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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
368/800

368食目 怪音

パパンのお髭攻撃をなんとか耐え凌いだ俺は、

自分の置かれた現状の危険度を改めて認識した結果となった。

初代には悪いが、このまま赤ちゃんライフを満喫していては命にかかわる。

全てを喰らう者・闇の枝でさえ、パパンのお髭には敵わなかったのだから。


『ふきゅおん……』


『みなまで言うな……わかってるから』


すっかり自信を無くして俺のなかの隅っこでいじけている闇の枝を慰めつつも、

俺はこの現状の打開策を思案していた。

それを達成するには幾つかの条件をクリアーしなくてはならない。


まずは体の五感を使用に耐えれる程度に成長させなくてはならないだろう。

特に視覚と聴覚は重要だ。

現在の俺では物がぼやけて見えるし、

音も近くでないとよく聞こえていない状態だ。

そのわりには味覚と嗅覚が異常に発達している。

いや、成長していると言った方がいいか。


まさか、美味しくミルクを飲むためだけにその部分だけが成長して……?

自我が芽生えていないのに俺は食いしん坊だった……!?(呆れ)


触覚も大切な感覚ではあるが、これは後回しでもなんとかなる。

寧ろ、鈍い方がパパンのお髭攻撃に耐えられるので都合がいい。


後は無論というか、身体を成長させ自由に行動できるようになることである。

こればかりは急に成長させることはできないと思われる。

俺の体の成長は経験上、

大量の桃力と何かしらの要因が必要になってくるからである。

どおりで身長も伸びないし、食い過ぎで太ったりしないわけだ。


現在俺の中に蓄えられている桃力はそれほど多くはない。

美味しい食べ物を食べることによって、

効率よく桃力の生産をおこなえるわけであるが、

今俺が口にできるものといえばミルクのみであり、

しかも粉ミルクであるため、

桃力の生産効率は最低ラインであることが確認されている。


これが母乳なまおっぱいであるならば、また違うことになるのだろう。

でも、それは乳母でも居てくれない限り期待できない。

母乳なまおっぱいであるなら、最高の栄養に加え限界を突破する愛情により、

俺の桃力の生産速度は危険な領域に突入するはずである。


さて、ないものをねだっても仕方がない。

あるもので現状を打破しなくては、この先やってはいけないだろう。

まずは自分の桃力の残量を確認する。

全て使ってしまうことなどできないので、

必要最低限の使用に留めなくては……。


であるなら、視覚と聴覚、

後はハイハイできる程度の肉体の成長に桃力を注ぎ込もう。

それっ。


みゅい~ん、みゅい~ん。


ふぅ、成長した気がするぜ。

しかし、これだけで桃力はほぼなくなってしまった。

流石は赤ちゃん、無力過ぎる。


取り敢えずはパパンが寝ている隙にハイハイを練習しておこう。

よもやハイハイを練習することになろうとは……

この聖女の目をもってしても見抜けなんだ!(節穴)


俺は渾身の力を込めてうつ伏せになった。ころん。

これだけでも、凄く筋肉を使う。もう疲れてきたが弱音を吐くにはまだ早い。

今度は手足を使って体を持ち上げた。


プルプルと手足が痙攣する。

少しばかり桃力をケチり過ぎただろうか?

だが、なんとかハイハイの状態まで持ってゆけた。

後は前進できるかどうかである。


こいつ……動くぞ!?


自分の身体であるので当然であるのだが、

初めの一歩というのはいつだって新鮮で興奮するものだ。

俺も例に漏れることなく「ふきゅん、ふきゅん」と興奮の声を上げたのである。

それは次第に気合いへと変わり、そして最後は悲鳴へと変じていった。

遂には身体を支えることが困難になり、その場に沈んでしまったのである。

へちょっ。


マジできつい、もう無理、だって赤ちゃんだもの。


距離にして一メートルも移動してはいないだろうが、

今はこれが限界のようだ。

まぁ、もともとの種族が肉体的に貧弱なので仕方のないことであろう。

これからじっくりと桃力を蓄えて身体を強化しなくては(使命感)。


そのようなことを考えていた時のことであった。


ぶぉっ!


という怪音が聞こえたではないか!?

それも俺の超至近距離でだ!!


これはまずい!

この音は紛れもなくパパンのくっさいオナラだ!!


俺は迂闊にもパパンの下半身の方に移動して力尽きていたため、

恐るべき威力を秘めたガスの直撃を受けてしまったのである。


「ふきゅんっ!?」


そのあまりの臭さに耐えることができず、

俺は意識を手放してしまった(白目痙攣)。


ざんねん! ちんじゅうのぼうけんは ここでおわってしまった!




◆◆◆ ルドルフ ◆◆◆


私が目覚めたのは昼近くであった。

どうやら疲れていたようで、

ハマーが起こしに来るまでまったく目覚めることはなかったようだ。


「お前の可憐さが、このファンシーな部屋にマッチして恐ろしいな」


「好きでこんな容姿をしているわけじゃないよ」


「いや……俺がいっているのは、その仕草を含めてなんだが」


私はぼやける目を擦っただけなのだが、

ハマーはそれすらも女性のような仕草だという。

私はどうすればいいというのだろうか?


「あふぅ、取り敢えずは着替えるか」


「あぁ、そうするといい。着替え終わったら中央会議室に集合だぞ」


「わかった」


彼はそう言い残して部屋を後にした。

私は寝巻きを脱ぎ軍服に着替えようとして、

姿鏡に映った自分の裸を見てしまった。


この部屋には大きな姿鏡が設置されており、

身だしなみを確認することができる。

これもフウタ男爵がエルティナのために用意した物であるのだが、

この部屋を使うであろうと想定していた彼女は、

彼女の父親の部屋で過ごしている。

そもそもが、まだ赤ちゃんなのに何故このような物を設置したのだか。

やはり、天才と凡人とでは考えていることが違うのだろう。


「それにしても……相変わらず華奢な身体だ」


鏡に映っている女性と見間違えるような男性は、

深い溜息を吐き憂鬱な表情を浮かべた。


おっと、いけない。

腕を抱えて俯くなとハマーに言われていたんだった。

どうにもその仕草が女性っぽさを増幅させてしまっているようなのだ。


「もう少し筋肉も付いていいものなんですがねぇ」


私の腕には筋肉というものがないのであろうか?

並みの男など敵わないほどの腕力を有している私であるが、

何故か筋肉が付かないのである。

ハマーと同じトレーニングをこなしているというのに、

彼の腕は筋肉隆々となるのに対して、私の腕はほっそりしてゆくのだ。


ムキになってトレーニングを増やしたのだが、

腕は逆に細く柔らかくなってゆく。

それはハマーに「お前の身体はどうなっているんだ?」

と呆れられるほどであった。


「うう、筋肉がほしい」


もうなで肩で、腰が細くて、尻が大きいのは我慢するから。

とにかく私は筋肉がほしかった。

筋肉さえあれば男らしく見られる確信があったからだ。

私は女性のような丸みを帯びた身体は嫌なのである。


「本当に私の身体はどうなっているんでしょうか」


私は腹筋が一万回できるプニプニの腹部を摘み、

何度目かになる溜息を吐いた。


「ルドルフさん、起きてる?」


ノックもなしに突然ドアが開け放たれ、

三人の少年少女が入ってきた。

私は着替え中だったので全裸である。


「……」


「あ、すみません。今着替え中でして……」


彼らは目を見開き、身体を震わせた後……何故か私に飛びかかってきた。


「細い腰っ!!」


「ふっくらとしたケツっ!!」


「ちょっと待ってくれ! ルドルフさん……乳はどうしたんだ!?」


「正気に戻りなさいっ! 私は男です!!」


錯乱したロフト、スラック、アカネが私に纏わり付いてきたのである。

あぁ、もう。どうしてこうなったんだ。

私は彼らを宥めつつ、自分の身体を呪った。


はぁ、今日も憂鬱な一日の始まりだ。

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