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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第八章 きみがくれたもの
341/800

341食目 退化

 ◆◆◆ リンダ ◆◆◆


 エルちゃんが光の繭に包まれてから三日ほど経った。

 その間にも色々なことがあったが、

 一般市民である私には関わりがないこともあって詳しくは知り得なかった。


 私にできることといえば、

 光の繭の中に入っているエルちゃんがいつ出てきてもいいように、

 万全の準備を整えておくことくらいなものだ。


 光の繭は現在、エルちゃんの自室のベッドの上で安置されている。

 これを巡って王様と教皇様が奪い合いをおこなったとかなんとかで、

 全身傷だらけになったハマーという騎士さんが、

 スラストさんに光の繭を託したそうだ。


 そういうわけで、フィリミシア城にある繭は偽物ということになる。

 これは王様がエルちゃんを巡って争いになった際に、

 彼女を危険に晒さないための手段であるそうだ。


「この子達も心配だもんね」


 繭にずっと寄り添っているのはとんぺーと呼ばれる白い犬だ。

 彼は片時も繭から離れようとしない。

 同じくうずめと呼ばれている小鳥も繭の上で「ちゅんちゅん」と鳴き、

 エルちゃんの目覚めを促している。


 彼女のホビーゴーレム、ムセルもまた主の傍から離れようとはしない。

 魔力が繭から洩れているそうなので魔力切れにはならないようだが、

 彼の元気がないのは火を見るよりも明らかである。


「……リンダ、交代の時間よ。少しは休んで」


「ヒュリティア……うん、ありがとう。少し休むね」


 私は彼女に変わってもらい、少しばかり休憩を取りに展望台へと向かった。

 そこからはフィリミシアの町が見渡せる。

 多数の魔物に襲われた町ではあったが以前の教訓が生かされた結果……

 ほぼ被害はなく、あっという間にいつもの営みが再開されたそうだ。

 これには各国の要人達も目を剥いて驚いていた。


「はぁ……後はエルちゃんが目を覚ませば、丸く収まるんだけどなぁ」


 エルちゃんが居ないとクラスの皆が纏まらない。

 どこか上の空なライオットやエドワード様。

 ガンちゃんやフォクベルトも顔には出さないけど不安げだし、

 クリューテルなんかは半狂乱状態である。

 早くどうにかしないと手遅れになる……いや、もう手遅れでいいのかな?


「少し風に当たり過ぎたかな? 中に入ろう」


 日中であっても、まだ三月の風は冷たい。

 私は両腕を擦りつつ温かい桃先生の大樹の中にあるヒーラー協会へと戻った。




 変化が起こったのは、その日の夜だった。

 エルちゃんの自室のドアを開けて目に飛び込んできたのは、

 ドクンドクンと脈動する光る繭の姿。

 私は慌てて〈テレパス〉で皆に連絡を取る。


 十数分後には、主だった者達がエルちゃんの部屋に集結していた。


「これは、いったい何事だ?」


 護衛を引き連れてやってきたエドワード様は、

 異変が起こっている繭を見て動揺を隠せないでいた。

 そのせいか彼の動揺は次々と皆に伝わって行き、

 最後にクリューテルにまでつたわり遂に彼女は壊れた。


「エ、エル様がががががあがががっ! どどどどどどどうしたらっ!!」


「あはは! くりゅー、へんがおっお! あははは!」


 アルアに笑われるほど取り乱している彼女には、もう私達の言葉は届かない。

 ここはそっとしておこう。

 誰しもが、その選択肢を採用するのであった。


 私達が戸惑い困惑する中、光の繭はひときわ大きく脈動した。

 そして、頭に流れてくる奇妙な音楽。


 ぴこぴこ! でっで、でっで、でっで、でっで……。


 いったいこれは何? 私の頭、おかしくなっちゃったの!?

 でも、それは私以外の皆にも聞こえているらしく、

 それぞれに周りを見渡して音の原因を探していた。


 そうしている間にも光の繭はどんどんと膨れ上がり遂に弾けたのである。


「ふきゅん!」


『おめでとう! 珍獣八歳は、珍獣赤ちゃんに退化した!』


 エルちゃんと思われる赤ちゃんの頭上に半透明のプレートが表示され、

 そのプレートに書かれた内容を見て瞬時に固まる私達。


 ……え? 何? 退化? おめでとう?


「えぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」


「ふきゅん! ふきゅん! ふきゅん! ふきゅん!」


 私達が上げた驚きの声にびっくりしてエルちゃんが鳴きだした。

 どこからどう見ても赤ちゃんだ。

 でも、この赤ちゃんがエルちゃんであることを頷かせる物を身に着けていた。

 それは彼女が身に着けていた首飾りをこの子が持っていたからだ。


 じっくりと眺めれば彼女の特徴を随所で確認できた。

 ブロンドの髪に青い水晶のような瞳、ごんぶと眉に眠たそうな目、

 大きな耳にその独特の鳴き方はエルちゃん以外にいない。


 鳴きやまないエルちゃんをそっと抱き上げあやしたのは、

 巨漢の勇者タカアキ様であった。


「我が友エルティナ……本当に貴女は不思議な人ですね」


 ぐずっていたエルちゃんが鳴き止み、自分の親指を吸い出し始める。

 流石勇者様だ、子供をあやすのも超一流であった。


「誰か、ミルクを作ってくれませんか。

 エルティナはお腹を空かせております」


「こ、粉ミルクなんてあったか!?」


 その場は大混乱に陥った。

 光の繭から誕生したのはいつものエルちゃんではなく、

 赤ちゃんのエルちゃんだったのだ。


 いつも予想外のことをしてくる彼女であったが、

 ここまでやるとは誰が予想できたであろうか?

 絶対に予想した者などいないはずだ。


「準備はできている」


 ……いた、まさかのスラストさんである。

 いったいどういう予想を立てていたのだろうか?


 スラストさんは〈フリースペース〉から哺乳瓶を取り出し、

 勇者タカアキに手渡すと彼の眼鏡が光を放ち輝き始めたではないか!

 これはいったい!?


「んん~! 震えるぞ哺乳瓶! 萌え尽きるほどヒート!

 レッツ・インストール!」


 天高く哺乳瓶を掲げた勇者タカアキは勢いよく乳首部分を、

 赤ちゃんエルちゃんの小さなお口に含ませた。

 するとエルちゃんは目をくわっと見開き、

 怒涛の勢いで飲み始めたのだ。


 ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅ……。


 どこで息継ぎしているのかわからないほどの勢いでミルクを飲み干してゆく。

 彼女に取ってこれは真剣勝負なのだろう、

 そう思わすほどの気迫に満ち溢れていたのだ。


 うん、もう何がなんだかわからない! 誰か教えて!


「見事です……我が友エルティナ」


 タカアキ様がミルクを飲み終えたエルちゃんの背中を擦り、

 擦っていた手を腰の方まで下げると「げふぅ」と彼女がゲップをした。

 その手慣れた動作に感動すら覚える。


「さて、エルティナだが……こうなった原因はなんなんだろうな?」


 スラストさんが腕を組み、

 足をバタバタさせてご満悦なエルちゃんを見つめて考え込んでいると、

 別の方から答えが返ってきた。


『それについては俺が答えよう』


「これは魂会話ソウルトーク!? 桃先輩……トウヤさんなの?」


『あぁ、今まで連絡できなくて済まない。

 エルティナがこのような状態だったからな。

 といっても、今のこいつには歯すらないから会話は魂会話になる。

 その辺りを了承してくれ』


 取り敢えずはエルちゃんが繭の中から出さえすれば魂会話を使えるらしい。

 トウヤさんは彼女がこうなってしまった経緯を私達に語りだした……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この電子音絶対ファミコンだよね
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