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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
385/800

385食目 出現

◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


むせ返るような濃い陰の力に俺はチゲの内部で白目痙攣状態になった。

もう酷いって状態じゃねぇ、気を抜いたらゲロリアンしちまいそうだ。

このままバックステッポゥ! で帰りたい。

だが、そんなこともできるわけもなく、ひたすらに耐えるしかないのが現状だ。


しかもここには『ヤヴァイ・ランキング』トップテンに入る

鬼穴なる物が存在している。

こんな物をこの世界に存在させたままでいたものなら、

あっという間に鬼に征服されてしまう。

よって断じて見過ごすわけにはいかないのだ。


『雑魚には構わず鬼穴の破壊を!』


桃先輩が檄を飛ばすも皆は思うように近付けないでいた。

鬼穴を護るように立ち塞がるジークライドなるゴツイおっさんが

なかなかの手練れであるからだ。


こいつ仲間から絶対に『硬い、強い、遅い』と言われているに違いない。

流石ナイトは格が違った。


「ここから先は通さぬ! 

 鬼穴が広がり、本島の鬼達がやって来るまで

 手をこまねいてているがいい!」


「くそっ! 言わせておけばぁっ!!」


ライオットがジークライドの挑発に乗って飛び出した。


……らしくない。

普段のライオットなら、こんな安っぽい挑発に乗ることはないはずだ。

案の定、単独で飛び出してしまったため多数の鬼に囲まれる形になった。


『皆、今だっ! こいつらは俺が引き受ける!』


ライオットが〈テレパス〉で俺達に囮を買って出たことを告げる。

大量の鬼がライオットに向かったことによって、

鬱陶しい鬼達による妨害が少なくなったのである。

ただし、その分ライオットの危険度はグンと跳ね上がるのだが。


というか、いつの間にそんな頭脳プレーをするようになったんですかねぇ?

なんだか俺だけ成長が遅れているみたいで焦る。

赤ちゃんだけど焦らざるを得ない。ふきゅん。


『ライオットの作ったチャンスを無駄にするな! 突撃せよ!!』


桃先輩の号令に従い、皆がジークライドの背後にある鬼穴へと殺到する。

鬼気迫る皆に対して冷静に待ち構えるのは漆黒の鎧で身を固めた重騎士だ。

彼はあくまで冷静であり、的確な判断を以って攻撃を弾き返していった。


「……強い! 鬼に堕ちたわりには慢心というものがない!」


「ふん、陽だの陰だのと……くだらん。どちらも強さには変わりないだろう。

 ただ単に、鬼に堕ちて陰の力が使えるようになっただけだ」


ドシッとツーハンドアックスの柄を床に叩き付け鋭い眼光を俺達に向ける。

これはまずい、冗談抜きに強過ぎやしませんかねぇ?

純粋な鬼とは何かが違う。

ジークライドは鬼に堕ちきってはいないのだろうか?

鬼の欲望に耐えうる何かを彼は持っている可能性が?


『くそっ、これでは埒が明かない。

 人選は誤ってはいないはずだ……何故、突破できないのだ?

 ……鬼穴が下級の鬼を通せる大きさまで後五分弱、

 それまでになんとしてでも鬼穴を破壊するんだ!』


しかし、ライオットが作ってくれたチャンスをものにできなかったため、

状況は一気に悪化してしまった。

ルドルフさんもピンチに陥ったライオットのカバーに入ってしまったため、

防御力の低いフォリティアさんを護る者がいなくなったのである。


この連携の乱れを見逃すジークライドではなく、

小鬼達を指揮してフォリティアさんを狙い始めた。


フォリティアさんも華麗に攻撃を回避するが多勢に無勢。

少しずつ攻撃をもらい始めている。


「流石に数が多過ぎよね~?」


「……姉さん、油断しない」


「は~い」


というか、鬼穴から小鬼がもりもり出過ぎなんですが?

こんなに出てくるものなんですかねぇ?(疑惑)


『後、三分だ! 皆、なんとしてでも鬼穴を!!』


桃先輩が悲鳴に近い声で迫り来るタイムリミットを告げてきた。

冷静沈着な彼がここまで声に感情を載せるのも珍しい。

これは本当にまずい……よし、決めた。もう待ったなしだ。


チゲ、俺達も戦いに参加するぞ!


うん、エルちゃん、やろう! 僕達の力を皆に見せてあげようよ!


俺は親玉戦まで残す予定だった『切り札』を使う決意をした。

出し惜しみをして最悪の結果を招いてしまったら意味がないと判断したのだ。


チゲ……ユクゾッ!

桃仙術『五感』! ほあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


俺は桃仙術を使い五感を強化延長する。

延長先はもちろんチゲだ。

俺はいわゆる、なんちゃってソウル・フュージョン・リンクシステムを

桃仙術で作り出そうと思い付いたのである。


それは試しに一度行った結果……見事に成功を収めた。

これにより、俺はチゲでありチゲは俺であるという

見事な『なんちゃって身魂融合』を果たしたのだ。


よぉし! 今回も成功だ! では、決め台詞を言うぞ!!


んん~! は~! だぁいも……。


いこう! エルちゃん!!


あっはい、そうですね。


ふぁっきゅん、最後まで決め台詞を言えなかった(無念)。


だが、チゲの言うとおり時間がない。

さぁ教えてやる、

チゲがただの白兵戦ホビーゴーレムではないということを!


俺が手を握ると考えればチゲの手は見事に拳を作る。

走り出すための構えを取る、そう思えばチゲはその構えを取った。

視線だって俺と共有している。おぉ、高い高い。

完璧だ、後は行くのみ。


俺はチゲをジークライド目掛けて走らせた。

カチャカチャとやたら軽い音をさせながら結構早い速度で走るチゲ。

突如そんな行動をとった彼にキョトンとする仲間達。


「チ、チゲ!? いけません! 貴方の中には……!」


ルドルフさんが止めに入ろうとするが……チゲ、これを華麗に回避!

もう目前にはジークライドの姿!


「愚かな……人形とて立ち向かってくるのであれば戦士とみなす」


巨大なツーハンドアックスを片手で振り上げる漆黒の重騎士。

それを待っていたんだ!


俺は小さな体に眠る桃力を回転させ増幅した。

回転速度が速まると加速度的に桃力が高まってくる。

これならいけそうだ、受けるがいい!

俺のオリジナル桃スペシャルをな!!


ふきゅん! 必殺! 鬼騙し!!


チゲがジークライドの顔の前で自身の両手を叩き合わせると……!


「うをっ!? まぶし……!!」


「なんの光っ!?」


「おにぃぃぃぃぃぃっ?!」


目も開けられないような眩い桃色の閃光が放たれたのである!

これぞ、俺の魔法技〈閃光爆弾〉にヒントを得た桃スペシャル、

その名も〈鬼騙し〉だ!

要は相撲の〈ねこだまし〉と同じであり技自体に攻撃力はない。

この隙を付いて鬼穴まで辿り着こうという算段である。


奇策中の奇策故に一度しか使えないのが難点であるがその効果は絶大だ。

現にヤツは目をやられて俺を見失っている。


「ぬわぁぁぁぁぁぁっ!? 目が、目がぁぁぁぁぁぁぁ!!」


しまった! 威力があり過ぎてライオット達も目が眩んでいる!


……ま、いっか。

どうせ鬼達も目が眩んで同じ行動しかとれていないし(責任放棄)。

さぁ、鬼穴を塞いで差し上げろっ! チゲ!!


俺はチゲの身体を使い鬼穴に向かって桃力を込めた拳を繰り出した。

それは鬼穴に叩き込まれ……叩き込まれ? あれ?


確かに当たった感触があるのに鬼穴は依然その姿を保ったままであった。

そればかりかチゲの拳が押し返されている。

これはいったい!?


「なかなか元気の良い桃使いじゃないか。殺し甲斐があるというものだ」


『なっ!? バカな!

 下級の鬼が出てくるまでまだ時間は残っているはず!

 何故出てこれたんだ!!』


桃先輩が声を荒げる。

確かに時間は……まだある。

いやあっただな。たった今、過ぎてしまった。


鬼穴から飛び出した灰色の腕。

それは明らかに異形の存在のものであった。

ずぶずぶと徐々に鬼穴から出てくる腕の持ち主。

その姿は昔話に出てくるような鬼の姿とは掛け離れていた。


灰色の三角柱の頭部には目や鼻などのパーツはなく、

のっぺりとした平面にチゲの姿が映っていた。

そして、大きな身体のいたる箇所が紫色に腫れあがり異臭を放っており、

骨しか残ってない尻尾が一際目を引く。


これが鬼ヶ島の下級の鬼だというのか!?

下級だというのに体の震えが止まらない!

圧倒的な陰の力を感じる!


「くくく……桃使いも質が落ちたものだ。

 待っていたのだ、のこのこと鬼穴に近付く瞬間を。

 身体全体は出せんが腕くらいは広がりきらなくても出せるからな」


『な、なんということだ……!!』


遂に鬼穴から本場の鬼が出現してしまった。

だが、俺達のやることは変わらない。

本場だろうと本田だろうと鬼は退治だ!

見せてやる、桃使いの力というものを!


俺は勇気を振り絞り巨大な敵を討つため、チゲに必殺の拳を繰り出させた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 略してかつお
2021/07/30 09:38 思いつかない!(八つ当たり気味)
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