表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第一章 珍獣と聖女と仲間達
36/800

36食目 対決ガルンドラゴン!

ガルンドラゴンがその巨大な口を開け放って俺に突撃してきた!

立ち上がる砂煙! 響く地鳴り!! 口から覗く鋭い牙!!

その全てが、俺を食らおうとする敵に見える!!


震える足を叱咤し、へたり込むのを辛うじて防ぐ。

恐怖に怯え、ベッドでガタガタするのは後で幾らでもできる!

今は何がなんでも立ち続けろ!


『気をしっかり持て。作戦どおりにいく。

 お前の持つ全ての力を用いて、ガルンドラゴンの動きを封じるんだ』


『応! くらい……やがれっ! ぽいっちょ!』


俺は作戦どおり、ガルンドラゴンの顔目がけて『閃光手榴弾』を投げつけた。

そして、爆ぜる瞬間に腕をかざし、閃光から目を保護する。

膨大な光が瞬間的に辺りを支配した!


……しかし、ガルンドラゴンは止まらない!!


『後輩、もう一度だ。ヤツは目を閉じてこちらに向かっているが、

 二発目はないと油断しているはずだ』


『頭が悪いかと思ったら、意外に賢いな!?

 うっしゃ! もう、いっぱ~つ!!』


俺はもう一度、『閃光手榴弾』を生成し、

ガルンドラゴンの顔に向かって投げつけた。

一度目をやり過ごしたガルンドラゴンは、

油断していたのか今度こそまともにくらった。


『よし、次だ。『落とし穴』の設置を急げ。場所はわかっているな?』


『応! ここまできたんだ……失敗なんてできないぜ!』


設置箇所は、目が眩んでいるガルンドラゴンの足元、

そして……俺の後ろにもう一つだ。


しかし『落とし穴』は設置までに多少時間が掛かってしまうのが難点だ。

そうだ、これは時間との戦いなのだ。


「くそっ……早く、早くっ!」」


わかっているが焦る。

設置前にガルンドラゴンが立ち直り……こっちに向かってきたらアウト。

即ゲームセットだ。

……っ! 余計なことを考えるな! 集中しろ!


しかし、こういった極限状態であっても、

余計なことを考えてしまうのが俺の悪い癖だ。


くっそ疲れる。

生きて帰れたら、ミランダさんのオムライスを腹いっぱい食べよう。


そんなことを考えながら『落とし穴』を設置していた。

考えていたのはほんの数秒だ。

だが、気が付けば……ガルンドラゴンと俺の視線が重なったのだ。


……こっち見んな!!(白目痙攣)


瞬間に嫌な汗が全身から一気に吹き出るのを感じた。

濃厚な死の予感。

直感ともいえる危険信号が俺を支配する!


『魔法障壁、設定は三十層……展開』


桃先輩が強制的に『魔法障壁』を展開する。

俺の意思とは関係なく展開する三十層ものドーム型の魔法障壁。

勝手に魔力が失われる感じに、むず痒さを覚える。


魔法障壁の形成は、融合した桃先輩がやってくれている。

超楽ちんだが、あまり喜んではいられない。

桃先輩が勝手にやったということは、

俺に足りない部分があるということなのだから。


『ゴヴァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』


その直後だった。

ガルンドラゴンの強烈な武器が森を震撼させたのは!

大木がひび割れ粉々に砕け散り、大地はひび割れ砂となって空に舞い上がった!


恐るべき大音量の咆哮だ。並大抵の生物が発せられるものではない。

音の大砲、そうとしか言いようがない無茶苦茶な威力を秘めた怒声。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


魔法障壁で防いでいなければ、今頃俺はミンチになっていたに違いない!

ズタボロになった魔法障壁。

三十層もの魔法の壁は数枚を残して砕け散っていたのだ!

その有様を見て、改めて俺と対峙している者の強大さを理解した。


『三十層もの魔法障壁を砕くか……データの修正開始。

 後輩、おまえは「落とし穴」の生成を続行だ』


『お、応! おえっぷ』


ガルンドラゴンの咆哮は魔法障壁で防いだが、

音によるダメージが深刻だ。

三半規管を揺らされたのか、俺の見ている景色はぐちゃぐちゃだ!

ぐにゃぐにゃになった黄金の竜が目の前にいる。


おっふ……気持ち悪い。


『気をしっかり持て。大丈夫だ時間はまだある』


桃先輩の低く落ち着いた声に我を取り戻す。

俺は『落とし穴』の設置に集中するも、

極度の精神疲労と恐怖で集中力が乱れている。


「落ち着け……俺ならできるはずだ!

 あ、でもやっぱり焦っちゃう! 早く! 早くっ!!」


あ~もう! 魔力が高いからってなんだ!? 聖女だからってなんだ!?

肝心な時に役に立たないじゃないか! ふぁっきん!


頭に余計なことばかり、浮かんでは消え浮かんでは消える。


このままじゃ……健闘の甲斐もなく死んじまうぞ!!

俺だけじゃない! ライオットも……、ライオットも!?


俺はライオットの名前で気が付いたのだ。 

俺がここで倒れたらライオットが、

命を懸けて俺を助けてくれた友達の命が危ぶまれるのだ!!


何を余計なことを考えていたんだ! 今はそれどころじゃない!

俺のなすべきことを……なすんだ!!


ありったけの魔力を、慎重かつ大胆に魔法術式に注ぐ。

それは速やかに構築した魔法技の『落とし穴』を完成させるに至った。


「で、できたっ!」


ガルンドラゴンが、俺に向かい突撃し始めたのは……

『落とし穴』完成とほぼ同時だった。


ボゴォォォォォォォォォンッ!!!


大きな音を立て、『落とし穴』に落ちるガルンドラゴン。

巨大な黄金の竜はもがくが、『落とし穴』から脱出することはできなかった。


何故なら、その『落とし穴』は、蟻地獄を参考にした改良版だからである。

俺の魔法技は日々進化しているのだ。とくと味わうがいい。

ふっきゅんきゅんきゅん!


『よし、いいぞ。次だ、魔法技「木ノ葉隠れ」を使用する』


『桃先輩、それは逃走用の魔法技だぞ?』


ここまできて、逃げるのはどうかと思う。

確かに、選択の一つではあるとは思うが。


『逃げるために使うのではない。

 使用対象はガルンドラゴン。急げ、あまり時間がないぞ』


桃先輩の落ち着いた声を信用し『フリースペース』から、

せっせと集めた大量の枯葉を取り出し、

日常魔法『エアムーブ』で、ガルンドラゴンの周りを旋回させ視界を塞ぐ。


……大赤字だ。

元手は殆ど掛かってはいないが。

請求書はガルンドラゴンに送ろう。慰謝料込みで。


『発動完了……! 桃先輩、これからどうするんだ?』


『枯葉は、まだあるな?』


桃先輩に枯葉の残量を伝えると、彼は次の指示を伝えてきた。

残った枯葉に火を点けて燃やせというのだ。


俺は指示どおりに、枯葉に火属性日常魔法『ファイア』を発動する。

瞬く間に燃え上がる枯葉。

結構な量があるので派手に燃え上がっている。


『いいぞ、それをガルンドラゴンを旋回している枯葉に合流させるんだ』


『応! それいけ~!!』


枯葉は、ガルンドラゴンを包み込み、激しく燃え盛る!

うへへ……このまま、こんがり焼けないかな?

そうしたら、美味しく食べてやるんだが!


『これでガルンドラゴンを倒せるのか……桃先輩?』


『これで倒せるなら苦労はせん。狙いは別だ。

 現在ガルンドラゴンの筋肉の変異を確認した。

 鼻の防御力の低下を確認。

 ライオット少年、出番だ。覚悟はいいか?』


『テレパス』で、ライオットに念話を飛ばす桃先輩。

 もちろん、魔力は俺持ちだ!

 おごごご……むず痒い!!(びくんびくん)


「ああ! いつでもいけるぜ! 桃先輩、指示を頼む!!」


ガルンドラゴンを旋回していた燃え盛る枯葉達は、

その役目を終え黒墨となって儚く散っていった。


その燃え後には、ほぼ無傷の黄金の竜が存在していた(呆れ)。

しかも、まったくダメージを受けていないように見える。

だがそれも束の間、ガルンドラゴンが苦しそうに痙攣をし出し、

顎を土に付けたではないか!? いったいこれは……!?


『仕上げだ。ガルンドラゴンは窒息状態になっている。

 後はライオット少年次第だ。』


そうか、『木の葉隠れ』はこういう使い方もあるのか!

勉強になったぜ! めもすとこ(勤勉)。


「やってやる! 俺の全力を食らいやがれぇぇぇぇぇっ!!」


木の陰に隠れ、襲撃の機会を窺っていたライオットが、

呼吸困難で苦しむガルンドラゴンに突撃した!


狙いは弱点である鼻だ。

ガルンドラゴンの唯一の弱点。

窒息状態であるならまともに動けないだろう。

正真正銘のラストチャンスだ!


「つあぁぁぁぁぁぁっ!!」


正拳突き! 続いて、回し蹴り! ライオットの強烈な攻撃が続く!!

しかし、俺には何をやっているのかさっぱりわからない!

正拳突きだの、回し蹴りだのは適当に言っただけだ!

たぶんやっているだろうから、細かいことは気にするな!!(戒め)


『後輩「ヒール」の準備。ライオット少年に連続使用だ』


『……え!?』


俺は慌てて、ライオットの状態を確認した。

攻撃した腕と足が変な方向に曲がっていたのだ。

恐らくは限界を超えた力で攻撃を繰り出していたのだろう。


彼は獣人だ。

その力は人間の比ではない。

しかしだ……彼はまだ子供、完全に体が出来上がっていないのだ。

そのような状態で限界を超える攻撃を繰り出せばどうなるか?

その答えが俺の目の前に存在していた。


「ライッ! くそっ!『ヒール』!!」


俺は慌てて『ヒール』を飛ばした。

この『ヒール』、実はある程度離れていても対象に飛ばして治療が可能だ。

その際は消費魔力がグンと上がってしまうのが難点だが、

このようなケースの場合、非常に有効だ。

俺が近付けば巻き沿いを受けて全てが台無しになってしまう。


その一方で、ライオットは限界を超えた力で、

後先も考えずに全力でガルンドラゴンの鼻のみを攻撃をしていた。


拳が潰れようと足がヘシ折れようと、一向にお構いなしで攻撃を繰り出す。

食い縛った口からは血が流れている。

痛みを我慢するために食い縛り過ぎて口を切ったのだろう。


「ライ……お前……!!」


間違いなく俺のために、相当な無茶をしてるのがわかった。

何故そこまでしてくれるんだ?

俺のために、そこまでする価値があるとでもいうのか?

彼を問い詰めれば「自分が生き残るため」、と言い誤魔化すだろう。


生き残りたければ、俺を残して逃げた方が賢い選択だ。

ライオットは……俺のために苦しい思いを、過酷な選択を選んだに違いない。


お前……漢の中の漢だよ!!(確信)


『後輩、今できることを全力でだ。

 おまえの役目は彼を支えること、『ヒール』を絶やすな。

 ライオット少年の負傷を治療し続けるんだ』


『応っ! 今……俺にできることをっ!』


桃先輩に諭され、俺は自分にできることを全力でおこなう。

そう、俺にできる全力とは、もちろん治癒魔法だ。

俺の存在意義でもあるこの魔法でライオットを支えてみせる!


「『ヒール』!! 届け……! 俺のありったけの想い!!」


俺は『ヒール』に、ありったけの感謝の気持ちを乗せライオットに送った。

……ガルンドラゴンに当たりませんように!(誤爆の危機)


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


最早、絶叫に近い雄叫びがライオットの口から放たれた。

限界を超えた力と技。

後先を考えない攻撃は、遂にガルンドラゴンを出血させるに至った。


「止めだ……え?」


だが……ライオットは、その場に両膝を突き動けなくなってしまった。


体力の限界。

『ヒール』では治しようがない活動限界である。


『恐れていたことが起こってしまったか。

 後もう一息だというものを……』


『ふきゅん!? そ、そんなっ!?』


 後もう一息。

 だが、そのもう一息が果てしなく遠かった。

 もう……ライオットは動けないだろう。

 それは彼が発する異常な呼吸音が、それを物語っていたからだ。


「動け……! はぁはぁ……動けよ!! 早く……アイツに……早く!!

 ぜひゅー、俺しか……俺しか、ぜひゅー、できないって、

 言われただろうがぁぁぁぁぁっ!! げほっ! げほっ!!」


ライオットが己の肉体に『活』を入れるが動かない。

最早、限界を超えた肉体は、ライオットの意思を受け付けなかったのだ。


やがて、ガルンドラゴンは効果の弱まった『落とし穴』から這い出し、

その巨大な黄金の肉体を俺達に見せつけた。


「ちくしょう……万事休すか?」


だが、ガルンドラゴンの様子がおかしい。

先ほどまで怒り狂っていた黄金の竜から怒りが消えて……違う。

断じて消えてなんかいなかった!

その顔を俺達に向けた瞬間、理解したのだ! 頭ではなく魂で!


黄金の竜は最早、俺達を弱者として認識してはいなかった。

対等な相手、己が全力を出しうるべき相手、敬意を表するべき相手。

決して手を抜くべき相手ではないことを、理解した顔だったのだ!!


本気を出したのだ!

この、吹けば飛ぶような……小さな俺達に!! こいつはやべぇ!!


『後輩、もう諦めたのか?』


桃先輩の『諦めた』に俺は敏感に反応した。


『俺の辞書はな、「諦める」と言う文字が家出中なんだ』


俺の言葉に桃先輩は満足げだった。

こうして魂が繋がっていると、相手の感情がなんとなく伝わってくるのだ。


『良い根性だ。まだやれることはあるぞ。最後まで足掻け』


『応! 俺の底力を見せてやるぜ!』


俺は覚悟を決めた。まだ死んだわけじゃない。最後まで諦めて堪るものか!

今、俺がゆくぞ! ライオット!!

一緒に生きて帰るんだ……皆の下へ!!


俺はガルンドラゴンに目がけて、全力で駆け出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ