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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
348/800

348食目 おっぱい!

 エルティナちゃんが赤ちゃんになって、早くも一ヶ月経とうとしていた。


「あー、うー」


「ふきゅん」


 桃師匠によってエルティナちゃんを外に連れ出しても爆発しない、

 という事実が明らかになったため、今日は同じぐらいの歳である

 勇者タカアキ様の御息女ヒカル様との対面を果たしていた。


 タカアキ様の屋敷に伺うことになったのだが、

 その付き添いには私とスラストさん、タキシードに身を包んだチゲ、

 そして護衛のルドルフさんが付いた。

 更には迎えに来てくれたタカアキ様がいるのだから万が一はない、

 と言ってもよかっただろう。というか過剰な護衛ですらある。


 久々の対面であるらしいが、エルティナちゃんがヒカル様に会ったのは

 彼女が七歳の肉体だった時のこと。

 現在はお互いに赤ちゃんであることから、ほぼ初対面と言ってもいい状態だ。


「ばー、あう~」


「うー、ふきゅん」


 実は私もヒカル様とは初対面である。

 仕事が立て込んでなければ会いに行けたのになぁ。


 彼女の短いブロンドの髪は癖っ毛であり、くりくりと丸まっていて可愛い。

 くりくりとしたおめめにはルビーのような瞳が収まっており、

 極めて形の良い鼻や唇から、

 将来は母親であるエレノア司祭似の美女になることは明らかである。


 ヒカル様はどうだかわからないが、

 エルティナちゃんの方は僅かばかり彼女を覚えているのか、

 小さな手を彼女に伸ばし触れようともがいている。


 双方ともまだ首が据わってなく歯も生えていないので、

 私達に抱きかかえられての対面である。

 そんな両者をうっとりとした表情で見つめているのは、

 ヒカル様の母君エレノア司祭だ。


「うふふふ……」


 先ほどから彼女は「うふふ」としか言っていない。

 なにか夢の中にいるようなふわふわした感じである。


 ……いや、以前から休日はこんな感じであったが。


「ヒカルも我が友エルティナに興味があるようです。

 ここまで活発な様子はなかなか見られません」


 ヒカル様を抱きかかえたタカアキ様は穏やかな笑みを浮かべた。

 その表情に不覚ながら胸がドキッとする。


 失礼ながら彼は不細工の部類に入る。

 しかしながら、その笑みには言葉に表せないような

 強い魅力が秘められていたのである。


 きっと、それは彼の内面から来るものなのだろう。

 エレノアさんはその魅力の虜になってしまったのだと思われる。

 事実、彼は外見以外はほぼ完璧な男性である。

 まさに『勇者の魂』が肉体を得た存在だと言えよう。


 ……もう少し『勇者の魂』には、がんばって欲しかった。


「へぇ~、そうなんですか。

 エルティナちゃんは寝ている時以外は常に活発ですよ」


 そう、エルティナちゃんは起きている時は非常に活発であり、

 短い手足をうにうにと動かしたり、小さな手をにぎにぎしている。

 指を近付ければ予想外の力の強さで握ってくるので驚くことになるのだ。


 更には特に意味もないのに「ふきゅん」と鳴きまくっている。

 ほっぺをつんつんすると鳴き止むので、

 発声練習でもしているのではないかと推測されているのだが、

 ときどきお漏らしをしている時もあるので油断はできない。


「ふきゅん」


 彼女はまるで返事をしているかのように一鳴きし、

 かなりサイズダウンしたお耳をピクピクと動かした。

 そうそう、最近は耳も動かすようになってきたのだ。


 以前のようにダイナミックに動かすことはできないようだが、

 小さな耳がピクピクと動くのはなんとも可愛らしい。

 完全に小動物を見守る感じになってしまい、思わずキュッと抱きしめたくなる。


「うふふ、うふふ、うふふ……」


 いや、エレノアさん? なんだか段々怖くなってきたのだけど?


 しかしながら、これは仕方がないとも言える。

 彼女にとってエルティナちゃんは特別な存在。

 自身の教え子であり、敬う尊い存在であり、更には妹のような者であるのだから。

 そんな彼女が赤ちゃんになってしまったという事実。

 このことに一児の母になったばかりの彼女の心は、

 間違いなく限界を越えた興奮に支配されていることだろう。

 それでも自分を抑えていれる精神力には脱帽である。


「ふきゅん、ふきゅん、ふきゅん、ふきゅん」


 ここでエルティナちゃんが鳴き始めた。

 それに釣られたのかヒカル様も元気よく泣き始める。

 原因はわかっている、彼女はとても時間に正確なのだ。


「あぁ、どうやらお腹が空いたようですね。

 エレノア、ヒカルにおっぱいをあげてください」


「はい、いらっしゃい、ヒカル」


 タカアキ様は慎重にヒカル様をエレノアさんに受け渡すと、

 無造作に乳房を曝け出して授乳を開始した。

 大迫力の大きな乳房の先端にある乳首を咥えて、

 一心不乱に吸い付く様はエルティナちゃんのそれとなんら変わりない。


 それにしても、ここにはスラストさんとルドルフさんもいるというのに、

 彼女は少し大胆過ぎではないだろうか?

 ……と思ったら既に彼らはいなかった。


 どこへ行ったのだろうかと思ったらドアが静かに開き、

 チゲが親指を立てて『ばっちり』とアピールしてきた。

 流石はチゲだ。喋れない分、気配りができる良い子である。


「それじゃあ、エルティナちゃんもミルク飲みましょうかね?」


「ふきゅん」


 私が〈フリースペース〉から、

 哺乳瓶を取り出したところで待ったが掛かった。


「あ、おっぱいが片方開いているので、

 よかったらエルティナ様にどうでしょうか?」


 とエレノアさんが申し出てくれたのである。

 しかしながら、エルティナちゃんの飲みっぷりは

 既に通常の赤ちゃんの二倍近くに達している。

 そのことを彼女に伝えると少しばかり驚いた表情を見せたが、

 すぐに微笑みの表情に戻った。


「大丈夫ですよ、私は母乳の出が他の方よりも良いみたいで、

 ヒカルがいつも飲みきれないのです」


「そのとおりです。

 飲みきれなかった分は『いつも』私が頂いておりますが、

 本来おっぱいは赤ちゃんのためのもの。

 我が友エルティナがそれを飲んでくれるのであれば、

 これ以上の喜びはないでしょう」


「うふふ……そうですね、タカアキさん」


 それを真顔で言い切るタカアキ様に私は赤面してしまう。

 なんという『ラブ度』であろうか。

 彼らに倦怠期というものが来ることはないだろう。


 エレノアさんのおっぱいに釘付けになっているエルティナちゃんのこともあり、

 折角の申し出なので彼女にエルティナちゃんを預けることにした。


「さぁ、エルティナ様、沢山飲んでくださいね」


「ふきゅん」


 エレノアさんがもう片方の乳房にある乳首を、

 エルティナちゃんの小さな口に含ませる。

 するとエルティナちゃんの小さなお耳がピンと立ち、

 物凄い勢いで母乳を吸い出し始めた。


「ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ」


 ちょっ!? 激し過ぎやしませんかっ!?


「あぁ……は、激しいです。

 まさかエルティナ様に授乳できる日が来るなんてっ」


 なんとも色っぽい声を上げ、小さく身を震わせるエレノアさん。

 隣で母乳を飲んでいたヒカル様が、

 エルティナちゃんの飲みっぷりに感化され、

 対抗するように激しく吸い付き始めた。


「ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ」


「ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ」


「ら、らめぇ! ママ、壊れちゃうんっ」


 なにこれ……どうなってるの?


 二人に授乳させているだけなのに、

 エレノアさんはビクンビクンと身体を震わせていた。

 その仕草が異常に艶めかしく感じるのは私だけであろうか?


「二人とも、見事です……」


 その光景に頷き、感慨深そうに見守るタカアキ様。

 もうわけがわからない。

 これは恐らく、母親にならないとわからない現象なのだろうか?

 私は若干引きながら、激しく乳房にむしゃぶりつく二人の赤子を見守る。

 

 まるでこれ以上のものはない、と言わんばかりの飲みっぷりだ。

 そんなに美味しいのだろうか? とついつい考えてしまう。


 そんな私のお腹から、

 催促の声が聞こえてくるまでにそう時間は掛からなかった。

 私も飲みたいわけではないことを強く伝えておく。


 ……ホントウダヨ?

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