386食目 愛と勇気と努力
だがチゲが放った桃力を纏う渾身の拳は下級の鬼に難なく防がれてしまった。
これじゃあ、勝負になんないよ~!
「威勢は良いが……弱いな。これでは肩慣らしにもならぬ」
下級の鬼はチゲの腕を掴みぶん投げた。
あぁっ! その先にはライオットの姿がっ!!
「っと! 大丈夫か、チゲ!? エル!!」
しかしライオットは眩んでいた目も治ったらしく
危なげなくチゲをキャッチしてくれた。
しかし、状況は刻一刻と悪化を辿っている。
ヤツが出てきたということは、次々に下級の鬼が出てくるということだ。
「三角鬼様、お待ち申しておりました」
「うむ、ジークライド。状況はどうか?」
「はっ、現在ハーイン様が城外にて竜の桃使いと交戦中であります。
エリス様もそれに従い交戦中かと」
「ふむ……そうか、では今更向かっても戦いは既に終わっていそうだな。
では我はこやつらをたいらげるとするか。
腹の足しにもなりそうもないがな」
三角鬼と呼ばれた下級の鬼は俺達を見下し、強烈な負の感情を叩き付けてきた。
そのおぞましいばかりの陰の力に身体が固まって動かない!
……あ、動いていようといまいと、俺の場合は意味がねぇや。
「う、ぐ……なんて殺気だ!? 身体が動いてくれない!!」
「厄介だな……おい悪魔。どうだ?」
「やれねぇこともねぇが……
俺が本気出したら、てめぇがぶっ壊れちまうだろうが」
「……ちっ、ままゆかねぇな」
これはヤヴァイ。
現状ではラングステンゼリーが大魔王に喧嘩を売っているのとなんら変わりない。
偉い人が『戦いは数だよ!』といったが動けないのでは意味がないのである。
「そうだな……女。まずはおまえからだ」
ふぁっきゅん! このくそエロ三角!
よりにもよって、
エロゲーで真っ先にやられる確率ナンバーワンの黒エルフを選びやがった!
おのれ、フォリティアさんがエロ過ぎるからかっ!?
それともこいつが女日照りだったからかっ!?
……こいつ、モテなさそうだもんなぁ(同情)。
「……やはり、おまえにするか。酷く貶された気がする」
ぬおぉぉぉぉぉっ! おめぇ、心の中が読めんのかっ!?
三角鬼はゆっくりとチゲと俺に向かってきた。
近付けば近付くほど、その濃厚な陰の力を感じ取ることになり、
俺の気分は最悪になっていったのである。おえっぷ。
「まずは一人」
三角鬼が手刀を作った。
それは一瞬にして姿を変え、本物の刀に変化したではないか。
おめぇ、手刀は手刀でも本物じゃねぇか! 自重してどうぞ!!
俺の白目痙攣状態もお構いなしに、ヤツは刀をチゲに向かって突き入れた!
だが、黙ってやれれるほど俺とチゲは大人しくはない!
桃結界陣! ちょあぁぁぁぁぁぁっ!!
チゲの正面に桃色の結界が生まれ、三角鬼の自称『手刀』を受け止める!!
バリバリッ!
「ふきゅん!?」
しかし受け止められなかった。
せんべいのようにバリバリされてしまったではないか。
手刀は桃結界陣を易々と突破し、チゲの胸部装甲をも貫通したのである。
だが幸運にも俺の鼻先で刀の切っ先は停止していた。
もし、桃結界陣を張らなければ今頃俺は……!!
『エルティナッ!? まさかおまえ、意識が戻っているのか!?』
桃先輩が魂会話にて俺に語りかけてきた。
だいぶ前に起きていたがそのことを伝えられていない。
魂会話が遅れない状態だったからである。
でも、今なら魂会話ができそうな気がするので
何度も送って届かなかった魂会話を桃先輩に送ってみる。
『今日の夕食はカレー! 究極の……』
『エルティナ! やはり意識が戻ったんだな!!』
おっ!? 届いた! 遂に桃先輩と会話ができるぞ! これで勝る!
「やはりそこか」
俺が喜びに満ち希望を見出した時のことだった。
三角鬼の刀が見る見るうちに元の姿を取り戻し、
俺の首を掴みチゲから引きずり出したのである。
その際に俺の服はチゲに引っかかり脱げてしまった。
つまりは久々の全裸幼女である。いやんばかん!(赤面)
ん? 赤ちゃんだから幼女ではないか?
「くくく、赤子の桃使いとはな。さぁ、どうやって殺してやろうか」
……く、苦しい!
三角鬼はわざと俺が苦しむように幼い俺を高々と持ち上げたのだ!
「エルッ! 止めてっ、エルが死んでしまうっ!」
ヒュリティアの声が聞こえる。
だが、それはどんどん遠くから聞こえるような感覚になっていった。
いかん、このままでは窒息してしまう。
くそう! 超絶大ピンチだ! チゲから離されてはどうにもできない!
魔法も使えないし桃力も殆ど残っていない……万事休すか!?
「エルッ!? くそっ、動け、動いてくれっ!!」
ライオット達も必死に身体を動かそうともがくも一向に動く気配がない。
なんということだ、俺の物語もここでおしまいなのか?
まだ、やらなくてはいけないことが山のようにあるというのに。
あぁ……意識が……遠のく……。
諦めたら、そこで終わりだ。
諭すような声が聞こえてきた。
モモセンセイではない、この声は男性のものだ。
おまえにはまだ可能性の力が眠っている。
呼び起こせ、その力を。呼び覚ませ、可能性を。
おまえにはそれができるはずだ、桃使いエルティナよ。
か、可能性……この声はっ!?
さぁ、私を解放せよ。可能性の獣よっ!
救えおまえを愛する仲間を、おまえを害する敵すらも!!
桃使いエルティナ!!
俺は体内の残った僅かな桃力を回転させる、
ありったけの愛と勇気と努力でもって!!
「ふきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」
爆発的な桃力が生まれだした。
そうだ、俺は桃使いエルティナだ!
俺は皆に支えられ、皆を支えるためにいる!
全ては……この哀れな鬼達を救済するためにっ!!
俺に、俺に力を貸してくれっ!!
俺の中に眠る『圧倒的な力』が遂に解き放たれた!!
ぷりっ! ……ぽと。
『うんうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!』
「ぐわわっ!? 臭い! いや痛い!? いったいなんだこれはっ!?」
桃色に輝くう〇ち、うんうん先生が桃力を爆発させる!
こうかは、ばつぐんだ!(四倍)
「いったぁぁぁぁぁっ! うんうん先生、怒りのボディプレス!」
「流石は御屋形様、拙者達にできぬことをやってのける」
「痺れませんし、憧れません。女の子が人前でなんてことを!」
珍しいライオット、ザイン、ルドルフさんのコンビネーションツッコミだが、
ルドルフさんだけは不服そうであった。
うんうん先生の怒りのボディプレスによりダメージを受けた三角鬼は、
あまりの痛さに苦しみ、その拍子に俺をぶん投げてしまった。
「ふきゅ~ん!?」
くるくると宙を舞う俺を受け止めてくれたのはブランナだ。
受け止められた際におでこを鎧にぶつけて痛かった。
鳴けるぜ、ふきゅん!
「エル様っ、ご無事で!?」
「ふきゅん」
震える手で俺の赤くなったおでこを擦るブランナ。
バイザーで見えないが、きっと涙ぐんでいるのだろう。
ごめんな、ブランナ。こんな情けない主人で。
「お、おのれ! ふざけたマネを!!
もう許さぬ……皆殺しにしてくれるわっ!」
「許すも許さないも、元から俺達全員殺すつもりだったんだろう?」
ライオットが目を閉じ体から力を抜き、
そして大きく息を吐き出し……吸い込み、大きく目を開いた。
「もう、後先は考えない。おまえはエルを傷付けた」
ライオットの気が爆発的に増幅しているっ!?
まさかアレをっ!?
「燃え上がれ、『ライオンハート』! 獅子の咆哮を今ここに!
シャァァァァァイニング・レオォォォォォォォォォォッ!!」
彼から黄金の輝きが解き放たれ、ここに再び『輝ける獅子』が降臨した。
グラシを圧倒したライオットの力が三角鬼を怯ませる。
「な、なんだ!? その力は……!?」
ライオットの覚悟を見届けた皆は顔を合わせ頷いた。
「出し惜しみをしていたわけではありませんが……
全力でもって貴方を退治させていただきます!」
「後のことは考えぬ……
今は全ての力を出しきり、全てを切り捨てる! いざ!!」
ライオット、ルドルフさん、ザインが恐怖の向こう側に一歩踏み出したのである。
それは勇気ある一歩。
「ぼ、僕が一番長くGD操っているんだ! これくらいっ!」
「くそっ! 男とか女とかも言えない状況じゃねぇかよっ!!
もうやってやるよ! きゅおん!!」
「エル様、私の全てに掛けて貴女様をお守りいたしますわ!」
仲間を支える彼女らの決意。
それは見返りを求めぬ愛情。
「行くぞ、悪魔」
「はん、ようやく名前で呼ぶようになったじゃねぇか。
いいだろう、力を貸してやんよ。ぶっこわれんじゃねぇぞ!!」
「ふん、やってみるさ」
「……姉さん」
「はいはい、わかってるわ。貴女の努力の成果……見せてあげなさいな。
ヒュリティアは私が護ってあげるからね?」
弛まぬ鍛錬の成果を発揮しようと恐怖をねじ伏せ実行する。
信念を貫くことを可能にする最も強い力……努力。
彼らから放たれる陽の力が俺を包み込む。
その時……俺の魂からよく知る声が聞こえてきたのであった。