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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
360/800

360食目 戦場、そして深まる混沌

先行したアルフォンス様に代わり、モモガーディアンズを先導する。

軍としての配置は最後尾となっていた。


緊急事態ということもあり軍の進行速度はかなり早く、

子供達では付いてこれない可能性があったためである。

また、オルア村に向かっている反乱軍の中に鬼がいたとしても、

ある程度なら持ち堪えられると予測したヤッシュ総司令の判断だ。


そのような進軍速度であったが子供達はしっかりと付いて来ていた。

一部の者は体力のある者や、足の速い者に背負われている。

そういった機転を言われるまでもなくやってのけているのは、

素晴らしいとしか言いようがない。


「ほらほら、早く走りなさいな」


「イエス、マム! おまえらぁ、気合いを入れろ!」


「うおぉぉぉぉぉぉぉっ! ユウユウ閣下、ばんざぁぁぁぁぁいっ!!」


足が遅いユウユウはロフト達に担がれて移動している。

そのロフト達はヒイヒイ言いながらも、どこか嬉しそうな表情であった。


「はぁはぁ、たまに触れる柔肌が俺に力を与える!」


「ぜぇぜぇ、まさに極上の柔らかさ!」


「ひぃひぃ、絶景のケツ! 堪らないさねっ!」


……本当に、この子達の将来が心配だ。




砦から出撃して三時間が経過したところで、

もくもくと黒い煙が立ち昇っているのを目撃した。

どうやらオルア村で戦闘がおこなわれているようだ。

更に進軍速度が速まり緊張感が増してゆく。


「煙が……リマス王子と村の人々は無事でしょうか?」


「無事だと言いたいところですが……私にもわかりません」


私の横に並び走るフォクベルトが剣の柄を握り不安気な顔を見せた。

他の子供達も不安げな顔を覗かせている。

一部は嬉々とした表情を見せているが、誰とは言わずともわかるだろう。


先行していた騎士団がオルア村に到着したようだ。

続いてGDゴーレムドレス隊と私達もオルア村に突入する。

そこで見た光景は予想外なものであった。


次々に吹き飛ばされる反乱軍の兵達。

怯え竦みあがり逃走する者も見て取れる。

対する我々も予想外の存在に呆気に取られていた。


凄まじい咆哮と共に吹き飛んでゆく大勢の反乱兵。

その手を一振りすれば紙切れのように引き裂かれ、

彼の纏う黄金の鎧は並みの武器では傷一つ付かなかった。


「ひぃっ! こ、こんなヤツがいるなんて聞いてねぇぞ!?」


「だ、ダメだ! 逃げろっ!」


「うわっ!? お、押すな! くそっ、後ろから次々来るから逃げられねぇ!」


逃げられない兵を太く逞しい尾で纏めて薙ぎ払う。

その怒りに満ちた顔に刻まれた傷を忘れることができる者が、

果たしてモモガーディアンズの子供達にいるであろうか?


「失せよっ! 欲に駆られた愚者共っ!! 我の怒りに触れたいのかっ!!」


開いた大きな口には鋭い牙が幾つも並び、

その凶悪な殺傷能力を容易に想像させた。


そう、その人ならざる黄金の戦士はエルティナの宿敵……

ガルンドラゴンのシグルドであった。


「な、なんでこんなところにガル公がいるんでぃ!?」


ガンズロックが驚くのも無理はない。

あの戦いからまったく行方が知れなかったガルンドラゴンが、

どういうわけか反乱軍と戦っているのである。

これには先に戦場に突入した騎士達も動揺を隠せないでいた。


「おい、おまえらボケっとしてんじゃねぇ!

 このクソッタレ共を叩きのめすのを手伝え!〈サンダーボルト〉!!」


私達を叱りつける声の主は空にいた。

風の大剣に乗り、上空から無数の雷の矢を地上に降り注がせる

魔法使いの姿があったのだ。


「うおぉぉぉぉっ! アルフォンス先生が珍しく格好良いぞ!!」


「これはエルちゃんがよく言う『死亡フラグ』ってやつじゃない!?」


「え~? あるふぉんすせんせい、しんじゃうの?」


愛すべき生徒に散々なことを言われ、空中で肩を落とす偉大な魔法使い。

これは仕方のないことだろう。

彼の真の姿はとてもじゃないが子供達には見せられない。

その純真な心にトラウマを与えてしまうこと必至であるからだ。


「アルフォンス様! これはどういう状況ですか!?」


「ルドルフか! 話は後だ!

 ガルンド……シグルドには一時的に休戦を申し入れた!

 今はこの村を守るために共闘している最中だ!」


「にわかには信じがたいですが……

 この状況では、あれこれ考えていられませんね。

 ところでフウタ男爵はどちらに?」


「リマス王子の護衛を頼んでいる!

 山に潜伏中の解放軍を引き連れて戻って来る予定だ!

 だから、少しでもこいつらを蹴散らしておいてくれ!」


アルフォンス様の言葉で呆けていた騎士達が立ち直り、

雄叫びを上げて反乱軍へとなだれ込んだ。


「うわぁっ!? な、なんだ、こいつらはっ!!」


「な、なんだと!? その紋章は……ラ、ラングステンだ!

 ラングステンの騎士団だっ!! なんで、こんなところにいるんだ!?」


千対七千五百の戦い。

通常であれば、とても勝ち目のない無謀な戦であろう。

だが、それは同じ兵の質であった場合だ。


「恐れるな! 我々は聖女エルティナの加護に護られている!」


「オォォォォォォォォォォォォォッ!!」


まず、気迫が違う。

こちらには聖女エルティナという絶対的なシンボルがいたのだ。

そこに魔族大戦を生き残った騎士達と、

まだ若いが恐れを知らない勇敢な騎士達が力を合わせ敵兵を蹂躙すると、

今度はGD隊が最新の技術をふんだんに使用した超兵器でもって、

反乱軍の兵を駆逐してゆく。

寄せ集めである反乱軍はなす術もなく、次々と爆発の中に消えていった。


「各員は陣形を崩すな! 落ち着いてやればできる!

 一斉射撃! GDの能力を見せ付けてやれ!」


ハマー率いるGD隊の能力は圧倒的であった。

敵兵は彼らに近付くことも許されずに爆散してゆくのだ。

魔導ライフルが、これほど恐ろしい兵器だとは思わなかった。

どおりでドゥカンギルドマスターが開発を渋ったわけだ。

こんな物が他国に渡り量産されたら、

世界の戦力バランスが崩れて最悪、世界大戦に繋がりかねない。


「……圧倒的ではないか、我が軍は」


ヤッシュ総司令が一筋の汗を流す。

その圧倒的な光景に恐怖していたのだ。

僅か千の軍が、その七倍以上の兵を誇る反乱軍を蹂躙する光景に、

総司令ならずとも恐怖を覚える。

従来の戦を全面否定するかのような戦いであったからだ。


だが、相手もただでやられるわけではないようだ。

おびただしい炎の矢が空から降り注いできた。

その量は空を埋め尽くすほどである。


恐らくは反乱軍の後方に陣取る魔法使いの部隊による掩護射撃であろうが、

この放ち方は自軍の被害を考えないものだ。

現に反乱軍の兵達が炎の矢を受け、火だるまになってのた打ち回っている。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!! あちぃ、あちぃよっ!! 助けてくれぇ!!」


人の肉が焼ける嫌な臭いが立ち込める。

このままでは我が軍も甚大な被害を受けてしまう。

早急に対処しなくては。


「小賢しいマネを! 桃力〈固〉!!」


ガルンドラゴンが桃力の能力を使い、

空を埋め尽くす炎の矢をその場に全て固定してしまった。

なんという能力だ、これほどの量を一つ残らず固定してしまうとは!


「HAHAHA! 奴さんも焦ってるなぁ。

 ブラザー、折角だからこの炎の矢をお返ししてやろうぜ」


「我もそう思っていたところだ」


そう言うとガルンドラゴンは咆哮を放ち、

空を埋め尽くす炎の矢を押し返してしまった。

暫くすると轟音が鳴り響き多くの悲鳴が聞こえてくる。


「相変わらず無茶苦茶クレイジー能力スキルだな。

 寧ろ、あの時よりも強化パワーアップされているのか?」


「けっ! んなことは知ったことじゃねぇ!

 小僧、早く人間の魂を食わせてくれよぉ!?」


「やれやれ……しっかり働けよ?」


「あぁ? 俺様に命令すんのか!?」


「滞納している家賃を払えって言っているのさ」


「けぇっ! 言うようになったじゃねぁか!?」


ここで予想外の人物が最初に動いた。

ガイリンクード・エグゼダイトである。


「ひゃっはぁぁぁぁぁぁっ!〈大津波タイダルウェイブ〉!!」


「いきなり、ぶっ放すんじゃねぇよ! 悪魔くそやろう!!」


どこから呼び寄せたのかわからない大量の水は、

全てを飲み込む大津波となって敵兵に襲いかかった。

私も見るのは初めてであるが、

こんなものがいきなり目の前に現れたら対処の仕様がない。


そもそも、水を利用した魔法や技は発動まで時間がかかるものなのに、

殆ど溜め時間もなく発動している。これは驚異以外の何ものでもない。


「ええい、勝手に飛び出して……

 あなた達は降りかかる火の子を払う程度に抑えてください!

 無理をして戦闘に加わることはありません!」


「あらやだ、こんな楽しそうな宴に参加するなというの?」


少しばかり遅れてユウユウ・カサラが戦場に到着した。

最もこの場に来てほしくなかった人物である。

彼女を運んできたロフト達三人はユウユウを降ろした後、

真っ白になって崩れ落ちた。


「へへへ……萌え尽きたぜ。真っ白によぉ」


「うへへ……ケツ、ケツ、ケツ……最高さね」


「太もも、マジパねぇ。もっちもちだぜ……」


ここまで徹底していると、呆れるを通り越して尊敬の念を抱いてしまう。

どうかその情熱を訓練にも回してほしいものだ。


「っ! ユウユウ・カサラ!?」


「えっ……やだ、まさか……ダーリン!?」


そして出会ってしまった二人。正確には一人と一匹。

私は思わず手で顔を覆ってしまった。


「な、汝が何故ここに!!」


「それは私のセリフよ!

 あぁ……やっぱり、私達は運命の糸で結ばれているのだわ!

 さぁ、〈愛死合い〉ましょう! さぁ、さぁ、さぁ!!」


戦場に場違いな真っ白なドレスを翻し、ガルンドラゴンに突撃するユウユウ。

それを見て前足で顔を押さえる黄金の竜。

戦場は混沌を深め始めていた。

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