355食目 GDーM-A・ラングス
◆◆◆ プルル ◆◆◆
「お祖父ちゃん、本当にラング改は出撃させないの?」
「あぁ、今のこいつらじゃあ無駄死にさせるだけじゃ。
せめて、『モモコンバーター』が完成していれば違ったじゃろうが……」
ティアリ王国への遠征まで後一日と迫った中、
僕とお祖父ちゃん、そしてゴーレムギルドの職員達は、
寝る時間を惜しんでGDの最終調整をおこなっていた。
僕の『デュランダ』のデータを元に作られたという『ラングス』は、
デュランダのドレスのような華やかな外見とは違い、
武骨な騎士の鎧をモチーフにデザインされた。
また、量産性を上げるためにゴーレムコアの均一化を図ったり、
魔力ブースターシステムの性能を抑え、コストの低下を図ったりしている。
更に装甲の一部をネオダマスカス合金から、
強化ネオチタン合金という物に置き換えたそうだ。
この新素材もドクター・モモが作りだした物で、
比較的低コストで作りだせるらしい。
この強化ネオチタン合金は多重構造を採用しており衝撃に非常に強いらしいが、
それでもネオダマスカス合金には遥かに及ばないのだという。
それでも並みの武器では傷一つ付かないのだから恐ろしい。
しかし、僕達はこの新素材を易々と破壊する者と戦うことになるのだ。
ドクター・モモは言った『この装甲は気休めだ』と。
GDの真骨頂は、その防御力ではなく『機動性』と『運動性』である。
随所に設置されたブースターを駆使し、
およそ常人ではありえない動きを可能にするのがGDなのだ。
これを巧みに使いこなせば、
通常では困難な空中での回避行動が容易におこなえる。
戦いにおいて隙がなくなるというのは圧倒的なアドバンテージを得ると言えよう。
武装においても魔導ライフル『モモビカリ』の出力を抑えて、
大量生産が可能になった新型の魔導ライフル『RMB』を採用している。
『RMB』はただ単に量産型モモビカリを略称しただけのネーミングだそうだ。
無論、名付けたのはドクター・モモである。
RMBは攻撃力こそ落ちているが装弾数は増加しており、
尚且つ小型化しているので扱いやすいのが特徴だ。
魔導光剣『モモツルギ』は、そのまま性能で採用されている。
それはRMBによる射撃がメインになるだろう、と予測したためだ。
近接戦闘は射撃による攻撃で仕留め損なった敵に対しておこなうに留める、
という方針で訓練を重ねてきた。
GD装着者の中には、やはり射撃が苦手な者もいた。
そうした者達は新たに制作された『モモナギナタ』なる槍が支給されている。
これは槍の先端に熱光線の刃が生成される一風変わったものだ。
槍全体に熱光線を纏わせなかったのは魔力消費を抑えるアイデアだと思われる。
このモモナギナタはそういった射撃が苦手な者達に好評であった。
リーチが長いので近接戦闘になっても優位に立てるからだ。
しかし、これも苦手だという困った人が出てきた。
けれどもドクターモモとお祖父ちゃん……正確にはお祖父ちゃんだけなのだけど、
ニヤリと悪い顔をして『こんなこともあろうかと』という決め台詞を言って、
奇妙な形のダガーナイフを取り出した。
これこそ、近接戦闘において最も取り回しが効く武器……
その名も『モモナイフ』。
うん、ふつ~のネーミングだよ。
なんの捻りもなかった。
捻られていたのはナイフの機能の方だった。
なんとこのナイフ、刃に熱光線を纏わすことができるのはもちろん、
その熱光線を飛ばすことができる。
これでナイフをわざわざ投げ付けなくても攻撃ができるというわけだ。
まぁ、中には説明を受けていても投げる人がいたのだけど。
ドクター・モモも飽きれていたよ。
そして、センサーの機能だけど……こちらの方はデュランダより高性能なんだ。
集団戦闘を想定して作られているため、
情報の共有、索敵、レーダーの多機能化など、
デュランダにはなかった新機能が多数搭載されている。
最も、それを使いこなさねば意味はないのだけど……
それを管理するのは相棒であるホビーゴーレム達だ。
GDを装着する騎士達が一番最初にしたことは、
GDを纏うことではなく、自分のホビーゴーレムを作ることだった。
そう……自分の命を預ける相棒を作りだし、
絆を深めることに最初の数ヶ月を費やしたのだ。
そもそもが日々の訓練で土台はできていたので、
GDを装着しての訓練はスムーズに推移していった。
うん、僕の自信が完膚なきまでに壊されるレベルで、
あっ……という間に上達していった人達がいっぱいいたよ。
もう食いしん坊なんか目じゃないレベルで白目痙攣していたさ。ぐすん。
「ドゥカンギルドマスター、仕上がりの方はどうですか?」
「おぉ、ハマーか。
任せておけ、期日までにはきっちりと仕上げてやるわい」
肩にホビーゴーレムを載せたスキンヘッドの騎士がGDの状況を確認しにきた。
GD隊の隊長を任されたハマー・アークスイズム・カーンさんだ。
彼はこの戦いに参加するにあたって、
もう作らないと決めていたホビーゴーレムを再び作ったのである。
それは運命の導きであったのだろうか? それとも必然であったのだろうか?
彼の下に生まれてきたホビーゴーレムは、
かつての彼の相棒であるキュレイと瓜二つであったのだ。
「大変でしょうが、よろしくお願いします」
頭を下げるハマーさん。
その肩に載る黒いホビーゴーレムも彼をマネて頭を下げた。
このホビーゴーレムの名は『キュレツー』と名付けられ、
ハマーさんと常に一緒に行動している。
彼はGDの調整の状況を確認した後、
ゴーレムギルド職員を労うための挨拶回りをするため、
僕に優し気な笑みを見せてこの場を後にした。
自身も大変だろうに、笑みを絶やさない心の強さは尊敬に値する。
僕では到底、あんなことはできないだろう。
そんなことを頭の隅で思いつつ、再びデュランダの調整を再開した。
「プルル、おまえはもう休め」
ハマーさんが来てから二時間ほど経過し、
重くなってきたまぶたを擦っていると、お祖父ちゃんが休むよう指示してきた。
時間を確認したところ午後十一時を回っている。どおりで眠たいわけだ。
しかしながら、僕はまだデュランダの調整が終わっていなかった。
「でも、まだデュランダの調整が終わらないんだよ。
この子、凄くデリケートで気難しいから、ぜんぜん納得してくれないんだ」
調整を手伝ってくれているイシヅカも首を振って、
「まだまだ納得してくれないよ」とアピールしている。
この子は本当に器用で賢い。
僕の調整の仕方を見よう見まねで覚えてしまったのだ。
将来はゴーレムギルドで働く姿が見られるのかもしれない。
「わかっておるわい。
後はワシが宥めておくから、おまえは身体を休めるんじゃ」
それでも食い下がる僕のほっぺを、
お祖父ちゃんはごつごつして硬くなった大きな手で覆った。
「すまん……おまえを戦争に行かせるなんて保護者として失格じゃわい」
「お、お祖父ちゃん?」
いつになく真剣な表情のお祖父ちゃんに僕は戸惑った。
こんな顔のお祖父ちゃんは見たことがないからだ。
「それでもワシは、おまえの意思を尊重して送りだすことしかできん。
それが娘の遺志に反することだとしても……な。
じゃから、おまえはしっかりと休んで万全の状態にしておくんじゃ。
きちんと生きて帰ってこれるようにのう」
「……うん」
優しく手を放したお祖父ちゃんに僕は抱き付いた。
いつもの汗とオイルのにおいがして、酷く落ち着くのがわかる。
僕はこのにおいと共に育ってきた。
「必ず生きて帰ってくるよ」
キュッと抱き返してくれるお祖父ちゃんの温もりを忘れぬよう心に刻み、
僕はギルドに設置されている簡易ベッドに向かった。
その途中に装甲を外され改修を受けているケンロクを目撃する。
彼もまた、自分の存在意義を失わないために自ら改修を申し出たのだ。
「ケンロク……がんばってね」
残念ながら今回の戦いには間に合わないだろう、
とドクター・モモは言っていた。
それでも彼は腐らず改修を望んだのである……自分がありたい姿を追い求めて。
そう、『力無き者を護れる自分』を追い求めて……。
休憩室に設置されている粗末なベッドに潜り込む。
僕が使うのはいつも隅に設置されている小さなベッドだ。
もう三歳の頃から使っていて、自宅のベッドよりも使用回数は多いと断言できる。
「ふぁ……ちょっと無理していたのかな?」
横になった途端、意識が遠のくのを感じた。
今自分が起きているのか寝ているかもわからない。
ただ一つだけ確かなことは……
『僕は再び、ここに帰ってくることを強く願っている』ということだった。
◆ GDーM-A・ラングス ◆
ドゥカン・デュランダとドクター・モモが
『デュランダ』を元に作り出した量産型戦闘アシストゴーレム。
量産化に当たり装甲や性能が見直された。
外見は騎士の重鎧をベースにデザインされている。
基本カラーは灰色だが、任意でカラーの変更を受け付けている。
全高・百六十~二百五十センチメートル。
本体重量・八十~百五十キログラム。
魔導出力・1150MP。
センサー有効範囲三千八百キロメートル。
装甲材質・ネオダマスカス合金。強化ネオチタン合金。
武装・魔導ライフル・RMB。
魔導光剣・モモツルギ。
魔導光槍・モモナギナタ。
特殊魔導ナイフ・モモナイフ。