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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
370/800

370食目 モグラの戦士達

一時間後、モグラ獣人の棟梁モック・ルルセックが

数十名にも及ぶ作業員を引き連れこの砦に転移してきた。

そのいずれもが作業着に身を包み、

溢れんばかりの気力に満ち溢れていたではないか。


「ルルセック土木のモック・ルルセックッス」


「バドン土木のワック・バドンだに」


「ガリア土木のナック・ガリアだす」


なんと、モックは自分だけではなく他の土木仲間にも声を掛け、

集めれるだけの作業員を引き連れて参じてくれたのであった。


「モグラ獣人の作業員八十八名……この仕事に命を懸けに来たッス。

 さぁ、どんな仕事でもやり遂げて見せるッスよ!」


「命懸けの仕事……燃えてきただに!」


「わすらの戦いはこの仕事だす。

 土木関連なら、わすらに敵うヤツはいないだすよ!」


彼らの勇気ある決断に、我々も勇気付けられることになった。

ヤッシュ総司令の立案した奇策が現実のものとなろうとしていたのである。


「ヤッシュ・ランフォーリ・エティルです。

 あなた方の勇気ある決断と協力に感謝いたします」


ヤッシュ総司令は彼ら三人の棟梁を席に招き入れ、

ティアリ城攻略会議を再開させた。


「前回話したとおり、ティアリ城周辺は険しい山々に囲まれ進軍は不可能に近い。

 尚且つ、ティアリ城に続く唯一の街道は反乱軍の兵に抑えられており、

 正面からの突破は困難である。

 よって、モグラ獣人の彼らの手によって山を掘り進み、

 ティアリ城までの道を作ってもらう」


「今考えると無茶苦茶な作戦だな」


アルフォンス様が呆れた顔になるのも無理はない。

トンネルが開通するまでに何年かかるかわからないのだから。


「奇襲とは不可能を可能にしてこそ、もっとも威力を発揮する。

 ホルスートが調べたところ、ティアリ城の北東に位置する『タマル山』が

 最も掘る距離が短くて済むようだ。その距離……十三キロメートル」


「……っ!?」


誰しもが顔を見合わせた。

現在最も長いとされるトンネルは、

ドロバンス帝国の『グレートライントンネル』であり、

その距離七キロメートルである。

実に二倍近くのトンネルを掘れと彼は言っているのである。


「これを……一週間でやり遂げてほしい」


「無茶ですっ!『グレートライントンネル』で八年も掛かったのですよ!?」


これに反論したのは無茶を平気にこなすフウタ男爵であった。

彼でもこれは無理であると判断したのだ。


「五日……いや、三日で十分ッス」


だが、更なる無茶な条件を言う者が現れたのである。

それは他ならぬモグラ獣人の彼らであった。


「わっすらは命を懸けに来たと言ったはずッス」


「そうだに、この仕事は十分に命を懸ける価値があるだに」


「わっすらに任せるだす」


「いくらあなた方でも……!!」


食い下がるフウタ男爵をモック棟梁は制した。


「心配してくれるのはありがたいッス。

 でも、わっすらはあなた方人間とは違うッスよ。

 大丈夫……任せてくれッスよ!」


「……」


ここまで言われては流石のフウタ男爵も引き下がるしかなかったようだ。


「それじゃあ、早速現場に向かうッス。

 大将さん方は三日後の戦いに備えてくれッスよ〜」


と言い残し、彼らは作業員を引き連れてタマル山へと向かったのだった。

ここまでくれば彼らを信じるしかない。

我々は彼らがくれた時間を有意義に使用し、

来るべき戦いに備えることこそ、彼らの苦労に報いることになるのだ。


会議室の誰しもが互いの顔を見合わせ頷いた。

時間は多いようで少ない。

ボヤボヤしている暇はないのである。


「三日後の報告によって奇襲を仕掛ける時刻を決める。

 各々は抜かりなく準備を頼む! 解散!」


ヤッシュ総司令の解散の言葉を聞き届けた者達は席を立ち、

思い思いの場へと去って行った。

それは彼らが自分の為すべきことをよく理解しているが故である。

しかしながら、私にはここ以外に行くべき場所はなかった。


『ふきゅん』


何故なら、私のいるべき場所はエルティナの傍であるからだ。

その彼女は現在チゲの中に収納されており、

時折存在感を示すために鳴いている。


「さて、ルドルフ。私も作戦を更に煮詰める。

 エルティナのことをよろしく頼む」


「はい、お任せください。ヤッシュ総司令」


エルティナを託された私はチゲを連れ立って中央会議室を後にした。

ヤッシュ総司令はホルスートさんと作戦を完璧なものにするため、

会議室に残って話し合うそうだ。


果たしてモグラ獣人達は本当にトンネルを三日で掘り終えれるのだろうか?

全ては彼らに掛かっていると言ってもいい。

それ以上掛かれば、反乱軍に先手を打たれる可能性が高いからだ。


この砦の所在がいつまでも隠しとおせるとは思えない。

もしも、この場所が相手に割れてしまえば、

大軍を以って攻め寄せてくることは明白である。

この戦いはとにかく時間との戦いでもあるのだ。


「全ては三日後……ですね」


そう考えているとクゥと腹が音を鳴らした。

時間を確認すれば、そろそろ午後六時になろうかという時間だ。


「もうこんな時間ですか。

 そろそろ、エルティナも鳴きだす頃ですかね」


『ふきゅん、ふきゅん、ふきゅん、ふきゅん、ふきゅん』


午後六時になると同時に鳴き出す白エルフの赤子。

これはもう何かの特殊能力ではないだろうか、と思い始めている。


「はいはい、今ミルクを用意しますからね」


私は取り敢えず自室へと向かった。

そこであるなら、女装していても見られることはないだろうから。

やれやれ、早く大きくなってほしいものだ。




◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


いかん、いかんぞぉ!!

うちのパパンはなんて連中を呼び寄せたんだ!


俺は美女に抱きかかえられミルクをちゅっちゅしつつも、

パパンがやらかした事案に頭を抱えていた。


あ、ちなみに美女はルドルフさんのことである。

いやマジで美人過ぎて洒落にならない。

この人は本当にパオーン様が付いているのだろうか?


いやいや、そんなことよりもだ。

桃力で聴力を強化した結果、俺は自分の置かれている立場を理解した。


うん、理解した途端に白目痙攣になったぜ。

赤ちゃんを戦争に連れてきたらダメだろう。

鬼が絡んでいるのはわかったが、今の俺ではなんの役にも立たないぞ。

しかも、鬼退治する前に更なる鬼を呼び寄せおって。


いくら俺でも『仕事の鬼』は退治できないって言ってんだろっ!

今回のあいつらはマジでヤヴァイ! 命を懸けるって言ってたぞ!

今の俺はアスラムの実を作ってやれないんだぞっ! いい加減にしろっ!


このままでは、もぐもぐ達が全員揃って天使様になってしまう。

なんとかして無茶をする前にストップをかけてやらなくては……

とは言ったものの、今の俺では何一つ満足に行動することができない。


「けぷっ」


「はい、沢山飲みましたねぇ」


ルドルフさんの微笑みマジ女神。

背中を擦ってげっぷを出させてもらった俺は取り合えず喜んでおいた。

自分でげっぷもできんとは情けない。

早く景気よく『げふぅ』といきたいものである。


そのために身体を成長させたいものであるが、

やはりミルクでは桃力の生成は微々たるものであった。

せめて桃先生の果汁を飲むことができれば違うだろうが、

そのことに気が付いてくれる者がいないのが現状だ。


桃先輩も近くにいるのに物凄く遠くにいるような感覚で、

まったくコンタクトが取れない。

ええい、もどかしい。


なんとかして大量に桃力を生成できる術はないものか?

あるいは俺の言葉を伝えることができる手段があれば……。


はっ!? ある、あるじゃないかっ!! やはり俺は天才だった!

俺がダメなら他の者に頼めばいいのだ! 頼んだぞっ!!


俺の願いを聞き入れ一人の戦士が立ち上がった!

彼は俺の頭の天辺からにゅっと飛び出て、

俺の託した言葉をルドルフさんに熱く伝えたのである!


『いもっ! いもいもいもっ! いも~っも! いももっ!!』


「? どうかしたのですか、いもいも坊や」


ルドルフさんはいもいも坊やの熱弁に首をかしげて困った顔をした。

その顔を見て俺はこの作戦の失敗を悟ったのである。


し、しまったぁ! いもいも語はルドルフさんにはレベルが高過ぎたっ!

これでは理解どころの話ではない!

くそっ、失敗だ! いや待て! 諦めるにはまだ早い!

俺にはまだ、彼がいるじゃないか!!

頼んだぞ! 俺の最高のガーディアン!!


俺の『鼻の穴』から魂の守護者がにょきっと顔を出した。

何故そこをチョイスしたのか……これがわからない(白目痙攣)。


俺の桃力が少ないため普通のヤドカリサイズであるが、

鼻の穴が痛いような気がするので勘弁願いたいものだ。


『…………』


「おや、ヤドカリ君もですか? でも、喋れないのでは……」


なんてこったぁぁぁぁぁっ! 問・題・外だったぁぁぁぁっ!!


よくよく考えたらヤドカリ君は喋れねぇじゃねぇかっ!!

ふぁっきゅん! もうこれまでかっ!?

いや、まだだ! まだ終わらんよっ!!


俺にはそう! 彼女が残っている!

さぁ、貴女が勝利の鍵だっ! おいでませっ、初代様!!


『ただいま留守にしております。

 ご用件の方は発信音の後にメッセージをお入れください。

 ぴぃ~~~~~~~~っ』


どこにいったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 初代様っ!!

しかも『ピー』って自分の声で言ってんのかよっ!!

あぁもう、滅茶苦茶だよっ! もういい! 俺は不貞寝するっ!!


完全敗北を喫した俺は、

いつか立ち上がる日を夢見て深い眠りに落ちていった。

赤ちゃん故、致し方なし(熟睡)。

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