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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第一章 珍獣と聖女と仲間達
35/800

35食目 桃先輩

はいっ! 現場のエルティナです!!


現在、我々は謎の巨大生物に追われています!

一体……この生物は、なんなんでしょうか!?


あっ~! 巨大な口が我々を飲み込もうとー!

一旦、中継を会場に戻させていただきますっ!!


カシュッ! カシュッ!!


「あぶねぇっ!?」


黄金の竜の連続噛み付きを、辛うじてかわすライオット。

今のは危なかった。

いつものライオットの動きじゃない。


……限界だ! 目に見えて、彼の走る速度が落ちている!

このままじゃ、俺の巻き添えでライオットが死んでしまう!


何か……何か方法はないか……!?

俺のシワのなさそうな脳みそを猛烈にフル回転させる。

そして……キュピーン! ときた。


「あるじゃないか! なんのために、今まで試行錯誤してきた!!」


俺は魔法技『閃光手榴弾』を発動した!

俺を担いで走っているライオットは前を向いている。

おっしゃ! 今ならいけるっ!!


「いけっ! 光の爆弾!! うおしゃぁぁぁぁぁっ!」


俺は閃光手榴弾を、黄金の竜に投げつけた。

溢れる閃光、圧倒的な光に黄金の竜は堪らず悶える。


エクセレント! 我ながら素晴ちぃ!(ドヤ顔)


「な……なんだ!?」


「走って! 距離を稼ぐんだっ!!」


即座に理解したライオットが、最後の力を振り絞り森を駆けていった……。




なんとか黄金の竜を撒いた俺達は少しでも体力を回復しようと

木の影に身を隠し、息を殺して体力回復に努めた。


「大丈夫か……ライ?」


「あぁ、平気さ、大丈夫……つぅ!?」


ふきゅん! ライオットの両足首が腫れ上がってる!?

こんな状態で、俺を抱えて走ってたのか!!


「ち……まずったな。 一息吐いたら痛み出してきた。

 エル、俺を置いて森を抜けろ。

 ヤツの気ぐらい……引き付けてやることはできる」


それじゃ、意味がない。

二人で逃げたんなら、二人で助からないと!

俺は治癒魔法を使う覚悟が、とうの昔にできている!!


「ライ……! 俺に任せろー!!『ヒール』!!」


俺はライオットに『ヒール』を施した。

彼の足首の腫れが瞬く間に引いていく。

この程度、ちょろいもんだぜ!!


「こ、これは!『ヒール』!? しかも、一瞬で治った!?」


流石にライオットも驚いていた。

もう、隠す必要もあるまい。

こんな俺を命張ってまで守ってくれた漢に……。


「ライ……俺は、Sランクヒーラーだ。

 故あって、公にできない存在なんだ……話せないのは、だいたい王様のせい」


「じゃあ……ここ最近、噂になってる幼い聖女って……?」


ライオットは説明してくれた。

噂になっている聖女は、自分と同い年であると。

自分と同じ、学校に通っていると。


全部、初耳なんですがねぇ……?

ちょっと~王様! 情報ダダ漏れじゃないですかやだ~。


王様が『メンゴ』とか言って、苦笑いしてる映像が俺の脳裏をよぎった。

あの、マッスル爺様め……(激おこ)。


「まぁ、情報規制といってもこんなものか。

 取り敢えず、今は生き残ることを考えるべき! そうするべき!!

 まだ、死にたくないし! 美味しい物、食べ足りないし!!」


「相変わらず食べ物優先かよ。

 でも、まぁ……必ず生きて帰ろうぜ。皆の下に!」


う~む……でも、どうやって黄金の竜から逃げ切ろうか?


考えがまとまらない。

極度の疲労と、精神的に追い詰められて俺達はボロボロだ。

あんの、くそドラ公め……ふぁっきん。


「……こんな時は、桃先生だな」


甘い物を摂って疲れを癒そう。

桃先生の効果は絶大だ。保証できる。


俺の小さな手に光が集まり、瑞々しい果物が姿を現す。

確か俺は桃先生を創り出した……つもりだった。

しかし……出てきたのは、少し青い未完熟な桃だったのだ。


「ふきゅん? なんじゃこりゃ!?」


しげしげと創り出した未熟な桃を観察する。

食べれないことはなさそうだが……。


「桃先生なのか……?」


「俺は桃先生ではない」


「「!!」」


きえぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 喋ったぁぁぁぁぁぁぁっ!?


と叫びたい衝動を辛うじて抑え込む。

現在、俺達は命懸けのかくれんぼ中なのだ。

しかし、よもや果実が喋ろうとは誰が想像できるであろうか?

ファンタジー世界だからって、これには流石に驚く。


「俺の名は『桃先輩』。

 後輩であるお前の『桃レベル』が規定に達したため、

 こうして駆け付けたわけだ」


……突然のことでフリーズする俺達。

『桃レベル』とは、なんなのだろうか?

『桃先輩』? 俺が後輩? わからないことだらけだ。


「わ、わからないことだらけなんだぜ。

 詳しい説明を要求するっ! 後、桃先生はどうしちゃったんだぜ?」


そう、肝心の桃先生が出てこないのだ。

桃先生のあま~い果汁がなければ、

俺は白目痙攣して、ひっそりとこの世を去ってしまう!(白目痙攣)


「生憎……桃先生は、『全世界桃会議』に出席中でな……今は呼び出せんのだ」


「なん……だと……!?」


何……その、全世界桃会議って?

桃について世界レベルでの話し合いがあるのか?

おごごご……わ、わからん! この桃は何を言っているんだ!?


脳細胞が悲鳴を上げだしたので、俺は考えることを放棄した。

ぽい~っちょ!


「しかし……その年で『桃先生』を召喚できるとはな。

 その分だと、かなりの数を召喚して食べてきたのだろう。

 ストックしているものは普通に食べられる。

 あるのであれば、出して食べるがいい」


桃先輩に言われたとおり『フリースペース』からは『桃先生』を取り出せた。

残りが少なくなってきたな……補充しないと。

二個出して、一つをライオットに渡した。


「桃先生を奢ってやろう、凄く回復するぞ!」


二人で桃先生を食べた。

疲れ果てた心と体に気力が漲ってゆく気がする。

その間『桃先輩』に、俺達の現状を説明することにした。


桃先輩に説明を終えると、バキバキと木の倒れる音がし、

圧倒的な重圧を感じ取った。

その重圧によって、森全体が悲鳴を上げているかのように錯覚する俺達。


ヤツがきた…………!!

俺達は息を殺し、見つからないように祈った。


「む……あいつか。検索開始」


「ふきゅん!? 検索っ!?」


未熟な桃からカタカタと音が聞こえてくる。

いったいなんの音なのだろうか? 聞いたことがある。


あ! 思い出した! タイピングの音じゃねぇか!?

いったいなんなんだ、この桃はっ!?(呆れ)


「検索完了。説明をする」


桃先輩は説明をしてくれた。


「ヤツはガルンドラゴン。体長8m、体重25t。

 特殊なブレスを持たぬが、

 強力な咆哮は近距離で軽く生物を絶命させる程の威力を誇る。

 飛行能力は退化し、代わりに強靭な身体能力を得ており……

 陸の覇者と呼ばれている。

 データによれば、ガルンドラゴンは肉よりも魔力を好物とする。

 わかるな……お前だ、後輩。

 膨大な魔力を持っている故に……おまえは狙われた」


……!! なんてこった! そんなのあんまりだっ!!


あぁぁぁんまぁぁぁぁりぃぃぃぃぃだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


ぷるぷるぷる……。


……ふう、俺は冷静になった!

やはり、落ち着くにはコレに限るぜ……!!


脳内で号泣して、冷静さを取り戻す。

俺はこれを多用しているが、使用している間は

しかめっ面で、プルプル震えている白い珍獣になってるらしい。

いわゆる、白目痙攣なのだが。


「ガルンドラゴン、別名『怒竜』。

 非常に怒りやすく、常に凶暴な敵意を撒き散らす……

 故に、そこに付け入るチャンスがある」


桃先輩には何やら考えがあるもよう。

俺達は『藁にも縋る気持ち』で、桃先輩に策を尋ねた。


「まずは俺を食べて『融合』しろ。話はそれからだ」


「ふぁっ!?」


融合? なにそれ!?


「『身魂融合』だ。

 肉体と魂を取り込むことによって、その者の力を得る能力。 

 取り敢えずは何も考えずに俺を食べろ」


俺は言われたとおり、桃先輩をたいらげた。

桃先輩は甘酸っぱかった。


『それは青春の味だ』と、頭の中に桃先輩の声がする。

変な気分だ、昔もこんな体験を何度もしてきたような気がする。

きっと思い込みだろうが……。


『よろしい、融合は成った。 これより作戦を伝える』




「エル、大丈夫か!?」


ライオットが心配そうに覗き込んでいた。

そんなに顔を近付けんでも大丈夫だ。


「あ……ああ、大丈夫。融合は成功したんだぜ。

 それよりも……ライ、落ち着いて聞いてくれ。重要なことだ」


俺は桃先輩に聞いた作戦を、ライオットに伝えた。

案の定、納得できない……という表情になる。


「無茶だ!! エルが囮だなんて……自殺も同然だ!」


「まあ、聞けライオット少年」


俺の口から桃先輩の、低く落ち着いた声が発せられた。

なんかキモイ(失礼不可避)。


桃先輩がライオットを説得する。

二人が助かる可能性が、もっとも高い方法が……これである。


ガルンドラゴンの狙いである俺が囮になり、なんとかして動きを封じ、

ライオットが全力でガルンドラゴンの急所を攻撃する……というものだ。


桃先輩の話を信じるのであれば、ガルンドラゴンは怒ると全身の筋肉が膨張し、

恐るべきスピードと強靭さを発揮する。

ただ……ある一部だけ、脆くなる部分があるらしい。


「その部分とは……『鼻』だ。

 そこを攻撃すればガルンドラゴンは暫く動けなくなるだろう。

 上手くいけば、倒せる可能性も出てくるが……賭けになるな」


でも、その下に大きなお口がスタンバッてますよね?

オレオマエマルカジリ! されちゃ~う!!


「俺が……俺が、ヤツの鼻を攻撃すればいいんだな?」


「そうだ」と肯定する桃先輩。

その言葉には冷徹さすら感じる。


「後輩、おまえは持ちうる全ての力を駆使してヤツを引きつけろ。

 失敗は……許されない。

 失敗はおまえの死、そしてライオット少年の死でもある」


頷く俺。

正直……すっげー怖い。


『案ずるな……俺が憑いている。お前達は死なせはせん』


やだ……桃先輩、超イケメン! 顔無いけどイケメン!!


そして俺達は、桃先輩に指示された場所に息を殺しながら向かう。

そこは森の中心部。

森が開けていて、囮になるには都合がいい場所。

奇襲する場合には、周りの木々が身を隠してくれる。


条件は向こうも同じだが……ヤツは頂点捕食者としてのプライドがあるらしく、

絶対に自分が定めた相手には奇襲をしないらしい。


ほんと? 信じるよ? 桃先輩!!


「覚悟はいいか? ……俺はできてる、また、生きて会おうぜ……ベイベー!!」


「死なせねぇよ……!

 それより仕留めたドラゴンで焼肉パーティーだ!

 また、エルの腕を振るってくれよな!」


拳と拳を合わせ、生きてまた会う……という誓いにした。


……時間だ、ライオットは森に身を潜め、俺は開けた場所に仁王立ちする。

そして……ヤツはきた!


バキバキと木々を倒し、我を止める者なし!

と主張せんばかりの圧倒的存在感! 圧倒的威圧感!! 圧倒的……殺意!!!


ヤツと……目が合った! 


ちょろちょろと、股間に温かい液体が溢れる。

俺はお漏らしをしてしまったのだ!!(震え声)


体が震える、足に力が入らない! 膝がガクガク言っている!!

ははは! 生まれて初めて恐怖で漏らしたよ!!


怖い! くっそ怖い!! ……でも目を逸らすな!!

逸らした瞬間……食われちまう!!


『堪えろ後輩。どんなに無様を晒しても構わん。

 生き残った者が勝者の世界だ。

 弱肉強食の世界を……勝ち抜け!』


そうだ……やってやる! やってやるぞ!!

俺のありったけの力で……ヤツを出し抜いてやる!!


今ここに、人生最大の危機を乗り越えるため、

俺とライオットの挑戦が始まろうとしていた!!

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