表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
359/800

359食目 急展開

「皆様お集まりのようですので、

 我々が収集してきた情報をご説明させていただきます。

 まず、反乱軍の兵力ですが、およそ二万五千ほどの兵を集めているもようです」


「二万五千……!?」


会議室に動揺が走った。

単純計算で我が軍の二十五倍もある連中と戦わなくてはならない。

その事実にヤッシュ総司令は苦い顔をした。


だが、ここで疑問に思う点が思い当たる。

こんな小さな島国に、それだけの兵を保有することができるのだろうか?

そもそも、ティアリ王国の総人口は一万人に届くか届かないかだ。

これは明らかにおかしい。


「数はわかった、兵の練度の方はどうだ?」


「はっ、二万五千の兵の内、やとわれ傭兵が三分の二を占めております」


おかしいと思ったが、やはりそういうカラクリであったようだ。

反乱軍は金で傭兵達を雇い集めたらしく、

数では優位に立っていても純粋な戦闘能力は解放軍の兵達に劣ると説明された。


「それでもこの数は厄介ですね。

 一人一人が大した力をもっていなくても、数で押し込まれては戦いになりません」


ハマーの言うとおり、数の暴力でこられては

練度の高い我が軍でも対処しきれなくなる。


「ひとついいかしら……それって、護る側の考えよねぇ?」


ここでヒーラー隊の隊長を務めるディレジュが意見を述べ始めた。


「だったら、こちらから全戦力を一点に集中して叩き潰せばいいじゃない。

 折角、あの子達も参加しているのだから。くひひひひひひひひ!」


彼女の言う『あの子達』というのはエルティナのことではなく、

ユウユウ・カサラとガイリンクード・エグゼダイトのことだろう。

確かに彼らの戦闘能力は人外のレベルに達している。

加えて禁じ手に近いが、サクラン姫の協力を仰ぐという方法もある。

カゲトラは良い顔をしないだろうが、いざという時は協力してもらわなければ。


「あの子達を使うのは最後の手段だ。

 もっとも……自らが進んで乗り込む可能性が高いがな」


ヤッシュ総司令も彼らの戦闘能力をエルティナから聞かされていたので、

ディレジュの案を否定することはなかった。

寧ろ、兵の少ない我々が反乱軍に勝つには、

全戦力を以って相手の守りの弱いところを突き、

一気に大将を討ち取る電撃作戦しかない。


「それにはリマス王子を救い出し大義が我々にあることを示さねばな。

 ホルスート、彼は今どこに身を寄せている?」


「はっ、リマス王子はティアリ王国の首都ネカイアから南東に位置する

 オルアという小さな村に匿われております」


「ふむ……早急に合流しなくてはならないな。

 ここからオルア村まではどのくらいかかる?」


「ここからだと丸一日で到着できるかと。

 フウタ男爵が絶妙な位置に砦を作ってくれましたので」


「……砦なぁ」


ここで皆が『砦』という言葉に苦笑した。若干、肩の力が抜けて楽になる。

フウタ男爵はここまで計算してこの『砦』を作ったのだろうか?


その時のことだ、ドアがけたたましく開け放たれ、

若い男が息を切らせて入ってきた。


「で、伝令! リマス王子がいるオルア村に反乱軍の兵が向かっています!

 その数……七千五百! あと半日で到着するもよう!!」


「なんだとっ!? 何故、気が付かなかったのだ!!」


「はっ! どうやらその部隊は光属性特殊魔法〈カムフラージュ〉を

 発動して進軍していたらしく、僅かな空間の歪みに気が付いた

 シャドウガードのグレイ殿の機転により発覚しました!」


これはまずいことになった。

ここでリマス王子を失っては大義を失うばかりか、

我々はただの侵略者として世界に認知されてしまう。


「いかん……ただちにリマス王子を救出しに行くぞ!

 各部隊の隊長は部隊を纏めて出撃を!!」


「はっ!」


大変なことになった。

迅速に出撃しても果たして間に合うかどうか……!?


「行きますよチゲ。もしかすると鬼との戦闘が控えている可能性があります。

 エルティナを護ってやってください」


私がそう言うとチゲは胸を叩き任せろとアピールした。


『ふきゅん』


胸を叩いた際の振動に驚いたのかエルティナが鳴いた。

いつもと変わらぬ二人に少しばかり安心を覚える。


「大変なことになったなぁ。何人かで現場に急行するかぁ?

 こんな大部隊じゃ到着までに丸一日掛かるだろう」


会議室で静かに話を聞いていたアルフォンスさんがそう提案してきた。

確かに身軽な者が現場に急行し、

リマス王子だけでも救出すれば最悪の事態だけは避けられる。


「そうですね……問題は誰が赴くかです」


「んなもん、俺とフウタしかいないだろう。

 丁度、あいつもここに来たみたいだぜ?」


と言ったところでフウタ男爵がこちらに歩いてくる姿が見えた。


「大変なことが起こっているようだな。兵が慌ただしい」


「えぇ、リマス王子が身を寄せているオルア村に、

 反乱軍七千五百が向かっています。到達までわずか半日。

 それまでに最悪、リマス王子だけでも救出しなくてはなりません」


説明を聞いたフウタ男爵は顔を押さえ深いため息を吐いた。


「のっけからこれかよ。まぁ、いい。

 近頃、フラストレーションが溜まりに溜まっているんだ。

 連中には悪いが……捌け口になってもらうとするか」


「うわっ、おまえでもフラストレーションが溜まるんだな?」


「人をなんだと思っているんですか、アルフォンスさん」


「完璧変態超人」


「……変態は余計です」


ガクリと肩を落とすフウタ男爵。

フラストレーションの原因の半分はアルフォンス様のような気がするが……。


彼らは散歩にでも出かけるかのように足取り軽くオルア村に向かった。

アルフォンス様は風の大剣を作りだし、それに乗って空を飛んで行った。

一方、フウタ男爵は……空を物理的に走っていった。


「絶対に届かない領域ってあるんですね」


そんなフウタ男爵を生暖かい目で見送り、

私はモモガーディアンズの子供達が待機している大部屋へと向かう。

場所はアルフォンス様に聞いているので迷うことはなかった。


「皆さん、緊急事態です」


私はモモガーディアンズの子供達に今起こったことを伝え、

早急にオルア村に向かうことを伝える。


「いきなり戦闘か? 随分と慌ただしい……

「ひゃっは~! 人間狩りだぁ!」……引っ込んでろ、レヴィアタン」


「あら、やだ……早速、楽しめるのね? クスクスクス」


……この二人は本当に大丈夫だろうか?


「とにかく急がないと、リマス王子が危ないんだろ? いこうぜ!」


こういう時、ライオットの真っ直ぐな心に助けられる。

彼は純粋に誰かを助け護りたい、という心の持ち主だ。

普段は大食らいのやんちゃ少年であるが、

有事の際には自分の命も顧みない勇敢な戦士へと変わるのだ。


流石はあの方の息子ですね……。


勇者タカアキと共に、

フィリミシアの護りを務める彼の父親の姿がライオットと重なる。

この子もまた、偉大な父親と同じく歴史に名を残す武道家となるのだろう。


「皆さん、準備は良いですか? それではモモガーディアンズ、出撃です!」


子供達の大きな雄叫びが部屋に響き、順々に威勢良く部屋を飛び出してゆく。

戦うことが運命付けられているとはいえ、

こんな戦争に巻き込むのは正直な話、心苦しい。

しかし、相手側に鬼がいるのでは彼らの力を借りなくては難しいのが現状だ。


でも、彼らなら、このような困難でも乗り越えてしまいそうな気がする。

誰の影響なのか……彼らは諦めることをしないのだ。


愚直なまでに諦めない者。

半分以上、心が折れていても結局は諦めない者。

よくわかっていないが取り敢えず諦めない者。


そんな彼らには奇跡が歩み寄り、その結果、彼らを救う。

まるで、そうなることが宿命付けられているかのように。


これが〈約束の子〉の能力なのだろうか?

だとしたら……なんと惨いことなのだろうか。


逆に言えば、どんなに辛い目に遭っても

生き続けなくてはならないということだ。

彼らは護る立場にいながらも、女神マイアスに護られている存在。

この世界を護る道具としてだ。


……私には何が正しいのかわからない。

女神マイアスがおこなっていることは、個人としては許せないが、

全体を通せば『少ない犠牲で多くの命を救っている』ということになる。


また、彼らにも恩恵がないわけではない。

女神マイアスに選ばれた戦士、というだけで世界中の人々に崇められるだろう。


だとしたら……。


いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

それに将来を決めるのは彼らだ。

私がしなくてはならないことは、彼らを護り支えること。


大丈夫……エルティナがいる限り、彼らは真っ直ぐに歩いて行くことができるはずだ。


私はモタモタしていた狸獣人の少女を抱え、活気を失った部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ