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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
387/800

387食目 神器

◆◆◆ ブランナ ◆◆◆


「……ふきゅん……ふきゅん……」


エル様が「ふきゅん」と呟きながら眠りに落ちた。

果たして桃力を使い過ぎて起きていられなくなったのか、

それとも新たなる力を得るため、一時的に眠りにはいったのか……。


きっと答えは後者だろう。

感じるのだ、莫大な力がエル様に集まってくるのを。


『ブランナ、エルティナをなんとしてでも護ってくれ。

 今エルティナは桃力を急速に回復させている。

 この分ならあの鬼を……そして鬼穴をも破壊できるかもしれない』


「わかっておりますわ。それが家臣の務めでございますから」


桃先輩の説明により、

エル様が桃力を蓄えるために眠りに就いたことが知らされる。

でも皆はエル様が目覚める前に三角鬼と呼ばれた鬼を倒そうと

果敢に攻撃を繰り出していた。


でも……その鬼は強過ぎた。


桃使いでない私達ではまるで歯が立たないのだ。

唯一、攻撃が通るのはライオットとプルルの攻撃のみであり、

悪魔レヴィアタンの攻撃ですらも鬼は平然と受け止めていたのである。


「なんだ、その哀れな攻撃は? 遅過ぎて欠伸が出るわ」


「このっ!!」


ライオットの拳を取るに足らないとでもいうかのように受け止める三角鬼。

彼の拳は私でも認識できないほど早いというのに、

あろうことか鬼は遅いと言ってのけたのだ。


「拳というのはこう……放つのだ」


三角鬼が言い終わるのと同時にライオットが壁に激突し地面に倒れ伏した。

何が起こったかわからない。

気が付けば三角鬼は拳を突き出しており、ライオットは地面に倒れていたのだ。


ライオットは身動き一つしない。

まさか今ので……!?


「っ!!」


私は絶句した。

三角鬼が手に握っている物は……腕だった。

よく見覚えのある腕だ。


「脆いな……所詮は子供か。少々、驚きはしたが見掛け倒しもいいところよ」


彼は手にした腕を放り投げ、私……いや、エル様を見据えて言った。


「やはり、我らの脅威足り得るのは桃使いのみ。

 赤子とて容赦はせぬ。その命……喰らい尽くしてやろう」


「まだ終わっていない!」


プルルが魔導ライフルを連射する。

しかし放たれた光線は全て三角鬼に見切られ、

ただ一つとして命中することはなかった。


「優れた武器も扱うのが素人ではな」


「なんで、なんで当たらな……がはっ!?」


再び放たれる三角鬼の拳。

それはかなり離れた場所にいるプルルに直撃し吹き飛ばす。


子供とはいえ拳圧のみで壁まで吹き飛ばしたのだ。

砕け散るGDをみれば相当な威力であることが窺える。

寧ろ頑丈なGDだからこそ攻撃に耐え、彼女の命を守れたといえよう。


三角鬼は圧倒的過ぎた。

エル様の活躍によって自分達でも勝てるのではないか、

と思い込んだのは間違いだったのだ。


「ブランナ殿! 御屋形様を!!」


「わ、わかっております! この命に代えても護ってみせますわ!」


迫る三角鬼にザイン、ルドルフさん、ガイリンクードが立ちはだかる。

けれども三角鬼の歩みを止めるには至らなかった。


砕け散る大盾、倒れ伏す若武者、咆哮を上げなくなった銃。


誰も……誰もこの鬼を止めることができない。


「エルティナちゃん! ブランナちゃん、逃げて!」


「……姉さん!!」


フォリティアさんが私に逃げるよう指示をしてきた。

だがその指示は実行できない。

情けない話であるが足が竦んで動かないのだ。

私は地面に座り込みエル様を隠すように抱きしめることしかできなかった。


フォリティアさんは大量の小鬼に飛びかかられ次々に傷を負っていく。

ヒュリティアも攻撃を華麗にかわしつつ小鬼を撃退するも後から後から

鬼穴から湧いて出てくるためキリがない。

私は段々と歪んでゆくその光景を見ることしかできなかった。


「ちくしょう、ちくしょう! これじゃきりがない!

 おい、ライオット! しっかりしろ!

 タフなのがおまえの持ち味だろうが!?」


キュウトの治癒魔法もまったく追い付いていない。

命の危険がある者に最低限の治療を施して、

すぐさま次の者を治療しなければ死に至るからだ。


既にルドルフさん、ザイン、ガイリンクードまでもが危険な状態に陥っている。


全滅。


そんな言葉が私の脳裏に浮かび始めた。

エル様のためならこの命は惜しくないと思っていた。

だが……それは幻想だったのだ。


怖い、死ぬのが怖い。いや、滅びるのが怖いのだ。

私は不死者アンデッドの身であるが、鬼はそのようなことはお構いなしだ。

対象を喰らい魂を貪る。

魂を食われてしまえば不死者であっても再生は不可能なのだ。


肉体を破壊されるのは怖くない。

でもエル様と永遠に離ればなれになるのはとてつもなく怖い。


「終わりだな」


「っ!!」


返り血に塗れた三角鬼が私の目の前に立っている。

もう私達を護ってくれる者は……いない。


「なんじゃ、なんじゃ、面白いことしておるのう」


「ワシらも混ぜてくれ」


絶望は更に加速する。

鬼穴より新たな鬼が姿を現したのだ。


「おぉ、四角鬼に丸鬼がんきか。

 おまえらもようやく通れるようになったようだな」


「いやいや、鬼穴は相変わらず不便よな。

 ワシら下級の鬼ですら通れるようになるのに時間が掛かる」


「その点、おまえさんは肉体特化型じゃから通り易い」


三角鬼と同僚の鬼と思われる二体の鬼は、

頭部が丸く身体が異様に痩せ細っている鬼と、

頭部が正方形で異様に肥え太っている鬼であった。


「混ぜる、といってもこれでお終いだ。

 この桃使いを始末すれば、この世界で我らを阻む者はいないだろう」


「なんじゃ、つまらんのう」


「後は喰らい潰して世界を終わらせるのであるなら、

 わざわざあの御方が出向くまでもなかったんじゃないのかいな?」


「なにかしらの思惑があったのだろう。

 それともか……ただの暇つぶしか。

 いずれにせよ、我らに勝てぬようでは

 この世界もたかが知れているということよ」


三角鬼がその巨大な拳を振り上げた。

私ごとエル様を叩き潰す気なのだろう。

恐怖で動けない私は、その拳を見ることしかできなかった。


『いかん! 逃げろ! ブランナ!!』


「良い表情だ。存分に絶望を吐き出して死ぬがいい」


そして拳は振り下ろされた。




…………。

……。


……?


衝撃が来ない。

それともそれを感じるまでもなく、私は消滅してしまったのだろうか?


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


事実は違っていた。

吹き出す鮮血、苦悶する鬼。

私に向かって振り下ろされた腕は根元から消滅していたのだ。


「遅くなってすみません」


振り向けば、神々しく輝く光の剣を携える黒髪の少年の姿があった。

利き手である右腕には黄金に輝く腕鎧が装着されている。


「フォクベルト!」


「ブランナ、走って!」


「で、でも……わたくし足が竦んで……」


「大丈夫、きみは強い女性でしょう? さぁ、勇気を持って立ち上がって!」


今まで頼りないと思っていた彼の意外な一面を見た私は、

彼の励ましの言葉を信じて立ち上がりエル様を抱えて駆け出した。

不思議なことに恐怖で竦み動かなかった身体が動いてくれたのだ。


まだ足が震える。それでも私は強引に足を動かした。

そして何度も転びそうになるも、なんとか彼の下まで辿り着くことができた。

距離にしてそれほど離れてはいなかったが酷く長い距離に感じたのは、

私がそれほどまでに恐怖と不安を抱えていたからだろう。


「間に合って良かった」


「……皆が! 皆が!!」


私がそう訴えたのと同時に部屋に飛び込んできた複数の影があった。

その影は私の良く知る頼もしい友人達だったのだ。


「わかってるよ! おい、キュウト! いつまでベソかいてんだ!

 しっかりしやがれ! 男だろ!!」


「うう、マフティ……俺、今は女だよ」


「みんないたがってるよぉ! はやく、いたいのなおしてあげようよ!」


「ふん、この元上級貴族が来てやったのだ! さっさと片付けてしまうぞ!」


部屋に入ってきたのは我がクラスの頼れるヒーラー達。

すぐさま負傷者の状態を確認すると鬼を無視して治療を開始したのである。


「おうおう、わしらを無視して治療開始とは大した度胸じゃ」


「はっはっは、よきかな、よきかな。恐れを知らぬ童よ。

 どぉれ、恐怖というものを教えてやろう」


四角鬼と丸鬼が不気味に近付いてくる。

その二体の鬼に立ちはだかるのはフォクベルト、

そして遅れて部屋に入ってきたドワーフのガンズロックであった。


「フォク、そのGGゴーレムガントレットはどうだぁ?」


「あぁ、快適ですよ。

 サンセイバーを三十パーセントまで解放しても、

 僕の身体を焼くことがないのですから」


「ふん、流石はドクター・モモと言ったところかぁ?」


フォクベルトの肩まで覆い尽くす黄金のガントレットは

ドクター・モモが作り出した彼専用の防具らしい。

どうやら彼の家宝である光の剣の反動を防ぐために開発されたようだ。


以前、彼が光の剣の出力を上げて発動させたところ、

全身火傷の重体に陥ったと聞く。

確か三十パーセントで人間が扱えないほどの反動が来るのだそうだ。

よって、普段は五パーセントが限界らしい。


「えぇ、これで僕も鬼と戦えます。それでは……二十パーセント解放」


現在、その手に握られた柄だけの剣から

見たことがないほどの幅広い光の刃が形成されていた。

今までのような棒のような頼りない姿ではなくなっていたのだ。

これが彼の宝刀サンセイバーの本当の姿なのだろう。


実は私はこの剣が苦手だ。それは太陽と同じ気配がするから。

でも、今だけはとても頼もしく思えてしまう。


「ぐぅぅぅぅ……!! た、太陽の剣だとっ!?

 何故そのような『神器』がこんな辺境世界にっ!!」


ぶすぶすと煙を上げる三角鬼の腕。

強力な再生能力を持つと言われている鬼であるが、

切られた腕が再生する気配はなかった。


「さぁ? それは僕にはわかりかねます。

 ですが……この剣は、きっとこの時のために

 カーンテヒルに遣わされたのでしょう」


更に輝きを増す太陽の剣。

それは彼の意思の強さに呼応しているかのようだった。

輝きに照らされるフォクベルトの横顔が私の目に焼き付く。


「さぁ、この輝きを恐れぬのであれば……掛かって来い!!」


普段は感情を出さないフォクベルトが咆える。

それに応える二体の鬼が彼らに襲い掛かった。

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