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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
383/800

383食目 恐怖の軍団

◆◆◆ フォクベルト ◆◆◆


「緊急招集!? どういうことですか、桃先輩!」


鬼の討伐中に桃先輩からの集合要請が魂会話にて送られてれてきた。

まさか、あれほどの手練れがいながら苦戦するというのだろうか?


「フォクベルト君! 桃先輩から呼び出しっ! ただ事じゃないわ!」


アマンダさんが襲ってきた鬼を逆に真っ二つに引き裂き表情を強張らせた。

桃先輩からの緊急要請に、ただならぬ危機感を覚えているのだろう。


「フォク、こいつぁきなくせぇ臭いがしてきやがったぜぇ」


「うん、急ごう。

 鬼の駆逐も大事だけど、エルティナがやられてしまっては本末転倒だよ」


ガンズロックの嫌な予感はほぼ当たる。

入学してからずっとコンビを組んできたから僕にはわかるのだ。


「フォクベルト、エルちゃんが危ないって本当!?

 だったら、急がないと! ぷにぷにのほっぺが危ない!!」


「リンダ、エルティナどころか、そこにいる皆が危ないって話なんだ」


リンダは相変わらず、ぶれない子だった。

ある意味、皆の精神安定剤のような役割を果たしている。


「フォクベルト、五メートル先に鬼の反応……数は七」


「了解した。皆、とにかくエルティナとの合流を急ごう」


ケイオックが特殊魔法〈サーチ〉で周囲を索敵し

正確な敵の情報を僕達に知らせてくれる。

この〈サーチ〉という魔法は扱いが難しく、

使用中はほぼ身動きが取れなくなるのが難点であった。

しかしながら効果は申し分なく、

身動きが取れないというデメリットを差し引いても

十分過ぎるほどのメリットがあった。

情報を制する者は戦いを制することができるからだ。


近付いてきた鬼を通路の角で待ち伏せ出てきたところを不意打ちする。

こちらの損害は一切出さず一方的に勝利を得ることができた。


使用者は妖精であるケイオックだ。

その体の小ささ故に非戦闘要員であるプリエナの肩に載って

索敵魔法を使い続けてくれれば危険は少ない。


「周囲十メートルに鬼の反応なし。いくなら今……

 いや、高速で接近する反応あり。数は一」


「先ほどの鬼でしょうか? なら倒してからいきましょう」


「いや、この反応……さっきから退治している鬼とは力がダンチだ!

 まずいぞ、こんなのとやり合ってたら合流が遅れちまう!」


「なんだって!?」


ケイオック索敵範囲は狭く設定してある。

最大索敵範囲は十五メートル。

ただその分、対象の正確な位置とおおよそのパワーレベルが測定できる。


「パワーレベル二十! 退治してきた鬼の十倍の強さだ!」


「っ! 遅れるからといって、

 その鬼を無視すれば合流した時に挟み撃ちにされる可能性があります。

 やはりここは迎撃を……」


「フォクベルト達はエル様の下に向かってくださいまし。

 ここはわたくしが残って鬼の相手をいたしますわ」


「クリューテル、無茶だ。今度の相手は今までの鬼とは違う。

 何かあったら大事だし、エルティナも悲しむことになる」


無茶な提案をしてきたのは

銀色に輝く美しい髪を持つ少女剣士クリューテルであった。

その端正な顔立ちに収まる黄金の瞳は冗談を言っているようには見えない。

彼女は本気で言っているのだ。

だからこそ、一人で戦わせるわけにはいかないと思った。


「フォクベルト、エル様を失うということがどういうことか……

 貴方はわかっているはずでしょう?

 であるならば優先順位を間違えてはいけませんわ」


「し、しかし」


「それならば、我々が彼女と共に残りましょう」


GD騎士がクリューテルと共に残ってくれると申し出てくれた。

彼ら三人が残ってくれるのであればなんとかなるかもしれない。


「必要ありません、かえって邪魔になりますわ」


「なっ!?」


彼女は凛とした態度で申し出を断った。

その顔には自己犠牲などというものはなく、

本当に邪魔なのだと訴えるものがあった。


「さ、早くエル様の下へ行ってくださいまし。

 少しばかり……『暴れ』させていただきます。

 そんな私の姿を見てほしくはないのです」


そういうと彼女は僕らに背を向け、腰に差してあったレイピアを引き抜いた。

その瞬間、ぞくりと背筋が凍り付く感覚に見舞われたのである。

彼女は僕らの知らない顔を持っている。

そう感じずにはいられないほどのプレッシャーを放ち始めたのだ。


「……わかった、ただし、無茶はしないでくれ。

 危なくなったら逃げるか僕らの下に来てくれ、いいね?」


「えぇ、わかりましたわ」


「武運を!」


僕らはエルティナとの合流を急いだ。

一人残ったクリューテルも気に掛かるがエルティナ達が危ないというのも事実。

焦る気持ちを抑えながら薄暗い通路を走る。


待っていてくれ、エルティナ、皆、今行く!




◆◆◆ オフォール ◆◆◆


うっひょう、鬼祭りだ~、た~のし~な~。


迫り来る鬼、鬼、鬼、鬼。

もう何匹退治したか覚えていない。


「教えてくれ……マフティ。

 俺は後何匹、鬼を退治すればいい?

 テスタロッサは何も答えてくれない」


「あぁっ!? さっきからテッサは答えてるだろうがっ!

 こっちは治療で忙しいんだから話しかけんなっ!!

 おい、おっさん! 無茶せずに、こまめに帰って来い!」


……いや、この子の声が小さ過ぎて聞こえないんですわ。


「おらっ! 終わったぞ! しっかり働いてこい!」


「わ~い、鬼退治たのしいなぁ!!」


俺は彼女に思いっきり背中を叩かれて送り出された。

マフティの送り出しは、まるで長年連れ添った妻のようである。

威勢がいいだけともいうが、その可憐な容姿と相まってギャップが凄い。

いわゆるギャップ萌えというものである。


ちくしょう、ゴードンさえいなければアタックしていたものを。

イケメンゴブリン爆ぜろ。


俺は愛用の槍を構えて鬼達に突撃した。

愛と怒りと悲しみを背負って。


「うひ~、いったい何匹いるんだよ?」


「さぁな、鬼にでも聞いてみるか?」


リザードマンのリックが槍を巧みに操り鬼を纏めて二匹串刺しにし退治する。

鬼は『赤い』光の粒になって消えてしまった。

退治できたのだろうか? 

それにしては、なんとなくだが違和感を感じる。


「み、皆さん、大変です! 桃先輩からの緊急招集要請です!

 大至急、玉座の間に救援に来てほしいとのこと!」


メルシェ委員長が攻撃魔法でブルトンを援護しながら

とんでもないことを言ってきた。


あの面子で救援要請だなんて、どんだけこいつらの親玉強いんだよ!?

ハッキリ言って俺が行っても瞬殺されて終わりじゃね?


「チッ……嫌な流れだぜ」


「……あぁ、首筋がチリチリするな」


巨大な拳で鬼を粉砕するブルトン。

一方でリーチの短いナイフを好んで使用するゴードンは、

鬼の背後に音もなく忍び寄り鋭いナイフで首を掻き切る、

というとんでもない技を連発している。

おまえは暗殺者か!? と何度ツッコミを入れたかわからない。


「皆、エルティナの下に急ごう」


「でもよぉ、フォルテ。

 この鬼の数じゃとてもじゃないが放っておけないぜ?

 ……あっぶね!! かすった!!」


そう、この数が厄介なのだ。

個々の強さは大したことはないが、それが束になると酷く厄介であり、

傷と疲労が蓄積してゆく最大の原因であった。


「そうも言ってられねぇだろ?

 ここは『お兄さん』に任せて、きみ達は聖女様の下へ行ってくれ」


変わった紙と縄を巧みに操り鬼達の行動を阻害しているのは、

シャドウガードのグレイさんだ。

グレイさんがいなければ俺達が被る傷はもっと多かっただろう。

やっぱ、支援は大事だなぁ。


そんな彼がここに残って鬼を食い止めると申し出てくれたのだ。

でも、正直グレイさんって殲滅力なさそうだけど大丈夫なのだろうか?


「しかし、これだけの数を一人では捌き切れないでしょう。

 我々も残って……」


二人のGD騎士がそう申し出た時のことだった。

大量の鬼が一斉に押し寄せてきたのである。


「マ、マジかよっ!? 冗談だろっ!!」


洒落にならない数の鬼が通路を埋め尽くす。

だが、その鬼達の様子がおかしいことに俺は気が付いた。


「なぁ……あいつら様子がおかしくないか?」


「言われてみれば……何か怯えているような感じがするな」


リックに話を振ってみると彼も鬼の様子がおかしいことに気が付いた。

そして、その原因とも言える存在が静かに姿を現したのである。


「あはは! おっおににっ! たたたたいっじ! いっじ! あははは!」


「て~け~り~・り~!!」「て~け~り~・り~!!」

「て~け~り~・り~!!」「て~け~り~・り~!!」

「て~け~り~・り~!!」「て~け~り~・り~!!」

「て~け~り~・り~!!」「て~け~り~・り~!!」

「て~け~り~・り~!!」「て~け~り~・り~!!」


それはアルアを背に載せて蠢く十体ものショゴスの姿であった。

もう、見てはいけない存在までランクアップされている。

一般人が見たら正気を失いかねないレベルだぞ。


「う~わ~、だ・い・さ・ん・じ・だ~」


「アッハイ、ソウデスネ」


これには耐性を持っている俺とリックも、

エルティナばりの白目痙攣で眺めるしかなかった。

究極未確認生命体ショゴスが鬼達を蹂躙する様を。


「ショゴスさん、まじパネェっす」


格好良いところを掻っ攫われたグレイさんも同様に白目痙攣状態であった。

二人のGD騎士もグレイさん同様に白目痙攣を起こしている。


あぁ……そうか、エルティナはこうやって正気を保ってきたんだな、学習したよ。


「うお~すげぇ~いいぞ~もっとやれ~」


「……ママ、どうしたの?」


「て~け~り~・り~!!」


マフティは正気を保てなかったようだ。

その瞳からは生気が失われセリフが棒読みになってしまっている。

そんな彼女を心配して頬にすり寄るテスタロッサ。


「おまえら、今の内にここを抜けるぞ! ブルトン、マフティを担いでくれ!」


「……わかった」


いやいや!? この二人はこの状況でも正気を保てるのかっ!?

いや、ある意味、もともと正気を保っていなかった!?

わからんっ! 一般モブの俺にはまったく二人の精神構造がわからんっ!!

誰か教えてくれっ!!


「メルシェ、しっかりして、メルシェ」


「うふふ、わたし、ふぉるてのおよめさんになるの。

 こどもはごにんほしいな、あはっ、きっとまいにちたのしいよぉ。けひっ」


くっ! メルシェ委員長はダメだったようだ!

彼女のことはフォルテに全てを丸投げするしかない!

イケメンは苦労しろ! 呪われろ!! ぎぎぎぎぎ!


「おにぃ……」


「同情してくれるか……戦場で出会わなければ良い友人になれたかもな」


俺は逃げてきた一匹の鬼に同情されてしまっていた。

だが彼と俺は敵同士、出会ったらどちらかが倒されなくてはならないのだ。

彼は俺の槍を抵抗なく受け入れた。


「おにぃ……」


「すまない、生まれ変わったら今度こそ友になろう」


名もなき鬼は俺の一撃で昇天していった。

今回はピンク色の光になってだ。


「あはは! たのしっし! たいじうえ! あははは!」


「て~け~り~・り~!!」


アルアとショゴスの狂気の宴は終わることを知らないようだ。

彼女は鬼を救っていると思っているのであろうが、

それを実行しているショゴスに慈悲などない。

敵は皆殺す、を忠実におこなっているのである。


鬼~さん逃げてっ!

と思わず口に出しそうになるも、なんとか踏みとどまった。


「ど、どうすんだよ……これ」


「リック、俺に聞かないでくれ」


途方に暮れる俺達の下にアルアと行動していたダナン達が駆け付けてきた。

おまえら遅いよ! さては様子を遠くから見てたなっ!?


「おい、おまえら! ここはもうアルアにぶん投げてエルの下に向かうぞ!」


「……ききき、私達がいても……邪魔」


ダナンの腕にしがみ付いて浮かんでいる爆乳少女ララァが、

俺達がいても邪魔であるとハッキリと言ってしまった。


そんなことよりも、

最近めっきり綺麗になったララァに視線が釘付けになってしまう。

どことは言わないが男なら仕方がないと言えよう。

俺も色気づいてきた年頃なのだ。


「あっはい、そうですね。ダナン爆ぜろ」


「なんで俺っ!?」


拒否権はない。

意外にリア充のダナンに溜まっていた陰の感情をぶつけすっきりした俺は、

この場をアルアとショゴス軍団に任せ仲間と共にエルティナの下へと急いだ。


……アルアに行かせた方がよかったんじゃないのかな? と思ったのは内緒だ。

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