘儀を行使しなくては!


そのライオットはどこだ……あえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?


マフティとあつぅぅぅぅぅぅぅぅい、キッスの真っ最中!?

ゴードンさん、事件ですよ!? 貴方の幼馴染が浮気してるよっ!?


……あ、よくよく見たら違った。必死に人工呼吸してるや。

でもな……それは意味がないんだ。


彼女は人工呼吸の使い方を少し勘違いをしているようだ。

とても面白いのでそっと見守ってあげよう。

どうせ、そろそろライオットのヤツは目を覚ますし。


俺は無駄な努力を重ねているマフティに生暖かくも優しい視線を送る。

と……その時! ライオットと唇を重ねる彼女に異変が起こった!


「んっ!? んん~~~~~!! んあっ!」


ビクンビクンと身体を痙攣させた後、

マフティは慌ててライオットから離れた。

彼女の口とライオットの口が繋がっていた証拠であるように

糸を引く唾液が二人を結び付けている。


まさかライオット……おまえ。


「ば、バカ野郎! いきなり舌を絡めてくるヤツがあるかっ!」


「ん、んん……俺……は……?」


まだ意識が朦朧としているようで少しばかり呂律が回っていないようだ。

それでも徐々に土気色であった顔に赤みが差してきている。

流石は生命力に定評のある獣人と言ったところだろう。


「くそっ、でもよかった。返ってきてくれて。

 心配をさせるな、バカ野郎」


ルビーのような赤い瞳に涙を溜めマフティはライオットに微笑みかける。

そんな彼女に彼は言った。


「マフティ……おまえの唾液って……甘いんだな」


「死ねっ!」


ぐしゃっ!


ぴーーーーーーーーーー……。


ライオット……おまえ何やってんの?(呆れ顔)


「マフティっ!? おまっ! 何やってんだよ!?」


「うっせぇっ! キュウト! 

 やっぱり、こいつは死んでるくらいで丁度良かったんだ!!」


マフティの振り下ろした拳は空気が読めないライオットの顔面に突き刺さり、

彼は再び仮死状態になってしまった。

そしてピーと音を出し続ける〈メディカルステート〉には『死亡』の文字が!


いや、間違いではないんだが……

後で『仮死状態』も認識できるように改良しておこう。うん。

というか、狭間に行くのは結構疲れるんだから

余計な手間を掛けさせんでくれ。


俺は呆れ顔で目を閉じ、再び精神をこの世とあの世の狭間に飛ばした。




「困ります」


「さーせん」


この世とあの世の狭間に到着した途端、

俺は獄卒達に発見されてお説教を受けるハメになった。


彼らはおとぎ話に出てくる鬼の姿をしており、

見かけは恐ろしいが対応は紳士的でありとても丁寧である。

簡単に説明すると、地獄の公務員という位置に居る人達なのだ。


俺は彼らに事情を話し、なんとか今回は見逃してもらったのだが、

これはカーンテヒル様が地獄の閻魔様に根回しをしてくれていたからだ。

初代様が言っているから間違いない。


聞くところによると地獄はありとあらゆる世界に繋がっており、

各世界の亡者を集めて裁く場所が複数設置されている。


諸説あるが実際のところ正式な地獄は一つであり、

地獄のトップである『閻魔大王』も一人しかいない。

まぁ、副閻魔なる者が大量にいるそうだが。


ちなみに異世界転生は地獄にて手違いが連続した結果が大半を占めるそうだ。

その魂の裁かれるべき裁判所を獄卒が間違えて指示し、

別世界の裁判所へ向かわせた挙句、

そのまま裁かれて異世界入りを果たしてしまう。

これが異世界転生の実態だそうな。


たまーに女神様などの気紛れで異世界転生させる事もあるそうだが、

それは趣味の範疇として許容されており基準もかなり適当である。


手続きのミスは新人の獄卒が起こす失敗ランキング堂々の一位であるのだが、

失敗しても大抵は『てへペロ☆』で済まされてしまうらしい。

まぁ、発覚し次第に転生した魂に獄卒の監視が付くそうなのだが、

それすらも娯楽的な感じでおこなわれるらしい。


かなり適当な扱いの異世界転生だが、

稀に強大な特典を得て転生した者が悪事を働いた場合、

こわ~いお兄さんが色々な姿で修正に来るらしい。

悪事を働いているチート転生者は自分を戒めてどうぞ。

尚、正しい行いをしていれば桃使いになることがある、とのこと。


「では、この件は閻魔大王様に伝えておきます」


「お騒がせしました。よろしくお伝えください」


俺は顔面が陥没しているライオットの首根っこを掴んで闇の枝に乗り、

狭間から立ち去った。


くそぅ、閻魔様に借りを作ったら

何を要求してくるかわかったもんじゃないぞ。

色々と裏を知ったら、気を付けなくてはならないものが沢山あって困る。

ぷんすこ。



「なんか二度くらい死んだような気がする」


ライオットがギャグ漫画のように顔面をポンッ! 

と膨らませて顔を再生させた。

いよいよ以ってライオットも、へんたいの域に足を踏み入れたようで何よりだ。


「やかましい、三度目の死を体験してこい!」


マフティはリンダを指差し危機的な状況であることをライオットに伝える。

彼女は相変わらず鬼の角を振り回し滅茶苦茶に暴れていた。


「アレは……まずいな。わかった、マフティ、ありがとな」


「ふん」


ライオットは立ち上がりしっかりと二本の足で地面を踏みしめる。

どうやら、感覚も戻っているようだ。

そして彼は顔を赤らめるマフティに振り向き、

とても良い笑顔で話しかけた。


「あ、そうそう」


「なんだよ?」


「おまえの唇、すっげぇ柔らかかったぜ!」


「ば、バカ野郎! さっさと死んでこい!」


なんで余計なことを言うんだあいつは。

これには俺もブランナも白目痙攣である。


「燃え上がれ、『ライオンハート』! 獅子の咆哮を今ここに!

 シャァァァァァイニング・レオォォォォォォォォォォッ!!」


ライオットが輝ける獅子となり準備は整った。


「エルっ! いつでもいけるぜ!」


「ふきゅん!」


「あ……エ、エル様っ!?」


俺はブランナの下から飛び立った。

背中には月光蝶の翅。

俺の準備も万端だ、さぁ、行こう。


俺は手を差し伸べるライオットの手に己の小さな手を重ねた。




思い出す。古き時代からの誓いの言葉を。


約束する。互いを想い離れることなきことを。


解き放つ。力ある言葉を……今ここに!!




『真・獣信合体!!』


俺とライオットの姿は大いなる輝きの中に溶けていった。

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