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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
361/800

361食目 めっ!

「ダーリン、愛してるぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


「うぬっ、今はそれどころではあるまいっ!」


ユウユウの抱き付き攻撃を全力で回避するガルンドラゴン。

しかし、運悪く傍にいた反乱軍の兵士が彼女に抱き付かれてしまった。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


ベキベキと鈍い音がし身体がくの字に曲がった兵士は、

そのままの姿で地面に沈んだ。

鎧ごとへし曲げられ元の姿勢に戻れないのである。


恐ろしい腕力だ。彼女の前では鎧など意味を成さないのかもしれない。


「あぁっ! うらやまけしからん犠牲者がっ!」


「しっかりしろ! 死ぬ前に感想を言うさね!」


「い……いい匂い、ぐふっ」


兵士はそう言い残すと力尽きた。

ロフト、スラック、アカネは無言でその兵士に敬礼を捧げる。

彼らの間には奇妙な友情ができあがっていた。


だが、今はそれどころではない。なんとかして二人を止めなくては!


「止めなさい、ユウユウ! 今はそれどころでは……」


「今! やらなくて! いつ! 犯るのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


……えっ?


「言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「俺達に言えないことを平気で言ってのける!」


「そこに痺れる! 憧れるさねっ!!」


……聞き違いであってほしい。

あぁ……でも、ロフト達も聞いているし、本当のことなのだろうか?

いやいや、きっと私は疲れているのだろう。

うん、そうだ。きっとそう。だから、ききちがいだ、まちがいない。


「ルドルフさん! エルみたいになっている場合じゃない!

 早く止めないと、めちゃくちゃになるぞっ!!」


……は!? いけない! 意識が遥か彼方に飛んでいた!


ライオットの声が私を現実に呼び戻した。

アルフォンス様に代わってモモガーディアンズを先導しなくてはならない私が、

こんな体たらくな姿を晒してどうする? しっかりしろ、私!!


「ユウユウ! この場は反乱軍をなんとかしてください!

 その後なら……『ガルンドラゴンを好きにしていい』です」


「な、汝!? なんということを……!」


「うふっ、うふふふふふふふふふふふ!

 なら! 反乱軍を! ぶっころしてあげるわぁぁぁぁぁぁっ!!」


これでよし。すまないが彼には生贄になってもらう。

どういう経緯でここにいるのかは知らないが、

ユウユウに好かれてしまった、きみの不幸を呪ってくれ。


「あはっ、皆殺しよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


ユウユウの身体から禍々しく輝く赤黒いオーラが放たれる。

その他を威圧する圧倒的な力は、

弱い能力しか持たない者達の意識を次々に刈り取っていった。


「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!? な、なんなんだ、こいつはっ!!」


「た、助けてくれぇ!!」


彼女の能力は敵味方関係なく作用しているようで、

ダナンなどは泡を吹いて失神している。

しかし、最も彼女の近くにいる狸獣人の少女プリエナはどこ吹く風であった。

ひょっとしたら陰の実力者なのだろうか、と錯覚を覚えてしまう。


「さぁ、良い声を聞かせて頂戴なっ!!」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


ユウユウが戦場を埋め尽くす敵兵の中へと飛び込んだ。

そして、間もなく悲鳴と共に戦場は大混乱に陥った。

もうどちらが正義だの悪だの、

と論じている場合ではないほど大混乱に陥ったのである。


「おい、しっかりしろ!!」


「俺は敵だぞ!? なのになんで助けてくれるんだ!!」


「そんなこと言っている場合じゃないだろ! 死にたいのか!!」


「……し、死にたくねぇよっ!!」


その結果、どうなったかというと……

ユウユウの圧倒的な暴力の前に、

敵味方関係なく手を取り合い戦場を離脱し始めたのである。

奇妙なことに敵同士だった兵士達が肩を貸し合い、

必死にユウユウの魔の手から逃れようと必死に遠ざかってゆく。


「あははははははははははははっ! もっと悲鳴を聞かせなさい!」


なんということだろうか? 戦場に降臨したのは正義の戦士ではなく、

冷酷無比で血も涙もない悪魔だったのである。


あ、本物もいたのだが、『彼女』の方がまだマシの思えるのだから酷いものだ。


「このクソあまぁ! 俺様の活躍を掻っ攫うんじゃねぇよ!!」


「あら、貴女まだいたのね?

 ガイには釣り合わないから私が消滅させてあげましょうか? クスクス」


「あぁっ!? 上等だ、くそがきっ!!」


いや、本当に止めてくれ。収拾が付かなくなる。

エルティナが導かないモモガーディアンズが、ここまで酷いとは思わなかった。


先ほどまで止めた方がいいと言っていたライオットも、

我先に敵兵に肩を貸して遠ざかっている。

この行為を素直に褒めたいところなのだが、

彼が計画的に逃走した、と思ってしまっている自分がいた。


私の心は汚れているようだ。はぁ……。


しかし、この状況をなんとかしなくては。

でも、どうやって? 冗談抜きに、この二人は私の手に余る。


「こらぁ! ふたりともけんかしちゃだめぇ! めっ! だよぉ!」


その声に、ユウユウとレヴィアタンがピタリと動きを止めた。

二人を止めたのは、なんと狸少女のプリエナだったのだ。


「あぁ? なんだ、このくそ……」


「めっ!」


「うっ……」


なんということであろうか? 強大な力を持つ悪魔が、

非力であろうと誰しもが思う幼い少女に気圧されているではないか。

この異常事態に敵味方関係なく顔を見合わせ、成り行きを見守っている。


「プ、プリエナ。こいつとは決着を……」


「め~っ! けんかしちゃだめっ!」


「……はい」


あの恐るべき殺戮少女ユウユウですら、

怒った狸獣人の少女の前では借りてきた猫のようになってしまったではないか。

私が構築していたモモガーディアンズのヒエラルキーが崩壊した瞬間であった。

このクラスの頂点は、もしかするとプリエナなのかもしれない。


「うおっ、プリエナが怒った!?」


「……普段は一切怒らないから、迫力が段違いね」


これにはライオットとヒュリティアも驚いた表情を見せた。

やはり、彼女が怒るのは珍しいケースのようだ。


プリエナの活躍によって両者の激突は避けられた。

だが、この仲裁が思わぬ結果をもたらしたのである。


「敵である俺達をまで救ってくれるとは……なんという心優しい少女だ」


「俺達は契約に縛られて協力はできないが……

 あんた達に敵対することは金輪際止める!」


なんと、彼女の優しさに感動した兵士達が武器を捨てて投降してきたのである。

これは盛大な勘違いが生み出した奇跡であろう。


「わかった、貴君らの投降を認める。

 ヤッシュ・ランフォーリ・エティルの名において、

 貴君らの命の保証を約束しよう」


「エティル……!? まさか、聖女の……!?」


ヤッシュ総司令がフルネームを名乗ったことによって、

投降兵の不安な表情は消え去った。

聖女エルティナの名は遠く離れた島国にまで届いていたのである。


「お、俺達は家族を人質に……!!」


「わかっている、皆まで言うな。よく耐えたな」


「う、うう……!!」


兵士の一人がヤッシュ総司令にティアリ王国の現状を説明した。

やはり待遇は酷いらしく地獄のような日々が続いており、

このままでは滅亡寸前である、と疲れ切った兵士は語った。


「ヤッシュ総司令、俺は傭兵団の隊長ルバールだ。

 我が傭兵団はあんたに力を貸そう」


「しかし、契約があるのでは?」


「今日の午後四時で契約は満了している。新しい雇用先を考えていたところだ」


奇跡は奇跡を呼び繋がってゆく。

協力を申し込んだのはルバール傭兵団。

なかなか名のとおった傭兵団で実力も上位に位置する有名どころだ。


「それはありがたい。ぜひ、きみ達を雇わせてほしい」


「契約成立だな。この命、あんたと聖女様のために使わせてもらう。

 無論、そこの女神様にもな?」


ルバール・キルトはキョトンとした表情のプリエナに笑顔を送った。

彼の表情を見て彼女も笑顔を返す。

その穢れなき笑顔を見て、ルバールは剣を抜き彼女に向かって掲げた。


「ようやく、この剣を捧げる相手を見つけた。

 我が名はルバール・キルト。貴女に、この剣と命を捧げる」


彼に習い彼の率いる傭兵団は、

全員プリエナに剣と命を捧げる誓いをおこなったのだ。

このおこないに、彼らをまだ警戒していた騎士達は毒気を抜かれることになる。


「よくわからないけど、おともだちになってくれるんだよね?

 ぷりえな、うれしいよぉ」


「お友達……はは、そりゃいいや」


プリエナの言葉で緊張していた場が和らいだ。私も思わず顔が緩む。

彼女の純粋な優しさが傭兵達の心を溶かし安心させてゆくのがわかる。

まるで聖女エルティナのように……。


この日、圧倒的な戦力差をひっくり返しオルア村を護りきった我が軍は、

ティアリ王国の隅々まで聞こえるように勝利の雄叫びを上げたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴様、ま、まさかジョ○ョにも手を出していたのか!
2021/07/29 20:43 思いつかない!(八つ当たり気味)
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