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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
382/800

382食目 鬼穴

◆◆◆ トウヤ ◆◆◆


……順調だ。戦いは我々に優位で進んでいる。

このままいけば解放軍の勝利で終えることができるだろう。


だが、順調に進んでいる時こそ、十分に気を払わなくてはいけない。

それで何度も足元を掬われてきたのだから。


特に桃吉郎と共に行動する時は、ほぼ百パーセントという確率で何かが起こる。

その生まれ変わりであるエルティナがここにいるという時点で、

俺は察しなければならないのである。


「桃先輩! あの立派な扉か!?」


ライオットが指差す先には目的地を阻む巨大な扉があった。

ようやく目的地の目前まで辿り着いたのである。


『データでは、あの向こう側が玉座のある部屋だ。

 流石に多くの鬼で守りを固めていることだろう。

 突入の際は十分に気を付けるように』


大袈裟なほど巨大な扉には見事な装飾がなされていた。

鮮血のように真っ赤な扉だ。

この扉を作り上げた職人は何を想って、このような扉を作ったのであろうか。


「血のように赤い扉ですわね……好みですわ」


「……ブランナは血がご馳走だものね」


ブランナが扉の色に釘付けになっていた。

確かに吸血鬼が好みそうな色合いではある。

もしかしたら……吸血鬼の職人がこの扉をこしらえたのだろうか?


いや、今はそのようなことを考えている時ではない。

やれやれ、エルティナの思考パターンが感染しつつあるな。

しっかりしなくては。


『よし、皆、合図と共に突入する。準備はいいか?』


俺の確認に子供達は無言で頷いた。

その顔はいずれも戦士の表情を湛えている。


よくぞ、ここまで成長したものだ。

故に、ここで死なせるわけにはいかない。

彼らはこの世界の希望なのだから。


『行くぞ……突入!!』


ライオットとルドルフが渾身の力でもって重々しい扉を開け放った。

内部は不気味なほど薄暗く、人間がいるような気配はない。

そう、『人間』はいなかった。


「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


威嚇するように唸り声を上げる下級の鬼の群れがそこにあったのだ。

その数およそ六十。

この城の玉座の間は広く作られているらしく、

六十体の鬼が存在していても窮屈さは感じられなかった。


「あらあら~、団体さんのお出ましね~?」


「残念だったな、糞野郎レヴィアタンゲスしかいねぇってさ」


「あぁ!? なんだそりゃぁ!? 責任者でてこい! こらぁ!!」


その責任者は玉座に居座っているあの黒い鎧の大男であろう。

その名はハーイン。

かつてのティアリ王国統一戦争の英雄にして、

闘神ダイクの無二の親友というデータが残っている。


……ん? だが、データの写真とあの男の顔はまったく違う。

はて、この写真は古いデータのものだが、

そこまで顔が変わってしまうものであろうか?


「ふん、鬱陶しいハエ共がやってきたか」


そう言うと大男は玉座から立ち上がり傍らに立てかけてあった

真っ黒な大斧を手に持ってニヤリといやらしい笑みを作った。


「我が名はジークライド。ハーイン様に仕える四天王が一人!

 我が主の命にてこの玉座を護る者!

 たとえ子供とてハーイン様に盾突く者は容赦はせぬ!

 死して魂を貪り食われるがいい!!」


なんだとっ! ハーインじゃない!?

バカな……玉座を放り投げてどこへ向かったというのだ!?


『聞こえるか、トウヤ少佐。

 緊急事態じゃ、ハーインがこちらに姿を現した。

 まんまと裏をかかされたということじゃな。

 今は怒竜の桃使いが交戦中じゃが旗色が悪い。

 すまんが急いで戻ってきてくれ』


ドクター・モモが魂会話で状況を知らせてきた。

最悪だ、奇襲を読まれていたのか、たまたまなのかはわからない。

だが、この状況はとてつもなくまずい状況だ。


だとしても、ここから引くわけにはいかない。

目の前にいる男は人から鬼に堕ちた存在だからだ。

ここを放り投げて本隊の下に帰還するわけにはいかない。


『皆聞いてくれ、俺達はいっぱい食わされたようだ。

 ここに居たはずのハーインが本隊に撃って出たらしい。

 現在、ガルンドラゴンのシグルドが交戦中だが状況は悪いらしく、

 至急戻るようドクター・モモからの要請が来ている。

 だが、我々はこの鬼達を放り投げて戻るわけにはいかない!

 速やかに浄化し、本隊に戻るぞ! いいな!!』


「「「おう!」」」


頼もしい返事が返ってきた。

と同時に気の抜けるような鳴き声も聞こえてきたのである。


『ふきゅん! ふきゅん! ふきゅん! ふきゅん! ふきゅん!』


腹でも空かせているのだろうか?

それにしては切羽詰まったような鳴き方であるが……。


「この鳴き方は……エルティナが警戒を促している!?

 この部屋には恐ろしい何かがある可能性があります。

 桃先輩、周囲の索敵を願います!」


『なんだと!? わかった、索敵を開始する。』


ルドルフがエルティナの鳴き方は警戒を促すものだと判断し、

俺に周囲の索敵を頼んできた。

無論、断る理由はない。

迅速に索敵をおこない、周囲に異常がないかどうかを調べ上げる。


というか、よくエルティナの鳴き声の微妙な変化を理解できるものだ。

俺はいまだに理解できない。というかしたくない。


……こ、これはっ!?

巧妙に隠しているが……まさか、そんなっ!!


『なんということだ! き、鬼穴だ! 鬼穴が開いているっ!!』


「鬼穴!? ってなんだ?」


襲い掛かってきた鬼を殴り飛ばしたライオットは鬼穴について訊ねてきた。

間違いなく、これは第一級の緊急事態だ。優先度はハーインよりも高い。


『ジークライドの背後にある僅かな空間の歪みが見えるか? あれが鬼穴だ。 

 おかしいとは薄々感じていたのだ。

 いくら女性型の鬼がいるとしても鬼が多過ぎると。

 あの穴は鬼の本拠地に通じる穴だ。

 そこから鬼共が這い出てきているのだろう』


そう言っている間にも鬼達が空間を通って姿を現している。

やはり間違いない、鬼穴だ。

ということは、今まで遭遇してきた下級と思っていた鬼は、

鬼穴から這い出てきた『鬼ヶ島の小鬼』ということになる。


「ということは、あの穴を潰さぬかぎり

 鬼の出現を止めれぬということでござるか」


『そういうことだ、ザイン。

 今這い出ている鬼は鬼ヶ島の小鬼ということになる。

 あの広がりようであれば、後十数分後には下級の鬼が出てくるはずだ。

 それまでに鬼穴をなんとしてでも塞ぐんだ!』


「桃先輩、下級の鬼程度なら僕達全員で掛かれば倒せるのでは?」


『プルル、鬼ヶ島本島の鬼達を異世界で生まれた鬼と同一にはできない。

 奴らは常に怨念と憎悪が集まる掃き溜めに生息している生粋の鬼だ。

 その強さは尋常ではない、戦ったことのある俺が保証しよう。

 恐らく下級の鬼が出てきたら……

 最悪、モモガーディアンズに死者が出る可能性が高い』


冗談抜きで、下手をすれば全滅の可能性も出てくる。

カーンテヒルの上級の鬼達が鬼ヶ島では下級……

或いは小鬼程度になってしまうのだ。


そう、純度が違い過ぎる。

今鬼穴から這い出ている小鬼も生まれたての鬼だ。

生まれたてでも、これほどまでの強さをもっているのである。


鬼ヶ島で生まれた鬼達は、その残虐性も凶暴性も、

そして何よりも強さが桁違いなのだ。


「じょ、冗談きついぜ、桃先輩」


『俺は冗談は言わない、キュウト』


ごくりと息を飲む音が聞こえてくる。

小鬼と戦闘中の者達も事の重大さを理解したようだった。


『モモガーディアンズ全員に集合を掛ける!

 世界の存亡を賭けた一戦になるだろう! 全力で鬼穴を破壊するんだ!』


「「「「おうっ!!」」」」


今から招集して間に合うかどうか?

首筋がチリチリと焼ける感じがする。嫌な感覚だ。


果たして、俺達は鬼穴を破壊して鬼の侵入を防ぐことができるのだろうか?

この世界の存亡を賭けた戦いが始まろうとしていた。

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